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うちの亭主が◯◯様だった件

【前回のあらすじ】

 前々回、いろいろやらかしてしまった私が、口から出まかせで放った「キスは感謝と信頼の証し」だなんて世迷言を真に受けて、朝イチでミユちゃんにブッチューかましてくれちゃった愚息のラリスくん。

 恋愛感情はいまだに理解できないクセに、ヤルときはヤッちゃう子だから、ますます困ったチャンです。

 おかげで二人の仲はますます深まったみたいだけど…それを間近で見せつけられてる私は、なんだかヤキモキしちゃって…本当に最低な母親です。


 それはさておき、銃撃事件からたった一晩で全快したシドさんをお迎えするため、駅前へと向かった私達は…そこで一人の少女に出会いました。

 石上麻胡いしがみまこさん。清楚な黒髪に理知的な眼鏡がよく似合う、どこか神秘的な雰囲気漂うこの美少女は、ミユちゃんやラリスくん達のクラスメイト。

 そしてなんと、駅前で「宇宙人反対」のビラを撒いていたNGO『宇宙人から国民を守る会』主催者のご両親を持つ、反対派の秘蔵っ子でした!

 同団体は左翼傾向な宗教組織『真世界統合協会』の下部組織で、反対活動にかこつけて信者勧誘や資金徴収を行う隠れ蓑的な位置付け。

 そして先日、シドさんを撃った井谷奈いやな記者は教会の準幹部だったのです。


 その後、無事帰宅したシドさんを交えて、より詳細なお話を伺うべく我が家に御招待したマコさんが…実は、私と同じ『ルナリアン』の遺伝を色濃く受け継ぐ存在だったことも判明!

 彼女のご両親は、そんな彼女を将来的には協会の教祖に据える野望を抱いてましたが、当の彼女自身は相当辟易した様子で…。

 そんな最中、あれだけの騒動を起こした井谷奈記者が、証拠不十分なんて信じ難い理由で保釈されたとのニュースが…!?


 さらには、ビラ配りを途中で抜け出してきたマコさんのサボリに大激怒したご両親が、真昼間の駅前で彼女を平手打ちにするという凶行にも遭遇!

 この分だと、日常的にまだまだ酷い扱いを受けていそうですね…。

 そこへ割って入った私達『宇宙人』に敵意を露わにする彼らでしたが、騒ぎを聞いて駆けつけた警官隊に根こそぎ検挙され…

 そしてマコさんのご両親は、マコさん自身の被害申告により、虐待容疑や公務執行妨害で現行犯逮捕されてしまいました。


 最後まですれ違い続けたご両親を、それでも涙で見送るマコさんの様子に…私はだんだん『家族』というものが解らなくなってしまいました。

 そんな彼女のいたたまれない姿に、シドさんが珍しくワガママを言い出して…。

 彼のたっての希望で、私達はマコさんを新しい『家族』として迎え入れたのでした。





「という訳で、ここは今日からキミの家だからね。気兼ねなく自由にしてくれて構わないよ」


 元は私の家なんですけどね。

 そんな家主よりも今ではすっかり馴染んでるシドさんに案内されて、再び我が家の敷居を跨いだマコさんは、


「お、おおっ…お邪魔しますっ!」


 バチクソ緊張してました。

 さっき来た時は全然フツーにしてたじゃないですかっ!?


「んで、あたしん家はお隣さんだからねー♩」


 アンタまだいたの?…なミユちゃんが、フレンドリーに話しかけると、マコさんは少し固さが抜けた感じで、


「仲がいいとは思ってたけど…ポラリスくんと隣同士だったのね」

「ポラリスゆーなって。コイツがココに引っ越してから…もう一週間くらい経ったっけ?

 その前はあそこ、俺ん家だったんだぜ」

「??????」


 まぁ、すぐには理解できませんよね…。


「つーわけだから、お前は今日から俺の妹だ。気軽に頼ってくれていいぜ、メガネ♩」

「むっ…」


 あからさまに不満げなマコさんですけど…原因は『妹扱い』の方でしょうか、それとも『メガネ』の方でしょうか?

 けれども無益な争いを望まない彼女は、あえてスルーします。本当に賢いですね。

 ところが次の瞬間、そんな冷静な彼女でさえ狼狽するほどの展開が…!


「…あ、そろそろご飯の時間だ。

 それじゃラリスくん、また明日ね…チュッ♩」


 仮想カレシとのイチャコラタイムよりも、自宅でのお夕飯タイムを優先したミユちゃんは、去り際にラリスくんと、超絶ナチュラルにキスを交わしたのです!


「!?」


 我が目を疑うマコさんの眼前でも、まったく動じないラリスくんもまた、


「おお、また明日な…ってどーせまた後でスマホに大量にメッセージ送ってくんだろーけどよ。少しは加減しろよな…チュッ♩」


 もはや熟練カップルのような空気を醸し出しつつ、またも超絶ナチュラルなキスの応酬!


「なっ…んなっ…!?」


 さすがのマコさんも、いまだ中学生のご身分的には超常現象すぎる級友パカッポーの赤裸々なやりとりには、全身真っ赤になって戦慄するしかありません。


「ア、アナタ達…まさか、そこまで…っ?」


 ミユちゃんを見送ってリビングに帰ってきたラリスくんに、しどろもどろで尋ねるマコさんに、


「アイツには世話になってるからな。こんくらい当然だろ?」


 余裕綽々で勝ち誇った笑みを返すラリスくん。


「何のお世話になってるのっっ!?」


 あ〜これは完全に誤解しましたねぇ。

 そしてあながち全て誤解とも言い切れないところが、またコワイんですけど。


「ハハッ、やるじゃないか。いつの間にそんな仲になったんだい?」


 大人の余裕をかまして冷やかすシドさんにも、ラリスくんは悠然と、


「ところ構わず盛りまくってるオメーら夫婦よかマシだろ?」

「ななななんてコトゆーんだいマコさんの前でっ!?」


 大人の余裕どこ行った? そしてなんでそこまで彼女を特別扱いするんですか旦那様?

 などと不満タラタラな私の服の袖を遠慮がちにクイクイ引っ張って、赤らんだ顔のマコさんは…


「私…本当にここに来ちゃって良かったんでしょうか…?」


 お子様が余計な気を回すんじゃ〜ありませんっ!!

 …せっかく新しい家族をお迎えしたというのに、その後に皆で囲んだお夕飯の席は、気まずさMAXのままお通夜のように静まり返っていましたとさ。トホホ…。





 は〜カッポンカッポン♩

 どんどん杜撰になる謎の水音を背景に、恒例のお風呂タイムです。

 新しい女性キャラが増えたら、ひとまずこのイベントは半強制的にでもこなすべきだと民明書房刊の『世界羅武米大事典』にも明記されていますから!

