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人生で最も大切なことはエ◯ゲから学んだ

【前回のあらすじ】

 ある日突然、宇宙から来訪した銀河皇帝シャムス陛下は、捕獲された『ルナリアン』…すなわち私などそっちのけで、私に極めて類似性は認められるものの、ただの地球人にすぎないリアルJCのマコさんに突然の求婚!

 その交換条件として彼女が提示したのは、先日逮捕されたご両親を『自由にすること』でした。

 皇帝サマは速やかに対処し、ご両親の保釈が決定しました。


 ですが、二人の身元引受人である教団側は、彼らをマコさんに引き合わせる際、先日のシドさん銃撃事件の容疑者・井谷奈いやな記者の同席を要求します。

 すこぶるイヤ〜ンな予感を覚えながら迎えた翌日…。

 旗艦『ソル・ラディアンテ』が上空に停泊する中学校のグラウンドにて、マコさん一家の引渡し式典が華々しく執り行われました。

 けれども案の定、ご両親を銃で武装させていた井谷奈記者は、マコさんを人質にして、畏れ多くも皇帝陛下に刃を向けたのです!


 …結果的に、所詮は付け焼き刃な彼らが、百戦錬磨の皇帝サマに敵うはずもありませんでした。

 拘束された井谷奈記者らの身柄は、教団側があっさり見捨てたことから皇帝サマ預かりに。

 実はそれこそが皇帝の狙いであり、愛弟のシドさんを傷つけた首謀者を断罪するため、マコさんとそのご両親を利用したに過ぎなかったのです。

 これはもぉ…井谷奈記者オワタ!でしょーね。まぁ自分で蒔いた種ですし。


 けれども、この期に及んでマコさんのご両親は彼女を罵倒し続けます。

 彼らにとっては、もはや我が子よりも教祖の教えこそが絶対であり、頭の芯までドップリ浸かった洗脳は、そう簡単には解けないのでした…。

 すっかり変わり果てた両親に絶望したマコさんは、再度、皇帝サマに懇願します。

 『両親を自由にして』と。

 つまり、彼女がいう『自由』とは…!


 そんなマコさんを、皇帝サマはあえて厳しく叱り飛ばします。

 そして、革命時に自ら拘束し処罰した、彼の母親である王妃の現状を皆に初公開しました。

 全国民を敵に回した挙句、最愛の息子の裏切りにより精神に異常をきたした彼女は、もはや廃人と化していました。

 それでも…子供の頃の皇帝陛下を、昔と変わらず今なお愛し続けていたのです…。


 井谷奈記者を捕えるため、結果的にマコさんの家庭を修復不能なまでに崩壊させてしまった皇帝サマは…

 お詫びに彼女のご両親を、どれだけ困難であろうとも、必ず更生させると約束しました。

 ですが…一時的にとはいえ、両親の殺害を望んだマコさんを、皇帝は赦さず、彼女との婚約をこれまた一方的に破棄して地球から立ち去ろうとします。


 でも、それは…決して他人に弱みを握られてはならない、皇帝としての彼の建前に他ならず…

 本当は一目惚れだったマコさんを、みすみす手放さねばならなくなったことに嘆き悲しむ、一人の男としての彼の本音は、すぐに皆の知るところとなりました。

 そして、それは…マコさんも同じで…。


 ラリスくん達の助力を借りて、去り行く皇帝サマに追いつき、自らの想いのたけを素直にぶつけたマコさんを…

 皇帝サマは結局、受け入れてくださいました。

 こうして、銀河星団国家の皇帝陛下とリアルJC地球人という、世にも奇妙な凸凹カップルが爆誕してしまったのでした♩


 けれども…この一件は、思わぬ副次効果をもたらしました。

 奇跡的な邂逅の末に結ばれた、二人の様子を目の当たりにして…

 壊滅的な朴念仁だった、あのラリスくんが…ついに『恋愛』というモノの正体に気づき始めてしまって…!?





「お前が教えてくれた、あの『キス』ってヤツ。アレってホントに"信頼と感謝の証"ってだけなのか?」


 シドさんとマコさんがいるリビングから連れ出された私は、廊下の隅でラリスくんから、いきなりそう切り出されて面食らいました。

 普通だったら「え、何言ってんの?」と笑ってしまいそうなほど素朴な疑問ですけど…

 それを口にした彼の顔は、真剣そのものです。

 それは、地球時間に換算すれば、もう何百年も独りぼっちで生きてきて…

 しかも、彼の母星グラビスはすでにブラックホール化して壊滅したため、彼と同じ巨人種族が周りには皆無で…

 そんな彼から見れば、標準サイズの他人種族は、犬や猫や観賞魚などのペットにも等しいミニマムサイズであるため、庇護欲以上の感情が湧きにくくて…

 それ故に、愛情というモノをまるで実感することなく、今日まで生きてきてしまった彼が…

 生まれて初めて『恋愛』というものに興味を抱いた瞬間だったのです。


「…どうして…そう思うんですか?」


 ここでストレートに答えても、たぶん彼には理解できないでしょうし…下手をすれば思わぬ誤爆を招く恐れがあります。

 特に、シドさんが入院した、あの夜…。

 ラリスくんと二人きりで入ったお風呂で、思わず彼にキスしてしまった私が、不純な気持ちを抱いていたことは…どこまでも純粋な彼には、知られてはいけません。

 だって、私達は親子であり、家族なのですから…!

 なのでまずは、様子を見ながら慎重に問い返す私に、


「きっかけは、あのメガネだよ」


 ラリスくんは、予想通りマコさんの名前を挙げました。

 ここ最近で彼になんらかの刺激を与えたのは、彼女くらいのものでしょうし、別に不思議ではありませんけど…


「この状況で…なんで耐えられるんだ、アイツ?」


 どうやら彼女と皇帝サマが超遠距離恋愛中にあることを言っているようです。

 地球とモーント星団は、広大な銀河のほぼ端っこ、しかも正反対の位置にあるらしく、物理的には気が遠くなるほどの距離を隔てています。

 ただ、彼らが乗ってきた旗艦『ソル・ラディアンテ』の『超次元振動ジャンプドライブ』なる技術を使えば、ほんの数日で行き来できるようですけど。

 なんでも、次元を強制的に震度させて並び順を突き崩し、その間隙かんげきを縫って目的の事象まで最短距離でジャンプする…とか何とか、凄そうだけど何が何だかサッパリな理屈です。

 お察しの通り、私用でホイホイ使える代物ではないため、デキたてホヤホヤのロイヤルカップルは、次に会える機会まではじっと我慢の子に徹しなければならず…。


「俺だったら、気に入った相手とはいつでも一緒にいたいし、触れたいときに触れられないなんて、マジ勘弁だけどよ…」


 それはまぁ、誰だってそうでしょう。

 私だって、シドさんがいない日々なんて今じゃ考えられませんし…ラリスくんも実は人一倍、寂しがり屋の甘えん坊サンですからね。

 いちばん仲がいいミユちゃんも、いつでもすぐお隣に住んでいるし、毎日必ず迎えに来てくれるし…キスだって拒まないから、まだ我慢していられるんでしょうけど。


「でもあのメガネ…これでいいんだって、いつも笑ってやがんだぜ? 信じらんねーよ…」


 たしかにマコさんは、他人に比べればだいぶん我慢強いし、打たれ強い子ですけど…

 さすがにまるで大丈夫って訳にもいかないから、皇帝サマの弟で、最初に憧れたシドさんにいまだにチョッカイかけてきたり、ウチからも出て行かなかったりするんでしょうね…。

 二人揃って痩せ我慢ばかり…本当にお似合いのカップルかも…。


「アイツのそんな様子を見てたら、なんか俺…羨ましくなってきちまってよ…」


 ハイ出ました。思春期名物、隣の芝生は青く見える的・理不尽な嫉妬心!

