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眼鏡と太陽光で目玉焼きは作れるか

【前回のあらすじ】

 結局、我が家でお預かりすることになった石上麻胡いしがみまこことマコさん。

 駅前で宇宙人反対ビラを撒いたご両親の現行犯逮捕という絶望的なアクシデントを乗り越え、私達の協力もあって、意外にはやく落ち着きを取り戻しつつあります。

 その原動力となっているのが「シドさんへの憧れ」だというのが、妻の私としては素直に喜べないところですけど…。

 当のシドさんも、まんざらでもないご様子だし…解ってらっしゃるでしょうけど、彼女はまだ未成年の現役JCなんですからね?

 マジに手ぇ出しちゃったら、今度こそ◯リコン呼ばわり確定ですからネッ!


 これにて一件落着…かと思いきや、またも宇宙からの来訪者が!?

 街の上空に忽然と現れた超巨大UFO『ソル・ラディアンテ』。

 白亜の城塞を思わせる壮麗な船から降り立ったのは、自称『銀河皇帝』ことシャムス・ド・アルフォンス・グレイシア陛下。

 …長っ。お偉いさんの名前って、どぼぢでこんなに長ったらしいんですかね?

 モーント人の母星を中心とした周辺星系を束ねる、星団国家の長…と聞いて、ピンと来た方はご明察。

 そう…彼はシドさんのお兄さんでした。

 と、ゆーことは…ハイ。

 実はシドさんは、モーントの『王子様』だったのです!!


 そんなシドさんが捕獲に成功したという絶滅種属『ルナリアン』の末裔…すなわち私こそが、銀河皇帝自らはるばる地球まで出向いた理由でしたが…

 そんなモノそっちのけで彼がいたくお気に召されてしまったのが、件のマコさんでした。

 独善的なお偉いさんにありがちなジャ◯アニズムを遺憾なく発揮した彼は、白昼堂々、一方的に、彼女を妻にめとっちゃうゾ宣言をブチかましてくれちゃったのでした…!?





「い…いやいやお待ちください兄上!? 彼女はまだ未成年で、この国での婚姻適齢期には達していません!」


 一方的に婚姻宣言したシャムス陛下と、完全に置いてきぼりにされて呆然自失なマコさんの間に割って入ったシドさんは、大慌てで思いとどまるよう促しますが、


「フンッ、未開人の決まり事など知ったことか! 余はこの娘が気に入ったと言っておるのだっ!!」


 当然そう来ますよね〜ジャ◯アンですから。


「で、ですが、その子は『ルナリアン』に限りなく近いというだけの『地球人』です。

 恐れながら、兄上…皇帝陛下の御身分とは、天と地ほどの格差が…」


 必死に兄上を説得しつつ、マコさんには、


"こうでも言わないと…ゴメン!"


 と目で訴えかけるシドさん。

 対するマコさんの目は、


"私のために、こんなに真剣に…ステキ☆"


 全ッ然通じてませんでしたァーッ!?


「フンッ、今さらルナリアンとかどーでも良いわっ!」


 ええーー? ソレ見にわざわざここまで来たんじゃないのぉ?


「そんなお前の手垢だらけの珍獣、いくらでもくれてやるわいっ! 余はピッカピカの新品にしか用はないのだっ!!」


 しかも処◯厨かよッ!?

 何なんですかこのおやぢ、さっきから失言まみれの元首相ばりにメチャメチャ女性蔑視して…っ!

 いくら見た目だけハンサムでも、女性には絶対ウケないでしょ、コレ!?

 悔しかったら、アナタも手垢だらけにできるほどのお相手に恵まれてみなさいな♩

 

「えぇーいっ、ごちゃらごちゃらやかましーわっ!

 余はこの娘がイイったらイイったらイイのだァ〜〜〜〜ッ!!」


 うだうだ反論され続けた皇帝サン、ついには昭和の漫画みたいに残像付きで地団駄踏んで、駄々っ子モードに。さっきまでの威厳はどこ行った?


「…あの…そんなに…私がイイんですか…?」


 おんやぁ!? マコさん、意外にもこんなお子様皇帝にときめいちゃってますケド?

 ご両親にさげずまれ続けたせいで自己評価が低すぎる彼女は、初めて自分を必要としてくれたお相手にクラッと来ちゃったご様子。

 でもでも本当にこんなんでイイの? 正真正銘のクズだわよ、間違いなく。

 というよりアータ、その歳で早くもおぢさんキャラにばっかり惑わされて…ハッキリ言って、趣味悪っ!?

 それに…シドさんのことはどうするの?


「うむっ、イイッ! あぁ〜イイッ!!

 お前のためならば、余に与えられるものなら何でもくれてしやろうぞ!

 もっとも…余に不可能など何一つ無いがな! ヌワッハッハーッ!!」

「…………。

 それなら…一つだけ、お願いを聞いてもらっても…いいですか?」


 ???…なんでしょうか、急にマコさんの雰囲気が変わりましたよ?

 しかも、恐れ多くも皇帝陛下に注文をつけるだなんて…よほどの覚悟を決めたようですね。


「おお、何だろうと申してみよ! 余に叶えられぬ希望など、何一つありはしないのだからな!」


 しめた!と思った皇帝サマ、いいトコ見せようと張り切って安請け合いをブチ上げます。

 どーせ、実際にこき使われるのは下々の者なんでしょうけど…いいんですかねぇ?

 こーゆーときって大概、トンデモナイ依頼が舞い込むって、相場が決まってるんですけど?


「じゃあ…」


 マコさんはスゥ…ッと深呼吸してから、思い詰めたように答えます。


「私のお父さんとお母さんを…自由にしてあげてください。」


 …ああ、やっぱり。なんとなく、そう言い出すような気はしてましたけど。


「…なんだ、そんなことで良いのか?

 ならばすぐに取り掛からせよう」


 もっと困難な依頼が来ると思っていたのか、ホッとした様子の皇帝サマは背後を振り向き、


「近衛師団長、任せたぞ」


 さっそく部下に丸投げかい。


「ハッ、仰せのままに」


 皇帝サマを取り囲むように立っていた、いかにも屈強な数名の兵士たちの内、最もそばに付き添っていた男性がうやうやしく頭を下げます。

 地球人ならそろそろ還暦というお年頃の、ベテランを絵に描いたような素敵な叔父様ですが、モーント人の例に倣ってハンサムなのは言うまでもありません。


「事が済んだら速やかに報告せよ。それまで余は市井しせいの様子でも見て巡ることにしよう。

 …お前も安心して待っておれ」


 余裕綽々に指示を与えた皇帝サマは、やっと手に入れた念願のマコさんをもその場に置き去りにして、他の近衛兵をゾロゾロ引き連れて何処かへ行ってしまいました。


「…なんてゆーか…フリーダムな人ですね」

「アレでもまだ昔よりは落ち着きが増したほうさ」


 あれで!?と呆れる私やマコさんを尻目に、シドさんは独り現場に残った師団長に話しかけます。


「さてと…どこから説明してもらいましょうかね、シリウス"兄さん"?」


 え゛…『兄さん』?


「その前に、まずは俺の用事を済ませてもらっていいか?」

「解った。詳しくは僕らの家で話そう。

 マコさん達も一緒に。

 …どうせこのぶんじゃ、ろくに授業にもならないだろうしね」


 シドさんがそう言った直後、私たち生徒父兄のスマホ宛に、中学校から「本日臨時休校」の通告が入りました。

 なので私達は再び車に箱乗りして、自宅までトンボ返り。

 大柄な乗員が一人増えたので、車内はまさにスシ詰めでした。





 程なくして我が家に到着した師団長は、リビングへ通されるなり、ご挨拶もそこそこに事務的に仕事を始めます。


「なるほど、キミのご両親は逮捕されたのか…。

 まぁ、それぐらいならどうにでもなる。罪状も大したことではないようだしな」

「…お願いします」


 マコさんの会釈を受けて、師団長…シリウス義兄さんはスマホみたいな通信機器から何処ぞへと指示を送っています。

 けど、いくらなんでも宇宙人からの依頼で、地球の犯罪者が釈放されるなんてことは…


「…保釈許可が出た。明日の昼頃には戻ってこられるだろう」


 …ありましたね。しかもめっちゃ仕事早っ!?