 …ですが、そんな浮かれ気分も、一緒に入浴したマコさんの身体を見た途端に霧散しました。


「…やっぱり、目立ちます…よね?」


 裸を見られた恥ずかしさよりも、ソレを目にした私の引き具合に、彼女は背中を丸めます。

 予想通りというべきか…服の上から見たときには判らない背中やお腹、お尻や脚の付け根などに…痛々しいアザや傷が、いまだ生々しく残っていました。

 彼女がどんな思いで、あの両親との地獄の日々を耐え凌いできたのか…想像しただけでも視界が潤みます。


「…大丈夫よ。ここにはもう、アナタを傷つける人は誰もいないから…その傷だって、すぐに癒えるわ」

「…………。

 そうですね…あの二人は、もう当分…帰ってきませんからね…」


 あ…失敗したかもしれません。

 マコさんはまた、ご両親に未練があるようです。

 でも…ネットニュースを確認したミユちゃんによれば、あの団体のメンバーはすべて逮捕され、なかでも主催者のご両親は様々な容疑で取り調べられている最中だとか。

 そして母体の教団は、例によって知らぬ存ぜぬを繰り返し、末端組織を切り捨てる気満々なご様子。

 手厚い保護ですぐに保釈された井谷奈記者とは雲泥の扱いの差です。

 ここまで露骨な愚行を繰り返しても、まだ信者が離れていかないだなんて…これはもう、宗教の皮を被った一種の『洗脳装置』に他なりません。


「昔はこうじゃなかったんです。お父さんも、お母さんも…本当に普通の親で…」


 物心ついた頃には既に両親がいなかった私には、何が普通なのかはいまいち解りませんが…

 マコさんの父親は、元は地元の中小企業に勤めるサラリーマンで、母親はスーパーのパート勤務で家計を補助するという、一般的な共働き家庭だったとか。

 …それが変わり始めたのは、マコさんが中学に上がって間もない頃。

 先に同宗教にドハマりした社長に強引に誘われる形で、全社員が団体主催のセミナーに渋々参加して…あとはお察しの通りです。

 全社員やその家族の様子がことごとくおかしくなった、そんな会社を相手にする他企業などあるはずもなく、取引が激減した会社はあえなく倒産。

 …したところを宗教組織に買収され、うだつの上がらない元社長に代わって生真面目なマコさんの父親が現社長…いえ、小回りが利くよう法人登録はしなかったそうなので、現主催者ですか?

 その形に落ち着いたまま現在に至るそうです。


「…以来、口癖のようにノルマ、ノルマって…次第に私にも協力を求めるようになって…

 その私が、不思議と他人受けが良いって判ってからは、どんどん要求がエスカレートして…ここ最近はもう、毎日のように…」


 …え〜っと、ビラ配りのお話ですよね? なんだかムダにエッチいんですけど…。

 それはさておき、学校ではクラス委員長を任されているマコさんですし、異性にも度々告白されてるくらいなので、知らず知らず人を惹きつける魅力はあるのでしょう…

 …けど、一つだけ気になる事が。


「もしかして…い、いわゆる『いかがわしいサービス』とかって、強要されたり…してないわよね?」

「…!? な、ないですないですっ、そんなコト絶対させませんっ!!」


 ホッ、良かった…。

 この全身の傷とか、大人びた容姿を見てると、どーしても心配になったものだから…。

 でもそーゆー割には、結局ビラ配りも手伝わされてるし…割とお人好しなタイプ?


「けど…させられそうになったコトなら…何度か…」


 ちょぅをを〜〜〜〜いっ!?


「でも、私はまだ未成年ですって実年齢を言ったら、それはさすがにマズイって相手も尻込みして…。

 もっと大人になってたら…どうなってたか判りませんけど…」


 もぉギリギリじゃないですかっ!? そのうち絶対、歯止めの効かない輩が出てきますよ!

 てゆーか成年だろーと未成年だろーとモロアウトでしょ、最近の風潮的に!

 やっぱり、世間から切り離されたその手の社会って、そこいらへんの判断基準もガバガバなんでしょうか?


「…………。

 …あ、あの…」


 期せずして妖しげな雰囲気になってしまったせいか、マコさんも何か変なスイッチが入ってしまったみたいで、


「美沙兎さんと、先生も…そゆこと…してるんですか…っ?」


 ぐぉっはぁ!? イキナリ面と向かってなんちうコト訊きますかね、この子は!

 でもそこは、私もオトナですしね…フフリ♩


「そ、そりゃまあ、夫婦ですから〜♩」


 するとマコさんはますます興味津々に、


「や、やっぱり…痛かった…ですか!?」


 なんたるダイレクトクエスチョン!

 学校の予防接種で必ずいる、クラス中にそう訊いてまわる人ですか!?

 注射なんて痛いに決まってるのに、他人に訊いてどーするつもりなんでしょうか。

 しかも注射針よかよっぽど強太ごんぶとなモノが出入りするとなれば、それは言わずもがなでしょうに…。


「さ、最初だけ、ちょっぴりネ。でもシドさんのって、その…サイズも紳士的だったから、あとは比較的スムーズに…」


 って、私も場の空気に流されて、何をベラベラ暴露してるんだかー!?

 エラソーにくっちゃべってるけど、私もまだ一回こっきりですし…しかも病室で、看護師長さんに中断させられて…。


「そ、それなら…私も大丈夫かも? 指二本までなら、なんとかなったし…」


 いったい何が大丈夫なのっ!?

 そして何処でどんな確認してるのソレっ!?

 大人びてるばかりか、割りかしおマセさんな子ね…ますますイヂクリ甲斐がありそう。ムフッ♩

 てゆーか…まぁね、前回からの流れ的に、もうそれ以外あり得なくなっちゃってますけど…


「もしかして…もしかしなくても…シドさんのこと、好きなの?」

「っ!?」


 私のさりげない?質問に、マコさんはビクンッ!?と肩をすくませて…


「…だって…あんなに素敵で優しい人…今まで、私の周りにはいなかったから…」


 あ〜も〜正直すぎて可愛すぎんだろーチキショイッ!?

 なまじクズ人間の掃き溜めみたいな場所にずっといたせいで、尚更そう思うのかも…?

 学校であれだけキャイキャイ騒がれてるラリスくんには見向きもしなかったのも、歳上好みだったから…?

 いい若いモンがシブい趣味してるわね。(←人のことはまっっったく言えない)

 そして、この私も…自身の秘密を知るきっかけを与えてくれたのが、そんな優しい彼だったのは…奇跡的な幸運だったのかもしれませんね。


「あのっ…ご迷惑はお掛けしませんから…許してくれませんかっ!?」


 え゛…許すって、何を?

 もしかして…私、恋敵に譲歩を迫られちゃってます?

 許しても何も、面と向かって寝盗り宣言されただけでもゴッツイ迷惑なんですケドッ!?

 そしてその後もご迷惑かけられ通しの将来しか予想できないんですケドォーッ!?

 でも…でも…っ。


「…そ、それはアナタの頑張り次第じゃない?」


 い、言えない…こんな傷だらけの純朴な天使に、頭ごなしに「それはダメ」なんて…っ!


