この作品はフィクションであり以下略
【前回のあらすじ】
アンチ宇宙人派のマスコミ記者に街中で撃たれ、半死半生となったシドさんでしたが…
その直前に擬態を解いて、地球人よりは頑丈なモーント人の姿に戻った彼の機転と、彼の命を救うべく尽力してくださった皆さんのおかげで、無事に息を吹き返しました。
本当に…どれだけ感謝してもしきれません。
命の危機に瀕して、それまでの私への接し方を改めて考え直した彼は、人が変わったように積極的になって…
私達は晴れて、『身』も心もガッツリ結ばれちゃいました。キャッ☆
でもそこは病室だっから、看護師長さんに見つかってメチャクチャ怒られましたけどね。てへぺろっ♩(←あ〜殴りてぇ〜!)
経過観察のため一日入院したシドさんを残して自宅へ戻ると、先にお見舞いから帰ったラリスくんが一人でお留守番してて…
どーゆー訳だか私たち親子は、一緒にお風呂に入ることに。ホントになんで???
でもそこで、いつもおちゃらけてる彼の壮絶な過去と、本当はとても寂しがり屋だったんだって本音を知ってしまって…。
どうにも堪らなくなった私は、つい…彼と、キス…しちゃいました。
でもでも、私と彼は、見た目の年齢こそ近いけど、親子なのに…こんなの、イケナイことなのに…!
私はこれから、彼にどう接していけば良いんでしょうか…?
◇
…な〜んて余計なコト考える前に、朝イチでラリスくんからの唐突なキス攻撃で一撃ダウンしたミユちゃんをなんとか致しませう。
このまま家の前に放置しとくのも可哀想なので、せっかく施錠して出掛けた我が家のリビングにみんなで逆戻り。
ちなみに学校は…またお休みに決まってますよねグッスン。
…てゆーか私達って、第一話以来ほとんど学校行ってなくないですか? いくら宇宙人だからって限度ってモノがありますよ。
サボリ、ダメ。絶対!
「…ぅぅ…ごめんなさい〜!」
小一時間後にやっと再起動したミユちゃんは、なおも挙動不審で危なっかしい限りで…
特に、ラリスくんとはまともに顔を合わせられなくなってて、彼と目が合いそうになると慌てて私の背中に隠れちゃって…ラブリー♩
彼女の気持ちはよく解ります。私だっていまだに戸惑い続けてますし。
だけど、いつまでもこのままでは困っちゃいますよね…。
「ラリスくん、ミユちゃんにちゃんと謝りなさい」
「はぁ? なんでだよ、俺はコイツに感謝してやっただけだぜ?」
予想通りの反応を返すラリスくん。
「やり方が問題だって言ってるんですっ!」
「お前が教えた通りにやっただけだろが!?」
しかも教わった翌日、手っ取り早くお隣さん相手に早速実践するとか、予想の斜め上すぎて着いていけませんよ!
「え?…お姉さま、それってどーゆー…?」
あーっと、この流れはマズイですね!?
私がキスの方法を彼に教えた…なんて知ったら、ミユちゃん本気で自殺しかねませんし。
「そもそもラリスくんは、ミユちゃんが本当に好きなんですか!?」
という私の見事な切り返しに、ラリスくんは微塵も戸惑うことなく、
「ああ、好きだぜ!」
「ふえぇえっ!?」
一瞬で真っ赤に染まるミユちゃんに…私は申し訳なさでいっぱいでした。
ラリスくんにそう訊けば、この答えが出ることは判り切っていたからです。
ただしそれは、「愛してる」の意味ではなく、単純に「好きか嫌いかでいえば」の意味なんですけど。
ラリスくんは…いまだに『愛』というモノを…理解できていませんから…。
「嫌いな奴に、こんな真似するわけねーだろがっ!?」
あ…この答えはちょっと予想外でしたね。
前述の見解がなければ誤解率百パーセントな彼の回答に、
「ラリスくん…っ」
ミユちゃんのつぶらなお目々から、不意に涙がこぼれ落ちます。
これまた予想通り…彼女はラリスくんの想いを、百パーセント誤解してしまいました。
そして…
「あたしも…ラリスくん、好き…っ」
涙ぐむ彼女からの、突然のお返しキス。もちろんマウス・トゥ・マウスです。
ミニマム美少女にここまでされたら、これで堕ちない男の子はいないでしょう。
…ラリスくん以外は。
「んむ!?…ん…」
一方のラリスくんは、ミユちゃんからの反撃に戸惑いながらも…黙ってその愛を受け入れています。
キスの概念そのものを誤解したままの彼には、抗う理由はありませんからね。
そんな二人の『すれ違いカップル』の行為を目の当たりにして…
私は、たまらなくモヤモヤしていました。
ミユちゃんの気持ちはもう、痛いほど解ってるんだから、素直に祝福してあげればいいのに…
心のどこかで、それが許せない自分がいます。
「…ごめんね、ラリスくん。もう大丈夫だから♩」
「そか? ならいいけどよ…」
彼女達の年齢からすれば若干大人びてるかもしれない行為を交わし終えた後…
すっかりいつも通りの仲睦まじい感じを取り戻した、"決して本当の恋人同士にはなれない"二人に、私はぎこちない微笑を送りながら…
その内心では、二人の新たな門出をずっと呪い続けていました。
ミユちゃん? ラリスくんが本当の『愛』を理解できた、その時…
アナタ達の『恋』は、終わるのよ…って。
私は…本当に、嫌な女です…。
◇
やっと平常運転に戻った私達は、もうすぐシドさんをお迎えに行く時間だからと、再び揃って自宅を後にしました。
いつもなら、その目的地である永蘭病院までは車で向かいますが…
我が家で唯一、車が運転できるシドさんは入院中で不在なため、当然、車が使えないとゆーパラドックス。
仕方なく、タクシーでも使おうかな?と考えてみたところで…ふと、
「…そういえば…"あの集団"って、まだ活動してるんですか?」
「うん、相変わらず駅前を大量のビラで汚しまくっちゃってますよ〜」
「逮捕者が出てもお構いナシかよ。つーかアレがお仲間だって、認めてすらいないしな…」
昨日の白昼、宇宙人のシドさんが反対派のマスコミ記者に銃撃された事件は、瞬く間に日本中を震撼させました。
そして、そこから奇跡の復活を遂げたシドさんに驚嘆と安堵と、身を挺して私を守ったことへの称賛の声が多数寄せられた一方…
一方的な攻撃に転じたあの記者には、地球人の風上にも置けないク◯野郎!との罵詈雑言が飛び交いました。もちろん私もそう思います。
幸か不幸か、この一件で国内世論はほぼ完璧に宇宙人擁護派へと傾いたそうですし。
そして、容疑者が一貫して宇宙人を敵視していることから、当然のように駅前で「宇宙人追放」のビラを撒いている"例の集団"にも嫌疑が掛けられた次第ですが…
現状では、その集団自体の実態がよく掴めていないとか。
当人達はあくまでもNPOを謳っているのですが、そもそも法人登録されていないため活動実態が不鮮明で…
一説によれば、有名な某宗教団体の偽装下部組織ではないかとの噂も…。
「…とにかく、実際この目で見てみないことには…ですね」
とのことなので、タクシーを捕まえがてら『敵情視察』のため、私達は徒歩で駅前へと向かいました。
もちろん、万一連中に出くわしてもバレないように、皆それなりに服装とかでカモフラージュしてますけどネ。
ちなみに、いつもはシドさんに合わせたフェミニンなスタイルが多い私は、今日は珍しくデニムパンツをメインにしたカジュアルコーデ。動き易くて結構イイですねコレ♩