 いったいどんな手を使ったのかは…聞かないほうが賢明でしょう。

 でも考えてもみれば、ご両親の数々の容疑のうち、最も深刻なDVに関して被害を届け出たのが、他ならぬ娘のマコさんで…

 その被被害者本人が訴えを取り下げると言ってるんだから、警察も従わざるを得ないのでしょう。


「…ありがとうございます」


 マコさんはさぞや大喜び…することもなく、淡々と感謝を述べます。

 そりゃ、ご両親とはいえ犯罪者を世に解き放ってしまったことに加え、これで彼女と皇帝サマの結婚が決まってしまったんですからね…。


「あー、そのへんは心配することもないぞ。アレはただ単にキミを手元に置いておきたいだけで、女性としてどうこうできるだけの甲斐性もないヘタレだからな」


 ってちょっとちょっと団長さん!?

 皇帝サマがいなくなった途端に言いたい放題ですね。

 万一、当人に聞かれたら切腹モノなんじゃ…?


「ハハハ、アレにはそんな権限はないよ。

 いかに皇帝とはいえ、憲法や法律を度外視した行いはできんし…この俺はアレの兄弟で、王族だからな♩」


 カラカラ笑う師団長。どうやら今までは立場的におカタい態度を取ってみせていただけで、こっちの飾らない人柄のほうが本性らしいですね。

 そんなことよりも…その兄弟設定のほうが、さっきからずっと気になってたんですけど…?


「それについては、僕のほうから説明するよ」


 シドさんが待ってましたと口を挟みます。


「僕らは確かに兄弟ではあるけど…母親は全員違うんだ」


 ハイ出ました。王族名物、兄弟全員腹違い。

 それにしても…物凄い年齢差ですね?

 失礼ながら、師団長…シリウスさんについては兄弟というよりも、叔父さんかお爺さんって感じですけど…。


「それは俺が、前々王の第一夫人の息子だからだな」

「その彼女が亡くなったしばらく後で、前々王は周囲の勧めで第二夫人と再婚したんだ。

 その子供が兄上…シャムス"皇帝"さ」


 なるほど、それでこれだけの年齢差が生じた訳ですか。

 王様っていうと、何人もの夫人やお妾さんをはべらせてる印象ですけど…割りかし実直なお方だったんですね。


「いや、そーでもないよ。ウチの王族は一夫多妻制を採用してはいるけど、実際には自分以外の妻を嫌がる夫人が多いから、作るに作れないだけで」


 あー…そこはやっぱり人間ですしね。

 私だって、シドさんが私以外にもお嫁さんが欲しいなんて言い出したら、ブチキレる自信がありますから…ね〜え?


「ハ、ハハハ…。

 けど、それを言うなら王様だって人間だからね。たまにはハメを外して、民間人の女性についつい手を出してしまって…この僕が生まれたって次第さ」


 つまり、シドさんだけ民間出身って訳ですか。

 それでも紛うことなき直系の血筋ってことは、来る者は(女性に限り)拒まずな彼の言動からして、もう火を見るより明らかですけどね…!


「そしてシャムス兄上の母君は、公爵家の出身だからね。そりゃも〜僕らのことを親の仇のように嫌いまくって…それがああして兄上にも伝染したのさ。

 まぁ、寄ると触ると散々嫌味を言われ続けただけで、直に手や足が出ることは一切なかったのが不幸中の幸いだけどね」


 これまた王族あるあるってゆーか、大昔のドラマの主人公みたいな設定を地でいってるってゆーか…。

 歳の離れたシリウスさんを『兄さん』と慕う一方、年齢が近いシャムス皇帝には『兄上』もしくは『陛下』と他人行儀な態度で接するシドさんの様子からも、二人の確執ぶりが窺い知れます。

 でも、これがドラマだったら、主人公はあらゆる軋轢を耐えに耐え凌いで…最後には正々堂々、後継者権限を勝ち取る!ってゆーのがお決まりのパターンですけど?


「それは所詮フィクションだからね。

 僕の場合はもうほとほと疲れ果てて、成人すると同時に継承権を放棄して、今の仕事に着いたんだけどね」

「それであん時のセンセ、あんなに坊ちゃん坊ちゃんしてやがったんだな…」


 二人が出会った頃を思い出して苦笑するラリスくんに、シドさんも照れ笑います。

 …んが、


「何を言ってる、お前はまだ王子のままだぞ」


 シリウス兄貴の一言に、シドさんは「…へ?」と唖然としますが、


「お前一人だけの宣言で、そう簡単に放棄できるような制度にはなっとらんし…

 前々王は最後まで、お前の離脱を認めなかったからな」

「…父上…」


 民間出身だろうと何だろうと、父親にとっては可愛い子供に違いなかったのでしょう。





 で…今までの話で気になってるのが、そんな彼らの父親が『前々王』だということですね。


「失脚したのは『前王』でしたよね? じゃあ『前々王』はどうされたんですか?」


 という私の根本的な問いに、シリウスさんとシドさんは揃って沈黙。

 あ…これはマズいこと訊いちゃいましたね。


「まぁ…ね。僕らの父である前々王は、病死…ということに表向きはなっている」

「だが、実際は…ご想像通り『暗殺』の線が濃厚だった。犯人は言わずもがなだろう」


 やっぱり…。

 皇帝サマがクーデターについて触れたとき、シドさんはかなりショックを受けていたけど…父親を殺されて怒っている訳ではなさそうな様子だったから、ずっと気になっていたんですよね。

 仮にそうだったら、いくら温厚なシドさんでも、あの場で即座に皇帝サマに噛みついていたでしょうし。


「あぁ。前王は前々王の腹違いの弟で、僕らの叔父にあたるけど…

 これがまぁ、兄上に負けず劣らずのオレ様キャラでね。二人はずっと犬猿の仲だったんだ」


 同族嫌悪ってヤツですか?


「この土地にも『出来の悪い子ほど可愛い』って言葉があるだろう?

 我らの父もそれと同じでな。自分より一回り歳下の前王をたいそう可愛がっていたし…

 ヤンチャ坊主でいちばん手間が掛かったシャムスのことも、それはそれは…な」


 それだけ可愛がってた相手だからこそ、油断してしまったのかもしれませんね…。


「また、前王とこの私の年齢差が、さほど大きくなかったのも問題でな。

 前々王が高齢になるにつれて、崩御後の話題も出てきて…弟の前王よりも、息子の俺を推す声が多かった。

 自らの立場の危うさを知った前王は、だからこそ悪手を打ってしまったのだろうな…」


 現在でも近衛師団を指揮するほどのシリウス第一王子の名声は、当時から前王以上だったのでしょう。

 男のひがみは概ね、女の場合ほど陰湿ではないものの、そのぶん直接的で思い切った行動に出てしまうことが多いそうですしね…。


「そうして強引に玉座に着いた叔父だったが…案の定、周囲や国民からの支持は惨憺さんたんたるものだった。

 所詮はその程度の器に過ぎなかったのだが、それでも彼は玉座に固執し続けてな…」


 シャムス第二王子が手を下さすとも、いずれ暴動に発展するのは時間の問題だった訳ですね…。


「むしろ、そうなる前に手を打ったのがアレだったのだ。おかげで我らの王室は、権威を損なうことなく今日まで続いてこられたのだからな」


 シリウスさんによれば、彼は部下達を総動員して、前王による前々王暗殺の証拠や、その他大小諸々の不正の事実を根気強く調べ上げ…

 満を持して、それらを国民の前に曝け出し、大衆の怒りを扇動して大暴動へと繋げたのだとか。

 …あれ? そうした裏事情を知れば知るほど、ただの横暴なお坊ちゃんに思えたシャムス皇帝の評価が覆ってくるんですけど…!?