「は、はいっ、ガンバりますっ!」


 だから何を頑張るんだか…。

 薄々気づいてたけど、やっぱりこの子もどっかオカシイわ〜。

 でもでも…それ以上に、素直でエッチでカワイイんですよね〜♩


「それなら尚更、身体をキレイにして、この傷も早く治しちゃわないとネ。

 お背中流してあげるから、そこに座って?」

「はいっ、お姉様!」


 …まーた妹分が増えちゃいましたよ。しかも今度は地雷付きの。

 それも…今はどうしても生傷に視線が行っちゃうけど、お肌もこんなに艶々してて…。

 私も同じ十代で、まだまだ若いはずだけど…こうも見せつけられると、自信なくなっちゃう。

 ミユちゃんのときにも思ったけど、若さってそれだけで凄いのね…。

 それに、なんてったってカワイイのが…プヨン♩


「ひゃふぅんっ!?」


 をーっと、予想外に可愛いリアクション♩

 ミユちゃんの場合はツルペタ過ぎてイマイチ肉感に欠けたけど…やっぱりこれくらいの程々なサイズ感が揉み心地もサイコーよのぉムヒョフヒョゲヘヘヘ♩(←単なるヒヒジジイ)


「ぅぅ〜っ…お返しですっ、エイッ♩」


 つくつんっ♩


「アッひぃんっ!?」


 ボォンヨヨヨォ〜〜ンッ☆

 あぁあぁ先っぽはダメダメッ、シドさんに開発されてからスンゴイ敏感になっちゃってるんだからぁ〜っ!


「す、凄い…先端から伝播でんぱんする振動が波紋みたいに肉塊全体を揺さぶって…!」


 少年誌のアクション漫画に出てくる、ワケ知り実況キャラみたいなもっともらしい解説やめれっ!


「あのあのっ…先生も…やっぱり、大っきいほうが好きなんでしょうか…?」


 おっ、やっとマウントが取れそうな質問が来ましたよ?


「それは間違いナイわね。いつも真っ先に私のおっぱいから攻めてくるし♩」(←そろそろ抵抗感が麻痺してきた)


 どう? こればっかりはお子ちゃまには真似できないでしょムフ〜ン?(←大人げない)


「ぅぅ…ガ、ガンバりますっ!」


 だから何を? めげない子ですねぇ…。





「っくしゅんっ!」

「大丈夫? すっかり長風呂になってしまったわね」


 お風呂場からリビングに戻るなり、カワイイくしゃみをしたマコさんを気遣いながら、私は隣のダイニングキッチンでホットミルクを温めます。

 ちなみに、お風呂あがりの私達は今、お揃いのパジャマを着ています。もちろん私のものをお貸ししました。

 私よりも若干背が低いため、多少ダブついて見えますけど、ほとんど違和感なく着られたようですね。

 彼女のトレードマークの眼鏡も、体温で曇りがちなのか、今は掛けていません。もともと着用しなくても、それなりに過ごせる程度の視力はあるんだとか。

 素顔のマコさんは、年相応のあどけなさがより際立って、いつもより可愛さ五割増しです♩

 普段は背中で結んでいる髪も解いて、ストレートヘアーの彼女は…なんだか、数年前の自分を見ているみたいで…少し奇妙な感覚です。

 シドさんが言っていたように、『ルナリアン』そのものな私と、限りなく『ルナリアン』に近いマコさんには、まるで本当の姉妹みたいな共通点があるのかもしれませんね…。


 あ、マコさんの私物は後日、彼女の自宅から取ってくる段取りになってます。

 あんなことがあったばかりじゃ、今日はお家に戻る気にもならないでしょうしね…。


「…クスッ…アハハッ♩」


 え゛、なんなの急に笑い出して、コワッ!?


「あっ、ごめんなさい。こんなに楽しいのは…なんだか久しぶりで…」


 …マコさん…。


「ウチも昔は、いつもこんなふうに楽しかったんですけどね。

 なのに…どうしてここまで…変わっちゃったのかな…?」

「…世の中、変わらないことなんて何一つありませんよ」

「…え?」


 子供が大人になる頃には、どんなに仲良かった親子だって、次第に遠のいていくし…

 夫婦仲だって年月を経ることに、愛情は家族愛へと移り変わっていくのかもしれません…。


「けれども…それだけは許せませんねっ!」


 元々どこにも居やしない薄っぺらな神様のせいで、それらが一気に、しかも強引に変えられてしまうなんてことは…決してあってはならないことです!


「でも…あの両親が急に考えを改めるなんてことは…たぶん、ないですよ…」


 ですよね…。あんな、誰がどう見ても常軌を逸してる自分達を、冷静に見つめられなくなってしまった人達が再び娑婆に復帰するのは…正直、限りなく困難でしょうね。


「…いくら考えたって…どうにもならないコトだらけなのが、人生ってものなんでしょうね…きっと」

「…………」

「それが解ってても…どうしても、無いモノねだりばかりしてしまうのは…私だって、同じですよ」


 それこそ、神頼みでもしたくなるほどに。

 そして、それをこじらせた結果が…マコさんのご両親や、あの井谷奈記者なんでしょうね。

 つまるところ…神様なんて、アテにするだけムダってことです。

 …と、言いたいところですけど。

 一時はもうダメかに思われたシドさんが一命を取り留めたのは、彼を救うために尽力してくださった皆さん以外にも、様々な要因が積み重なった結果であって…

 ソレを神のお導きというのであれば、きっとそうなのかも…。

 でも、これだけは確実に言えるのは…その存在は絶対、あの宗教団体が信仰する貪欲なモノとは似て非なる、本当の『神』だということでしょうか。

 『信じる者は救われる』とは言いますけど、そのために多額の金品をねだる神様なんて、聞いたこともありませんしね。


「だからこそ尚更、そんな曖昧なモノに委ねるよりも…自分が求めるものは、自分自身で掴み取れるように、努力し続けるしかないんじゃないですか?」


 それをすべて他力本願にして、努力すべきところを盛大に間違えた結果が、あの集団なんでしょうね…。


「ご両親はご両親、アナタはアナタです。他の誰かの言いなりにはならず、自分が信じた道を行けば、自ずと道は開けると思いますよ」

「…お姉様…」

「…な〜んてカッコいいこと言ってる私も、まだまだみんなのお世話になりっぱなしなんですけどね。

 変に肩意地張らずに出来ることから始めて、恩を返せるときには返す…それでいいんじゃないですか?」

「…はい!」


 思いつくままに言いたい放題やってたら、なんだか支離滅裂な話になってしまいましたけど…マコさんを激励する趣旨は成功らしいから、これはこれで♩

 …などと言っているうちに、ホットミルクが温まりました。


「さ、これでも飲んで、今夜は早めに休んで…」


 ミルクを注いだカップを持って、マコさんに手渡そうとリビングに向かったところで…


 ガシャーン!


 昭和ドラマ名物、心理描写を兼ねたけたたましい音を立てて、私の手からわざとらしく滑り落ちたカップが粉々に砕け散りました。

 そりゃ、こーんなおぞましい光景を目の当たりにしちゃっちゃ〜ねぇ…!


「んふふふミサさん、今夜もイイかな〜?」


 いつの間にかリビングに入ってきたシドさんが、鼻の下がだらしなく伸びきった分かり易いエロおやぢヅラで…なんと、マコさん相手に大変な粗相を働いてやがります!