 知り合いやお友達がいつも楽しそうにしてるのを見て、「アイツばっかり何で…?」って無性に羨んで、妙な焦燥感を抱いてしまったことって…誰にでもあるんじゃないでしょうか?

 よくよく考えてみれば、皆、それほど大差がある訳ではないにもかかわらず。

 つまり…散々苦労してきたラリスくんにも、遅ればせながらやっと、そうしたことで悩めるだけの余裕が出てきたんでしょうね…。

 どれだけ暮らしが豊かになっても、無いモノねだりが尽きることはない…。

 人間って、本当に贅沢でワガママな生き物なんです。


「んで、アイツにあって、俺に足りないモノって何なんだ?って考えてたらよ…

 あの、皇帝との別れ際にかましたブッチューの意味が、俺のとは根本的に違うんじゃねーか?…なーんて思えてきたんだよな」


 ゔ…意外にスルドイですね、この子!?

 その違いを言葉で説明するのは、簡単かもしれませんけど…。


「…じゃあ…ラリスくんはどうして、ミユちゃんとキスするんですか?」

「どうしてって…そりゃポチ子がカワイすぎるからに決まってんだろ?」


 ゔぐっ、即答…!?


「時々、ムショーにアイツをギュッてしたり、チュッてしたりしたくなることがあんだよ♩」


 そんだけ欧米人ばりにドストレートな回答ができて、なんで恋愛要素だけスッポリ抜け落ちちゃってるんでしょーかね、この子は?


「…そこまで解ってるなら、全部理解できる日も近いと思いますよ?」

「だから、ソレを教えろって…!」


 痺れを切らして詰め寄る彼に、けれども私は…


「それは他人から教わることじゃなくて、自分で見つけることですから♩」


 決してイヂワルしてるんじゃありませんよ?

 こーゆーのってやっぱり、自分で気づいたほうが、ありがたみや感動も大きいですしね。

 …まぁ、即バレしたらちょっと困るってのもありますけど。


「んだよチキショー、人がせっかく恥をしのんで訊いてやったっつーのによ…」


 だからそもそも人にモノを訊く態度じゃないでしょーに?

 ラリスくんはふてくされながらも、こう言われてしまえば諦めて、おとなしく引き下がる…かと思いきや、


「そんなら…今から一緒に風呂入るぞ、また」


 …は?…はぁっ!?


「なんでそーなるんですかっ!?」


 互いに一糸纏わぬ姿のまま、痴態の限りを尽くしてしまった、あの時の記憶がまざまざと甦らされて…私は、顔が急激に火照っていくのを実感しました。

 それはラリスくんも同じなのか、どんどん顔を赤らめながら…


「あん時も…今に近い感じだったんだよ。

 お前のカラダも唇も、ぜんぶ俺のモノになったってのに…」


 ちょっ、言い方ストレート過ぎ!?

 確かにあの時…なし崩し的に彼と熱いキスを交わしたら、ラリスくんが私の胸を揉みしだいて…

 抵抗すらできない私は、されるがままになってしまいましたけど…っ!

 …いま思い返しても、かなーり気マズい状況だったってゆーか…彼の言い方は、あながち間違いじゃなかったですね、コレ…。


「けど…なんつーかこう、うまく言えねーけど…心はますます離れていく、みたいな…

 このまま行ったら、もう…後戻りできない気がして…

 俺、怖くなっちまって…」


 あ…やっぱり。

 あの時の彼も、私と同じことを本能的に感じ取っていたんですね。

 だって、私達は親子で、家族で…私にはもう、ステキな旦那様のシドさんがいるから…。

 それでも強引に進めようとすれば、確かにカラダは満足できるでしょうけど…

 一旦綻び始めた家族の絆は、いずれ大きな違和感へと変わっていって…

 下手をすれば、マコさんの家族みたいに、取り返しのつかないことに…。

 だから彼は急に、慌てるようにして私をほっぽり出して、そそくさとお風呂から出て行ってしまった…と。


 一見、破天荒なラリスくんだけど…。

 最近わかってきたことですけど、彼って物凄く純粋で、律儀で義理堅くって…私達のなかでは、たぶん一番の常識人なんですよ。

 だから、私がいい加減に教えてしまったことを、そのまんま実直に行動に移してしまって…。

 ミユちゃんと人目もはばからずチュッチュパちゅっちゅぱやらかしてるのも、思えば全部、私のせいですし…。


「だから、今度はちゃんと宣言する!

 俺は、お前と一緒に風呂入って…お前を抱く!

 そして、お前のヒミツを…お前の全てを手に入れるっ!!」


 んなぁ〜〜〜〜っ!?

 何でもかんでも宣言すればいいってもんじゃないでしょ!?

 しかも実際にはそれほど大したコト言ってない(※)のに、ムダにイケメンだからムダにカッコいいし…ドキドキッ☆

 そして、それに不覚にもときめいて、ちょっとイイかも?…とか思っちゃってる私がいます。

 流されちゃダメって、解っちゃいるんですけど…っ♩


(※要は母親と一緒に入浴して、おぱーいモミモミしたいだけ。

 お前のヒミツを知りたい→はやく愛を知って人間になりたいだけ。

 本人は大マジメなんでしょうけど…)


 けれども今日は…


「ダ、ダメに決まってるでしょ!? 今日はシドさんやマコさんもいるんだからっ!?」

「??? 家族がいたらダメなのか?」


 そっからかーいっ!?

 常識人なのに、一般常識が根本的に抜け落ちてるとか…!


「むぅ…じゃあ、しょうがねぇ。キスだけにまけといてやるよ」


 なんで上から目線?

 けれどもこの時の私は、アメリカ並みに無理難題な要求を突きつけてきた彼が、大幅に譲歩する姿勢を見せたことで、「そのくらいなら、まぁ…」とすっかり騙されていました。

 よくよく考えれば、結局、以前よりも高い関税を支払わされるハメになっていたというのに…!


「んじゃ、軽く一発♩」

「んむっ…!?」


 こっちがまだ良いとも答えてないうちに、待ったナシ、問答無用で唇を奪いに来るラリスくん!

 しかも…う、上手い…!?

 軽くどころか、メガトン級のビッグボムっス!

 あれから毎日ミユちゃん相手に鍛錬してるせいか、前より格段に上手くなってるし…!?

 ミユちゃんも、こんなのに耐えられるだなんて…お子様然とした外見からは予想もつかないほど、中身エッッッロ!!

 それに加えて…なんでいつも無遠慮に胸に触ってくるの!?

 あっ、だから先っぽは敏感だから摘まないでって…ひうんっ!

 服の中に手を入れるのもダメだって…あふ…っ。


「……っ」


 もう、立ってなんかいられないほどの快感に酔いしれて、足下がフラフラおぼつかなくなってきた、私の視界の片隅に…


「…ッ!?」

「…ハァハァ…♩」


 廊下の物陰から、こちらの様子を星飛雄馬の姉さんのようにコッソリ窺っていたマコさんの、夢遊病者のように恍惚とした顔が!?


「…あ。」


 私とマトモに視線がかち合うや否や、はだけた胸元やスカートの裾から慌てて手を引き抜いた彼女は、きびすを返して猛ダッシュ! 速っ!?

 でもね…こっちだって、家族崩壊の危機に瀕してますから!


「ちょこざいな小娘、逃がさんゾォ〜ッ!!」

「ヒィーーーーッ!?」





「フヘヘヘ、つーかまーえたっ♩」


 まんまと地下室に逃げ込んだマコさんを抑え込み、汗だくの額に黒髪を張り付かせ、血走った眼でほくそ笑む私に、


「かか堪忍してください…ここ怖いです…っ!」


 半べそのマコさんは本気で怯えています。

 さっきまで手を入れていた場所が不自然に湿っぽいのは、汗のせいだけじゃなさそーな気もしますけど…今はそんなコトよりも。


「アナタは何も見なかったし、私も何も見なかった。…いいわね?」

「え? でででもっ、ラリスくんと…っ」

「ソレを見なかったコトにしろって言ってんでしょーがぁア゛〜〜〜〜ン!?」

「ヒィッ、ヒィ〜〜〜〜ッ!?」


 丁度うってつけの場所に逃げ込んでくれたことだし、シドさんに見つかる前に…


「…埋めとこっか♩」

「◯△⬜︎〒〆〜〜〜〜ッ!?