「まさか…あの兄上が…!?」


 自らが王家を去るきっかけともなったワガママ兄貴の秘められた実力を前に、驚愕を隠せないシドさんの様子を見て…


「フム…良い機会かもしれんな」


 シリウスさんは彼の家族である私達の顔をゆっくりと見回し…満足げに頷きました。


「シドゥス、お前も良い伴侶を得て、このように素晴らしい家庭を築いたことだし…そろそろ知っておいても良いだろう。

 アレが…シャムスが、常にあんな態度でお前に接するのは…すべて"芝居"なのだよ。」





「兄上が?…まさか」


 と一笑に伏すシドさんでしたが、


「初めてお前の存在を知ったときの、アレの喜びようときたら…それは微笑ましい限りだったぞ。アレの周りには歳の近い者もいなかったから、尚更な」


 当時を懐かしんで微笑むシリウスさんの様子に、目から鱗が落ちたような顔を見せます。


「だが、アレの母親がああだったからな…。

 そこでアレは渋々、お前に辛く当たってみせるしかなくなったのだ」


 シャムス王子がシドさんに酷い態度を取っている…との噂が王子の母親の耳に入ると、彼女はそれだけで満足して、自らシドさんやその母親に手をあげることはなかったと言います。

 つまり、シャムス皇帝はあえてそんな態度を貫くことで、シドさん親子の防波堤であり続けたのです。

 たとえ自らは、待望の弟に嫌われることになろうとも…。


「わざわざこの星まで出向いたのも、『ルナリアン見物』のためなどと、もっともらしい理由を付けてはいるが…

 実のところは、お前が撃たれたと聞いて、心配でいられなくなったからだ。

 さもなくば、こんな場所にまで旗艦を寄越す必要もあるまい?」


 確かに、パンダ見物のために主力艦隊を差し向ける王様なんて、フツーいませんよね。

 旗艦『ソル・ラディアンテ』をあれだけド派手に地球人に見せつけたのは、可愛い弟を傷つけた連中への脅しも兼ねているんでしょうか。


「アレは確かにうつけ者ではあるが、ちゃんと人の心は持っておるのだよ。

 さもなくばこの俺も、アレに協力してやる気になどなるはずもないからな」

「…兄上…っ」


 初めて知った皇帝陛下の真心に、シドさんは思わず目頭を押さえます。

 本当に…人は見かけによらないものですね。


「やっぱり…イイ人だったんですね」


 ポツリと小声で呟いたのは、寂しげに微笑むマコさんでした。


「だって、あの人…一見ワガママ放題なようでいて、先生からお姉様を取り上げようともしなかったし…こんな私のお願いも、ちゃんと聞いてくれたし…」


 たしかに…本当にルナリアンの私がお目当てなら、皇帝権限で召し上げることだって充分できたはずなんですよね。

 なのに結局、なんやかやと理由をつけて放置した挙句…

 それとは似て非なる、彼がいうところの「未開人」のマコさんを手に入れるために、あんな無理難題すら聞き入れてくれましたし…。

 自分の欲望に忠実なオレ様至上主義者かと思いきや、案外、常識的なところもあるのかも…?


「あの人はたぶん、ずっと本音を隠し続けて…あれで結構、周りに気を遣ってきたんだろうなって…なんとなく、そう思ったんです」


 彼女自身もひたすら自分を押し殺して、変わりゆくご両親に尽し続けてきたから…本能的に見抜けたのかもしれませんね。

 同類相憐れむ…というやつでしょうか。


「それに…先生に、とてもよく似ていて…優しい人ですから…」


 う〜ん? このへんは個人的主観の相違というヤツでしょうか?

 私はそれほど似てるとは思わないし、優しい?…どこが?って感じですけど。


「そうか、似てるか…ありがとう」


 シドさんは若干複雑な顔をしつつも、やはり少し嬉しそうです。ううっ、ちゃっかりポイント稼いでますね…。

 ともかく、シドさんにあれだけ恋焦がれていたはずのマコさんが、どうしてあっさり皇帝陛下からの求婚を受け入れる気になったのかが、やっと解った気がします。

 けど…それならなんで、そんなに寂しそうな顔を…?


「フフ…なかなかに見上げた娘さんだ。アレとは案外、馬が合うかもしれん。

 だが…考え直すなら、今のうちだぞ。俺のほうからも取りなしてやるからな」


 シリウスさんにも、その本心はバレバレみたいですね。


「娘さんのため、というよりは…むしろ、アレのためだな。

 アレはヤンチャ坊主のまま大きくなってしまったから、人に裏切られることに慣れとらん。

 興味本位で手を出して、あとで大やけどするのは見るに耐えんからな…」


 ずいぶんと皇帝陛下を高く買ってるんですね。


「あぁ。今の王室を回せるのは、アレ以外にはいないだろうしな。

 俺は元々そんな柄じゃなかったし…シドゥス、お前なら尚更だろう?」

「…確かにね。僕は人の上に立てるような器じゃないし、万人に尽くすよりは…ね♩」


 ここぞとばかりに私に微笑みかけるシドさん。嬉しいけど、全国民と天秤にかけられた私の身にもなってくださいよ…。

 でも…正直、私もそう思います。

 シドさんは、優しすぎるんです。

 優しすぎて、人を自分の都合で使い回すなんて出来ない人なんです。

 それに…この私のためなら、自分の命をも顧みない人なんて…一国の主には到底向かないでしょうね。


「まぁ、アレとて経験不足な点は否めないし、そのままでは前王の二の舞になる恐れもあったからな。

 今はこの俺が盾になることで、周囲の風当たりを弱めてはいるが…早いこと成長してもらう以外にはない」


 政権が急変すると、どうしてもそうした混乱は少なからず出てきますからね。何でもかんでも変えれば良いってものでもないんです。

 加えて、前王派の残党も少なからず妨害工作を働くでしょうし…だから革命やクーデターって、後々ろくなことにならないんですよ。


 血であがなわせた道は、どこまで行こうと血塗られた道…。

 さらに国民は、一旦は自らの力で政権を勝ち取る快感に酔いしれてしまいましたから…

 現政権が自分達の思い通りにならないと不満を覚えた日には、また同じことを繰り返すだけですよ。

 皇帝から直に革命の事実を聞かされたシドさんが、あの時、あんなに"怯えて"いたのは、行く行くはそうなることが予測できたからで…。

 それが解っていても…シャムス皇帝は、同じ父を失って辛い思いをした兄弟のためにも、立ち上がらざるを得なかったんでしょうね…。


 けれども…そんな孤独な皇帝サマを、いったい誰が支えてあげれば良いのでしょうか?


「麻胡…といったか?」

「は、はい…っ」


 急に話を振られて慌てるマコさんに、シリウスさんは諭すように語りかけます。


「お前はまだまだ子供だ。故に、私は多くを望まないし、なるべくフォローはしてやるつもりだ。

 ただ、お前には、アレの…シャムスの『心の支え』にさえなって貰えれば、それでいい。

 …できるか?」

「…………。」


 マコさんは唇を固く結んだまま、何も答えられませんでした。





 翌日の午前中。

 約束通り、銀河皇帝シャムス陛下の働きかけで保釈処分となった、マコさんのご両親の引き渡しの儀が、昨日と同じく中学校の校庭で執り行われる運びとなりました。

 此処ならば広い場所が確保できるし、全校生徒の監視下では誰も下手なことはできないだろうとの計らいです。

 もちろん、現場周辺には警察関係者や緊急車両等が配備され、万全の安全対策を施してはいますが。

 校舎の窓という窓から多数の生徒や学校関係者が身を乗り出し、校庭にはこれまた多くのマスコミが取材に詰めかけ、上空には報道ヘリが何機も飛び交い…

 そのさらに上空には、まるで空に蓋をするかのように雄大な白亜の城塞宇宙艦『ソル・ラディアンテ』が聳え立っています。


《ヒミツ♩ ヒミツ♩ それは秘密でぇーっす!!

 司会のシャムス小金治です♩》


 …いったい何人ついてこれるんですか、このネタ?