 そんな彼に背後から羽交締めにされた彼女は、驚き半分、羞恥心半分なとりとめがつかない表情のまま、悲鳴を上げることさえ忘れて成すがまま、されるがまま。

 パジャマの下には下着未着用と思われる現役JCのカワイイお乳を、遠慮なく鷲掴んだ彼の手の指先が、蟲の脚のようにワシャワシャ蠢いて…。

 百年の恋もいっぺんに冷めるとは、まさにこのことでしょうか?

 この日、私は初めて心底こう思いました。


「シ、シドさん……キモッ!?」


 …あ、言葉にまで出ちゃってましたね。

 もしかして…私もあーんなお猿さんみたいな顔しちゃってるんですか?

 うーわーコレ他人には絶対見せられないヨ!


「ムフフフ…って、あれっ? ミサさん…ひょっとして、しぼんだ?」


 な、なんって失礼な!? まだ萎んだり垂れたりするよーな歳じゃないですよっ!

 それにマコさんのお乳の先端も萎むどころか、もぉ痛々しいほどビンビンぢゃあないですくわっ!?


「そーいえば、この抱き心地も全体的に一回り縮んだよー…な…?」


 そこでようやく、ダイニングから彼らを凝視する私の存在に気づいたシドさんは、一瞬「なんでそこにミサさんが!?」みたいな顔をして、


「…じゃあ…コレは…?」


 おっかなびっくり、自分の腕の中にいる相手を確認すれば…それは当然、真っ赤になって身悶えするマコさんでした〜♩


「ヒ…ヒィアーッ!? ごごごめんなさいごめんなさい間違えましたぁ〜っ!

 お願いだから、通報しないでっっ!!」


 …地球人よ、これが本当の宇宙人だ。

 瞬時に顔面蒼白となったシドさんは、揉まれた胸を両手で覆いしてうずくまるマコさんを、ア◯ーの神のように土下座で崇め奉ります。

 てかもぉ私と他の女の区別もつかないほど脳みそのシワがつるりンコと消えちゃいましたか、このエロ猿は?


「だって二人とも黒髪だし、眼鏡外して髪結ってなかったら、後ろ姿がそっくりだしで…!」


 ふ〜ん? じゃあ今後は絶対間違えないように、髪型変えたり染めたりしてみよっかな〜♩


「じ、じゃあ…もっと間違えてもらえるように、眼鏡はコンタクトに変えて、髪もストレートにしてみようかな…」


 あんですとぉ小娘っ!?

 せっかくの眼鏡をやめちゃったらアータ、眼鏡キャラのアイデンティティの崩壊でしょーが!

 そんな塩梅で全然怒ってなさげなマコさんの口ぶりに、「え…?」と意外そうに顔を上げたシドさんに、彼女は…


「あの…今はまだ、カラダをお見せする訳にはいきませんけど…キレイに治ったら、そのときは…また、抱いて頂けますか…?」


 どーですか、同性の私ですらも思わずクラッとくるこの誘い文句!? 

 しかも、そんな赤らんだ顔で、ウルウル潤んだ瞳で上目遣いに…。

 これで墜ちない男はいないでしょ?

 マコさん…恐ろしい子っ!


「あ、あぁ…わかった。その時を楽しみに待ってるよ♩」


 わかるなっ! 待つなっ!! 語尾に「♩」付けるなァーッ!!!

 本妻の前で何を堂々とセカンドキープしちゃってますか、この愚夫グフは!?

 この驚異的な手の早さ…ザ◯とは違うのだよ◯クとは!?


「…はい…っ♩」


 でもこの、いかにも嬉しそうにコックリ頷くマコさんの、はにかみつつも期待に満ち溢れたカワイイ笑顔に魅せられちゃったら…

 もう、それ以上は何も言えない私とシドさんでしたとさ。





「…そうか…そんなに酷いことに…」


 お風呂場で見たマコさんの身体の傷を報告すると、シドさんは辛そうに歯噛みしました。

 ここはシドさんのお部屋にして、私たち夫婦の寝室。

 並んで身体を横たえたダブルベッドがしきりと軋みますけど…今夜はそんなコトにうつつを抜かす気にもなれません。


「良かったですねぇ旦那さま? 彼女、本気でアナタを受け入れる気満々ですよ♩」

「いや、それは、まぁ…光栄だけど」


 そこは嘘でも否定しときなさいよ二枚舌下半身。


「もう既に逮捕レベルのコトやらかしちゃってますしね♩」

「それは重々反省しておりますのでっ!」


 まぁそこは、彼の私への愛情はそうそう揺らぐことはないだろうって、素直に自惚うぬぼれさせてもらっときますけど。


「…ここからは真面目な話。

 僕なりに色々調べてみたけど、あの教団は本気でマズいね。

 特に世界中から吸い上げた献金額は、とっくに小国の国家予算並みにまで膨れ上がってる。

 そこまで際限なくカネを集め続けて、いったい何を企んでるのやら…?」


 夕食後しばらく姿が見えないと思ったら、彼は自室で延々そんなコトを調べていたようです。


「既に教祖が代替わりしてるって話があっただろ? それまでは単なる新興宗教の一派に過ぎなかった連中の性格が大きく変わったのは、それ以来らしい」

「その新教祖と、あの井谷奈記者がデキてるって噂も気になりますね…」


 元自衛官の彼が加わったことで、国家の転覆をも目論む教団の暴走が始まったのか…?

 あるいは、目的達成のために彼を取り込んだのか…?

 いずれにせよ、一旦は逮捕された記者を、彼らがなりふり構わず取り戻した理由として、また何か良からぬことを企んでいそうな気がしてなりません。

 …とはいえ、今ここで私達が何を考えたところで憶測の域を出ないし、何か対策できるって訳でもないんですけど。

 それにしても…いつもの優しい笑顔も好きですけど、こうして真剣に考え込んでるときのシドさんって…


「…やっぱり、素敵ですね♩」


 と、思わず唇を奪ってしまった私に、彼は目を白黒させてから…


「そういうキミこそ、いつだって素敵だけどね♩」


 普段通りの優しい微笑を浮かべて、私の唇を奪い返して…。

 そうしたらもう、今夜は絶対ムリって思ってたのに…お互い、なんだかモニョモニョしてきちゃって…。


「…いいのかい?」

「アナタだったら…私はいつでも…♩」


 どちらからともなく、互いの身体をまさぐって…だんだん息遣いも荒くなって…


「…何やってんだ、お前?」

『ッ!?』


 不意に間近で聞こえたラリスくんの声に、私達は揃ってベッドの上で飛び跳ねました。

 けれども…慌てて室内を見回しても、彼の姿は見当たりません。

 どうやら、部屋の戸口で誰かに呼びかけていたようです。

 …と、ゆーことは…?