「わっ、お姉さまスンゴイ似合ってます! 美人さんはなに着てもバッチリですねー☆」
「そぉ? フフ、ありがと。そういうアナタ達もカワイイわよ♩」
対するミユちゃんとラリスくんは、お揃いのミッションスクール系制服コーデ。年齢的にこんな日中に駅前にいても職質され難いよう対策しました。
てゆーか日頃からお揃いの中学制服姿が多い二人なのに、ちょっと毛色が変わっただけで不思議とコスプレ感ハンパないですね…。
「…マジに見違えたぜ。マコにも遺詔ってヤツか?」
「…誰ですかマコって? しかもなんでわざわざ誰も使わないよーな小難しい語句に間違えますか?」
まぁ言いたいことは解るから、あえて訂正しませんけど…一応褒めてくれたみたいですね。
そーゆーラリスくんは自宅じゃラフでカジュアルな格好が多いのに、今日に限ってお揃いじゃないのが少し残念かも…。
個人的にも気に入ったから、今度こそ親子コーデしてみよっかな…♩
ファッションについてはこの辺にして…
私自身は、日頃は駅前には用事がないため近づく機会すらなく、昨日予定していた近辺の書店にも、結局立ち寄れずじまいで…。
ラリスくんやミユちゃんも、先日の政府会見以来、駅前には極力近づかないようにしているため、現在どのようになっているか解らないんだとか。
…平日の正午近くにもかかわらず、駅前はかなり混雑しています。
最近では外国人旅行客も多くて、小中学生程度のお子様も案外目につくから、ミユちゃん達も悪目立ちすることなく…完全に杞憂でしたね。
その混雑ぶりに、さらに拍車をかけているのが…
「打倒、侵略者ッ!!」
「私達は、決して彼らを許しません!」
「アナタ達も、騙されないでっ!」
もう何度も噂を耳にした、例の『ビラ配り集団』です。
老若男女問わず、様々な格好の人々が街頭の至る所に立ち、一様に同じ仕草で同じビラを配っている様子には、一種独特な違和感を覚えます。
公共の場所でのあからさまな営業活動は当然禁止されているはずですが、そんな規則はどこ吹く風で、予想以上に堂々としていることにまず驚かされました。
こんな不法集団に騙される人こそ、唯の一人もいないことを切に祈りましょう。
…などと案ずることもなく、街行く人々の間では既に「宇宙人も地球人の仲間」という認識が半ば常識化しているため、大半の人は受け取りすらせず団体の間を素通り。
たまに面倒臭げに渋々受け取る人がいても、内容には一切目を通すこともなく、離れた場所でこれまた平然と投げ捨てたり、通りの植え込みの陰にクシャクシャッと捩じ込んで放置したりしています。
これじゃあ誰が言ってた通り、わざわざ不法投棄ゴミを増やしてるだけですね…。
「…お願いします。…お願いします」
ところがそのメンバー中、一際目を惹く特異な存在が。
腰元まで伸ばした黒髪を、背中で巫女さんのように束ねて、純白のワンピースドレスを着た、見るからに清純で神秘的な雰囲気の美少女です。
眼鏡越しでも判る綺麗で凛々しい顔立ちは、まだあどけなさを残しつつも大人びた印象で…。
言葉少なに、通りかかった人に事務的にビラを手渡しているだけなのに…不思議と彼女の分だけ、不法投棄する人が見当たりません。
自分で言うのもアレですけど…やっぱり美人は得ですね♩
それにしても、この平日のお昼前に…なんでこの場にいるはずのない年頃の少女が?
学校はどうしたんでしょうか?…って、私達も他人のことは全然言えませんけど。
「あれっ、いいんちょさん…!?」
そんな彼女の存在に気づいたミユちゃんが、意外そうに呟きます。
「んあ、知り合いか?」
「何言ってんのラリスくん、うちのクラスの委員長じゃない!?」
あーその切り返しは彼には酷ですよミユちゃん。たぶん彼の目には、いろんな意味で目を惹くアナタ以外、クラスメイトは全員同じ顔に見えてますから。
てゆーか…ええっ! あの子、この二人のクラスメイトなの!?
割と大人びて見えるから、てっきり高校生くらいかと思ってましたよ。
けどまぁ、一見とても中学生には思えないミユちゃんを基準にすると、あらゆる感覚がバグってしまうから、著しく信頼性に欠ける印象ですけど。
「あの人ってすんっごいマジメだから、滅多なことじゃ学校も絶対休まないはずなのに…?」
「でもソレが今、現にここに突っ立ってんだろ?」
「しかも私服…明らかにサボリですよねぇ?」
などと不審がりつつ、そちらを凝視していた私達に遅ればせながら気づいた眼鏡っ子は、
「…!?」
慌てて周囲を警戒するなり、急いで私達のそばへと走ってきて、
「ココじゃマズイから…こっち来て!」
と耳打ちしたっきり、ろくに説明もしないままミユちゃんの手を引っ張ると、他の団体メンバーの視線をキョロキョロ気にしながら、早歩きで何処かへと向かいます。
仕方なく、私達も彼女に倣って駅前を離れました。
◇
ほどなく辿り着いたのは、駅前には必ずある、何の変哲もないカラオケボックス店。
お昼前なので利用客がほとんどいないそのお店の、一番奥の部屋へとシケ込んだ私達は…
「へぇ…これがカラオケ…やけに薄暗いですね…?」
「ずいぶんケッタイな部屋だな。いったい何する場所なんだココは?」
初めて目にする店内の様子に目を白黒させる私とラリスくんに、
「あれ、もしかして来たコトない? 歌を唄うお店だよ。あたしは家族や友達とよく来てるけど♩」
鼻高々で自慢するミユちゃん。自分で建てたお店でもないのに、どぼぢでそこまでマウント取れますか?
「唄うって…プロ歌手でもねぇ素人の歌をカネ払ってまで聞かされるのか? そんなん何が面白いんだよ?」
至極当然な疑問を口にするラリスくん…ちなみに私も同じ感想ですけど…に、ちょっぴり不満そうに口を尖らせたミユちゃんでしたが…
すぐに気を取り直して、
「一度やってみたら、すぐに楽しくなるよ♩
え〜っと何唄おっかな〜?」
イケナイ葉っぱを素人に勧める常習者のような口ぶりで、早速タブレットみたいな機械をスイスイ操作し始めたミユちゃんから、
「悪いけど、唄うのはまた今度にして。
今はそれどころじゃないの」
いいんちょさんは素気なく機械を取り上げて、自分の席の隣に放り出すと、
「突然こんな所にお連れしてすみません。
あの人達はこんな浮ついた場所にはまず入って来ないと思いますから…」
ペコリとお辞儀。浮ついた場所…。
「…初めまして。私は石上麻胡。この二人のクラスメイトにして、委員長を務めさせて頂いてます」
マコちゃんホントにキターーーーッ!?
しかも眼鏡っ子いいんちょとか、なんってテンプレ…!
「あ、これはどうもご丁寧に。私は…」
「ポラリスくんのお母様ですよね。先日、校門前でお見かけしました」
私も自己紹介しかけたのを遮って、いいんちょ…マコさんはズバリ私の素性を言い当てました。
あー、ラリスくんを午後から学校に連れて行った、あの時か…。
「…おい。ポラリスゆーなっつってんだろ?」
自分の本名の間抜けっぽい響きが気に入らないラリスくんとは、瞬時に険悪な雰囲気になりますが、マコさんはまったく動じることなく、
「…昨日は、ご迷惑をお掛けしました」
今度はさっきよりご丁寧に、私に向けて平謝り。
って、イキナリ意味不明ですよマコさん?