 もとい、皇帝サマ自らノリノリで実況しているのは艦内ではなく、わざわざグラウンドに組んだ特設ステージ上からです。

 一応シリウス師団長も傍らに控えているとはいえ、セキュリティー舐めきってますね…。

 なお、この放送は宇宙ネットワークを介して銀河全域で生中継されてるそうです。

 ちなみに本日に限り、同時通訳が地球人にも伝わるよう配慮されています。

 ステージ周辺は野次馬で大入り御礼。

 派手好きなシャムス皇帝らしく、もはやお祭り騒ぎのビッグイベントと化してますね〜♩


 ただ一つ、誤算だったのが…ご両親の身元引受先として名乗りをあげた宗教団体『真世界統合協会』、その全権代表者として姿を見せたのが、あの井谷奈いやな記者だったことです。

 これだけでも教団側がこの件をまともに取り扱う気がないのは明らかですし、何を仕掛けてくるのか予想もつきません。


《では、さっそく…感動の御対面といこうか?》


 皇帝の号令に従い、警察側の囚人護送車の昇降扉が開き…

 マコさんのお父さん、次いでお母さんが順繰りに降車してきました。

 逮捕されてからまだ数日しか経っていないため、思いのほか元気そうですが、これだけの人だかりを目にしてガッチガチに緊張なさっています。

 皇帝側で待機していたマコさんは、それをさほど喜びもせずに呆然と眺めています。

 感動の親子の御対面…とは程遠い光景ですけど、それも当然でしょう。

 何故なら彼女達の家庭は、とっくに壊れていたのですから。

 自分が牢獄に送り込んだ両親と…

 自分達が傷つけた娘と…

 いまさら、どんな顔をして会えば良いというのでしょうか?


 そして…どういう訳だか、その後に続いて降りてきたのは、薄ら笑いを浮かべた井谷奈記者!?

 一度は逮捕され、そして前日には保釈された彼が、恐らく二度と近づきたくはなかったであろう護送車内で、先にご両親と会っているとか…どう考えても怪しいですよコレ?


 などと勘繰っているうちに、ステージ中央で皇帝陛下が見守る眼前で、静かに歩み寄った両者は、至近距離で対峙して…


「ッ!? お、お父さん…!?」

「うるさい黙れ裏切り者めッ!!」


 突如として、マコさんの背後に回り込んで羽交締めにしたお父さんが、娘のこめかみに銃口を突き付けました!

 同時にお母さんは、やはり懐から取り出した拳銃を両手で構え、震える銃口を皇帝陛下に向けます!

 それを見て仰天し、ザワつく警察関係者たち!


「バカなっ、なんで武器を携帯してる!?」

「ボディチェックは入念に行なったぞ!?」

「あの記者のほうは?」

「…やってない。その必要はないって上からの指示で…!」

「クソッ…組織内にまで入り込んでいたのか!」


 どうやら教団はすでに警察内部にまで根を張り巡らせていたようです。

 てゆーかいくら上の指示でも、あ〜んなあからさまに胡散臭い人なら一応調べてみるのが普通でしょ?

 縦割り社会の弊害がこんなところにも。


「じゅ、銃だ…!?」

「銃を持ってるぞぉーっ!!」


 誰かの悲鳴がきっかけとなり、場内は大パニック!

 しかし、


《落ち着け未開人どもッ!!

 弾がステージ外には飛ばない程度の対策はとうに施しておるわ。

 貴様らの身の安全は余が保証してやるから、ムダに騒ぎ立てるでないっ!》


 皇帝サマの頼もしい一喝で、騒ぎはたちどころに沈静化しました。さすがのカリスマ性です。

 けどまぁ…これはある意味、予想通りの展開ですよね。まったくワンパターンな連中です。

 しかも、子供がたくさん通ってる学校内で銃使用とか…これだけでも教団の非常識ぶりが証明されちゃってますし、今度こそ言い逃れできないでしょ?

 これで離れていく信者さんも、さぞかし多いんじゃないでしょうか?

 しかし…


《…フン、やはり未開人の防衛組織はお粗末そのものだな》

《彼らは軍隊とはまた別の組織らしいですからな》

《何故そんな区別を? 二度手間ではないか》


 皇帝サマと師団長はまるで慌てず騒がず、他人事のように警察批評を繰り広げる始末。


「う、動かないでっ! う、撃つわよ!?」

《余は先程から微塵も動いておらんぞ。そんなに言うなら撃ってみよ、ホレホレ♩》


 脅したはずの皇帝サマに小馬鹿にされて、一瞬で頭に血が昇った堪え性のないお母さんは、


「ぅわあーーーーっ!!」

 パンッパンパンッブシュウッ!

「ぅぐっ…きゃあぁあ〜〜っっ!?」


 …いったい何が起こったのか解説すると、皇帝サマめがけて放たれた弾丸は、彼に届く寸前ですべて反転。

 来た道を逆走して、お母さんの手にした拳銃の銃口に逆戻りし、暴発した結果…


「お母さんっ!?」


 両手の指先が見るも無惨に吹き飛んでステージ上に倒れ込んだ彼女を見て、マコさんは悲鳴じみた声を上げます。


《余ともあろうものが、貴様ら野蛮人に無警戒なわけがなかろう? 『リフレクトシールド』くらい展開しておるわい》


 リフレクト…"反射"ですか。

 どうやら、シールドに触れた異物のベクトルをそのまま逆転させる技術らしいですね。

 仮にそんなモノが無くとも、あれだけ激しく震える拳銃から撃たれた弾丸なんて、標的には当たりもかすりもしなかったでしょうけど。


「お、おのれぇ宇宙人めがぁっ!?」


 自分の妻がやられて憤ったお父さんは、せっかく人質に取ったマコさんを突き飛ばし、さらにはムダだと判った拳銃も放り投げて、皇帝サマに掴みかかります…が、


《貴様ごときザコにやられるほどヤワではないわァッ!!》


 皇帝サマは見事な一本背負いで、お父さんをあっさりのしてしまいました。

 そしてその上に馬乗りになり、


《貴様…実の娘に銃を突きつけるとは、それでも人の親かっ!?》

「フ、フンッ、宇宙人に説教されるいわれなどないわ…っ!」

《宇宙人も地球人も関係あるかっ!? 余は、人道の話をしておるのだァーッ!!》


 怒りに任せて両手のパンチを交互に浴びせかけ、フルボッコにして血の海に沈めてしまいました。

 さすがに銀河皇帝なんてラスボス的な立場を公言するだけあって、メチャメチャ強いですね、この人!?


「お、お父さん…っ」


 溜まりかねて駆け寄ろうとしたマコさんの足下に、ズダダダダダッ!と銃弾の雨。


「おーっとぉ、ムダに動き回らないほうが身のためですぜ…麻胡お嬢ちゃん♩」


 日本国内では極めて入手困難なはずのサブマシンから白煙をたなびかせつつ、狂った笑顔を浮かべるのは…ついに本性を表した、井谷奈記者でした。





 陽光まぶしい今の時期でも、彼がヨレヨレのトレンチコートを着込んでいるのは、こうした武器を隠し持つためでもあるんでしょうか。

 あえて当たらないように威嚇射撃を行なったようですが、そもそも子供相手にブッ放してよいモノではありませんから!


「アンタが組織に協力的じゃないことぐらい、最初から気づいてましたぜ。

 どうやらアンタも、宇宙人のお仲間だったらしいですねぇ〜?」


 井谷奈記者がいう"お仲間"とは、協力者という意味合いではなく、文字通り「お前も宇宙人だろ?」の意味。

 腐ってもマスコミ魂は捨ててないらしく、マコさんの不思議な魅力に勘付いてたのはアッパレですが…彼女はギリギリ地球人なので、完全に読み違いです。


「ここらでまとめて始末してやる…死ねっ、宇宙人ッ!!」

「ひっ…!?」


 そしてまた、バカの一つ覚えみたく、マコさんめがけて凶弾を発射!

 …する寸前、ほとんど瞬間移動みたいな勢いで飛んできた皇帝サマが、記者の小銃を腕ごと蹴飛ばしました! これは痛い!


「ぐあっ!?」


 と思わず取り落とした記者の小銃を、今度は師団長がすかさず滑り込んでゲット!

 その銃を…あろうことか、マコさんに手渡します!


「落ち着いて、昨日教えたとおりにやってみろ」

「…は、はいっ!」


 言われた通り、へっぴり腰ながらも小銃を小脇にかかえたマコさんを見て、井谷奈記者は…


「…ククッ…一丁だけだと思ったか!?」


 トレンチコートをひるがえし、背中からもう一丁、同型のサブマシンガンを取り出して構えました。いったいどんだけ隠し持ってるの!?


「…ッ!」


 一瞬躊躇しつつも、引き金に指をかけるマコさん。

 けれどやっぱり、その道のプロな井谷奈記者のほうが少しだけ早かった!


 ドパパパパパキンキンキンキンブシュウッ!


「ぐっ…ギャアァアーーーーッス!!」

 

 全身から血の噴水を噴き上げてステージ上に転がったのは…なんと、井谷奈記者のほうでした!?