『……。』


 夫婦して無言で頷き合って、パジャマの乱れを正してから、そお〜っと部屋の外に出てみれば…


「やってきて早々、覗きか? なかなかヤルじゃねーか。期待の新人だな♩」

「あっ、そのっ、コ、コレは違くて…っ!」


 案の定、ドアの前でラリスくんに問い詰められて、しどろもどろになってるマコさんとバッチリ目が合いました。

 真っ赤な顔に涙を溜めて、アワアワうろたえていた彼女は…


「ごっ、ごめんなさい〜〜っ!!」


 脱兎のごとく逃げ出して、ヤドカリのように自分の部屋に引き篭もってしまいました。

 あ゛ー…これはもう、当面、自宅えっちはお預けですね…と、私はシドさんと苦笑し合います。

 私達の赤ちゃんのお目見えも、必然的にまだまだ先になりそうですね。

 とゆーわけで…今夜も『合体』ならず!



 


 明けて翌朝。


「お、おはよう…ございます…せんせえ、お姉たま…っ!」

「え、えぇ…おはようでがんす…」

「オハヨーミナノシュウ! キョウモ ゲンキダ アサヒガ ウマイ! アハッアハハッアハハハハーッ!」


 身支度を整えて食卓に着いた私達は、とても爽やか…とは程遠い、ぎこちない挨拶を交わします。

 昨夜、色々ありましたからね…。

 シドさんなんて緊張しすぎて、朝からバグり気味だし。


「う〜わ居たたまれねぇなー朝っぱらから…」


 平常運転なのはラリスくんだけですよ。


「ところでメガネ、オメー夜通し何やってたんだ? ひっきりなしに『あっあっ…』とか『んっがっぐっぐ…っ』とかくぐもった声が聞こえてくるから、気になって眠れなかったぜ」


 ガッチャアーーンッ!

 手にした食器を滑り落とし、赤くなったり青くなったり…しまいには赤黒いチアノーゼ気味の顔で羞恥に耐えるマコさん。

 そーいえば彼女のお部屋、ラリスくんの隣にしたんでしたっけ。お向かいのミユちゃんのお部屋からも近いから便利だろうって。

 まだ覗きに行かなかっただけお利口サンでしたね、ラリスくん♩


「…お姉様…一生のお願いです。私の部屋、別の場所に変えてください…!」


 そんな今にも首吊りそうな涙目で懇願されたら、聞かない訳にはいかないでしょ。

 こちらも配慮が足りなかったし、早急に善処させて頂きます。

 

 …それはともかく、今日こそは意地でも通学再開ですヨ!

 それに…学校でのマコさんの待遇如何が気になりますしね。

 彼女については、あんなことがあったばかりだから、無理しなくてもいいとは言ってみたんですけど…

 もう何日も学校に行けなかったから、今日は絶対行くって、生真面目な彼女らしいお答えが。

 ラリスくんも、この前向きな態度を少しは見習ってほしいものです。

 てな訳で朝食後、シドさんには朝から車を出してもらい、お隣のミユちゃんも誘って、全員で中学校に登校です!


『キャーキャーラリスくぅ〜んっ!!』


 今日も今日とて、校門前には彼の到着を待ち侘びた大勢のファンの人垣が。

 けれども、今朝は少々様子が違ってて…


「え…ええっ!? なんで大伴さんまで!?」

「嘘っ、石上さんも!? どゆこと!?」


 ラリスくんに続いて車から降りたミユちゃんとマコさんの姿に、黄色い悲鳴から一転して盛大などよめきが。

 美少女二人を両翼に従えて、王子様というよりはもう完全に売れっ子ホストですね…。

 と、そこへ駆け寄る多数の生徒達。


「委員長、大丈夫だった!?」

「ニュースで見たよ。大変だったね…」


 報道でマコさんのご両親の逮捕を知ったクラスメイト達でした。

 周囲に目を見張れば、やっぱりコソコソ陰口を叩いてる生徒の姿も目につきますが…思った以上に彼女を気遣う生徒達のほうが多いようです。

 学園モノにありがちな、いかにもツンケンして融通が利かない委員長とは異なり、級友思いで面倒見も良く、おまけに美少女な彼女ならではの人徳でしょうか。


「大丈夫…って言ったら嘘になるけど、なんとかね。助けてくれる人も多かったし♩」


 そこでマコさんは、車の中から様子を窺っていた私達に微笑み返しました。

 その様子を見ていた級友たちは…


「アレって…ラリスくんのご両親でしょ?」

「その車に一緒に乗ってきたってことは…まさか…!?」


 察しの良いクラスメイトに追及されたマコさんは、さほど慌てる様子も見せず、


「うん。今、ポ…ラリスくん家でお世話になってるの」


 直後、キャア〜〜〜〜ッ!?と黄色い悲鳴。

 なんで?どーして?とヒステリックに騒ぎ立てるギャラリーに、マコさんは悠然と、


「あ、でも誤解しないでね。私、お子様には全然興味ないから」

「誰がお子様だ誰が!? このアヘアヘ眼鏡ッ!!」


 具体的に誰とは言ってないのに、すかさず反応した自覚度満点のパツキン緑眼坊ちゃんの口を、マコさんは片手でグワシッと鷲掴んで無理やり黙らせ、


「それ以上余計なコトくっちゃべったら…その口、もぎ取ってあげるから…っ!」


 怖っっっわ!? そして何気に本気で至らしめかねない殺意の波動がひしひしと…骨がゴキュゴキュ擦り潰される音がここまで響いてるし!

 これは誰がどう見ても好意0%、剥き出しの敵意無限大ですね。


「私が気になってる人は…他にいるから」


 と、マコさんはまたもや私…ではなくシドさんに微笑み返し。さりげなく、かつ抜け目なくアピってきますねぇ…イラッ。

 ちょっとチッパイ揉んでもらったくらいで調子こいてんぢゃねーぞ、こじらせ眼鏡♩


「やっぱり…マコさんも地下室、行っとく?」

「ピィッ!?」

「やめときなさい。」


 私の呟きに耳ざとく反応して、尻尾の毛を引っこ抜かれた仔犬みたく総毛立つミユちゃんと、すかさず制止するシドさん。

 冗談ですよ、冗談…ムフフのフ♩


「う〜ん、これは困ったねぇ…フム…。

 ミサさん…青少年法って、どうやったら改定できるんだろうね?」

「改定してどーするつもりっ!?」


 つーか彼女の想いを受け取る気満々じゃないですか!? 断りなさいよ、私の夫なら!


「いや、断ってますますこじれさせるよりも、この際ポリッと一発済ませといたほうが、彼女も落ち着くかなーって…」


 なんたる斬新な解決法!?

 てか、生々しい話をスナック感覚でごまかすなっ!

 それって本妻の私から見たら、カンペキ浮気じゃないですか!?


「ホラ、日本のことわざにもあるだろ? 『毒を食らわば皿まで』って…」

「お皿が食えるぐらい余力が残ってるなら、まずは毒を食らわずに済むよう全力で阻止しなさい!」


 ダメだこの人、男女関係のモラルが根本的にハザードしてる!?

 今までが奥手で潔癖症すぎたから、隠れ性欲モンスターだったことに誰も気づかなかったんだ…!