「あ、あの…私、何かアナタに謝られるようなコトしましたっけ…?」
訳もわからず尋ね返す私に…彼女は思いもよらない事実を告げたのです。
「いえ…先日、"あの男"に撃たれた、ポラリスくんのお父様…アナタの旦那様の件についてです」
…え?
「"あの男"…井谷奈貴志弥は、ウチの団体の関係者です」
「!? でっでも、ニュースではあの団体には所属してないって…?」
「はい、確かに。彼はウチの団体ではなく、その上位組織『真世界統合教会』に所属する準幹部です」
『真世界統合教会』…!?
これまた、思いもよらないビッグネームが飛び出しました。
それは日本の隣国に本部を置き、世界規模で活動する悪名高き新興宗教団体。
あの手この手で人心を掌握し、有無を言わさぬ強引さで着実に信者を増やし続け、各国の政界の奥深くにまで入り込んでは、国の政策にまで口出しできるほどの影響力を得ているとか。
とりわけ、その常軌を逸した莫大な献金額ゆえに家庭崩壊を余儀なくされた信者は後を絶たず、果てはそれをきっかけとした要人の暗殺事件にまで発展したことから、ついには世界中で危険視され始めた、事実上の精神テロ組織です。
って…ええっ!? 私、そんな大それた集団につけ狙われてたんですか…っ!?
そして、あの記者…。
取り調べた警察ですら、その異常性を危険視するほどの要注意人物が、あの時どうしてあんなにあっさり保釈されたのかが、これで解りました。
加えて、世間には流通していないはずの動画や音声を入手できたりと、個人では困難すぎる情報収集能力の高さも…。
すべては、バックにそれだけ強大な力を持つスポンサーがついていたからだったんですね…!
「ウチの団体…『宇宙人から国民を守る会』は、要はその教団の信者勧誘役や募金箱役を担わされてるんです。
そして、それを取り仕切っているのが…
…私の両親です。」
◇
かつては消費税だの悪法だの外国人だの、国民が反感を抱いていそうなキャッチーなネタには片っ端から飛びつき、それらを徹底的に叩きまくって参加者たちの共感を集めることで、着実に獲得信者数と献金額を稼いできた『◯◯から国民を守る会』。
ネタに合わせて団体名もコロコロ変えることで、より実態が掴みにくくなっていました。
しかし、ネタに対する大衆の耐性が上がれば、急速に興味関心が薄れ、それに伴って集金率も壊滅的になるのは世の常、人の常。
必然的に、要求されるネタの強さもジャンプ漫画並みにインフレ化していき…
正直、そろそろネタが尽きかけたところに降って湧いたのが、件の『宇宙人会見』でした。
悪魔や怨霊、疫病等々…未知の存在への恐怖は、いつの世でもついて回るもの。
それが、地球人にはどうすることもできない「宇宙からの侵略」であれば…そりゃー儲かるに決まってるっしょ!?と。
早速、喜び勇んで『宇宙人』を目の敵にした団体への関心は、一時的には歴代最高の大反響を記録します。
…ところがこれが、この私が行ったあの『ナマ配信』のおかげで予想外にはやく終息してしまったものだから、さぁ大変!
世間の大混乱が当面は続くだろうと予想して、大量に印刷してしまったビラをまだ捌ききれていないうちから、獲得信者数も献金額もとうに頭打ち。
このままでは背後に控えた教団への上納金が支払えなくなり、教祖様の怒りの矛先がこちらに向いてしまう…!
「…そこで、ついに私まで担ぎ出されてしまったという訳です」
マコさんはハァ…と、なかなかに色っぽい溜息をついて、
「どういう訳だか、私は昔から信者達のウケが良くて…両親も行く行くは、私を教団本部へと送り込むことで、現団体の昇格を狙っているようで…」
うーん…あの手の団体さんの内情なんて知るよしもなかった私ですけど、何かと大変なんですねぇ…。
客を騙くらかしてでも利益を上げようとするのは、どこの業界でも多かれ少なかれ同じことでしょうけど…
清廉潔白な宗教団体を自称している割には、深みにハマればハマるほど業が溜まっていきそーな…。
「でもでも、それで学校サボってでも手伝えってゆーのは…なんかおかしくない?」
生真面目なミユちゃんが当然のようにツッコミますが、マコさんは首を静かに振って、
「あの人達は、私の学歴なんかには興味ないですから。最終的に教祖に近づけさえすれば、それでいいと思ってますし」
この社会常識からの明確な乖離っぷり…世間様から後ろ指さされる訳ですね。
個性だの自由だのを尊重する以前に、人間という群れの中で生きていくためには、周囲との協調はある程度必要ですから。
それにしても…私達も大概なにかしらの問題を抱えて今日まで生きてきましたけど…彼女の諸問題の複雑さや難解さは、たぶんその遥か上を行ってますね。
「…とにかく、アナタ達はとっくに顔が割れてますから。あのままあんな場所にいたら、今頃ヒドイ目に遭わされてましたよ」
でしょーねぇ…現状の世論では、どっちがそんな目に遭わされるかは火を見るより明らかですけど。
「あの…いいんちょさんは、私達…宇宙人のこと、嫌い?」
恐る恐る訊いたミユちゃんに、マコさんは…それまでの冷静な態度が嘘だったかのように首をブンブン大きく振って、
「違うっ…むしろ逆! 私は宇宙人、大好きだからっ!!」
静まり返っていた室内が、一気に色めき立ちます。ここがそれなりに防音が効いたカラオケボックスで幸いでした。
面と向かってそう叫ばれたミユちゃんがカァ〜ッと赤面するほど、マコさんの回答は情熱的でした。
「私は昔から、本を読むのが大好きで…特に、日常を忘れて没頭できるSFやファンタジーは、それはもう時間を忘れて没頭しちゃうほど読み込んでて…!」
なまじ日常が厳しすぎる分、創作の世界へと逃げ込んでしまうのは、誰でも多少は経験あるかと。
大人びてはいても、マコさんはまだ中学生。本について熱心に語る彼女は、年相応の夢見がちな一人の少女に他なりません。
「でもそれは、所詮はお話の中だけの存在。って諦めてたら…
…まさか、本当に実在したなんてっ!?
しかも、想像してたよりもずぅ〜っとカワイイし、カッコイイし、キレイだし…っ!!」
ミユちゃん、ラリスくん、そして私を順繰りに指差して、彼女の興奮はなかなか鎮まりません。
「えーっとつまり…お前は俺達の味方ってことでオッケーだよな?