 ぅぅっ…ここではもう酷いコトされないって言ったのに…お姉様の嘘つきぃ…」


 ついに泣きべそを掻き始めたマコさんに、私の怒りも急速に治まっていきます。

 やっぱり、泣く子には敵いませんね…。


「やめとけやめとけ。コイツに何かあったら、モーントと地球は全面戦争突入だぜ?」


 やっと私達に追いついたラリスくんが、のらりくらりと私を思いとどまらせます。

 くぅっ、よもや星団国家を盾にするとは…!?


「…丁度いい。やっぱお前にも訊いとくか?」


 そしてラリスくんは、さっき私に打ち明けたのと同じ苦悩を、かいつまんでマコさんにも話してみました。

 てっきり小馬鹿にしてくるかと思った彼女でしたけど、意外にも熱心に相槌を打ちながら耳を傾けてくれて…


「…それで、お姉様と…?

 なんだ…私てっきり、二人して先生に隠れてコッソリ不倫してるのかと…」


 ぎっくんちょっ!?


「だって…あんなにエッチだったし…これはもぉ、キスだけじゃないでしょ?って…」」


 ぎくぎくぅっっ!?


「でも…そっか。それで…」


 いやソコ、一人で納得しないで?


「あの…ミユちゃんとラリスくんが、いきなりキスしたときには、さすがに驚いたけど…

 何度も見てるうちに、アレ? ラリスくんって、ひょっとして…?って、思うようになってきて…」


 ん〜…なんだかボヤーッとしてますね?

 もっと具体的に言うと?


「キスするときに…気持ちが乗ってないでしょ?」


 あ゛…ズバリ核心突いちゃいましたね。

 そこに愛はあるんか!?…いや、無いッ!!


「ミユちゃんは…単純に喜んでるから、そこまで気づいてないかもだけど…

 あのままだと、そのうち…飽きられちゃうかも…」

「なん…だと…っ!?」


 愕然とするラリスくん。ミユちゃんが自分から離れていくことなんて、地球がひっくり返ってもあり得ないことだと思い込んでいただけに、マコさんの分析はかなり衝撃的だったようで……ドォンッ!!


「ならメガネ、お前が俺にソレを教えろっ!!」


 バキィーーッ!!


「お子様はムリッ!!」


 誤解を招いても仕方がないラリスくんの壁ドン請求に、マコさんはダイダロスアタック張りのストレートパンチで回答しました。

 それでも、ムダにカッコいい彼に言い寄られたことにはドギマギしつつ、


「代わりに『参考書』なら貸すから…!」


 参考書…?





「…なるほど、確かにコレのほうが手っ取り早いですね…!」


 マコさんのお部屋の座卓にうずたかく積み上げられたコミックの単行本を見て、私は思わずポンと手を打ちました。

 確かにコレなら絵が主体だから、ラリスくんの理解も早いでしょうし…

 恋愛描写が出てこない作品なんて、ほぼ皆無ですから、読み進めるうちに自然と納得できることでしょう。


「両手の指先が常にふやけてる人は、さすがに発想が違いますねっ♩」

「つ、常にじゃありませんっ! 廊下で息子さんとエッチぃことしてる、ふしだらなお母さんが悪いんですっ!!」


 くうっ…悔しいけど正論ですっ!

 けど問題は、彼がコレにすら興味を示さなかった場合、どうするかってことですけど…


「ををっ、コレが漫画ってやつか!

 どれから読んでもいいのか!?」


 心配するまでもなく、メタクソ興味津々でしたっ☆

 思えば、うちに漫画って今まで無かったですしね。

 特に少女漫画は、お婆さんが良い顔をしませんでしたし。

 …今にして思えば、私が恋愛に興味を持たないようにして、束縛していたのかもしれませんけど。

 あとラリスくんは、ゲーム以外のメディアにはことごとく興味を示さず、書店にはまず立ち入らないタイプですし。


「じゃあせっかくだから、俺はこの赤い表紙を選ぶぜ!」


 お約束ですねぇ…と、さっそくラリスくんが手を伸ばした、全体的に肌色が多めで背表紙が赤いコミックを、マコさんは「あっ!?」と慌ててサッと取り上げて、


「コ、コレは…初心者にはちょっぴりハードすぎるかもしれないから…こっちをどーぞ」


 ならなぜそこに置いといた?

 しかも差し替えたの、小◯館の『少女◯ミック』作品だし…場合によっちゃ〜こっちのほうがよりハードじゃない?

 てゆーか…マコさんのコレクションて、偏り具合が顕著すぎってゆーか…ギリッギリッ成人指定されてないけど、これでよく審査通ったなって作品ばっかりな気が…。

 あと、背表紙が赤いコミックって、一般誌ではほぼ見かけない説。


「私には、これくらいしか趣味がなくって…」


 こんな煩悩剥き出しの漫画がですか?


「本当は小説とかも好きなんですけど…文章は、両親の検閲が厳しすぎて…」


 検閲を受けたら困る内容の作品ばっかり読んでるからでわ…?

 ともかく、宗教関係のお家って、創作メディアにはやたらとウルサイとこが多いですよね。

 具体的には、教祖の執筆物以外はほぼ認めてなかったり…。


「少年漫画も…一部の出版社の刊行物は、軒並み禁書扱いされてて…」


 『少年マガ◯ン』バッシングで知られる大川◯法氏とかですね。それ以上に過激な『◯ャンプ』とか『チャン◯オン』とかのは、ほとんどスルーされてるのに…。


「でも少女漫画系は全然ノーチェックで…こんな表紙なのに、机の上に放り出しといても何一つ言われたコトないんですよね…」


 それは教祖様がそっちまでチェックしてないからでしょうね、たぶん。

 教祖の指示には盲目的に従い、それ以外はてんで無関心な信者アルアルですねぇ…。


 …などと、私達がコミック談義に花を咲かせている間にも、ラリスくんは意外にも黙々と単行本を読み込んでいて…


「…なぁコレ、続きはあんのか?」

「あ、ソレならこっちにまとめてあるから…全部持ってってもいいよ」


 と言ってマコさんが差し出したセットは…全二十五巻。少女漫画にしてはなかなかの超大作!?