 その前に勝ち誇ったように立ちはだかった皇帝サマは、


《いましがた、こちらの手の内を見せてやったばかりだろうに…この娘にもリフレクトシールドくらい展開されておるだろうと、なぜ予想がつかんのだ?

 つくづく見下げ果てた愚か者だな》


 つまり、マコさんにわざわざ銃武装させたのは、シールドの存在をうまくカムフラージュして、相手にまんまと攻撃させるためのブラフだったのです。

 でもこのリフレクトシールド、先程からの挙動を見ている限り、銃撃等の遠距離攻撃は余すことなく防ぎきるようですが、至近距離からの直接攻撃には効果がないようですね。

 だから尚更、マコさんに記者を近づけさせないために、銃を構えさせたのでしょう。


「ぐっ…がはっ…!?」


 まぁ…もうそれを警戒する必要もなさそうですけど。

 全身に鉛玉を食らった井谷奈記者は、ステージ上で苦しげにのたうち回ります。


《どうせ貴様らが何か仕掛けてきよることぐらい、とうにお見通しだわ…ウツケが!》


 そもそも、要注意人物の井谷奈記者が同席などという、理不尽極まる教団側の要求を、皇帝側はなぜ、危険を承知で呑んだのでしょうか?

 しかも、皇帝サマ自らステージ上にノコノコ現れ、いちばん狙われる可能性が高いマコさんをも同席させるという、一見不用心すぎるポーズを取ってまで…。

 それは、安全対策に万全の自信があるのはもちろんでしょうけど、それ以上に…


《貴様か? 我が弟が世話になったのは…?》

「ヒィッ!?」


 教団側の手厚い保護下にあった、シドさん殺害未遂の『真犯人』をおびき出すために決まっています!


「くそっ…糞がぁ〜〜っ!!」

《口を慎め無礼者がッ!!》


 往生際の悪い井谷奈記者に、皇帝サマが怒りの鉄拳をお見舞いします。


《何なのだ、貴様の仲間は? てんで連携が取れていない…まるでド素人ではないか!?》

「仲間だとぉ?…フッ、素人でも弾をバラ撒くぐらいはできる。最初から期待などしてはいない…!」

《…では、奴らは捨て駒ということか?》


 まるで悪びれない記者の態度が、皇帝サマのさらなる怒りを呼び覚まします。


《貴様…元は軍人だったそうだな?

 それが、本来なら守って然るべき、こんなド素人の民間人に、ろくに訓練も積ませずに銃を握らせて弾除けに使い、自分はその陰にコソコソ隠れて手柄を狙おうなどと…

 それが武人のすることか!? 恥を知れッ!!》


 そうまで言われては、井谷奈記者も黙ってはいられず、


「何をいう、これが我が国の古来からの戦い方だっ!

 武士も庶民も一丸となって、我が身を犠牲にしてでも敵に挑む。

 たとえ敵わぬ相手でも、すべては国家や、尊き教えを守るために…!

 これぞ正しい国の在り方…」

《詭弁を吐くなッ!! そんな屁理屈のどこが正しいッ!?》


 記者の熱弁を一喝した皇帝サマは、さらに一撃お見舞いしてから、胸ぐらを掴んで引きずり起こし、


《相手が到底敵わぬ強敵ならば、我が身を盾にしてでも市民の避難を優先するのが武人の務めだろうが!

 国家の将来を育むのは、我ら政治家でも兵士でもなく、市民ではないかッ!?

 そんな大切な市民を犠牲にして…何が国家かッ!!》


 …凄い…初めて皇帝陛下を尊敬する気になれました。


《市民に愛国心を強要するよりも先に…市民が自ずと愛したくなる国を創り上げてみせよっ!

 なんの打開策も示さず、不平不満ばかりダラダラ垂れ流して、弱者に犠牲ばかり強いて…

 そんなロクデナシに着いてくるのは、やはりロクデナシだけだと、早く気づけッ!!》


 シャムス皇帝って、身の程知らずでも何でもなくて…ちゃんとしたポリシーを持った、立派な政治家でいらしたんですね?


《フッ。貴様程度の小者を手駒に使うような教祖など、お里が知れたものよのぅ。

 いい歳こいてガキのおままごとな宗教ごっこなど…いいかげん恥ずかしくはないのか?》

「きっ貴様…教祖様を愚弄するかァッ!?」


 頭に来た井谷奈記者は、コートの中に隠し持っていたサバイバルナイフを振りかざして斬りかかりますが…コレも暗器としては定番中の定番ですからねぇ。

 事前にその動きを読んでいた皇帝サマは、待ち構えていたようにナイフの切先を、なんと片手の二本指でチョキンッと摘んで…パキンッ。


「んな…っ!?」

《あぁ、何度でも小馬鹿にしてやるぞ。

 …と、いうよりも…だ》


 最終兵器をあっさりへし折られて愕然となる井谷奈記者から、完璧にマウントを奪って…皇帝は核心に触れます。


《この余に刃を向けるなど、貴様一人の判断でも…ましてや、そんな半端者な教祖の指示でもあるまい?》


 言われてみれば…『真世界統合協会』の現在の代表は、前教祖亡き後に妻が後継者となったはず。

 正直言って、彼女には先代ほどの求心力はなく、教団の現状を維持するだけで手一杯で…世界をどうこうするほどの野望を抱く余裕すらないかと。

 それじゃあ…そんな彼らの背後にいるのは…?


《…答えろ、誰の指示だ?》

「クッ…」

《貴様らの背後で糸を引いておるのは…何者だ?》

「…………。」


 問われた井谷奈記者は完全に口を閉ざし、黙秘を貫いています。

 明らかに何かを隠している様子ですが…恐らく、この場でこれ以上の情報を引き出すのは不可能でしょう。


《…よかろう。そちらがそのつもりなら、こちらも徹底的に付き合うまでだ。

 …あの中でな》


 頭上に浮かぶ『ソル・ラディアンテ』を顎で指す皇帝サマの薄ら笑いに、井谷奈記者の顔色が見るも鮮やかに青ざめます。


「バカな…アブダクション(連れ去り)だと? そんな非人道的な行いが許される訳が…」

《阿呆が、"引き渡し"に決まっておろう?

 この国の首脳や国連とやらには事前に掛け合って、貴様の身柄を自由に扱う権限を頂戴している。

 貴様のように処置不能なテロリストを、この星でのさばらせ続けることのほうが、より非人道的…とのことでな》

「んなっ!?…き、教団は? 教祖様は…?」


 その問いには、皇帝サマに代わって師団長が答えます。


《今しがた連絡してみたところ、すでに貴殿は脱退処分となっておるから、知らぬ存ぜぬ、お好きにどうぞ…だそうな。

 その代わり、我々から教団側には一切手出しせぬように…との交換条件を持ちかけられたがな。

 もとより、辺境惑星のしがない一教団ごとき、我々の知ったことではない》

「そ、そんな…」


 ガックリ肩を落とす井谷奈記者を、


《やーいやーい見捨てられてやんの!

 おおかた今まではさぞや重宝がられていたのだろうが…今回ばかりは、さすがに調子に乗りすぎたようだな、ん?》


 皇帝サマが大人げなく冷やかすと、


「うがあぁ〜〜〜〜っ!!」


 マジギレした記者は、口喧嘩で負けた幼稚園児のように大暴れして皇帝サマに殴りかかります…が、武術に長けた一騎当千の猛者に敵うわけがありません。

 散々ド突き回されたあげく、コーナーポストに追い詰められたボクサーのようにタコ殴り状態となり、


《コレは…我が弟の分! そして、コレは…その娘の分だッ!!》


 お決まりの仇討ちゼリフとともにストレートパンチを左右から顔面に叩き込まれて、見事にノックダウンしました。


《一度言ってみたかったのだよ、このテンプレ台詞は♩

 …引っ立てぃっ!!》


 満足げに笑う皇帝サマの号令一下、格闘ゲームの敗者グラフィックばりに顔面凸凹となった井谷奈記者は、近衛兵に引きずられてステージ上から退場していきました。


 彼の敗因…それは、精神年齢があまりにも幼すぎたことです。

 きっと、過去にも幾度となく同様な暴れっぷりで教団に重宝がられてきたのでしょう。

 その度に保釈などの手厚い保護を受けたことが成功体験となり、「もっと暴れれば、もっと褒められる」という救いようのない認識を生んでしまったのです。


 ですが、今回ばかりは相手が悪かった。

 敵は個人や小集団ではなく、大規模な『星団国家』でした。

 つまりは『戦争』です。

 実践経験が皆無な彼には、それを勝ち抜くだけの技術も…

 それ以上に必要となる、勇気や度胸も…

 実戦においては最も大切な、ともに戦い抜く仲間すらも無かったのでした。


 自衛隊では何よりも、仲間との連帯感を徹底的に叩き込まれるはずなんですけど…彼はいったい何を学んでいたんでしょうかね?