…じゃあなんでビラ配りに参加してんだよ。嫌なら断りゃいーだろ?」
至極ごもっともなラリスくんの意見ですが…
「だから、そー簡単にいけば誰も苦労しないんだよぉ。
ラリスくんだって、本当は嫌々だけど、お姉さまにせっつかれて渋々学校に行ってるでしょ?」
「あ〜…そりゃまぁ…約束だしな…」
さすがはミユちゃん、ラリスくんが一撃で意気消沈するほどの物凄い説得力です。
その上さらに血縁関係をともなう『家族』という関係は、生まれ持った絶対的な契約のようなものです。
子はいわば親のクローンであり、子の苦しみは親の苦しみ、その逆もまた然り。
だから親が子を自分の思うように操りたいと思うのも当然ですし、子が親の統制下から逃れようとあがくのも当然なのです。
そして、その関係性は一生涯続く。
どこまで行っても逃れようのない、ある意味では最もタチが悪い血の掟…それこそが『家族』というものの本質です。
「私は…今の父と母は、もう好きではありません。
けれども…逃げられないんです…っ」
私やラリスくん、ミユちゃんが知る『家族』とはいずれも大きく異なる、マコさんが嫌悪する『家族』。
掛ける言葉が見つからないとは、まさにこのことでしょうか。
この場の誰も、彼女を救ってあげることはできそうにもありませんが…それでも、このまま放っておく訳にもいかなくて…。
「…いいんちょさん、アドレス交換しよ?」
「クラス連絡用のなら、もうあるじゃない?」
「じゃなくて、あたし達だけ専用のヤツ。スマホなら、家族にバレずに連絡できるでしょ?」
「…解りました」
ミユちゃんの意図を理解したマコさんは、自分のスマホを取り出して私達に提示しました。
…予想通り、団体関連と学業関連以外の個人的なアドレスリストは真っ白でした。
ま、そういう私とラリスくんも似たようなもんですけどね…ぐっすん。
唯一、ミユちゃんのだけは数えきれないほど大量の連絡先でパンパンでしたけど…どーやったらそんなに増やせるんですか?
…などと考えてるうちに、私達全員のアドレス交換は滞りなく終了。
「何かあったら…ううん、特に用事なんか無くても、気軽に連絡してネ♩」
「…うん♩」
初めて出来たスマホ友達を、本当に嬉しそうに見つめて微笑むマコさんが、とっても愛らしくて…。
さっき駅前で見かけたような、あんなつまらなそうな顔でビラを配る彼女よりは、よっぽど魅力的ですよ。
◇
そのままカラオケ屋で彼女と別れた私達は、ビラ撒き集団に見つからないよう注意して駅前まで戻り…
「うーんっ、有意義なお昼休みだったね〜♩」
「てか結局、何もせずに店出ちまったな」
「次こそちゃんと唄ってみましょうか?」
マコさんに連れ込まれなかったら、たぶん一生入らなかったと思いますしね、ああいったお店は。
「てゆーか…俺ら、ココへ何しに来たんだっけ?」
「へ? えーっとぉ…
…あ。シドさんのお迎え、コロッと忘れてましたね」
「うわヒドッ!?」
そーゆーミユちゃんこそ、マジでカラオケしようとしてたクセに…。
大慌てでタクシーとっ捕まえた私達は、永蘭病院までひとっ飛び!
昨日、救急車内で右往左往してたときには全然気づかなかったけど、駅前から病院まではほぼ一本道で、車で十五分くらいでした。
「…なんかスゲー賑やかだな?」
ラリスくんが言う通り、病院に到着するなり、待合室にちょっとした人だかりが出来ています。なにコレ?
「やぁ奥さん、一日ぶりです!」
アレッ、救急隊長さん!?
「その節は、大変ご迷惑を…!」
ド腐れ外道記者に拳銃を奪われた警官さんも!?
アイツにやられた利き腕をギプスで固めた姿が痛々しいですけど…。
「やあミサさん、お迎えご苦労様♩」
彼らの中心で大盛り上がりで話し込んでいたシドさんが、私を見つけて陽気に手を振ります。
その様子だと、体調はすっかり元通りみたいですね。良かった…。
「いやそれにしても、たった一晩でよくここまで…!?」
「やはり、我々とは根本的に身体のデキが違うんですな…!」
地球人基準からすれば、シドさんの異常な回復ぶりに目を見張る警官さんと隊長さん。
どうやら今日は隊長さんは非番で、警官さんは骨折の治療に来たついでに、初めて担当した宇宙人・シドさんの容態が気になって、お見舞いに来てくれたようです。
「というより、宇宙基準で見た場合の地球人のほうが、身体の造りが脆くて…おっと、これは失敬」
地球人はこの私・ルナリアンを元に創造された人工種族ですから…人間に比較して、他生物の寿命が圧倒的に短いのと同様なのかもしれないですね。
「いえいえ、大変参考になります。今回のような事件は、今後ますます増えるでしょうし…」
「ですな…。参考までに、色々お聞かせ願えますかな?」
「では、今現在の地球上に棲息している、主な宇宙人種の傾向と対策をお教えしましょう」
『おおっ、それは助かります!』
助かります!じゃないんですよこの親父三人衆は!?
せっかくお迎えに上がったのに、これじゃあ今すぐ帰ろうって言い出せないじゃないですかっ!
男の人ってホント、オタク談義で盛り上がったら、なかなかお開きにならないんだから…。
それに、病院の待合室でこんな大騒ぎしてたら、他の患者さんのご迷惑に…
…なるような人影は他には誰もいませんでした。平日の真っ昼間ですもんね。
「あの…それなら、こちらの談話室が空いてますから、お貸ししましょうか?」
廊下の奥から遠慮がちに声を掛けたのは、昨日もお世話になったベテラン看護師長さん。
彼女には…昨日、病室でシドさんとお盛んに盛りまくってるトコをバッチシ目撃されてしまった後だから、なかなかに気まずいものが…
「あぁ、それはいいですね。それではお言葉に甘えて…」
と腰を上げたシドさんに倣って、警官さんと隊長さんもゾロゾロ談話室へと…ってちょっとちょっと、退院はどうなったんですか!?
隊列の先頭を行くシドさんは、看護師長さんのそばで足を止めて、
「気を利かせてくれてありがとう、マドモアゼル♩」
「いやん♩」
いやん♩て…なんか彼女、昨日とまるで別人になっちゃってません!?
てかシドさん、アータ彼女に何したの!?
そして『マドモアゼル』の意味、解ってて使ってます!?
「いや合ってるよ。アレは私の叔母だけど、いまだ未婚だからね」
「医院長さん!?」
いつの間にか私のそばに立っていた彼が、なんやらエエ雰囲気の看護師長さんとシドさんをニマニマ見つめています。
どー見ても五十代以上の彼より、さらに歳上ってことは…!?
そしてシドさんの守備範囲って、どんだけ広いの!?
見た目には親子ほども歳が離れた私に手を出してるだけでも、世間的にはアウトだってのに…まさか逆もイケるだなんて!?
でも確かに、見た目には両者の年代はそれほど離れてなくて…アレッ、じゃあ合ってるの?
…もしかして…私との関係のほうが間違ってるんですくわァーッ!?(←いまさら気づいた)
「遅ればせながら、久美子姐ちゃんにもいよいよ春が来たか…♩」
それがあの叔母さんの本名ですか?
もしかして…名字は『大場』だったりしません? 叔母だけに…。
そして何気に『姐』って漢字、違くない?
「それも合ってるよ。あの人、元ヤンだし。」
何なんですかアンタら一族はぁ〜っ!?
いやいやンなコトより、さすがの私もそろそろ黙っちゃいられませんよ…っ!
「おほほほほほシドさん?」
「ヒィッ!? ミミミサさん…!?」
「ちぃ〜〜〜っとツラ貸せや♩」
ビビる旦那様の首根っこを鷲掴んで、集団から離れた物陰へ。
「正直にお言いなさい。あの"年増"…お召し上がりになられまして?」
「は、はぁ…。"あの後"も僕らのアレやコレやナニやについて口うるさかったもんで、ちょお〜っと黙らせよっかなー?的に妻み喰い…いや摘み喰いしたら…案外そのままズルズルズブズブ行っちゃいまして…テヘッ☆」
「ほっほ〜お? 正直なのは感心しますけど…『もう私を離さない』なぁーんて甘っちょろいコト抜かした舌の根と"下の根"も乾かないうちに、もう次の獲物に手ぇ出すなんて…
かつての草食系ヘタレドーテーも、たった一日でずいぶん肉食になったものですわね〜え…!?」
「ヒィ〜〜イッッ!?