「しかも、いわゆる"規制"が始まる前のシリーズだから…なかなかにドギツイですよ…ウフフ♩」


 と、私にこっそり耳打ちするマコさん。

 そ、そんな劇物を漫画ド素人のラリスくんに読ませたら…お猿さんになちゃーうカモ♩


「サンキュ。んじゃ、一晩借りとくぜ!」


 何も知らない無垢なラリスくんは、大量の漫画を小脇に抱えて、意気揚々と部屋から去っていきました。


「…ヌフフフ、マコさん。そちもなかなかの…ワールーよーのぉ?」

「フッヘヘ、お姉様こそ…♩」


 翌朝の彼になんらかの変化がもたらされていることに期待しつつ、ほくそ笑む私とマコさんなのでした…♩


「…あ、それとさっきの赤い本、私に貸してくれない?」

「え゛っ!? あああのっ、コレだけ…成人向けなんですケド…?」


 でしょーね、やっぱり。

 ソレを現役JCのアナタがどーやって買ったのかはともかく、


「そこがイイのよ…シドさんに読ませるんだから♩」

「え…先生が…この本と同じコトを…!? ハァハァ♩」

「これで彼の習得ワザも激増間違いナシね…ムッフフフ♩」

「ハァハァハァハァ…☆」


 猿に〜な〜るよ〜〜〜♩


 ガチャッ。「あ、それとメガネ。今夜は他にもいろいろ借りに来るかもしんねーから、毎晩みたいに変なコトしてんなよー?」

「!? へ、部屋に入るときはノックしてって、いつも言ってるでしょ!?」


 あらあら。ラリスくんとマコさんも、すっかり仲良しさんネ♩





 んでもって翌朝。


「…おはよーございます…」


 珍しく目の下にクマをこさえたマコさんが、げっそりした様子でダイニングに現れました。


「あー…昨夜は大変でしたねぇ」


 ラリスくんのことだから、夜通しマコさんのお部屋に漫画を借りに来て、ろくに眠らせてもらえなかったんでしょうね…。


「そーゆーお姉様は…なんだか艶々してますね…?」

「ええ、おかげさまで♩」


 昨夜は久々に邪魔も入らなかったから、マコさんのコミックで準備万端、ヤル気満々なシドさんと…めちゃくちゃセッ◯スした☆


「そのシドさんは、まだ寝室で干からびちゃってるけどね♩」

「ううっ…お姉様ばっかり、ズルい…っ」


 悔しかったら、はやく青少年保護法圏外におなりなさいな♩


「…ぅい〜っす…」


 そこへ、マコさん以上にクマだらけなラリスくんが、フラつきながら現れました。

 これはまた…徹夜で読みふけりましたね…。


「いやぁ、いったん読み始めたら、面白くて止まんなくなっちまってよ。

 あんなオモロいもんがこの世にあったことを、今まで知らなかったなんてな…クッソー」


 予想以上のハマりっぷり! これは…『情操教育』の成果にも期待できるんじゃーないですか!?


「たしかミユちゃんも沢山持ってたと思うから、言えばいくらでも貸してくれるんじゃない?」


 というマコさんの提案に、ラリスくんは…


「!?…そ、そーだな…?」


 …おんやぁ? なんだか明らかに様子がおかしいですけど…これはいったい?

 などと怪しんでいたところへ、さらに…


「おっはよーラッリスくぅ〜んっ☆」


 今朝も元気いっぱいのミユちゃんが、呼び鈴も鳴らさずイキナリ我が家に突撃してきました。

 過去に数日間、我が家で暮らしていた経験からか、勝手知ったる無遠慮さですけど…

 アナタはもう隣人なんだから、そこいらへんの配慮はちゃんとなさい。

 じゃないと地下室でおしおきですよ♩


「おう、いつも元気だなーお前は…

 …って、なんで制服着てんだ? まだ謹慎中だろ?」

「何言ってんの? 謹慎は昨日で終わったから、今日からまた学校だよ!」


 先日の皇帝サマ来訪騒動の直前、全校生徒の目前でキステロを働き、大多数の生徒に著しい精神被害を与えた二人は、一週間の自宅謹慎処分に服していたのでした。


「あれ?…そだっけ?」

「もぉ〜…いつまでも寝ボケてないで、はやく着替えよ? あたしも手伝ったげるから♩」


 すっかり世話女房気取りなミユちゃんは、なんだかんだと理由をつけては、いつものようにラリスくんにじゃれつこうとします…が、


「ッ!?」


 ニュータイプのごとき閃きでソレを察知したラリスくんは、バズーカ砲の弾をヒラリとかわしたガンダムのように、咄嗟にミユちゃんを避けてしまいました。


「…え?」


 今まで彼に避けられたことなど一度もなかったミユちゃんは、信じられないモノを見たような顔でラリスくんを見つめ返します。

 その視線に耐えられない様子の彼は、みるみる顔を赤く染めて…


「…そーゆーの…もぉ、やめよーぜ?」

「ラリス…くん…?」


 突然、何が起きたのか、まるで理解できないミユちゃんに向かって、ラリスくんはトドメの一言。


「もぉ…お前とは、キス…しねーから。」

「……!」


 あまりのショックにフラリとよろめくミユちゃんの前で、ラリスくんはなおも私に、


「悪ィけど…今日は学校、行けねーわ」

「え? ちょっ、そんな勝手な…」


 一応は咎めてみる私ですが、確かにいつもの彼とはだいぶん様子が違うので、あまり強くは言えません。

 それを肯定と受け取ったらしいラリスくんは、今度はマコさんに、


「メガネ、家出る前にもうちょい頼む」

「ダメよ、ちゃんと学校行って。

 昨夜からもう何回私のところに来てると思ってるの?

 いくらなんでもやり過ぎよ。本当に猿になっちゃうわよ!?」


 あ゛…こりはちーとヤヴァイですね。

 二人揃って徹夜明けで、目元がクマだらけな男子と女子。

 そして、あんなに仲良かった彼女に、急につれない態度をとる、移り気な彼…

 とくれば、当然…


「…ひっ…ぅぅ…ぅわぁ〜〜〜〜んっっ!!

 ラリスくんをマコちゃんにNTRれちゃったぁーっ!?」


 ホラやっぱり。ミユちゃん、朝イチで大号泣ですよ。

 でも、あながち誤解とばかりも言い切れないのが、なんともはや…。





「人聞きの悪いコトを大声で泣き叫ばないで!

 だから、私はお子様にはキョーミないって

言ってるでしょ!?」

「でもでもでもでもラリスくんがぁ〜っ!」

「俺にだって好みってヤツがあんだよ。こんなナイチチメガネなんかお呼びじゃねーって!」

「誰がナイチチよ、少なくともミユちゃんよりはあるでしょ!? もう漫画貸さないわよっ!?」

「うわーんやっぱり、あたしがおっぱい無いから飽きちゃったんだぁ〜〜〜〜っ!!」


 うーん、これはもう収拾つかない感じですね。

 せっかく謹慎が解けたのに、これじゃあまた学校はお休みせざるを得なさそうです。


「で…漫画を読み込んだ彼の様子が、急に変わってしまった…と?」


 やっとこさ起き出してきたシドさんも、お年寄りのように腰をトントン叩きながらスタミナドリンクをチビチビ飲みつつ、呆れ顔を浮かべます。

 …頑張らせすぎちゃってホントごめんなさい。


「う〜ん…コイツはサブカルに触れる機会が極端に少ない環境下で育ったからねぇ。

 ところが、地球はまさにサブカルの宝庫なもんだから…

 実際、ここに来て初めてゲームというものを知ってから、短期間であーなっただろ?」


 ラリスくんの部屋中がゲーム機やソフトのパッケージで溢れかえっていたことを思い出した私も、シドさんと一緒にげんなりします。


「それはまぁいいけど…ラリスくん、キミ、ソレを読んで、いったい何を悟ったんだい?」


 というシドさんの率直な質問に、ラリスくんは腕組みして首を捻って…


「ん〜…正直、よくわかんね」


 一晩であれだけ大量に読み込んだくせに!?


「けど、なんつーか…オスとメスで遊ぶのって、オス同士でじゃれ合うよりもドキドキすんだなー…ってことぐらいは、なんとなく?」


 オスメスゆーな。語尾が疑問形なのも腹立つからやめれ。

 てゆーか、やっとこさ登山の登り口じゃないですか。

 この分だと、まだまだ先は長そうですね…。


「あと…キ、キスってやつは…あんなみだりにチュッチュパちゅちゅぱ連発するもんじゃねーんだって…。

 それが解っちまったら、なんか…今までの自分が、メチャメチャ恥ずかしく思えてきてよ…」


 ををっ、とりあえず日常生活で最も留意すべき点だけは、ちゃんと学習できたようですね♩

 これだけでも漫画学習の成果は充分なんじゃないでしょうか?


「だから…ポチ子の顔も、当分マトモに見れねーと思うけど…悪く思うなよ?」

「ラリスくん…♩」


 彼が自分を嫌っていた訳じゃないと知って…

 むしろ、やっと女の子として意識し始めてくれたんだと解って、ミユちゃんにもようやく笑顔がこぼれます。泣き笑いケモ耳ラブリー♩


「じゃあ…許してあげる。

 それから、キスはね…誰も見てないトコですればいいんだよっ♩」


 いつもの調子でラリスくんの膝の上に飛び乗ったミユちゃん、いつものように熱烈キス☆

 でもあの…私達がガッツリ見ちゃってるんですけど?


