100 エピローグ
辺境にある星々の間に、ワズを育星している。周囲に幾つか似た星があり、カムフラージュしやすいのだとか。
ゼナは、ざっくりした説明を終えて席を立つ。
「来たみたいだよ? じゃあ、俺はこれで……」
玄関のドアではなく、裏口から出て行く彼の後ろ姿を見送る。
きっと、家の裏にある泉へ向かったんだと思う。ワズを観測できる特殊な泉に改造したと言っていたから。
間もなく、ユーラが訪ねてくれた。
私の大事な、サボテンに似た植物を受け取る。ここからは、凄く遠いのに。私がこれまで住んでいた家まで赴き、取って来てくれたのだ。
「ありがとう」
ユーラに会えたのも嬉しくて、微笑んでお礼を伝える。
右肩を掴まれた。左隣にいる人物に抱き寄せられる。その人を見上げる。……アルゼさんは笑顔で、ユーラを睨んでいる。
えっと……。ユーラの前でアルゼさんとイチャイチャするの、ちょっと恥ずかしい気がする。
アルゼさんとユーラが睨み合ってしまった状況を、どうにかしたい。咄嗟に思い付いた話題を振る。
「そう言えば! ブリアスで出会った時から、ちょくちょく。アルゼさんの様子を窺っていたんだけど。睨まれたりしていたから、嫌われているんだと思っていたよ。まさか好かれているとは……龍君の本体の人だとは、思っていなかった」
アルゼさんは、きょとんとした表情になる。一拍後に、無邪気な顔で笑んでくる。
「恐ろしい程の力で、抑えないといけなかったんだ。衝動を。ずっと、イライラしていたから。すぐにでも抱きしめて、家に連れて帰りたいって」
アルゼさんの言い分に、耳を傾けていたけれど。意味を理解する前に、ユーラがアルゼさんの頭をはたいたので。うやむやになった。
暫く三人で、お茶を飲みながら話をしていた。
ユーラが帰った。見送りの為に挙げた手を、下ろす。
短期間の内に。ワズを管理する施設が破壊されたり、その場所から脱出したりと。色々な体験をして疲れた。
隣にいるアルゼさんの方を向く。彼は。私が何を考えているのか知っているみたいに、フッと微笑む。
優しい手付きで、頭を撫でられる。温かくて、泣けてしまう。
「私の」家族を得たんだと、実感する。
「よかったね。エスティ」
ニーナの声が聞こえる。もちろん、ニーナも大切な一員だ。
そして……後になって、アルゼさんとニーナに打ち明けられるのだった。更なる家族を。
連れて行かれた夜の庭で、見てしまう。アルゼさんのトケイから、赤とオレンジの混じる炎と……羽根が飛び出るのを。
私の周りを、元気に羽ばたいているのは——。
「幼い頃に預かったフェニックスだ」
アルゼさんの言葉に目を瞠る。ルドと再会したのだ。
えっと。それは、つまり——?
驚き過ぎて、理解が追いつかない。ぼーっとする頭に、思考が浮かぶ。
いつだったか……ケールディアが言っていた、アルゼさんから感じる「得体の知れない気配」って。ルドの事だったのね……?
つまり。彼は……?
ニヤリと見つめてくる。顔が熱い。
えっと……?
龍君のミサンガが切れた。自然に。
十八歳を過ぎてから聞いた話では。龍君は小六の修学旅行先の海辺で、雪絵ちゃんに脅されていた。付けられたミサンガを自ら外した場合、私と結ばれなくなると。
途中で諦めそうになったと、龍君が苦笑する。私をつらくさせているのが自分の行動という事実に耐え切れず、離れた方が私の為になると思い至って。
「傷付けて、ごめん」と、泣かれた。
その後も、色々あったけど。ミサンガが切れた、中学生だった頃の話に戻す。
父たちに連れられて、釣りに来ていた。
今回のメンバーは。父と、龍君のお父さんと、龍君と、私のみ。
父たちが釣りをしている岩場から少し離れた所にある、潮だまりの側に。龍君と二人で座り、小エビやイソギンチャクを枝でつついている。
龍君のミサンガが切れたという事は。もしかして……彼の態度にも、何か変化があるかも——?
期待していた。
けれど。彼は潮だまりに視線を落として、目も合わせてくれない。
私も俯いて、潮だまりを見つめる。
「十八歳になったら。結婚する約束してたよね?」
話し掛けられてハッとする。
龍君がこっちを見ている。
「約束を破るのは、よくないから……守ってね」
感情の読めない顔付きで伝えてくる。
「龍君はいいの? 相手は私で」
ドキドキしながら聞く。頷くのを目にして、胸が痺れたように痛い。
「由利花ちゃんは?」
尋ねられて答える。
「龍君がいい」
抱きしめられる。私も、ぎゅっと掴まえる。
ずっと、放さないつもりで望む。
「もう、見付けたから」
小さな星に住んでいる。
家の裏にある泉の端に、腰を下ろす。水面に足を浸して、泉からワズを観測する。
由利花と龍君が潮だまりの側で話をしているのを、彼らの斜め上辺りから見下ろしている。
私の隣にも、アルゼさんが座っている。
「子供がいるって、どんな感じなんだろうって思っていたけど。ちょっとだけ、分かった気がする」
ワズの眺めに微笑んで、囁く。
私たちも、手を繋ぐ。
寄り添って、幸せな未来を想った。