あっそーだ、今日みたいにカジュアルな格好も似合ってるネ、さすがはミサさん♩」
「いまさら取って付けたよーに褒め殺しかぁーいっ!?」
「ぎゃヒィ〜ッ逆効果ァアーーーーッ!?」
慟哭、そして…。
「…お待たせしちゃいましたね。さっ、帰りましょ♩」
「んお? センセは一緒に帰らねーのか?」
血塗られた拳を拭き拭き戻って来た私に、待合室で暇ぶっこいてたラリスくんが顔を上げます。
「まだ用事があるみたいですしね。何があっても振り向いちゃダメよ♩」
「…あ、あたしは何も見てない何も見てませんよぉ〜イヒヒッ♩」
とか言ってる割には、どこぞの家政婦ばりに一部始終を覗き見てしまったらしいミユちゃんが、精神半壊状態で頷き返します。
そして再び三人揃って、正面玄関前に待たせておいたタクシーに乗り込み…
「ヒィッ!? し、死んでるーっ!?」
病院内で発見された旦那様の惨殺体に上がった心地よい悲鳴を聞き届けながら、家路へと向かうのでした♩
「てか殺しちゃダメだろ…」
「夫婦仲が進展するにつれて、DV度も爆上がりですネお姉さま♩」
昨日の一件でシドさんの丈夫さが証明されましたからね。あれくらいならまだ序の口ですよ。
それにしても、思ったより早く事が片付いて、時間に余裕ができちゃったから…
「ミユちゃん、ちょっとお願いできる?」
「…何ですか?」
◇
「ハァハァ…お、お待たせしました…!」
「ハイいらっしゃい♩」
ミユちゃんから我が家への御招待を受けたマコさんが、息せき切って駅前から駆けつけたのは、私達が自宅へ帰り着いてからしばらく後のことでした。
あのビラ撒き団体と、背後の宗教組織…とりわけシドさんを撃ったマスコミ記者について、もう少し話を聞いてみたくて。
それなら、お仲間がウジャウジャ湧いてる駅前よりも自宅のほうが、もっと込み入った話ができると思ったもので。
「にしても、よく抜けられたね、いいんちょさん?」
「急にお腹の調子が悪くなったって、トイレに駆け込むフリしたから…」
そんな小学生並みの嘘で抜け出せるとか…割とザルですね、あの団体も。
「お、お友達のお家訪問って初めてだから…なんの手土産もなくてごめんなさい」
「えーっ、要らないよイチイチそんなの。ささっ、自分ん家だと思って、上がって上がって♩」
などとフレンドリーにマコちゃんを家に上げるミユちゃんだけど…ココ、私ん家ですから。あなたのおうちはお隣さんでしょ?
そんなこんなでリビングにお通ししたマコさんに、お茶でもお出ししようとしていた矢先…
「…や、やっと帰れた…ヒドイよミサさん…」
退院間際の永蘭病院で永眠しかけたエイリアン旦那が、やっとこさご帰宅めされましたよ。
「…おや、お初にお目に掛かる子がいるね?」
「あ、初めまして。石上麻胡と申しま…」
「…ちょっと待って。」
マコさんのご挨拶を遮り、急に真剣な顔つきになったシドさんは、
「え? あ、あの…っ!?」
戸惑う彼女の顔を至近距離から、国宝級のお宝を品定めするかのように熱心に見つめ倒します。
超絶美形な彼に間近に迫られたマコさんの顔は、今にも破裂しそうなほど真っ赤に染まって…
「まさか…二人目の『ルナリアン』…!?」
…え? ルナリアンって、私以外は絶滅したはずじゃ…?
しかも…マコさんが…!?
「眼鏡外していい?」
「は…はい…」
まるでキスでもされるように目を閉じた彼女の顔から、そっと眼鏡を抜き取って…
旦那様の顔が、私以外の女性の顔に覆い被さるように…
ってコレ、本妻の私はいったい何を見せられてるんでしょーか!?
「…フム。判った、もういいよ」
キュッと瞼を閉じて、いつでもOKとばかりに唇を突き出していたマコさんの顔を、シドさんは名残惜しそうに解放します。
「…あの…旦那様?」
あからさまに鬼のツノを突き出して呼びかける私に、シドさんはまるで気づかない様子で独り納得して、
「…うん、やっぱり違ったよ。眼鏡が必要ってことは視力が悪いってことだから、その時点であり得ないとは思ったけどね。
ルナリアンは肉眼で対象物を見ると同時に、その対象を瞬時に解析して、観測に最適な視界に自動調整するという今どきのカメラみたいな技能を持っているから、視界不良に陥ることはまず無いんだ。
地球人も似たような眼は持っているけど、それより遥かに高性能だよ」
ならなんでそげな執拗に調べはりましたかアータ!?
まぁ確かに、私の視力は両目とも2.0ですし、夜目も結構効きますけど。それ以上は学校の身体検査では測定不能だったもので…。
「だけど、それ以外はほとんど『ルナリアン』だと断言できるほどの純度だ。これは実に興味深い。
マコさん、キミのご両親は極々普通の地球人なんだよね?…本当の親?」
「は、はぁ…そうだと思います。私は二人ともに顔立ちがよく似てますし、生まれて間もない頃からの写真もアルバムにありますし…」
もはやシドさんの顔をまともに直視できないマコさんは、赤らんだ顔で視線を逸らしがちに、失礼な質問にも率直に答えます。
なんてゆーか…天然エ◯エ◯ってゆーか、お互いすべて曝け出しあった『事後』の語らいみたいな賢者感がビンビン漂ってますケド。
まだ中学生なのに、何なんでしょうかこの色気は…?
「だとすれば、突発的な覚醒遺伝…?
あるいは、元々ルナリアン純度が高かったご両親のイイトコ取り…?
でもそれだけじゃ、この完成度の高さは…う〜〜〜〜むむむぅ…?」
腕組みをして考え込む、典型的な学者スタイルのシドさんをぼんやり見つめて、マコさんは…
「あ、あの…?」
「ごめんなさいね。このヒト、いつもこうだから…幻滅したでしょ?」
「…いいえ…常に好奇心と探究欲に満ち溢れた、とても素敵な男性だと思います…♩」
んなっ…女房の私よりもシドさんの本質を理解している…だと?
それに今、両者の口にした『人』のニュアンスに、雲泥の差があったよーな…?
「…キミ、モテるでしょ? それだけ綺麗なんだから♩」
「へっ!? あ、いえあの、そんなことは…」
出し抜けなシドさんの質問に虚を突かれたマコさんは、あからさまにドギマギしますが、
「そーいえばいいんちょさん、お昼休みとかによく男子に呼び出されて、どっか行ってるけど…?」
「あー、駅前のビラ撒きも、お前が配った分だけ捨てられてなかったしなー?」
「!? だ、だからそれはっ…!」
ミユちゃんとラリスくんの密告を受けて、ますます挙動不審に。なんでかシドさんのほうをチラチラ見てますし…案外わかりやすい子ですね。
そしてシドさん…なんか一皮剥けて以来、やけに女性に耐性ついちゃってません?