「ん…えへへ、こっちのほうが、みんなにナイショみたいでドキドキするネ?」


 いやだから私達が以下略。

 そしてますます調子こいたミユちゃん、突然の口づけにいまだドギマギしてるラリスくんの右手を取って…それを自分の断崖絶壁バストへ。


「…ね? ドキドキって…判るでしょ?」


 あーこれだからパカッポーはー…。

 でもお子様体型の彼女がやると、いやらしさは微塵も感じられなくて微笑ましいですね♩

 確かに余計な脂肪分が一切ない分、胸の鼓動がダイレクトに伝わるでしょうし。


「って、だからそーゆーのをやめろってんだよ!?」

「ひゃふんっ☆」


 などと口では言いつつも、イケナイお手々はしっかりちゃっかりミユちゃんのかすかな丘陵を揉みしだくラリスくん。

 習慣とは恐ろしいものよのぉ…眼福眼福♩


「フゥ…いつまでもしょーもないコトやってないで、一件落着したなら学校に行くのよ?

 私は先に行ってるからね。

 結局、今日も大遅刻だけど…」


 長々と茶番に付き合わされたマコさんは、やってられっかバーローとばかりに玄関へと向かい、


「あ、マコちゃん待ってぇ!

 …ラリスくんも、また学校でね♩」


 すっかり元の調子に戻ったミユちゃんが、ラリスくんを誘いながら、マコさんの後を追いかけて行きました。


「ハハッ、これは行ってあげるしかないようだねぇ、モテモテくん?

 さて、僕も今日は朝から講義だからね」


 ラリスくんをからかいつつ、シドさんも出勤準備のため部屋を出て行って…

 ダイニングには、私と彼の二人っきり。


「いつまでもボーッとしてないで、はやく着替えてきたら?」

「わーってるって…ったくメンドっちぃ…」


 渋々席を立ったラリスくんは、ブツクサ言いながら自室へと向かいます。

 ミユちゃんとの仲は修復されたけど、ラリスくんに今まで集積された羞恥心はそのまんまなので、足取りが重いのは仕方ありませんね。

 その途中でふと立ち止まった彼は…


「…これは…ポチ子には聞かせらんねーけどよ…」


 なにやら思い詰めた様子で、私の顔を見て、


「アイツが、俺にしょっちゅう好き好き言ってるヤツ…。

 アレ、たぶん…俺には無ぇわ、やっぱ」


 …え…?





「漫画にもよく出てくんだろ、アレ?

 アレってやっぱ、感謝とか、信頼とか…それ以上のもんなんだろうなって、なんとなーく掴めてはきたんだけどよ…」


 そこまで理解できたのなら、もう一押しだとは思いますけど…。

 たしかに愛とか恋とかって感情は、いざ説明するとなると…なかなか難しいものですよね。

 でも、私は…シドさんへの今の想いが、ソレだって信じてますけど。

 たぶんラリスくんも…自分の中にそんな感情があるのかどうか、振り返ってみたんだと思います。

 そして、その結果…


「アイツはたしかに可愛いし、さんざん世話になっちまってるから、なるべくなら答えてやりてーんだけどな…。

 コレだけは無理っぽい。」


 ちょ…っ!?


「これで、良かったんだろ?

 お前、俺とポチ子がベタベタしてたら、いつも不機嫌そうな顔してたじゃん?」


 ゔ…それはそうかも、ですけど…。

 確かに、私にとっては願ったり叶ったりな展開なのかもしれませんけど…

 まさか、こんなにも早く終わりがやって来るなんて!?

 でも、そしたら…


「ミユちゃんのことは…どうするつもりなんですか?」

「どうもしねぇ。いつもと変わんねーよ。

 今までみたいに人前でベタベタすることはなくなるだろうけど…アイツが望むところでなら、応じてやるつもりだし…それでいいだろ?」


 そんな突き放したみたいな言い方…っ。

 ラリスくんって…こんなに冷たい子でしたっけ?

 それに、それはつまり…ラリスくんは、自分の気持ちにずっと嘘をつき続ける…ってコトなんでしょうか?

 そんな…そんなのって…


「…それで大丈夫なんですか…ラリスくんは?」

「まぁ…な。別にポチ子が嫌いって訳じゃねーし…アイツが喜ぶなら、それでいいと思ってる」


 ミユちゃんが恋愛対象じゃないと悟ったところで、ハイそーですかと手のひらを返すようなことはできない…。

 それこそが、彼の優しさなんでしょうけど。

 どこまでも底抜けな…救いようのない、優しさ。


「そうじゃなくて、私が言ってるのは…!」

「わーってるよ。だから、どうにもならなくなる前に…また、アンタに愚痴りに来るからな」


 あ…それで、今も…?


「なんでか知んねーけど、アンタにだったら何でも話せる気がするんだよな」


 たしかに…いつも陽気な彼が、他人に弱みを見せるのは…あの、お風呂のときみたいに…

 私の前でだけ、なんです。

 あ…だから、私とまた一緒にお風呂に入ることに、あんなにこだわってたんですね。


 ホラやっぱり…辛かったんじゃないですか。

 マコさんと皇帝サマの関係を見ているうちに、自分とミユちゃんとの関係との、埋められないギャップを…拭ようのない違和感を覚えてしまって。

 恋愛なんて人それぞれですけど…自分達のは、そもそも恋愛ですらないんじゃないか?ってことに、本能的に気づいてしまって…。


「そーゆー意味じゃ、アンタは確かにエイラスがいう通り…俺にとっても『女神さま』なのかもな」


 そう言ってやっと笑った彼に、私もホッと胸を撫で下ろします。

 やっぱりこの子は、いつもみたいに無邪気に笑っていたほうが可愛くてステキですね♩


「もちろん、タダでとは言わねーぜ。神様にお祈りするときにも投げ銭が必要だろ?

 やっぱチューがいいか? それとも、おぱーいモミモミか?」


 んがっ!?…台・無・し・ですっ!!

 てか投げ銭ゆーなバチ当たりが、御賽銭と言えっ!


「だってお前…アレ、案外気に入ってただろ? イヒヒ♩」


 そしてバレてーらっ!?

 こんな男子中学生はイヤだァーーッ!!

 

「そ、そーゆー御賽銭は…いまは間に合ってますからっ!

 身の上相談は正しい用法用量を守ってお願いしますっ!!」

「ちぇっ、ケチくせーな減るもんじゃなし…」

「減らないけどタレるわっ、伸び切って!

 今度からはもう少し加減してっ…」


 …って「今度から」とか言ってしまったァ〜〜〜〜ッ!?


「…ま、今日はこれでスッキリしたぜ。

 んじゃ、また今度な♩」


 戸惑いまくりな私の唇を軽く奪って、ラリスくんは颯爽と自分の部屋へと引き上げていきました。

 そんな彼と引き換えに、今度は私が悶々とする番ですよ。

 今度って…いつ? ドキドキ…ッ☆





 そして珍しく各々がお出かけして、珍しく勉学に励んだ充実感を胸に帰宅したところで、


「シャムスさんからメッセが届いてました。皆さんにお見せしたいモノがあるそうですよ♩」


 天下無敵の銀河皇帝を名前呼びできる数少ない現役JCのマコさんが、眼鏡レンズをワクテカさせて誇らしげに皆を誘いました。

 ごく近い将来の皇后さまのお誘いは無碍にはできないので、お隣のミユちゃんも誘ってリビングのテレビの前に陣取ります。

 我が家のテレビは、いつの間にかシドさんが宇宙ネットに繋がるよう設定していて、宇宙中の主要放送局の番組が受信できるのです。


「で、皇帝サマが見せたい番組って?」

「あちらの国営放送制作の大人気バラエティー番組…みたいですね。

 こちらの放送局でも放映できないか交渉したけど、国連審議で却下されたとか…」


 世界レベルで没にされる国営放送の番組て…逆に興味が湧いてきましたよ♩

 そんなこんなで、満を持して始まった、件の番組タイトルは…


《エル・ランニング・プレーーソッ!!》


 はいダメなやつケテーイッ!!

