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やり直しの人生では我が子を抱きしめたい! ~後悔していた過去を変えていったら片想いしていた人たちと両想いになりそうな気配だけど夫の事が気がかりです~  作者: 猫都299
二章 続編 未完成な運命は仮初の星で出逢う

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85 龍君の誕生日


「龍君!」


 小学校の卒業式も間近に控えた、二月。


 休み時間に席を離れようとしている幼馴染の男の子、鈴谷龍君へ声を掛けた。今日の龍君はフード付きの黒い上着と黒のズボンという出立ちで、柔らかい黒髪にはいつものように癖がある。


「何?」


 歩き出そうとしていた彼が、振り向いてくれた。だけど……。尋ねてくる声や眼差しに、暗い雰囲気を感じる。


 やはり。彼に嫌われたとしか思えない。

 少しの間、ためらったけど。意を決して切り出す。


「今度の、四月一日なんだけど。渡したい物があるから、龍君のお家に行ってもいいかな?」


 四月一日は、龍君の誕生日。プレゼントを渡したかった。そして、できるなら……ちゃんと話をしたい。


 龍君の目が細められ、少し睨まれている心地になる。


「……いいよ」


 低く淡泊な声音で返される。了承をもらった。

 

 ほっとしていたのに……。


「鈴谷君!」


 私の後方から、龍君を呼ぶ人物が現れる。……雪絵ちゃんだ。

 彼女は友達の一人。肩まであるストレートの黒髪を揺らしながら私の横を通り過ぎ、龍君の側で歩みを止めた。


「ちょっと来て」


 雪絵ちゃんが廊下の方を指差して、龍君を促している。


「ああ……分かった」


 龍君も険しい表情のまま、彼女の後に続いて教室を出て行った。


 近頃……龍君と雪絵ちゃんが一緒にいる場面を、よく見掛ける。


「由利花ちゃん。大丈夫?」


 咲月ちゃんが、ためらいがちに心配してくれている。

 彼女も友人の一人。最近は髪を伸ばしているそうで、後ろで短い一つ結びにしている。


「雪絵っち……何なんだろうね。鈴谷は由利花ちゃんと付き合ってるのに!」


 咲月ちゃんが怒ってくれた事で、気持ちが少し楽になった。


「ありがとう咲月ちゃん。大丈夫だよ……」


 大丈夫。……すぐ不安になる自分へ、言い聞かせるつもりで発した。



 暫くして、龍君と雪絵ちゃんが戻って来た。何かが光った。


「雪絵ちゃん……それって……」


 雪絵ちゃんの側へ寄り、確認する。彼女の首元に見えたネックレスに、視線が吸い寄せられる。小さな赤い石が付いている。


 ――見覚えがある。


 龍君がしているミサンガにも付いていた。


「ああ、これ?」


 雪絵ちゃんが、石を触って言い及ぶ。


「誓いの証」


 フフッと頬を綻ばせた、何とも嬉しそうな顔で告げられた。


 彼女の誕生石は確か、ガーネットだった。……そういう事なのかもしれないと、暗い思いで俯く。


 今まで「マスター」が龍君に何かしたから、龍君が冷たい雰囲気になったのかもしれないと……頑張れば何とかなるかもしれないと、希望を持っていたけど。そうじゃない可能性が高くなったように感じる。


 普通に考えて……美少女で知的で、しっかりしている雪絵ちゃんを――……龍君が好きになったとしても。何もおかしくない。むしろ、そっちが普通なのでは?


 自虐的な思考になる。……でも。今は凄く…………認めたくないよ。



 卒業式を終えて、龍君の誕生日が訪れる。


 今日は白地に黄色い花模様のブラウスと黒のスカートを着ている。左手首に、星のチャームが付いたブレスレットをする。去年の七月、私の誕生日に龍君からプレゼントされた物だ。髪は普段通り、左右の三つ編みにしている。但し。少しでも可愛く見えるように、念入りに調整した。


 ただ……彼に会いに行っても。家の前で、プレゼントを手渡すだけになるかもしれない。


 恐らく、もう……彼の一番は、私じゃない。


 考えて、気分が重くなる。



 

 龍君の家に着く。三階建ての、二階にある玄関扉の前に立つ。

 ドアを開けて顔を出した彼は、あっさりと家の中へ入れてくれた。部屋へ通される。


 今日の彼は、白いシャツの上に紺色のトレーナーを着ている。


 プレゼントを渡した。プレゼント用の袋の中には、紺のチェック柄のタオルが入っている。


「ありがとう」


 静かなトーンで言われた。僅かに暗い瞳で。


 予想していた通りだった。プレゼントを喜んでくれないだろうと思っていた。

 私じゃなくて雪絵ちゃんだったら、きっと――。


 彼の手首に今日も、赤い石の付いたミサンガが巻かれている。雪絵ちゃんとお揃いの石。


 目にして、頭に血が上った。

 ミサンガに手を伸ばす。寸前で避けられた。指摘する。


「それ、外して」


 低く、はっきりした声で伝える。

 必死な様相で拒まれる。


「外せない」


 彼はミサンガを取られないように手で庇い、私を……信じられないものを見た時にするような目付きで見てくる。


「……そんなに、雪絵ちゃんがいいの?」


 最近の龍君は、私に冷たかったのに。話し掛けても。冷めた表情で対応される度に、胸が苦しかった。

 それなのに。

 

 彼女の事になると感情を表す彼に、強く衝撃を受ける。


 我慢できない。

 顔に力を入れて堪えていたのに、最悪。

 

 きっと……今世紀最大の醜い泣き顔を、好きな人に曝した。


 ……けれど。

 

 すぐに、涙は引っ込む事態となる。龍君が言い出したからだ。


「ねぇ。キスでもしとく?」


 ……と。


 驚いて聞き返す。


「何で?」


「別に。何となく。そう言えば、由利花ちゃんの誕生日にしたなって思い出して。泣かれても困るし、機嫌を直してくれるならしてもいいよ。……キスなんて、好きじゃなくてもできるし」


 絶句する。

 

 見開いた目で見つめる。

 再び涙が流れる。


 龍君は、変わってしまったのかな。


 それでも、諦め切れない。



 唇同士が触れる。それだけだと思っていた。

 離れようとした時に、腕を掴まれた。


 重なる。続きを与えられる。


 言動とは裏腹に、甘くて優しかった。

 

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