綺麗だなんて、私以外には言わないって思ってたのに…むぅ〜っ。
「…ところで、彼女は?」
今さらやっと彼女の素性に興味を持ったシドさんに、
「あたし達のクラスメイトで、クラス委員長さんですよ♩」
「あと、駅前で例のビラ撒いてる集団の『お姫様』な。」
ミユちゃんとラリスくんからの二律背反気味なご紹介に、シドさんは「あぁ〜…」と顔を引き攣らせました。
◇
「このたびは、うちの若い者がとんだご迷惑を…」
どこぞの組の姐さんみたいに先日の銃撃事件を謝罪するマコさんを、
「いや、こうしてもうピンピンしてるし、キミのせいじゃないから、気にしないで」
死にかけた当人だというのに、異様なお人好しぶりで慰めるシドさんに、彼女は嬉しそうに目を細めて…
かと思えば、次の瞬間にはキッと表情を引き締めて、
「…では改めまして。コレが、私が興味本位で集めた、井谷奈記者の担当記事です」
スマホの専用写真フォルダに収録された、様々な週刊誌記事のスクラップ写真を指し示します。
どれどれ?と私達も揃って首を伸ばし、記事内容を確認しますが…
「うわー…マジですか、コレ?」
「一言でまとめると『低俗の極み』だねぇ」
「どれもこれもテキトーばっかじゃねーか」
「これならまだ、うちのガッコの新聞部のほうがよっぽど読みごたえあるかも…」
どこぞの芸能人がどーの、ここぞの政治家がこーの…といった、どーでも良さげなスキャンダル記事ばっかり。
記事内に登場する証言者も「業界関係者A」とか「親しい知人B」とかの身元が不確かな人物ばかりで、信憑性に欠けまくります。
というか、取材対象者の「親しい知人B」さんが仮に実在したとして、どこの馬の骨とも判らないマスコミ記者なんかにお友達の秘密をベラベラ喋るものでしょうか?
しかも対象者が有力者であればあるほど、それを裏切った密告者の立場も危うくなるというのに…。
つまり、これらの記事はことごとく憶測の域を出ないか、元より根も葉もない捏造なのでしょう。
内容的にも実感をまるで伴わないスッカスカな上に、親の仇のようにひたすら対象者を叩きまくる取材姿勢には嫌悪感すら覚えるほどの…まごうことなき『ゴミ記事』です。
「終始こんな調子なので、どこの雑誌でもお荷物扱いで…本人は専属記者みたいに言ってますけど、実際にはフリーライター扱いらしいですね」
マコさんはハァ〜…と深ぁーい溜息をついて、
「うちの団体にも、教団本部からのメッセンジャー役としてちょくちょく出入りしてましたけど…とにかく高圧的で見栄っ張りなので、両親もほとほと辟易していたようです」
親玉の前ではへーコラしてるのに、正義ヒーローの前ではひたすら大口を叩きまくった挙句、真っ先に倒される最弱四天王みたいなモンですか。
「ですが、元自衛官なだけに戦闘技術や知識はかなりのもので…それ故に教団では重宝されていたみたいですね」
「あ、ソレ。なんでそこまで優秀な自衛官が、今はこんな小間使いみたいなご身分に甘んじてるんだい?」
シドさんの素朴な疑問に、マコさんは少しだけドギマギしつつ、
「以前、教団が起こした政界重鎮の暗殺未遂事件…アレの計画に大きく携わったのが彼なんです。当時はまだ現職の自衛官でした」
かつてのオウム事件の時にも、信者に現職警官や自衛官が多数在籍していたことが問題視されたそうですけど…
国の在り方に不満を持ち、現状打破を急ぐ人々って、どうしてもそちら方向に突き進んでいっちゃうんですよね…。
クーデター後に国民の暮らしぶりが良くなった国なんて、ただの一国もありはしないのに…。
所詮、他者を追い落とすことしか頭にない連中には、他者に幸せをもたらすことなんて出来っこないんです。
「結局、決行前に計画内容が外部に漏れていたことで失敗し、関係者は全員逮捕されました。
…が、教団本部は、その計画は下部組織が勝手にやったこととシラを切り通し無罪放免。一節によれば、教団と関係が深い国会議員が手を回したとの噂も…」
ハイ出ました国会議員。
かつて、脱税や暴力団追放をネタにした映画を撮った某映画監督も、いずれの背景組織にも宗教団体や大物議員が…という内容の作品を意欲的に発表し続けていた最中、自宅マンション高層階から飛び降りて自殺してしまいましたけど…
"泥酔状態"で"ワープロ"で遺書を残し、"普段着のまま""自宅から飛び降りる"という、通常の自殺志願者にはあり得ない最期だったのが、かなーり気になりますねぇ?
こんな明らかな不審死にもかかわらず、警察は自殺と断定し、マスコミの取り上げ方も不自然に小さいまま、すぐに終息しちゃいましたし…。
いつの御時世でも"彼ら"が絡んだ事件って、こーゆー摩訶不思議で杜撰な処理のされ方の挙句、いつの間にか『無かった事』になっちゃうんですよね〜?
「そして井谷奈記者も、あれだけの事件に加担したにもかかわらず、計画の立案担当で実行役ではないという理由から、除隊処分と数年の服役だけという理不尽に軽い処分で済みました」
出所後の身元引き受けは、元服役者の自立支援団体ということになっていましたが…これももちろん、教団の関連組織だそうです。
「こういったかなり左寄りな思想の持ち主なので、教団内部でも危険視され、煙たがられているようですが…」
実質的な幹部候補の割に、末端組織のまとめ役なんて雑用を押し付けられたり、売れない記者活動を続けているのは、そのためですか。
昨日、シドさんを撃って警官隊に取り押さえられたときに…
"これで俺もやっと評価される"
って高笑いしてたのは、記事内容じゃなくてそっちのほうだったんですね。
ヤ◯ザの世界じゃあるまいし、人殺しなんかで評価されるのは戦争中だけでしょうに…。
まさかここまでイッちゃってる人だったなんて…。
「実は、その…現教祖に気に入られて、特別扱いされているらしいとの噂が…」
「…参考までに、現教祖サマってゆーのは?」
「とっくに還暦を過ぎた御婦人です。元はご主人のほうが教祖でしたが、急死したため彼女が後を引き継ぎました」
「なーるほど…つまりは男女の関係ってヤツか。いかにもサスペンスドラマ的な流れだねぇ」
せっかく言葉を濁したマコさんの努力を、直接的表現で台無しにするシドさん。
「ち、ちなみに、前教祖はいわゆるゼネコン出身のガテン系で、病気知らずの元気なお爺様という印象でしたので…急死って聞いたときには、みんな唖然としてましたけど…」
「ほっほぉ…ますますドラマチックな展開だねぇい?」
「…私も、そうなんじゃないかって思います」
うーわっ、聞きしに勝るヤバさですね。
私に躊躇なく引き金を引けたのも、自衛隊の訓練の賜物などではなく…日頃からそうした行為に慣れちゃってたから…だったんでしょうか。
そのうち、追い詰められた断崖絶壁で、聞いてもいないことまでベラベラ独白しちゃいそーな気がしますけど…。
…つーかこの二人、なんだか自然と気が合ってるのが本妻的にはプチむかつくんですケド?