 調子に乗りすぎても許されるのは、子供のうちだけですよ、井谷奈記者?

 はやく大人になりなさいな…って、もう手遅れでしたね♩


《邪魔者は片付いたが…はてさて、いったいどうしたものかのぅ?》


 ステージ上に残ったのは、血まみれで失神したマコさんのお父さんと、同じく血みどろの両手でのたうつお母さんと…

 なす術もなくその場に立ち尽くすマコさん。

 せっかくの一家の再会も、これでは台無しです。


「ア、アンタの…みんなアンタのせいよっ!」

「お母さん…っ」


 怪我の痛みを堪えて、怨念のこもった眼差しで娘を睨む母親の咆哮に、マコさんは何も言い返せません。

 そりゃ、まるっきり責任転嫁な言い草ですからね。


「アンタなんか…産むんじゃなかった…っ!」

「ッ!?」


 ついに飛び出した、言ってはいけない一言に、マコさんの顔が引きつります…が、


《全部貴様らのせいにきまっておろうがっ!

 産んだぐらいで威張り散らすなボケナスがァーッ!!》


 怒りに任せた皇帝サマのローリングソバットが炸裂し、お母さんもまた血の海に沈みました。


《まったく、なんという愚かな母親だ…。

 ろくに愛しもせなんだ子供が、自分の言いなりになるとでも思っておるのか?》


 相手が女性でも容赦なし、宇宙一男女平等を実践している有言実行なお方です。


《気に病むことはないぞ麻胡よ。娘の気持ちも解せん親の戯言など、所詮は口から出まかせに…》

「…まだ…約束を果たしてもらってはいません」


 唐突なマコさんの言葉に、《…何?》と目が点になる皇帝サマ。

 確かに彼女の依頼通り、こうしてご両親を保釈したんですけど…?


「私は…お父さんお母さんを『自由』にしてくださいって頼んだはずです…!」


 ……!

 それって、つまり…単なる保釈ではなく、彼らがどっぷりハマった宗教からの解放の意味で…。

 けれども、かつてのオ◯ム事件のときも…

 はたまた、北朝鮮から拉致被害者を取り戻したときも…

 一旦はその強烈にして理不尽な教えに魂の髄まで染まってしまった者達を、再び常識的な社会に連れ戻すのは、並大抵のことではなくて…。

 マコさんも、そんなことは百も承知のはずなのに、それでも…

 しかも、そういった繊細な作業にはおおよそ不向きな皇帝サマに、あえて頼んだということは…


『…!!』


 そこまで考えて、私達はやっと、マコさんの言葉の"真意"に気づきました。

 彼女が期待するのは、ご両親の逆洗脳や社会復帰などではなく、もっと根本的で手っ取り早く…

 お父さんお母さんを『自由』にする…

 イコール『死なせる』ことだったのだと…!


「っ…」


 皆の顔が青ざめていく気配に気づいたマコさんは、度を超えたイタズラが親にバレて叱られる直前の子供のように、ブルブル震え出します。

 そんな彼女に、


《…麻胡よ。》


 皇帝陛下だけは務めて無表情なまま、静かに彼女に近づいて……パシンッ!

 マコさんを強烈なビンタで張り飛ばしました。


《余に親殺しの協力を仰ごうなどと…フザケるのも大概にせいっ!!》





 予想外に次ぐ予想外の展開に、すっかり静まり返った場内にて…

 ステージ上の皇帝は、もんどり打って倒れたマコさんは目もくれず、サッと背を向けて遠退きます。


 …ですがそれは、彼女を見限ったからではありませんでした。

 彼が上空の『ソル・ラディアンテ』に合図を送ると…ステージ上空に巨大なホログラムスクリーンが現れました。

 そこに映し出されているのは…一人の老婆。

 のどかな風景のサナトリウムみたいな場所で、揺り椅子に揺られながら、ただただ遥か遠くを眺め続けるだけ。

 その瞳はもはや何処に焦点が合っているのかすら判らず…明らかに様子がおかしい。

 まるで…心が、すっかり空っぽになってしまったみたいに…。


《…余の母だ。》


 !?


《今は、母星から遠く離れた御用所にて、療養生活を送られている。

 …恐らく…生涯、このままな》


 皇帝の突然の激白に皆、一様に驚いていますが…

 なかでもモーント人界隈には、この情報がこの瞬間まで伏せられていたようで、シドさんも、その実兄のシリウス師団長ですらも、ショックを隠しきれない様子です。


《彼女の心は、もう元には戻らない。

 そうさせたのは…この余だ。》


 シャムス皇帝が過去に民衆を煽動し、革命を企てた当時。

 その母…第二王妃の生家である公爵家は、前王と近しい関係にあったことから、王妃も当然のように前王側に与していました。

 いえ…実のところは、前々王が市井の娘に浮気してシドゥスを産ませたことがきっかけとなり、嫉妬に怒り狂った王妃の心は、前々王から離れてしまい…

 彼の弟である前王を焚き付けて、クーデターを起こすよう仕向けた…という疑惑が濃厚だそうです。


 その頃には、王妃と前王は密かに恋仲となっており…それが証拠に、前王の妻は子供を身籠ったと同時に不審死を遂げています。

 ですから、皇帝が国を変えるためには…まずは全ての元凶である、王妃を処罰する必要がありました。

 たとえ、自身の産みの母であろうとも。

 そうまでしなければ、民衆が皇帝を持ち上げることはあり得なかったでしょう。


"お前など、産むんじゃなかった…!"


 兵士に拘束されて王城から追放された王妃は、シャムス第二王子に聞こえよがしに恨み節を叫び続けました。

 先ほど、マコさんが母親から言われたのと同じセリフを…今度こそ、本気で。


《新しい事を成すためには、綺麗事だけでは片付かない場面もままあるものだ。

 あの時、余がなぜ王妃を処刑しなかったのかと詰め寄る市民も多かったが…これが、その理由だ》


 ずっと遠くを眺めていた王妃の視線が、不意に自分の手元に切り替わります。

 その手に握られているのは…一枚の写真。

 まだ幼かった頃のシャムス王子と、それを抱いた王妃が幸せそうに微笑んでいる…もう二度とは還らない、遠い日の…

 けれども、王妃にとっては現在進行中かもしれない…決して醒めない夢の中の記憶。


《とうに心が死んでいる者を…二度死なせる必要もあるまい?》


 あちこちからすすり泣きが聞こえてくる、感動的な場面のところ、大変申し訳ないんですけど…皇帝さん。

 コレ、仕込みましたね?

 なんでこんなに都合よく、今回の件とは無関係な王妃の動画がすぐ用意できるんですか?

 たぶん、マコさんの要望がご両親絡みだった時点で、どこかで使えると踏んだんでしょ?

 と、ゆーことは、次に予想できる展開は…


《麻胡よ。お前の希望通りではないだろうが…コレに比べれば、お前のご両親はまだなんとかなるレベルだろう。

 余が責任を持って治療し、必ずや『自由』にしてみせよう。身体の傷も…心もな。

 …いつになるか、明言はできかねるがな》

「皇帝さん…」

《…お前はもう、独りぼっちではないのだ。

 自分だけで抱え込まず、もっと周りをアテにするがよい》


 極めてマトモなアドバイスをした皇帝サマは、そこでハァ〜〜ッと深い溜息をついて、


《だが…残念ながら、お前のように危なっかしい小娘を、我が嫁に迎えるわけにはいかなくなった》


 ホラやっぱり。実は、この展開も予定調和なんでしょう?

