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やり直しの人生では我が子を抱きしめたい! ~後悔していた過去を変えていったら片想いしていた人たちと両想いになりそうな気配だけど夫の事が気がかりです~  作者: 猫都299
二章 続編 未完成な運命は仮初の星で出逢う

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87 邂逅


 ルイメディーナと呼ばれた、その人は……裸足のまま駆けて、私たちの側まで来た。

 

「こちらの方は、もしかして? ちょっと! ケールディア……! あなたって人は……! 何て罪作りなの? 話を聞かせなさいよ! じっくりとね!」


 紫の瞳をキラキラと輝かせ、前のめりに聞いてくる。


 あれ?

 

 彼女の瞳の動きを、以前どこかで見た覚えがある。

 不思議な気持ちになって、首を傾げる。


 ケールディアは一時、顔をしかめていた。


「教える訳ないだろ? ……と、言いたいとこだけど」


 言いながら考え直したのかもしれない。彼は微笑みを浮かべて提案する。


「情報を交換しよう。ユーラ・ズォ・ヘイルという人物が、この星域にいると思うんだが……何か知ってるか?」


「……? 知らないと思うわ」


 ケールディアの問いに、ルイメディーナは眉をひそめて首を傾げている。


「じゃあ……ここ数日の内に『リウラの盾』が、城を訪ねなかったか?」


 ケールディアが言い方を変えた。女王が息を呑む。口元に両手を当ててケールディアを見つめる姿に、何か知っているのだと確信する。


「ほんっと、お前は。顔に出る奴だな」


 彼は呆れたように笑い、彼女の頭を撫でた。

 美男美女の仲睦まじい光景が、芸術の如く眩しくて……目を閉じてしまいそうになる。

 

 ルイメディーナへ向けられるケールディアの眼差しに、優しい気配がある。思い至る。


「分かった! ケールディアの婚約者って……もしかして」


 全てを口にする前に、遮られる。


「ばっ……! 何て事を言い出すんだ! ちげーよ! 彼女は、ただの幼馴染の一人で……」


 必死な口調で、うろたえている様子なのも怪しい。


「……俺の婚約者は、別の方だ」


 元気を欠いた表情で俯いた彼は、ぽつりと教えてくれた。


「お前も多分、知ってると思うんだけど。カララだ。カララ・ネア・エメリエリージュ・ルヒニティス」


「カララ……。っ、カララっ?」


 驚いて聞き返す。


「もしかして。この大星域を統べると言っても過言ではない一族の、お姫様だよね……?」


「ああ」


 さらりと肯定してくる。開いた口が塞がらない。

 しかも。彼女の父親は確か。ワズの管理者たちをまとめる、権能の強い立場の人だったと記憶している。


 

「リウラの役人なら……昨日来ていたわよ。何人かいたわね」


 ルイメディーナが教えてくれた。


「昨日というと。私たちがリウラにいた頃だ!」


 あの時、ケールディアがユーラの居所はブリアスだと言っていたけど。昨日……この城に、ユーラも来ていたのかもしれない。


「入れ違いになったのかもね……」


 ルイメディーナが呟く。昨日の経緯を話してくれた。


「今人気で、話題になっている星があるでしょ? 『ワズ』っていう。色々と問題も多いみたいで。創られた当初から問題視されていたのだけれど。ワズで出会った人を捜し出す人が続出したり……」


 話を聞いていて焦る。それ……私じゃん!


 内心の動揺を必死に抑え、澄ました表情で続きに耳を傾ける。


「ワズにのめり込み過ぎる人や、ワズ内での経験から情緒不安定になった人もいる。これは、かつてから囁かれていた噂ではあるけど……サービスが終了する可能性も濃厚になっているらしいわ」


 そ、そうだったんだ! ワズがなくなるのは、凄く困る。


「中でも、ワズを狙っている反乱分子まがいの物騒な一団もいるらしくて」


 ルイメディーナは、やや瞼を伏せて言い及ぶ。


「昨日、来た人たちは……ワズに危機が迫った時に、協力してほしいと要請してきたの」


 ガサ。


 落ち葉を踏む気配に……振り返る。今いる少し開けた場所から、小道の方へ目を向ける。


 黒と緑を基調とした服装の人物が立っている。


 私たちと同じくらいの年頃か、年下かもしれない。背は恐らく、私より高くケールディアより低いくらい。黒髪で、やや童顔。若干、長めの短髪。緑色の瞳は、どこか虚ろで……少し、つり目な双眸。


 何だろう。じっと、こっちを見てくる。……変な感じがする。


 ……はっ! そう言えば、私……昨日、お風呂に入っていないような。服も髪も、そのままだし。色々あって、忘れてたぁ!


 頭を抱えて嘆きそうになっていた時。相手がニコッと笑んできた。

 彼は恭しくお辞儀した後、女王へ伝える。


「お話中に失礼しました。昨日の件について、言伝を預かっております。こちらに、いらっしゃると伺って参りましたが……出直します」


「少し、お待ちいただけますか? 時間を作ります」


 女王は落ち着いた声音で言い置き、右手を挙げた。

 木々の間から……女性が二人、姿を現す。彼女たちは岩へ座り直した女王の足を拭き、靴を履かせている。


「……今の内に、彼女が何者なのか答えなさい。私は情報を渡したんだから」


 ルイメディーナがケールディアを睨んで言う。ケールディアは溜め息をつき、私に「悪い。話が終わるまで、内容が聞こえない場所で待っててくれると助かる」と言ってきた。


「分かった」


 了承して踵を返す。道の方へ歩きながら危惧する。


 ……大丈夫だよね? まさか、修羅場とかに……なったりしないよね?


 道を僅かに下った所で、さっきの人と出くわした。黒と緑の、つり目の人。

 クスッと笑って、話し掛けてくる。


「こんにちは。私は、ゼナ・ファクト・レナと申します。リウラの盾からの使いで来ました」


「こんにちは。私は、エスティ・ティナ・ティテです」


 挨拶を返す。相手は何か楽しい事でもあったのか、ニコニコしている。

 不意に、彼が自らの口に人差し指を当てるジェスチャーをしてきた。


「ユーラは今、中星域ドゥーナに向かっています」


 告げられ、目を見開く。「えっ!」と、思わず声を上げそうになるのを寸前で踏み止まる。


「通信を妨害されていて、分かりにくかったでしょう」


「……」


 驚き過ぎて、声が出ない。

 ゼナと名乗った彼は、少し困っているように眉を寄せて微笑む。


「魔女王は護りの魔法壁を広範囲に展開する事ができる……その道の職人みたいなものなんだ。今の世に、彼女以上に魔法を使える人間は幾人もいないだろうね。ここは精霊の多い星でもある。それは、彼女の理想が穏やかなおかげかもしれない。……でも。未来も、そうだとは言えない。人は変わる。よくも悪くも。だから。過去を眩しく思ったり、未来に希望を持ったりするのかな……」


 砕けた口調で、まるで独り言の如く語られる。

 

 何も答えられなかった。

 黙ったまま、相手を見つめる。

 

 彼は片方の口角を上げる。

 歪に笑みを作る仕草が、含みを帯びているように感じる。胸が、ざわざわする。


 その後すぐに……女王の準備が終わった旨を、彼女の配下の女性が伝えに来た。

 ゼナは意味深な微笑を残し、坂を上って行った。


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