◇
「でもまぁ、白昼堂々これだけの事件を起こしてしまったからには、あの人も今度こそ再起不能かと…」
よほどあの男を嫌っていたのか、身内ながらもホッと胸を撫で下ろすマコさん。
さながら仲間意識皆無、協調性ガッタガタな悪の組織の内情を垣間見た感じでしたが…
「…残念だけど、そーうまくはいかなかったみたいだよ?」
さっきから自分のスマホを何やら盛んにいじくっていたミユちゃんが、申し訳なさげにその画面を皆の眼前に差し出します。
ニュースサイトの事件ランキングトップテン圏外という、どこぞの芸能人の不祥事ネタよりも扱いが小さな、その記事には…
《宇宙人銃撃事件の容疑者、証拠不十分で不起訴》
「マジかよっ!? なに考えてやがんだ地球人どもは!?」
皆の意見を代表して声を荒げるラリスくんですが…これはさすがに予想外でした。
「えーっと、どれどれ…うわっ、コレは苦しいねぇ。こんな言い訳がよく通ったなぁ…」
撃たれた当人のシドさんまでもが、その保釈理由に呆れ果てて、他人事のように呟きます。
なんでも、署を出た直後に知人を見かけた井谷奈記者が大声で呼び掛けたところ、勘違いした警官隊が取り押さえようとして揉み合いになり、はずみで誤射された銃弾がたまたま射線上にいたシドさんに当たってしまっただけ…とか?
…いやいや、こんなメチャクチャな言い分が、本当に通ってしまったんですか!?
「そうらしいですね…。あの教団の力は、それだけ絶大ということです」
「そこだけは確かに神がかってますね…」
身内の教団の途方もない影響力を、恐れてるのか自慢したいのかイマイチ不明なマコさんの結論を、私が思わず茶化したところで、
「あ……そろそろ親が不審がっているようです。急いで戻らないと…」
スマホのバイブ機能に気づいたマコさんが、画面を確認するなり残念そうにうなだれました。
そういえば彼女、お腹の具合が悪いってビラ配りから逃げてきたんでしたっけ。
あれからもう小一時間経ってますから…ずいぶん長いう◯こ休憩になってしまいましたね。
「よし、僕が駅のそばまで送ってくよ」
一日ぶりに手にした愛車のキーを掴み取って席を立つシドさんに、マコさんは恐縮して、
「あ、いえ、そんなご迷惑な…。でも、そうですね…じ、じゃあ、お言葉に甘えて♩」
結局乗るんかい。
こうして、嵐のように我が家を来訪した敵方のお姫様は、再び嵐のように我が家から去っていきましたとさ。
…今さらですけど…この二人だけで行かせてよかったんでしょうかね?
◇
マコさんを駅のそばで降ろして帰ってきたシドさんのスマホを強制提出させたところ…
案の定、彼女のアドレスが新規登録されとりました。
「なかなか抜け目ないですね、あの子も…」
「いや、僕の方から交換を持ちかけたんだよ」
はぁ〜〜〜〜? うちの旦那様はいつから好んで女子中学生のアドレスを聞き出すゲス中年おやぢに成り下がりましたか!?
年下の私の心とカラダを散々弄んだだけでは飽き足らず、さらに若い子にまで…っ!
「ひひ人聞き悪いなっ!? そーじゃなくてっ!
…ほら、彼女って何かと放っておけない感じだろ?」
そりゃね、ご両親が現在進行形で怪しげな宗教にがっつりドハマりしてる家の娘さんですしね。
そして私達との立場的には、まんま宿敵同士のロミジュリ(※)状態とゆー。(※ロミオとジュリエット)
もっともあの子は、もう両親を裏切る気満々ですけど、それだけにますます…。
「あの子を見てると、僕ん家の内情についつい重ね合わせちゃってね…」
遠い目をするシドさん。
…そういえば私まだ、彼の過去って聞いたことなかったような…?
彼の種族であるモーント人の成り立ちと、ラリスくんと出会って以降の二人については先日知りましたけど…肝心な彼自身のことは、何一つ。
このままじゃ将来、我が子が父親のことを何一つ知らない不憫な子になっちゃう…!?(←嘘・大袈裟・紛らわしい情報はJAR◯までご連絡を。)
「あの…シドさん…」
ポーン♩
「ん?…ちょっと待って」
どこから聞いたものかと戸惑いながら呼び掛けた私を押し除けて、シドさんは着信アラームが鳴ったスマホの待ち受け画面を確認。
お預けを食らわされて若干気分を害した私も、強引に傍から覗き込むと…
《マコ:タスケテ》
どっかの飲み屋のママさんみたい…てゆーかちゃっかりRINE登録までしてるしっ!?
「いや問題はそこじゃないだろっ!?」
ハイそですねサーセン!
という訳で、さっそく緊急事態発生です!
自宅の車庫に入れたばかりの車にみんなでハコ乗りして、大慌てで現場へ向かってみれば…
「こぉんのバカチンがぁっ!!」
バチゴォーンッ!!…と、真昼間の駅前で、横っ飛びするほど強烈な平手打ちを実の父親から喰らわされてるマコさんの姿が!?
傍らにいる母親は、それを止めるどころか、
「いったい何処でサボってたのっ!? アナタのおかげで今日のノルマ達成は絶望的だわ!」
などと、むしろ父親に加担して、路上に倒れ伏した娘を怒鳴りつける始末。
他の団体メンバーはビラを配るのも忘れて呆然と立ち尽くしてるし、街ゆく人達も厄介ごとに巻き込まれてたまるものかと足早に通り過ぎていくし…。
「ごめん…なさい…っ」
孤立無援のマコさんは、平手打ちの衝撃でヒビ割れた眼鏡がズレたまま、涙ながらに恐怖に打ち震えています。
「いいんちょさんっ!?」
「何やってんだテメーらぁっ!!」
すかさず飛び出して、両者の間に割って入るミユちゃんとラリスくん。
どんな時でも人のためなら躊躇わずに動けるのは、それだけでなかなか真似できない大きな長所かもしれません。
「な、なんだお前らは!?」
「どうも初めまして。この子達の保護者です」
かくいう私もこの光景は腹に据えかねて、声を荒げるご両親の前に進み出ます。
「これはうちの家族の問題だ、他人が出しゃばるんじゃないっ!」
「そうはおっしゃいますけど…もう少し、周りに気を遣われたほうがよろしいんじゃありません?」
そこでご両親はやっと我に返って周囲を見渡します。
こんな公衆の面前だというのに、非難されて当然なほどの暴行を子供に加えたバカ親たちに、道行く人々から降り注ぐ白い目の数々…。
もはや完全に四面楚歌となった、自分達の愚かしい現状を…。
「…フ、フンッ! 自分の子をどうしようと、私達の勝手だろうがっ!? 今まで育ててやった恩を忘れて…コイツはぁッ!」
「そうよ! 悪いコトをした子はすぐに叱りつけるのが、親として当然の務めでしょ!?」
ハイ、典型的なダメ親の見事なテンプレ台詞いただきました〜♩
今どきそんな屁理屈がまかり通ると本気で思ってるなら、人間としても救いようのない人達ですね。
あなた方が信じてらっしゃる神さまのお教えが如何程かは存じ上げませんけど…ここまで世間様の常識から逸脱した言動を見るまでもなく、お里が知れたものです。
「…はて、その子がどんな悪いコトをしたとおっしゃりますかね?」
「せんせい…先生っ!」
満を持して最後に進み出たシドさんを見るや、マコさんは涙ながらに駆け寄ります。
…なんでミユちゃん達でも私でもなく、シドさんに?
そしていつの間にやら『先生』呼び。
いつしか辺りは黄昏色に包まれているし、往年の学園青春ドラマのラストシーンさながらです。
「やぁ、先日はそちらの関係の方に大変お世話になりましたがね…おかげさまでこの通りピンピンしてますよ♩」
「き、貴様…あの宇宙人か!? なんでまだ生きてるんだ…?」
「あり得ない…化け物だわ…!?」
巷に溢れるあらゆる物事は低俗と決めてかかりがちな世界の住人らしく、ニュース番組とか観てないせいで、シドさんがすっかり完治したこともご存知なかったみたいですね。
そしてもう、自分から井谷奈記者との繋がりをバラしに行ってるような潔さ。
まさに前述のサスペンスドラマのラストっぽくなってきました。
「さては…貴様ら全員そうなのか!?