 そんなダメなオトナがもたらすであろう、今、そこにある危機には、夢多き青春真っ只中の現役中学生たちは誰も気づかず…


「でも、そーやって否定してる割には…」

「なーんかやたらと距離感近くなってない?」

「怪しい…!」


 マコさんとラリスくんの仲を勘繰る級友たちも、なかなか引き下がりませんね〜。


「それはまぁ…私の部屋、いま、彼の部屋の隣だから?」

『キャアーッ!?』『イヤァーッ!?』


 マコさん、アータもアータでなんでわざわざ火に油どころかガソリン投下するよーな真似すんの!? お巡りさん放火魔はココですっ!


「でも、私なんかよりもずぅーと至近距離な『本命』なら、ここにいるけど。

 …ね、ミユちゃん?」

「ふぇ?」


 おーっとここでマコさん、すっかり蚊帳の外に追いやられてヘソを曲げてたミユちゃんを召喚だぁーっ!?

 いつの間にか呼称も私のを真似てるし。


「アナタ、ラリスくんと付き合ってるでしょ?」

「う…うん♩」

『キャアアア』

「いや付き合ってねーって、だから」

『ア…???』


 恥ずかしそうなミユちゃんの回答を、即座に否定したラリスくんのせいで、ギャラリーは黄色い悲鳴を上げるべきかどうか戸惑いまくり。

 今さらどの口が? デパートの閉店セール並みの嘘をつくんじゃありませんっ!


「でも、好きなのよね?」

「う…うん♩」

「そりゃまぁな」

『キャアアアーーーーッ!?』


 今度こそブチ上がった悲鳴が、黄色を通り越してオレンジがかってくるのを見計らって、マコさんはトドメとばかり、


「じゃあ、証拠を見せて♩」

「う…うえええっ!?」

「あ〜も〜、こーすりゃいいんだろ?」


 イキナリな催促に躊躇するミユちゃん。

 それに痺れを切らした短気なラリスくんは、小柄な彼女をヒョイッと摘み上げて、恒例のお姫様抱っこをすると、そのまま流れ作業的に…

 …チュッ☆


『ぅギャアアアアい゛や゛あ゛あ゛あ゛ーーーーッッ!!!?』


 こ、これはスゴイ…。

 二人のナチュラル人工呼吸を目の当たりにした校門前の人だかりからは、もはや悲鳴を通り越して断末魔の咆哮的な大絶叫が…!

 ラリスくんファンにとっても、ミユちゃん推しにとっても、朝イチで悪夢…というか夢の終わりを見せつけられちゃった訳ですしね…。

 それにしても、マコさん…他者を利用して、己に降り掛かる火の粉を見事に回避してみせたわね。本当に…恐ろしい子!


 さて、現場はそれどころじゃありませんよ。

 凸凹パカッポーのショッキングシーンを直視してひきつけを起こした子やら、鼻血を噴いてブッ倒れた子やら、失神した子やらで…校門前はさながら阿鼻叫喚の地獄絵図と化しています。

 朝っぱらから、なんとも壮観ですネ♩


「ななな何やってんだ何やってんだお前らァーッ!?」

「ここ校内での不純異性交遊は禁止ですよォーッ!?」


 この期に及んで、やっとこさ校内から飛び出してきた先生方が事態の鎮圧にあたります…が、とっくに手遅れですよネ♩


 結局、この日はショックで早退する生徒多発で授業にならなかったため、臨時休校になってしまいましたとさ。

 そして学園キステロを働いた当事者のミユちゃんとラリスくんは、自宅謹慎一週間。

 …ま〜たお休みですか。まぁ仕方ないけど。

 お休みが貰えた上に、お家でずっとイチャイチャできる♩ってミユちゃんは内心大喜びでしたけど。

 どさくさに紛れて、ラリスくんとの交際宣言もできちゃいましたしね。

 でも、主犯格のマコさんには、直接的な容疑は見当たらなかったという理由でお咎めナシ。賢いですネ♩


「え゛〜っ、なんでいいんちょ…マコちゃんだけエコ贔屓!?」

「ズリィよなぁ、この腹黒眼鏡…」

「決まりは決まりだからね。フフッ♩」


 などと悪魔の微笑を浮かべる彼女ですが…

 この件で、以前よりも笑顔が増えて親しみやすくなったからって、ますますファンが増える結果に…。

 完全に一人勝ちの構図です。ちゃっかりしてますネ♩


 とにかく、果たして学校でマコさんがちゃんと受け入れられるかどうかが心配で着いてきちゃいましたけど…このぶんなら大丈夫そうですね。

 ホッと一安心…という訳には問屋が卸さないのでした。

 まったく、次から次へと…!





 そう…臨時休校になったのは、何もこんなおバカな理由からだけではありませんでした。

 そしてそれは、この直後に私達や…とりわけ、マコさんの運命を大きく左右する出来事となったのでした。


 死屍累々で混沌とする校門前の風景に、にわかに暗い影が差して…いえ、比喩的表現ではなく、実際に頭上から射す日光が、急に薄暗く翳ったのです。


「…ん? 何だ?」


 誰かがふと空を見上げると、みんなそれに倣って一斉に頭上に視線を送ります。

 何やら強烈な胸騒ぎを覚えた私とシドさんも、車から飛び降りて空を仰ぎ見ました。


「…嘘…!?」


 いつからそこにいたのか…学校の上空には、超巨大なUFOが音もなく悠然と浮かんでいました。

 それは先日見た、学長さんこと地球派遣保安官のパトロール機よりも遥かに大きくて…

 真下に位置する中学校の敷地が、機影にスッポリ収まるくらいで、何平方キロメートルあるのか見当もつかなくて…


「嗚呼っダメよダメダメ…あんなおっきいの入らな…ひぎぃっ!?」

「ミサさん、そーゆーのはベッドの中だけにしようか?」


 視界に収まりきらないUFOを見上げすぎて、平衡感覚が狂いコケかけた私を、何故だか顔を赤らめたシドさんが抱き起こしてくれました。

 それでも私は、なおもUFOから目を離せません。

 宇宙人の存在が公となった今日でも、彼らの乗り物がこれだけ堂々と人前に姿を現すのは、極めて稀な事態ですし。

 それに…


「…綺麗…!」


 全面が純白に輝くそれは、鏡のように陽光を反射して…。

 さらに所々に黄金色の、文字列とも模様ともつかない意匠がセンス良く施されて…。

 さながら、天空に浮かぶ巨城のようで…。


「『ソル・ラディアンテ』…どうして此処に…?」


 呆然と呟くシドさんの口から、その名と思しき文言もんごんが飛び出しました。


「…知ってるんですか、アレ?」

「…まぁね。アレは…」


 と答えかけた彼の声を遮って、


《地球人よ、お初にお目にかかる。》


 天空の城からのアナウンスが、辺り一面に轟きました。ですが、その言葉は…


「なんか喋ってるぞ?」

「何て言ってるの?」

「解らん。…聞いたこともない言語だ」


 …やはり、宇宙ネットワークを介しての自動通訳が適用されない普通の地球人には理解できないようです。


《余は銀河皇帝、シャムス・ド・アルフォンス・グレイシアであーるっ!

 皆の者…が高い! 控えおろうッ!!》


 うーわーいきなりめっちゃエラソーですよ?

