異世界で気ままに余生を過ごすために覚醒せよ乙女
遅れて申し訳ない。かなり事が片付いたのでこれからは頑張れる……はず。
「『煌炎星』っ!!」
「ぐっ……あぁッッ!!」
数多の光がウサの肌を裂き、その勢いでウサは地を転がる。
試合は完全に一方的だった。疲労とダメージでウサの動きは鈍くなっていたし、対してアークレイは無傷そのもの。誰の目から見てもそれは明らかだった。
ただし、
「まだだ。」
レンと、
「……まだ、ですわ。」
ウサ自身を除いて。
(まだ……まだ立ち上がるんですの……!?)
ウサはフラりフラりとよろけながらも立ち上がる。膝はガタガタ笑っているし、呼吸の度に血の滲む味がする。自分の動悸以外に音は聞こえないし、瞬きする度に視界は闇に包まれる。
それでも、そんな身体にムチを打ち、浅い呼吸を無理矢理整え、ウサはアークレイ目掛けて突進する。
まさかこちらに向かってくるとは思っていなかったアークレイは少し呆けていたが、
「しつッッッこいですわ!!!いい加減に諦めてくださる?!!」
そう吐き捨てつつ、無詠唱で『煌炎星』を放つ。無詠唱の影響で威力も狙いもお粗末だが、瀕死のウサを倒すにはそれで充分────そのハズだった。
「────甘く見るなよ。俺のウサを。」
「ぐ……らあぁぁぁっっっ!!!!」
ウサは、あろうことかその光線の雨を正面から受け止めたのだ。
「は……?」
ウサだって理解しているハズだ。自分の体力の限界を、これを喰らえば即座に死にかねないと。
その恐怖を前にして、敢えて正面からそれを捩じ伏せる。
「……正気じゃありませんわ。」
その執念にも似た何かに気圧されたその隙、
「『掌撃』!!!」
それは、掌に魔力を纏わせ殴る。ただそれだけの魔法だったが、動揺していたアークレイはそれを回避できなかった。
「ぐふっ……!!」
掌打をモロに食らったアークレイは、地面をゴロゴロと転がり膝を付く。
(なんですの……?!体力が無限にありますの……!?)
即座にウサからの追撃はなかった。だが、ウサの体を引き摺るように近付く音が、まるで死神がゆっくりと背後を追いかけるような恐怖を掻き立てる。
「確かに、私はまだ未熟。貴女の方がよっぽど当主相応しいかもしれない。だけど、」
そして、ウサは息を荒らげながら決意を口にする。
「だけど!!意地で負けてたまるかぁッ!!」
(…………これが、意地……?!)
対して、アークレイはウサに得体の知れない恐怖を感じたまま、立ち上がれないでいた。
(意地で説明するには……あまりにも……!!)
「不合理の塊ですわ……。」
「────なっ……!?アークレイ様……?!」
アークレイが瀕死のウサに気圧されている。その光景が理解できずペタリと観覧室の窓に張り付く天華。
その様子をレンは満足そうに眺める。
「普通に考えれば、温室育ちのお嬢様が野営をするのも、約1年も追加物資無しで生存し続けられるのも……おかしいよな。」
「…………。」
それは、レンが感じた違和のうちの一つ。
「1年も他人との接触を断ち、大自然という不自由で広大な世界にいたのに、身なりや姿、立ち振る舞いも"お嬢様として"劣化していなかった。それって不自然だよな。」
「不自然……。」
そして、天華もその違和感を理解する。
「……まさか、固有……!?」
天華にとってはあまり馴染みはないが、聞いたことがある。
どうやらこの世界では、通常の方法では手に入らない能力があるのだとか。曰く、固有スキル。
(この意味不明なお祭りじみた興行に意味があるとすれば……それは一族相伝のもの……!?)
「そうかもしれんし、そうでないかもな。
ただ1つ言えることは────」
レンは穏やかに笑う。
自分でも不思議だった。戦いに身を投じ続け、摩耗し、くたびれたハズの心が、こんなにも踊るなんて。
「────いい女だろ。ウサは。」
言いたいことは、考えは沢山あった。しかし、そんなレンを目の当たりにした天華は、何も言葉に出来なかった。ただ少し唇をかみしめるだけだった。
「…………不本意ですが認めざるを得ませんね。
彼女を、私の恋敵として。」
「………………あ。」
「嘘でしょ?忘れてましたの?」
さて、視点を闘技場に戻そうか。
「たあああぁぁぁぁッッッ!!!」
瀕死にも関わらず、ウサの勢いは衰えない。
むしろ、時が過ぎれば過ぎるほどウサの動きは鮮やかさを増し、アークレイを圧倒する。
「ふざけるな……!ふざけるな!!!私は努力してきた!!」
先とはまるで逆。ゆっくりと距離を詰めていくウサに対し、アークレイは後退りしながら魔法を放つのみ。
「なのに、こんな……こんな……!!」
────惨め。
自分が座るハズだった椅子に、自分より一回りも二回りも小さい────見下していたあのウサが、自分を差し置いて手を掛けている。
惨めに感じないハズがない。そんなこと。
「認められるかぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!!!!!」
アークレイは右の掌に魔力を集中させ、サッカーボール大程の磁場を発生させた。周囲の空気が揺れる……否、
「アークレイ様……!!!」
吸い込まれている。そう、皆様ご存知のブラックホールだ。当然小規模かつある程度の制御は効くようだが、意志を持つブラックホールなんて脅威に他ならない。
ウサはブラックホールがどんなモノなのか知らなかったが、直感的にそれが危険な物であることを見抜く。
(逃げれば、観客の皆様に被害が及ぶかも知れない。)
「本気ですのね。アークレイ様。」
だから、敢えて正面でアークレイを待ち構える。その態度が癪に障ったのか、ブラックホールを押し付けるようにしながらウサに襲いかかる。
「ぅらああああぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!!」
迫るブラックホール。しかし、ウサの身体は吸い込まれる事はない。ひらりと身を躱し、その突き出された右手首を掴み力強く引く。
「なっ────」
そのまま自分の肩を支点に、アークレイの右手を地面へと振り抜き、
「せいやぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」
右掌のブラックホールを地面へと押さえつける。
バキバキという音を立てながらブラックホールは地面を喰らっていく。
「……馬鹿な、有り得ない……。」
吸引の許容量を超えたブラックホールが消失し────アークレイは地面に叩きつけられ、気絶していた。
よって勝者は────
「……見事、美しい背負い投げだ。」
「えぇ、それには賛同します。しかし。」
「あぁ、まさかだな。」
「お姫様を迎えに行きましょう。」
「あぁ。」
「…………ひ、引き分け。」
『再び引き分けでございますわ────ッッッ!!!!!!!!!!』
勝負の行方は、最終戦へと持ち越される。
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