 モーントの母星語は、地球のスペイン語に酷似してますね。

 ちなみに「プレーソ」はスペイン語で『囚人』って意味ですよ。また一つお利口さんになりまちたネ♩

 なので直訳すると『ランニングマン』。

 てかコレ、モロに某有名B級映画のパクリでしょ!?

 あんなのを国営放送でやってるなんて、イギリスBBCで『モンティ・パイソン』やってたのと同じくらいの衝撃ですよ!


《皆さんお待ちかね、今宵も始まりました『エル・ランニング・プレーソ』!

 司会はお馴染み、アナタの隣の皇帝お兄さん・シャムス陛下だヨン♩》

「シャムスさん…♩」


 頬を赤らめたマコさんが、小さく拍手してますけど…

 皇帝サマ自ら司会やってんのかい、しかもノリノリで。そりゃ人気番組にもなるわな。

 だって、北の某独裁国家の将軍様マンセー番組並みに「観ないヤツ、死刑☆」ですし…。


《この番組のルールは単純明快!

 宇宙中から参加した凶悪犯が、制限時間内に無事、逃げ切れれば無罪放免!

 失敗したら即刻処刑なのダ☆》


 「なのダ☆」じゃないですよ。カワイく言っても殺伐ぶりは微塵も変わりませんし!


《そして、本日の主役はぁ〜この人♩

 遥か彼方の地球から参戦、宇宙的テロリストのホープ、井谷奈いやなァ〜ア貴志弥きしやァーッ!!

 テロテロテロテロテロリズム返り討ちっ♩》


 大仰なドラムロールとともにスポットライトがステージを照らし、椅子にふん縛られた井谷奈記者のご登場!

 よもや、こんなところでお見かけするとは…。

 皇帝サマの旗艦『ソル・ラディアンテ』にアブダクションされて以来ですけど、『宇宙的テロリスト』とはまた出世したもんですねぇ?


此奴コヤツには我が弟にして第三王子シドゥスの殺害未遂容疑がかけられております。

 悪い奴ですねぇ〜コイツめコイツめっ!》


 ニヤニヤ笑いかけつつ、記者の頬ヅラをペチペチ平手打ちする、私怨全開の皇帝サマ。さながらウィークエ◯ダーに出演していた当時の泉ピ◯子のよーに。

 あぁ、それで「国際的」から「宇宙的」に格上げされちゃったんですね、テロリストの肩書きが。

 その井谷奈記者には猿ぐつわが噛まされているため、ろくに喋れずンゴモゴ悲鳴を上げるたけ。せっかくのホープが、はやくも期待はずれ染みちゃってますねぇ。

 宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない…。


《ではそろそろ、本日の『鬼』のご紹介〜♩

 同じく地球にて、派遣保安官としてお忙しい日々を過ごされておりますぅ〜閻魔大造えんまだいぞう氏ィーッ!》


 またもやドラムロールとスポットライトに彩られて、ステージ下から迫り上がってきたのは…


「学長さん!?」

「へぇ、彼も招待されてたのか…」

「こいつは面白くなりそうだぜ!?」


 この人、いつも紳士的でにこやかなのに、そんな厳つい名前だったんですね…。

 彼と面識がある私やシドさんやラリスくんは興味津々ですけど…

 いまだ見知らぬマコさんとミユちゃんは、


「なんだか人がよさそうな紳士ですね…」

「こんなおぢさんに鬼なんて務まるのぉ?」


 そんな彼女達の素朴な疑問は、すぐに解消されることになります。


《彼は、自分の管轄内で第三王子殺人未遂事件が発生したことを重く受け止め、このケリは自分でつけると、この番組への出演を快諾してくれましたぁ〜!

 それでは…おいでませ、本当のキミッ!》


 皇帝サマの司会に合わせて、閻魔学長が擬態を解くと…


『…ヒィッ!?』


 予想外の正体に、マコさんとミユちゃんは抱き合って震え上がりました。

 無理もないでしょう。学長の本来の姿は、閻魔とは名ばかりの…

 筋骨隆々な漆黒の肌、コウモリのような羽根、逆関節の脚に獣のひづめ、大きく捻じ曲がった頭上の鋭い角に、いまいち焦点が定まらない瞳孔が不気味な羊の顔…

 …そう、どこから見てもカンペキに、西洋の宗教画によく出てくる『悪魔王サタン』そのものでした!


「が、学長さんの種族名って…?」

「まんま『デーモン人』だよ。地球人も彼らには、古くから馴染んでるんじゃない?」


 おっかなびっくり尋ねる私に、シドさんはある意味、予想通りのお答え。それ以外のナニモノでもありませんものねぇ…。


《ンモゴォ〜〜〜〜ッ!?》


 椅子に縛られたまま、未曾有の恐怖にジタバタ暴れる井谷奈記者の眼前で、悪魔と化した学長は、画面越しでも鼻を摘みたくなるほどの獣臭い吐息をフゴフゴ撒き散らしています。

 そこでステージ外から現れた係員が、記者の猿ぐつわを外し、椅子に縛りつけていたロープをほどきます。

 せっかく自由になったというのに、井谷奈記者はすっかり腰が抜けてしまって、ろくに立ち上がれません。


《なっ、なんで…俺が、こんな目に…?

 殺人ショーだと?…フザケるなっ!!

 非常識にも程があるだろっ!?

 お前らに何の権限があって》


 ドガコンッ!!

 この期に及んでまだトンチンカンな文句を吐き続けるウジ虫を、気が短い皇帝サマは椅子ごと蹴り飛ばしました。

 地べたに這いつくばる虫ケラの頭髪をグワシッと鷲掴んで引きずり起こした支配者サマは、いまにも齧り付かんばかりに顔を寄せて…


《虫ケラの分際で常識を語るな、クズが。

 すべてはキサマが招いた結果だろうが?

 …まぁ確かに、ここではキサマら未開人の常識など、糞の役にも立たんがな…クククッ》


 あー、やっぱりこの人には正義の味方ヅラよりも、ゲスい小悪党ヅラのほうがしっくりきますねー♩


《だが、情報提供如何によっては手心を加えてやらんでもないぞ?

 答えろ…キサマらチンケなエセ宗教家の背後にいるのは、誰だ?》

《ぐっ…もう散々答えただろう? 俺たち幹部ですら、何も知らされてなかったんだ…!

 教祖様のもとには定期的に客人が面会に来ていたらしいが、必ず人払いをされていたし…

 あれだけの資金がどこに流れているのかも、誰も知らないんだ…っ!》


 果たして、どこまで本当なのか…?

 彼自身はいっぱしの幹部のつもりだったようですけど、こんなにあっさり切り捨てられるくらいなら、もともと大した役割ではなかったのかもしれませんし…。


《フム…これくらいが限界かのぉ》


 もう彼からは何の情報も引き出せないと悟った皇帝サマは、井谷奈記者をあっさり放っぽり出して、


《つまり、キサマらの組織は教祖独りで回せるワンマン集金企業に過ぎず、キサマらはただの頭数合わせだった…という訳か?》


 溜息混じりな皇帝サマの見解が正解だったのか、井谷奈記者は悔しげに唇をかむしかありません。


《ならば、もう用はない。食ってよいぞ♩》

《グルるっふっふっゲハァ♩》


 皇帝サマに促された閻魔学長…だった羊頭の怪物が、嬉しそうにヨダレを滴らせます。


《んなっ…ちゃんと答えただろう!?》

《ああ、何の参考にもならんカス回答をな。

 それに、手心を加えるとは言ったが…許してやるとは一言も言った覚えがないしのぉ♩》


 もとから許す気なんて毛頭ないクセに…皇帝サマのいけず♩


《そもそも、キサマら未開人は、宇宙連盟法では人権適用の範囲外なのだぞ?