 つまり…彼が地球へやってきた目的は、もとから弟のシドゥスさんに再会することだったんです。

 だから、表向きのお目当てだという『ルナリアン』の私には、ほとんど興味を示さなかった。私はとっくに弟のモノでしたしね。


 そして…マコさんのことも事前に調べ上げて、最初からダシに使うことを決めていた。

 だから私達の自宅へではなく、朝の通学時間帯に、わざわざ中学校上空に現れた。

 その場所ならば、ほぼ確実に彼女に出会えるから。

 彼女に執拗にこだわり続けたのも…

 彼女の希望を何も聞かないうちから「何でも叶えてやる」などと後押ししたのも…

 それで彼女が『両親の保釈』を要求することも、初めから想定内だったんですね。


 皇帝サマ…皇帝陛下は、決してうつけ者などではありませんでした。

 いえ、それどころか、あえてそんな印象を皆に植え付けて、虎視眈々とチャンスを窺っていたのでしょう。


 愛する弟を傷つけた憎き犯人に、自らの手で鉄槌を喰らわせるために…!


《さてと…用件は片付いたし、これ以上の長居は無用だな》


 皇帝の言葉に呼応して、上空の『ソル・ラディアンテ』から光のエレベーターシャフトが、ステージ上まで真っ直ぐに下りてきました。

 シャムス皇帝とシリウス師団長は、その中に待機する薄い板状のリフトに颯爽と乗り込みます。

 って、え? こんなにあっさりお別れなんですか?


《シドゥスよ…よき伴侶や家族ともども、達者で暮らせよ》


 弟に別れの言葉を投げかけるうちにも、リフトは少しずつ上昇していき…


「…兄上…」

《『皇帝陛下』だと言っておろうが…無礼者め》


 口では咎めつつも…シドさんに向けた彼の顔は、とても穏やかに笑っていました。

 その顔のまま、皇帝の視線は、シドさんのそばに並び立つマコさんへと移り…


《…お前には迷惑をかけたな。許せ》


 決して他人には頭を下げない彼が、この時ばかりは微かにお辞儀をしたようにも見えて…


「あ…」


 何かを言いかけたマコさんには耳も貸さず、まっすぐ前を向いたまま地表から離れていきます。

 歳や立場の離れた兄弟二人を乗せたリフトは、見る間に小さくなって…

 そこで急に皇帝サマが、ガックリと膝を落としました。

 その肩に師団長が手を掛けて、何やら語りかけています…が、二人の声はもう、こちらでは聞き取れません。


「『フッ、これまでか…。

  一目惚れだったのになぁ〜チキショオッ!』」


 …ほへ?


「『イイ子だったのになぁ〜…!』

 『そう落ち込むな。お前なら、すぐまた良縁に巡り会えるさ』

 …だってさ♩》


 おっと、ミユちゃんにだけは聞こえていたようですね。さすがはケモ耳♩

 皇帝兄弟二人のやりとりを、律儀かつ忠実に実況中継してくれた彼女のおかげで、彼らの本音を赤裸々に知ることができました。


「『バカゆーなって、あれ以上イイ子がそうそういるもんかよ…』

 『だったら素直にそう口説けばよかっただろうに…強がりおって』

 …だって。

 皇帝サン、だいぶ落ち込んでるみたいだけど…マコちゃん、どーする?」


 ニマニマ微笑みながらも焚き付けるミユちゃんに、マコさんは…


「…!」


 なんだか吹っ切れたようにパッと顔を上げると、遥か上空の皇帝サマを眩しそうに見つめて…


「…ラリスくん!」

「ヘッ、そー来ると思ったぜ♩」


 ラリスくんは何も聞かずに笑い返すと、核融合並みの大閃光を放ち…


《ホラ、乗れ!》


 すぐさま巨人化した彼は、マコさんに巨大な右手のひらを差し出しました。

 彼女が乗り込んでもまだまだスペースが余ってるし、なんだか面白そうだからと、結局全員で飛び乗れば…


《おっしゃあ、滑り落ちんなよ!?》


 ラリスくんは私達を乗せたまま、上空めがけて飛ぶ…かと思いきや、ますます巨大化します!

 理論上、風船みたいに破裂するまで巨大化可能だそうですけど…えっ、割れるのっ!?


「ダメぢゃんソレめっちゃコワイぢゃんっ、パーンする前にはよ届けパーンする前にっ!」


 そんな私達の切実な祈りが通じたのか、ラリスくんの巨大化した手のひらは、瞬く間に皇帝サマたちのリフトを追い越します。

 度肝を抜かれて呆けた彼らの顔が、すぐ真下に見えてますけど…


「や、だから追い越しちゃダメでしょパーンしちゃうからパーンてっ!?」

《あぁ〜もぉ〜ごちゃらごちゃらウルセェッ!

 メガネッ、跳べッ!!》


 ちょ待っ…跳べって、こっから!?

 皇帝サマはすぐそこだけど、ココ、どんだけの高さだと思ってんの!?

 地表がもうグー◯ルマップみたいに見えてんですよっ、すんごい風ビュービュー吹いてんスよっ、メッチャ高空なんスよっ!?

 ラリスくんアンタ、マコさん殺す気かッ!!


「皇帝さんっ…受け止めてッ!!」


 ってマコさんホントに行ったァ〜〜〜〜ッ思い切り良すぎッ!!


《バババ馬鹿者アブアブ危ないだろがァーーッ!?》


 血相変えた皇帝サマも、クレーンゲームみたいに両手を突き出して右往左往!


《だぁ〜〜もぉココ来いココッ、ハズしたら死刑ッ!!》


 いやどのみち死んじゃうからソレ!?


「…ハイッ!!」


 素直に頷いたマコさん、そのまま皇帝サマの胸にダァーイブッ!…ジャストミィーート!

 そして…唇同士もジャストフィイーーット!!


「あらま♩」by美沙兎

「マコちゃんヤルぅ〜!」by御幸

「いやいやヤリ過ぎでしょっ、全宇宙に配信されてんだよコレ!?」byシドゥス

《イイぢゃん、見直したぜメガネ♩》byポラリス


 一部否定的な見解もございましたが、私達は大盛り上がり。

 シドさんが言う通り、この模様はしっかり宇宙中に配信されていて、地上からも大観衆のじなりのようなざわめきが、上空まで聞こえてきます。


《なっ…んなっ…!?》


 現役JCと粘膜接触してしまった衝撃で赤くなったり青くなったり、人間信号機と化したシャムス皇帝に、マコさんも真っ赤になりながら、


「これが…今の私の、精一杯の感謝の気持ち…ですっ!」

《麻胡…》

「今は危なっかしい小娘だけど…次にいらした時には、立派になった私を陛下にご覧頂けるよう、頑張りますから…っ!」


 そう…将来性こそが、まだまだ伸びしろがある彼女の最大の武器です。

 いかに危なっかしくとも、ここまで慕われて断われる道理があるでしょうか?

 …いや、無いッ!


「その時にまだ、私の気持ちが…貴方の気持ちが、変わらなかったなら…

 今度こそ、よろしくお願いします…っ!」


 勇気を振り絞って差し出された、彼女の右手を…それ以前にもだいぶ色々絞り切ってる気もしますけど…皇帝サマは優しく両手で握り返して、


《まったく…この星は、無礼者だらけだな。

 …ハハッ、実に愉快だ!》


 爽やかに笑い飛ばす彼の目尻から、ほろりと涙がこぼれ落ちたのを、私達や中継カメラは見逃しませんでした。

 この、世にも稀な宇宙規模ロイヤルカップル成立の瞬間は、後々まで語り伝えられる伝説と化したとか…♩





 嵐のように現れて、嵐のように去っていった銀河皇帝の影響は、宇宙各地で形になって現れたとか。

 彼が残した様々なメッセージは『シャムス語録』として珍重され、新たに政治家や兵士を目指す若者の指針となりました。

 もともとがシドさんとタメを張るほどの超絶美形に加え、口先だけではない強さと賢さを合わせ持つ彼のファンは、地球の女性を中心に急増。

 またモーント星系では、やや期待外れかも…と、革命後の支持率が下降気味だったシャムス政権人気を、大幅に盛り返す結果となりました。

 …いい歳こいてリアルJCとガチで付き合うよーな◯リコン野郎なんですケド、そこいらへんは大丈夫なんでしょーか皆さん?