 ですが呼びかけがまるで理解できない群衆は、ぽかーんと口を開け放ったままノーリアクション。

 理解できたらできたで「フザケんな!」と大暴動に発展していたでしょうから、聞こえなくて幸いでした。


「…皇帝…?」


 けれどもシドさんだけは、不思議そうに小首を傾げて怪訝な顔。

 UFOの存在は知っているのに、皇帝なんて聞いたこともなさげな様子です。


《クッ、これだから未開人は…!

 …まあ良い。今から余がそちらに出向こう。

 妙なことは考えぬほうが身の為だぞ?》


 そう言い放つなり、UFOの下部中央からスポットライト状の光の帯が地上まで真っ直ぐ伸びてきました。

 その中を、何人かの人影を載せた薄い板状の物体が、エレベーターのようにゆっくり降下してきます。

 偉そうな割には、ずいぶんフットワークが軽いですね。たぶんかなりのせっかちサンなんでしょう。

 …薄い板が地表に近づくにつれて、光の中の人の人相がハッキリ判るようになってきました。

 板の中央でふんぞり返っている『皇帝』らしき人物は、着ている装束こそ映画や演劇に出てくる王様のようにゴージャスそのものです。

 モーント人特有の虹色に輝くド派手な髪色も、これだけ着飾ればさすがに違和感がありません。

 が、ムダに残念イケメンなその端正な顔立ちには、どこかで見覚えが…?


「…兄上…」


 私のそばで、シドさんがうわごとのように呟きます。

 そうそう、なんのことはない、この二人の顔立ちが実にそっくりで…

 …って、ちょっと待ってちょっと待って?

 自らを銀河皇帝と名乗る人にソックリってことは…


「…もしかして、シドさんて…『王族』!?」

「あれ、言ってなかったっけ?」


 言ったことも聞いたこともありませんよっ、ただのいっぺんもっ!?

 道理でこの人、どこか浮世離れしてた訳ですね…。納得いかないけど合点しました!


「ステキ…☆」


 私達の会話をちゃっかり盗み聞きしてたマコさんが、お目々どころか眼鏡全体をワクテカさせてますけど、そんな場合じゃないでしょ!?

 てゆーか私、そんなやんごとなき人に土下座させたり殺しかけたり、夜な夜な組んずほぐれつイヤソバカソアハーソ♩したりしてた訳ですか?


「いやいや、王族ったってそんな大したものでもないよ。

 母星を中心とした星系をいくつか束ねてるだけの、辺境の豪族みたいなもんだからね」


 その"大したもの"のスケール感が途方もなさすぎて比較不能なんですけど!?

 今までさんっざんやらかしたアレやコレやも、どこまでも底抜けに深ぁ〜い彼の許容度で大目に見てくれてただけで、下手したらとっくに地球終了してたんじゃ…?

 なんだかもう…毎日『コーラ』だと信じきって飲んでた、甘くてちょっぴり刺激的なモノが…実は『石油』だった!みたいな衝撃ですよ。

 とても高価で貴重だけど、そのぶん毒性と危険性が高くて、使い道が限定されてて…一般人には到底扱いきれない。


「…久しいな、我が弟シドゥスよ」


 頭を抱え込んで苦悩している間に、すぐ間近まで降りてきていた皇帝様が、ラオウのように大仰な口ぶりでシドさんに語りかけます。


「ご無沙汰しておりました、シャムス兄上」

「『兄上』か…フム、その呼び方はもう余には相応しくないぞ。たとえ兄弟間でも礼節はわきまえるべきではないか?」

「…失礼致しました、シャムス"皇帝陛下"」


 うわ…何なんでしょうかね、この悪寒にも似たイヤ〜ンな感じは?

 顔立ちはよく似ていても、中身はまるっきり別物っていうか…。

 その飾らない人柄で自然と人を惹きつけるシドさんとは正反対に、この人は…誰も寄せつけず、誰にも歩み寄らない…そんな徹底したATフィールドを周囲に張り巡らせている感じで…。

 そんな相反する印象を、私はこのいびつな兄弟から受けました。


「それで…その『皇帝』という呼称は、いったい…?

 前王はどうされたのですか?」

「ムゥ?…なんだ、まだ知らなかったのか?

 さては、こんな田舎にまでは情報が届かんようだな…」


 シドさんの根本的な質問に、自称『皇帝陛下』はニヤリとほくそ笑み、


「しばらく前に発生した"民衆の大暴動"により、前王は失脚し…代わって、大衆の支持を得たこの余が即位したのだよ」


 え、それって…『革命』!?

 …いいえ、違いますね。

 圧政に苦しむ市民達が立ち上がったのなら、暴利を貪り続けた王侯貴族はすべて敵視されるはず。

 なのに、こうして王族の彼が主導権を握っているということは…暴動を扇動したのは、たぶん目の前の…。


 だから、これは…

 事実上の『クーデター』…!!





「…何ということを…!」


 小声で呟いたシドさんの声と、握り締めた拳が小刻みに打ち震えています。


「フフ、そう案ずるな。余は民衆に宣言したのだ。余の一代で、彼らの生活を根底から一変させる、と!

 この『皇帝』という位は、そのために新たに制定した、余の決意の表れよ」


 言ってることは一見、とてもご立派ですけど…その裏でいったいどれだけのムダな血が流れたことやら。

 殺戮は新たな希望なんかに繋がるはずもなく、さらに新たな恨みと殺戮を呼ぶだけです。

 以前にも述べた「クーデターで良くなった国なんて無い」というのは、そういうことです。


「しかし、なんだこの粗末な豚小屋は?

 …まぁ、お前には相応しい城だがな」


 校門の向こうにそびえる白亜の中学校舎を眺めて、あからさまな嫌味をのたまう皇帝サマ。

 さっきからいちいちイラッとさせるセリフしか言わないあたり、いかにもファンタジーアニメ界隈によくいる悪役っぽいお偉いさんですねぇ。

 最初っからギュンギュン直感できましたけど、兄弟仲はお世辞にも良いとは言えなさそうですし…。


「ソレは城ではなく、地球人の教育施設ですよ。その周囲に建っているのも、ほぼすべて民間施設です。

 あと、この地に私の城はありません」


 温厚なシドさんも、さすがに苛立ってきたようですね。


「なに? それでは地球人の王侯貴族は、どこで何をしているのだ?」

「現在、大半の国家では王政や貴族制度は廃止されています。地球は民間人によって成り立っている星なんですよ」

「…なんということだ…。ならば、いったい誰が民衆を導くというのか?

 彼らの好き勝手に任せていては、まとまるモノもまとまらんではないか!?

 さすがは未開惑星、壊滅的に未発達だな…」


 まるっきし逆でしょーが?

 せっかくまとまりかけたモノを、好き勝手に混ぜっ返すアンタたち"老害"こそ不要なんですよ!

 よもや地球よりも遥かに進んだ文明を持つ宇宙人が、いまだに中世然とした政治まつりごとを平然と行ってるとはねぇ…。


「…まぁ、そんなことはどうでもいい」


 言い切っちゃいましたよ、地球なんてどーでもいいって。

 じゃあいったい何しに来たんですかアータ?