 そんな取るに足らない害虫ごときが、皇帝の私に銃を向けて…無事で済むと思うたのか?》

《ヒッヒィッ…ヒアァア〜〜〜〜ッ!?》


 まさに悪魔の嘲笑を浮かべた皇帝サマに、恐怖のあまり裏声になった悲鳴をたなびいて逃げ惑う井谷奈記者を、悪魔王は鬼ごっこを楽しむようにジワジワ追い詰めていきます。

 それでも、もともとかなりの体格差があるため、記者が三歩進む距離を一足跳びで近づいてきます。これは地味に怖い!


《ヒィ〜ッ嫌だぁ…助けて…っ!?》


 今まで彼は、そう泣き叫ぶ何人の犠牲者を、羽虫を叩き潰すように血祭りにあげてきたのでしょうか?

 その報いを、彼自身が受ける日が…ついに訪れたのです。


《ギャアァアァア〜〜〜〜〜〜ッッ!!》


 ついに悪魔王に掴み取られた井谷奈記者は、手足を引きちぎられ、あるいは大きく裂けた悪魔の口に呑み込まれ、刃物のように鋭い牙に引き裂かれて…

 西洋の地獄絵図や、東洋の曼陀羅画そのままな、おぞましい光景のなか…

 耳障りな断末魔だけを残して、この世から永遠に消え失せました。


 大昔から世界中で語り伝えられる地獄の様子が、多かれ少なかれ、ほとんど似通っているのは…もしかしたら、コレがルーツなのかも?

 ホラ、宇宙人ってもう何千年も前から地球を訪れてますし、そんな彼らの秘密基地ってたいてい地下にありますし…

 自分達に反抗的な土着の未開人を、こうして見せしめにしてたって線も…?


 ある意味、この世で最も無意味で悲惨な死に様を公衆に晒して…。

 あるいは、宇宙中の無数の視聴者を大興奮させる、エンターテイメントの犠牲者と成り果てて…。

 それが、最低最悪のテロリストの憐れな末路でした。


『…………。』


 予想以上に凄惨な番組内容を、視聴者の私達はもはや唖然とした顔のまま、呆然と見届けるしかありませんでした。

 いやはや…こんなテレビ番組が許容されるだなんて…宇宙って本当に広いですねっ♩





 番組終了からほどなくして、マコさんの携帯宛てに電話の着信が。


《フハハハどーだ、余の艶姿に見惚れたかね? 我が愛しの麻胡よ♩》


 どうやら今の番組は生放送だったらしく、電話の向こうの皇帝サマの声には、若干荒い息遣いが混ざっています。

 対するマコさんは、満面の笑顔でひと言。


「…ドン引きです。」


 皇帝ちゃまガーーーーソッ!?


「井谷奈記者についてはよくやってくれましたけど…ダメでしょお茶の間にこんなの流しちゃ?」


 記者についてはいいんだ?

 そして何気に、はやくも皇帝サマを尻に敷き始めてますね。

 マコさん…恐ろしい子!


「小さなお子様だって見てるのに。

 うちのお子様も、すっかり怯えて泣き出しちゃってますよ? どーしてくれるんですか?」


 クレーマーのように問い詰めるマコさんの背中には、すっかり怯えて泣き出した小さなお子様…ミユちゃんがへばりついてます。


「ふえぇえぇ…もぉおトイレに行けない…」


 さっきまで彼女がへたり込んでいた場所には…たしかに手遅れだったらしく、何やら怪しい水溜りができちゃってますし。

 これはおしおき必須ですねウフフ♩


「まさか…私の両親も、同じ目に遭わせたりは…?」

《否、断じて否! 天地神明に誓って、お前の親は責任持って完治させると誓ったではないか?》


 電話口から洩れ聞こえる皇帝サマの力強い言葉に、マコさんもホッと胸を撫で下ろします。


《二人とも、突然まるで見知らぬ場所へ連れてこられたショックから、最初はパニックを起こしていたそうだが…

 それも直に治まり、現在は割り合い素直に治療に応じているそうだ。

 このぶんなら、そう遠くないうちにお前のもとに帰せるかもしれんな》

「…そうですか…」


 半分安心、半分不安な面持ちで相槌を打つマコさんを察してか、皇帝サマはカラ元気で、


《ま、余にこなせぬコトなど、この世には何一つないからな! 泥舟に乗ったつもりで任せるが良い! ハッハー♩》


 宇宙にも泥舟ってあるんですね…。

 地球製のモノよりは頑丈そうな気もするし、安心しても良さそう…でしょうか?


「まったく、これだからアナタは…」


 常に調子のいい彼に愚痴りつつも、けっこー楽しそうに皇帝サマとの電話に興じるマコさんに、


「マコちゃんマコちゃん、今日一緒に寝てーっ!?」


 とミユちゃんが泣きつきますが、


「…今夜はダメ。ラリスくんと寝て。アナタ達、そーゆー仲なんでしょ?」


 マコさんはそっけなく塩対応。

 久々に皇帝サマのナマ声が聞けた今夜は、なにかとお忙しいでしょうしね〜解ります♩

 そしてJCだてらに、親友たちの肉体関係を容認できるだけの度量も末恐ろしいですね…。


「ぅぅ〜マコちん冷たい…ラリスくぅ〜ん?」

「わーったわーった、一緒に寝てやるよ」

「ぅわーい☆」


 立ち直り早っ。

 なんだかんだでミユちゃんのお泊まりが決定しました。

 ラリスくんも宣言通り、ミユちゃんのお世話をちゃんとしてくれてて一安心です。

 ところで、今はまだお夕飯前なんですけど…どーしましょーかね?

 リアルデビルマンの捕食シーンを目の当たりにしたばかりで、お腹いっぱいなんですケド?





 その夜。

 おトイレに行ったら、リビングに明かりが点いているのに気づいて…

 消し忘れかと思ったら、ラリスくんがソファに横たわって、ぼんやりテレビの深夜放送を観ていました。


「…ミユちゃんは?」

「とっくにグースカ寝てるぜ。

 メガネがあんなもん見せるから、アイツすっかりブルっちまって、なだめすかすのが大変だったけどな」


 溜息をつくラリスくんが、まだ若いのに、気苦労が絶えないお父さんみたいに見えて、なんだかおかしくて…。

 つい、もう少しお話してみたくなったわたしは、彼の隣に腰掛けました。


「…宇宙って、あんな過激なテレビ番組を普通に放送してるものなんですか?」


 あんなのを観てしまったせいで、寝覚めが悪くて困ってたのもありますけど。

 あの手のモノって、視聴直後は割と平気なのに、寝る段階になって急に気になるコトってありますよね。


「まず、テレビ的なもん自体がない星も結構あるな。今じゃ宇宙ネットがあるから、それでじゅーぶん替えがきくらしいぜ」


 やっぱりテレビメディアは何処でもオワコン化の時代なんでしょうかね…。


「番組内容は、まぁ…その星の民度レベルによって、それこそ千差万別だな。

 もっと過激なのばっかやってるトコもあれば、一日中ニュースや天気予報しかやってない、クッソつまんねートコとかな」


 メディア競争が盛んな地域では、視聴者獲得のためにどんどん過激化する一方で、いわゆる情報過疎地域では、単なる情報メディアとしてしか機能していない場合もあるようですね。

 日本の放送局だって、都心部では地上波だのケーブルだのと何十チャンネルもある一方で、いまだにN◯Kと民放合わせても、片手の指で数えられるだけの局数しかない田舎もざらにありますし。


 それはともかく…いままで様々な星々を渡り歩いてきたラリスくんのお話は、いまだに徒歩圏内のことしか知らない私には、とっても面白くて…。

 見た目は私より歳下な彼だけど、実年齢では遥かに歳上の大ベテランですものね。

 もしかしたら、途中まで王子様やってたシドさんより経験豊富かもしれないし…

 正直、すぐに希少種族や絶滅危惧種のお話になっちゃう、学者バカなシドさんよりも、話題もバラエティーに富んでますし♩

 要は、旅行先でショッピングモールと博物館のどちらに行くか問題ですね。あなたはどっちがお好みでしょうか?