 そして、お相手のマコさん人気も当然のごとく大爆発☆

 不幸のズンドコから一足飛びにロイヤルファミリー候補となった真性シンデレラガールですから、そりゃあね。

 もはや彼女は世界一…いや宇宙一有名な眼鏡っ子いいんちょサマです。

 影響の一端としては、彼女愛用の眼鏡フレームにプレミアが付いて高級化したとか…極々フツーなありふれた眼鏡なんですけどね? 


 さらには、彼女の家庭崩壊の最大要因である宗教団体『真世界統合協会』には世界中から厳しい視線が注がれた挙句、事実上の解散状態に追い込まれたのは、大多数の人々にとっては嬉しい副次効果でしょうね。

 一部は地下に潜って細々と活動を継続しているようですけど…いっそ冬虫夏草にでもなって、一生這い出て来なくてもいーよ♩


 で、空前のメガネ嫁ブームの最前線におわします、渦中のマコさんは…

 実はまだ、我が家にいるのです。


「てゆーか、なんで? アナタの御実家はちゃんと取り戻せたはずでしょ?」

「そう言って、身寄りのない私を一人で追い出す気なんですか? お姉様、ひどい…」

「嘘泣きは結構です。」

「チッ…」


 チッ…てアータ、そーゆーキャラでしたっけ?


「御実家といっても、サラリーマンの平均月収では手に余るような背伸びしまくった賃貸物件なんですよ? まだ学生の私に払える訳ないじゃないですか」

「…結婚支度金という名目で、皇帝サマから月々の振り込みをもぎ取りましたよね、確か?

 毎月、新車が買える程度の」

「…いくらお金があっても、一人で住むには広すぎますし…当然、解約しました♩」


 そして我が家に寄生する気満々っと。


「いいじゃないかミサさん、彼女はまだ中学生なんだよ? 保護者必須じゃないか」

「というよりも…私としては、先生の伴侶候補として…これからも、末永く…♩」

「へっ!?」


 はいダウトォーッ!

 まーだ諦めてなかったんかい、この子!?


「ア、アナタには皇帝サマがいるでしょ!?」

「あくまでも、将来的には…というお話ですよ?」


 物理的には遠く離れ離れになってしまった、二人の想いは…スマホや宇宙ネットという文明の利器のおかげで、今もバッチリ繋がっています。

 いかにも現代っ子ですねぇ♩

 深夜、彼女のお部屋の前を通ると…誰かと楽しそうに語らう、年相応な彼女の声が漏れ聞こえてきます。

 う〜ん、青春ですねぇ♩

 …でも、それが時折り、ラリスくんの報告にあったよーな「…あ…んんっ…」という艶かしい声に変わることも…。

 ◯リ皇帝サマあーた、現役JCに夜な夜なナニをやらせてるんですか◯リコン?

 二人の熱き想いの邪魔をするような野暮な真似はしませんけど、くれぐれも節度あるお付き合いをお願いしますよ?

 …ってムリか。青春時代ですモンね〜♩


「それに私、"二人の気持ちがこのまま変わらなかったら"って前置きしましたし…明日がどうなってるかなんて、誰にも判りませんし。

 当面は超々遠距離恋愛なもので…先生? 私、寂しいんです。ヨヨヨ…」

「…んで、本音は?」

「亭主元気で留守がいい♩」


 か、確信犯…っ!?


「それに…先生。私のおっぱい、揉みましたよね? 皇帝サマにもまだ触れさせてないのに…通報しても?」

「やめてくださいお願いしますからっ!!」


 かーらーのぉ亭主脅迫ッ!?

 んなコトしたら、今度こそ血みどろの兄弟ゲンカに発展しそうな気が…。


「ん〜、どーしよっかな〜…♩

 …モーント人て、クローンで繁殖するんですよね?

 とゆーことは…実際のカラダがどーなっていようと、関係ありませんし…ウフッ♩」


 心理演出的にキラリと光る眼鏡レンズ。

 微かに微笑んだ唇の端から、ぺろりと舌を覗かせて…。

 こ、こやつ…デキるッ! しかもエッロ!!

 おまけに色々乗り越えたおかげで、手強さ爆増してるし…っ。


「なんかよくわかんねーけど…ま、ヨロシクな。メガネ妹♩」

「記号的な呼び名はよして、おっきくなるお兄さん。」


 そのまんまな表現なのに…この子が言うと、なんか卑猥…。


「つーか、今はメガネよか、お前に用があんだよムダ乳。ちょっと来いや」


 土下座るシドさんとエロ眼鏡るマコさんを置き去りにして、私を急にリビングの外へと連れ出すラリスくん。

 ちょっ、この二人をこのままにしておいたら、犯罪的悪魔合体に…!?


「なにワケわかんねーコト言ってやがんだ?

 つーか、ワケわかんねーのは俺のほうなんだけどよ…」


 …え? ラリスくんが珍しく悩んでる?


「お前が教えてくれた、あの『キス』ってヤツ。アレってホントに"信頼と感謝の証"ってだけなのか?」


 ぎっくんちょっ!?

 あの、壊滅的な朴念仁だったラリスくんが…いよいよ、根本的な疑問を抱く瞬間が来ちゃいましたか…!


 なし崩し的に彼と一緒にお風呂に入った、あの夜…

 つい、彼と熱い口づけを交わしてしまった私が、とっさについた"出まかせ"にしては、けっこー長く持ったほうだと思いますけど…。


 でもでも、ラリスくんがそんなお悩みを持ったってことは…

 遅ればせながら、かれもようやっと異性や『恋愛』に興味を持ち始めたってことで…!


 コレって、母親としては…いったい、どう対処すればいいんでしょうか?




【第八話END】

 疾風怒濤のマコちん&皇帝サマ回、なんとか一話分に収まりました。

 ボリューム的にかなりイキそうな予感でしたが、それほど引っ張る話でもなさげだったので、あちこち削りました。

 なのでマコちんのご両親や井谷奈記者が、ほぼ噛ませ犬的なザコキャラと化してます。

 まぁ少年漫画やRPGなんかじゃ、再登場キャラは回を重ねるたびに弱体化するのがお決まりですし(笑)。

 特に井谷奈記者は完全にヤラレ役として設定した割に、なんかまだ生きてますなぁ…ヤレヤレしぶといG野郎だぜ。


 この手のお話だとフツー、最後にはご両親が我を取り戻して、ハイハイ良かったねー♩的な大団円を迎えたりしますけど、それは最初からやらない予定でした。

 エセ宗教の怖さはまだまだこんなモンじゃないと思いますし…ハッキリ言って、一旦カブレた者が元に戻ることは無いと思いますしね。

 宗教観ってのはいわば人間の基本設計そのもの…PCにおけるOSみたいなモノなんで、感染して壊れ始めたら、もう再インストールしかないんですわ。

 それでも、まったく何の救いもないってのも違うと思ったんで、他力本願気味ではありながらも、こんなオチに。

 てゆーかこんなの、個人の力ではもうどーにもなりませんしね。


 そして中盤以降は皇帝サマの俺tueee大爆発です。

 けど、単に強いだけじゃなくて、ちゃんと節度とポリシーを守ったヤンチャっぷりに仕上げました。

 特に『愛国心』云々の下りは、かつて某首相閣下がソレの教育に力を入れようなどと言い出したとき、なんかたまらなくイヤ〜ンな感じを覚えつつも、何がそんなに嫌なのかが自分でも解らず…

 今回、皇帝サマがうまく代弁してくれたおかげで、ようやく「あぁ、そゆこと?」と腑に落ちた感じですね。

 ホラ、「みんなで頑張ろう!」とか言い出す奴に限って、自分じゃなーんもしてないでしょ?

 だいたい皆の後ろで、ふんぞり返って見てるだけで。

 それで頑張ってるつもりなのかお前は? もぉ騙されねーぞ!と(笑)。


 はてさて、一難去ってまた一難。

 次回からは、いよいよラリス攻略編ですかね。

 これまで散々あちこち寄り道してるように見えましたが、すべてはこのための下準備でした。

 さらには、いまだ回収されていない伏線もあちこち残ってますし…そもそも、ヒロイン美沙兎がいったい何なのかって最大の謎もありますしね。

 う〜ん…ちゃんと終わるのかな、このお話?(笑)

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