「お前…『ルナリアン』を手に入れたそうだな?」


 …やっぱり、目的は『私』でしたか。

 そうでもなけりゃ皇帝サマ自ら、はるばる宇宙の彼方から、こんなド田舎までお越し頂いたりしませんよね。

 珍獣のパンダを見るために、わざわざ動物園まで…今は中国まで行くようなものですよ。

 言い換えれば…私の価値って、それほどのモノなんですね?


「…こちらです」


 せっかく手に入れたオモチャをガキ大将に手渡すように、シドさんは渋々私を紹介します。


「ふぅむ…?」


 皇帝サマは興味深げに、好奇の視線をこちらに手向けて…


「…どっちがだ?」


 へっ? 予想外の問い掛けによくよく周りを見回せば…いつの間にか、シドさんの隣にマコさんがさりげなく立っていました。

 え…まさかこの皇帝サン、私と彼女の区別がついてないの? アライグマとレッサーパンダを混同してる日本人(※)みたいに?

 あ、でも専門学者のシドさんでさえ、マコさんを初めて見たときには「二人目のルナリアン!?」って驚いてたし、お風呂上がりの私達を完全に見間違ってましたしね…フンッ。


(※かつて『あらいぐまラスカル』なる世界名作アニメが制作された時、動物園で見た実物のアライグマの小汚なさに辟易したスタッフは、ほぼ似たような風貌で、より愛嬌があるレッサーパンダを元にデザインした。

 しかし両者はまったくの別種であり、放映終了後も日本人を長い間欺き続ける原因となった。

 また、ラスカルブーム時に大量輸入された彼らは、ブーム終焉と同時に不法投棄されて野性化し、現在もなお我が国の生態系を脅かし続いている。

 …民明書房刊『小判鮫はサメじゃない』より抜粋)


「…彼女が『天然モノ』のミサさん…竹取美沙兎たけとりみさとさんで、私の妻です。

 そして、こちらは『地球産』の石上麻胡いしがみまこさん。地球人ですが、限りなくルナリアンに近いと思われます」


 魚屋の大将みたいな紹介すなっ!

 ちゃんと自分の妻だと認めてくれたのは、まぁ…嬉しいですけど♩


「ほぉほぉ? 物好きなお前らしいな…」


 弟の妻だと知っても、皇帝サマはさほど動じず、私達を代わる代わる舐め回すように品定めして…

 な、なんだか、蛇に絡みつかれたみたいな粘着質な視線が…これはこれでアヒンッ♩


「ときに、お前達は『生娘きむすめ』か?」


 んがっ!? レディーに面と向かってなんちうコト訊きますかね!? 失礼にも程があるでしょ、この人は!?

 んな訳ないでしょ、こちとら人妻なんですよ!


「あ、あの…私はまだ…です」


 答えあぐねる私に助け船を出そうとしたのか、マコさんは震える声で…でもしっかり認めちゃいました。潔すぎ!

 てかこの場面で「ハイ」って答える子がいたら、むしろそっちの方が問題でしょ年齢的に?

 …アレ? でも、今…


「マコさん…今の質問、理解できたんですか?」

「え? あ、はい…ちょっと答えにくかったですけど…」


 いえいえ、そうじゃなくて…

 地球人に擬態して現地語で話してるシドさんやラリスくんとは違って、この皇帝サマは最初から『母星語』で喋ってるんですよ?

 つまり…普通の『地球人』には、理解できるはずがないんですけど…!


「あ、言われてみれば…どうしてでしょう?」

「う〜ん…極めてルナリアン純度が高い彼女を、宇宙ネットシステムが『ルナリアン』だと誤認して、同時通訳を利用可能にした…とか?

 ほら、地球の顔認証システムも誤作動が結構多いそうだし、それと同じで…」


 仮説を打ち立てながらも首を捻り続けるシドさんの隣で、兄上の皇帝サマはことさら興味深げにマコさんを見つめ倒して…


「…気に入った。

 麻胡…と申したか?」

「は、はい…?」


 恐縮する彼女をズビシィッ!と指差し、宇宙ジャイ◯ンこと皇帝サマは一言。


「お前は、今から余の『妻』だ。」


 …は?…はぁあああ〜〜〜〜!?




【第七話END】

 今回前半は、前回から加わった新キャラ・石上麻胡いしがみまこのフォロー回です。

 あまりにもあんまりな家庭崩壊を受けた直後の彼女が、まぁまぁ落ち着いた様子をお見せしておかないと、救いようがないですしね。

 でも元々かなり芯の強い子ですし、意中のシドゥスと一緒に暮らせるということで舞い上がっちゃってますから、心配するほどのことはなさそうです。

 必ず最後に愛は勝つ!

 言い換えれば…肉食は最強ッ!!

 草食に愛を語る資格など…ないッ!!!

 何、わからない?…わかれっ!!!!(笑)


 最初はヒロイン竹取美沙兎たけとりみさととは好対照な、おしとやか〜で理知的な眼鏡っ子いいんちょになる…はずだったんですけど…おっかしーな、どこで道を踏み外したんだろ?(笑)

 でも実際、気づけばいつしか完全にご亭主を寝盗ってるオンナって、だいたいこーゆーエッロ可愛いくて"尽くすタイプ"ですよね。

 不倫ドラマかVシネマに出てくるライバルキャラみたいな、いかにもお水的な派手派手タイプじゃなくて。

 あんな金かかりそうな奴に引っかかるのは、未婚のド素人だけですよ。

 現在のパートナーには無いものを全て備えた理想の相手が出てくるからこそ、不倫は成立するんです。

 ちょっと前に『ゲス不倫』なんて言葉が流行りましたけど、不倫は元々ゲスな行為ですし、それ以上にパートナーに不倫させるような輩がゲスなんですっ!

 …あ、待って待って奥さんちょっと落ち着いて、まずはその出刃包丁置いて!(笑)

 人の振り見て我が振り直せ、(旦那とお相手の)赤子泣いても刃物は取るな!

 え〜っと…で、今、何の話?(笑)


 程よく尺が稼げたところで。

 後半では、少しずつ匂わせてきたシドゥスの過去を暴く新展開へと突入します。

 とゆーわけで超巨大城塞UFO『ソル・ラディアンテ』が登場しました。「輝ける太陽」って意味だったかな?

 やっぱSFならUFOの一つも出しとかないと…と思いつつ、第二話で出てきた保安官の巡視船以外は未登場でしたしね。

 これがハリウッド映画なら、直後に問答無用で地球人大量虐殺の大侵攻がおっぱじまるところですが…曲がりなりにも文明人なら、イキナリそんなことはしないかと。

 …してくる人も中にはいらっしゃいますけど。闇バイトとか珍走団とか、某合衆国のイカレ金髪ダンシン'おやぢとか…

 あれっ? 意外と多かったな(笑)。

 あんなダメ人間にだけはなりたくないものですね、本当に。

 でも人間、追い詰められると何をしでかすか判らないもので…次回はそういったお話になるかと。

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