 私はもちろん両方好きですよ、ぇぇ♩


「ふあぁ…あ、ごめんなさい」


 すっかり話し込んでるうちに、夕方の番組ショックも和らいでリラックスできたからか、思わず生アクビが出てしまいました。


「今、いったい何時…えっ、もうこんな時間!?」


 いつしか点けっぱなしのテレビも本放送が終了して、通販業者のテレビショッピングばかりになっていました。

 こーゆーのって、こんな深夜にいったい誰が利用するのか、いまだに謎ですね…?


「もうすぐ夜明けか…こりゃ睡眠不足確定だな。

 しゃーねぇ、今日は学校休んで…」

「ダメですよ、ちゃんと行きなさいっ!

 ミユちゃんもお泊まりしてるから、どうせ引きずってでも連れて行かれちゃいますよ?」


 母親としての威厳?を忘れない私の注意に、ラリスくんはニヤリと笑って、


「じゃあ、アンタは朝までこの俺が独り占めだな?」


 そして私の反論を待たずに、不意打ちのキス。


「んむっ…き、気安く母親の唇を奪うんじゃありませんっ!」

「いいじゃん、海外ドラマとかでよくやってんだろ?」


 いくら海外でも家族間で唇同士はあまり見かけませんよ!


「それに、母親とか家族とか抜きにして…アンタが気に入ってんのは本当だしな。

 いつまでもお子様なポチ子よか、よっぽどドキドキするぜ…♩」


 え…ドキドキって…?

 けれども、私がそれを問い詰めるよりも早く、


「ホレホレ、あんたも素直になれよ…ウリウリ♩」

「あっそれダメ…ソコは弱いのぉ…ガクッ。」


 彼お得意の喉元ゴロゴロ攻撃に見事に撃沈されてしまった私は、秒で深い眠りに堕ちてしまったのでした。

 嗚呼、ラリスくん…テクニッシャン♩





 窓辺の小鳥たちの囀りで目覚める、爽やかな朝…。

 どうやら私はリビングのソファで、そのまま眠っていたようです。

 ラリスくんは、いつの間にか自室に戻ったらしく、姿がありませんでしたが…

 代わりに彼が掛けてくれたらしいブランケットが、私の身体をスッポリ覆っていました。

 あれで意外と気配りできる子なんですよね♩


 それはそうと、みんなが起き出してくる前に、顔ぐらいは洗っておきましょう。

 脱衣場の洗面台へと移動して、寝ぼけ眼を冷水でゴシゴシ…


「…ん?」


 視界がクリアになるとともに、首筋に何か違和感が…?

 よくよく見れば…えっコレ…キスマーク!?

 な、なななんで!? 昨夜はミユちゃんもいるからって、シドさんとは…そゆことしてなかったはずなのに!

 それに…よくよく見れば、パジャマにも若干の乱れが…。


「ま、まさか…!?」


 大慌てでお風呂場に飛び込んだ私は、おっかなびっくり、大鏡の前でパジャマのボタンをはだけてみました。

 …片っぽのおっぱいの山頂付近にも、やっぱり同様の吸い取り跡と、かすかな歯形が…!

 シドさんは、私のカラダを傷つけるようなことは一切しないから…もう、この時点で犯人確定です!


 さらにさらに…太ももの付け根辺り、ちょっと下着をズラせばモザイク必須なキワドイ箇所にも…でっかい虫刺され跡がァーッ!?

 えっ、ちょっ、あの子…いったいどこまで"ほじくった"の!?

 いつぞや地下室にミユちゃんを閉じ込める発端となった、あのおぞましき「常識という眼鏡で計れやしない子供達の世界」が、脳裏にまざまざと甦って…!


「…コロス…余計なコトくっちゃべられる前に、あのミドリ目野郎を…っ!」


 前置法で処刑執行を決意しつつ、下着とパジャマの乱れを直した私は、お風呂場から飛び出して…


「おう、よく眠れたか?」


 丁度タイミングよく、リビングのソファにふんぞり返っていたラリスくんとエンカウントしました!


「ど、どこまで見たのっ!?」


 彼奴きゃつの胸ぐらを掴んで凄む私に、ラリスくんは飄々と、


「前に風呂場でチラッと見た時よりも、ずいぶん形が変わってたなぁ。ポチ子のよりも興奮したぜ♩」


 キッキッキサマぁ…男子中学生がそげんコツ口にしてええと思っとるんかワレぇ〜ッ!?

 てか比較にもならんわ、お子様とじゃ!


「んなコトよか、コレ観てみ? 大変なコトになってるみてーだぜ?」


 淑女の身体変化を息子に直視される以上の問題など、あり得るはずもない気がしなくもないですが…

 言われるままに、リビングのテレビへと振り向けば、


《『真世界統合協会』教祖死亡》

《殺人事件の可能性は?》


 早朝のニュース番組にデカデカと表示された、センセーショナルな見出しとともに、海外にある彼女の大豪邸と、それを取り巻く多数のマスコミの様子が映し出されていました。

 宇宙テレビで井谷奈記者が公開処刑された翌日に…どう考えても図ったようなタイミングではあります…んが、


「んなコトでごまかされるかァーいッ!?」

「だよなー。ならお詫びに今度、デートってヤツをご馳走してやんよ♩」

「なんで上から目線…って、え…っ!?」


 な…何なんですか、イキナリ何の脈絡もないこのお誘いは!?

 ご馳走て…デートって、食べ物じゃないんですよ? そこんトコわかってます?

 しかも何故、朝イチのこのタイミングで…ミユちゃんでもマコさんでもなく、母親のこの私に…♩


 …あ、語尾に『♩』付けちった。




《第九話END》

 いよいよ朴念仁不沈艦、ポラリス攻略編へと突入しました。

 前回が派手ハデだったぶん、今回は割と控えめなお話かもしれませんが、内容的な濃ゆさはむしろ増し増しかと。

 そしてラリスくん、のっけから攻め攻めです!

 ポラリス攻略ってゆーより、逆に彼による美沙兎みさと攻略編になっちゃってますけど

(笑)。

 彼には恋愛感情が無いわけではなく、理解できていないだけ…とゆー罪深い設定になっとりますし、加えて倫理観も希薄ですから〜!

 あとは…麻胡がどうしてあんなに耳年増なのか、その理由も解明されまして。

 そんなこんなで急接近中の主人公・美沙兎みさととポラリスの行く末やいかに?


 あと、宿敵の井谷奈いやな記者や教祖にも、これ以上ないほど無慈悲で凄惨な鉄槌(北の某国家調に)を下して差し上げまして。

 ちなみに作者は死刑制度賛成派でして、ああいった人間としての限度を超えた連中には、やはりそれなりの刑罰が必要だと思います。

 人や法が人を捌いていいのか?などと反対派はすぐ口にしますけど、そもそもそれらをことごとく無視して、人命を蹂躙した連中ですし、自業自得でしょ?と。

 冤罪判決たけなわな昨今ですけど、これだけは譲れませんね。

 …などと、作者の暗黒面が垣間見えたところで(笑)。


 ありがたいことに、本作品で初めて「小説家になろう!」の人気ランキングにノミネートされました。ほとんど尻っぺですけど、それでも嬉しかったですね。

 とはいえ個人的には、今まで発表してきた作品と、それほど差があるようには思えませんけど…なんで?(笑)

 作者はビビリなもんで、エゴサとかアクセス解析とか一切しませんし…何がそんなにウケたんでしょうかね?

 この御恩は余すことなく作品に転化しまして、今後とも精進し続ける所存ですので…見捨てないでネ♩(笑)

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