おのれバカ娘、よもや既に宇宙人に取り込まれていようとは…!」
「人間と宇宙人は決して相容れないものなのよ!」
どこぞのジブリアニメみたいなコト言っちゃってるし。どっちが腐海に呑まれきった存在なのかが、まだ理解できていないようですね。
…ですが、それをジャッジするのは、どうやら私達ではないみたいです。
「コラァーッ!! 公衆の往来で何を騒いどるかぁ〜っ!?」
騒ぎを聞きつけてか、はたまた誰かが通報したのか…パトカーのサイレンを従えて、お馴染み警官隊が現場へと駆けつけました。
そういえば、先日の警察署とは目と鼻の先ですもんねココ。
「むぅ〜っ!?」
そして辺りの様子を窺えば…痛々しい姿で怯える眼鏡っ子と、それに付き添う子供達。
明らかに常軌を逸した、鼻息も荒い中年夫婦と、その足下に散乱する大量の人権侵害甚だしい違法ビラ。
さらに周りには同様なビラ撒き要員がたむろしていて…極めつけは、
「先日はどーもー♩」
「あ、奥さん!? 旦那さんも…!
…と、ゆーこと、は…?」
ハイ、説明する手間が大幅に省けましたね♩
「ヤ…ヤバい逃げろっ!!」
「ビラなんか捨ててけっ!!」
「ま、待たんか貴様らァーッ!?」
慌ててビラを放り出して一目散に逃げ出す団体員たちを、警官隊の一部が追いかけていきます。
路上にバラ撒かれた夥しいビラが花嵐のように舞い踊って、さながらブラックチューズデー当日のウォール街のように殺伐とした光景です。
彼らの行いこそが正当だというなら、国家権力から逃げ出す必要もない訳で…この時点でもう、彼らの言い分が通らないのは明白です。
「はてさて、どういうことかご説明願えますかな?」
「い、いやぁ、これはあの、その…っ」
先程までの覇気はどこへやら、警官達に包囲されてしどろもどろなご両親は、頼みの綱とばかりに愛娘に救いの視線を手向けますが…
今さらフザケるのも大概にしなさいッ!!
…そう思ったのは、私だけではありませんでした。
「助けてくださいっ! 私は、この人達に…日頃から暴力を振るわれ続けてましたっ!!」
溢れる涙を割れた眼鏡ごと拭い去って、マコさんは毅然として言い放ちました。
もはや愛想も尽きたご両親に、事実上の絶縁状を叩きつけたのです。
「な、なんてこと言うのっ、この子は!?」
「私達はお前の親なんだぞぉ!?」
「ハイハイ、詳しい話は署のほうでじっくりお伺いしますから…」
取り乱すご両親を、最初はなるべく穏便に任意同行させようとした警察でしたが…
「オイ暴れるなっ! えぇいっ…公務執行妨害で現行犯逮捕だッ!!」
この期に及んで抵抗を続ける、あまりにも聞き分けのない彼らに遂にはブチ切れると、手錠を掛けてパトカーに放り込んでしまいました。
「クッソォ…麻胡ッ! 覚えてろよこの裏切り者がァ〜〜〜〜ッ!!」
なおも車内で暴れる、往生際最悪なご両親の絶叫をたなびき、パトカーのサイレンが現場から遠ざかっていきます。
その様子を、唇をキュッと噛み締め、拳をわななかせて見届けたマコさんは…
「…お父さん…お母さん…ごめんなさい…っ!」
黄昏れる街の彼方に両親の姿が消えたと同時に、路上にがっくりと崩れ落ちて咽び泣きます。
あんなどうしようもない人達でも…彼女にとっては、かけがえのない親に違いなかったのです。
たとえ実の親子だろうと、家族だろうと…全てが順風満帆に行く訳ではないんだと、私は改めて思い知らされました。
夕闇迫る街中で、子供のように…って、まだ中学生ですしね…泣きじゃくるマコさんと、そんな彼女を成す術もなく慰めるミユちゃんやラリスくんの様子をつぶさに見つめながら…
「…ミサさん。」
案の定…シドさんが思い詰めた様子で、私に話しかけます。
「…なんですか?」
次に彼が言い出すであろう言葉に内心で溜息をつきながら、私はあえて素っ気なく応えます。
「いつも、キミのワガママを残らず聞いてあげてるんだから…たまには僕のワガママも聞いて欲しいかな?」
って言い方! そんなに恩着せがましい頼み方をしなくても…私だって、そのつもりですよ。
ここまで関わってしまった以上は…ね。
「…けれども、アナタが言い出したんですから、最後まで責任持ってくださいね?」
「そんな犬猫みたいに…。
でも…解ったよ。
…彼女の面倒は、僕がみる。」
こうして、私のお腹に彼の子を授かるよりも早く…
我が家にまた、新しい娘がやってきました。
【第六話END】
第六話にして新レギュラーキャラ・石上麻胡の登場です。
御幸やポラリスのクラスメイトで委員長、とくれば当然のように眼鏡っ子!
毎作毎作、必ず眼鏡っ子を登場させてきたせいか、今作を書き進めながらもずーっと何か物足りないと思ってたら、「あ…眼鏡分か」と(笑)。
でも単なる眼鏡っ子いいんちょでは、中途出場キャラとしてはインパクトが弱すぎるな…とゆーことで、思い切って『アンチ宇宙人派のお姫様』という設定にしました。
あと単純に「そーいやメインキャラに地球人、一人もいねーな?」ってことで(笑)。
実はこの子、執筆開始時の構想…どころか前回の時点までは影も形もない、まさに予定外のキャラでした。
でも、ヒロイン美沙兎とシドゥスがめでたく悪魔合体(笑)を果たした時点で思ったんですよ。
「こりゃ恋愛要員がもう一人必要だな…」って。
だってほら、この二人ってのっけからイキナリ夫婦設定で、そこからパカッポーに必須の愛だの恋だのを得ていくという、いわばゴール地点からおっ始まった『逆走カップル』じゃないですか?
だから、その後にすべての恋愛要素が揃ってしまえば、あとは熟年カップルみたいにただただ熱が冷めていくだけだろーな…と。
では、それを防ぐにはどうすれば良いのか?
ライバルキャラを放り込めばいいじゃないですか!
それも、結婚とかラブラブの真っ只中とかでもお構いナシに突っ込んでくる奴!(笑)
でもそんな典型的な不倫相手そのまんまな奴、フツーは間違いなく嫌われまくるに決まってますからね〜。
そこで、まず最初に彼女の泣きどころを散々晒しまくって、同情を引きまくるところから始めてみたのが今回のお話です。
また、前回あとがきでも触れた、美沙兎たちの家族上等主義な価値観に楔を打つべく、家族とは名ばかりな血縁関係の呪縛が崩壊していくアンチテーゼキャラの側面も持たせました。
そしてまた、彼女の美貌はヒロインに匹敵するほどで、なおかつ若い(笑)。磨けば光る原石みたいな感じで。
性格的にも、ラブコメ漫画にありがちな、ひたすらグイグイくるワガママお嬢様キャラとは真逆の、控えめで遠慮がちな優等生タイプ。
加えて、旦那さまのお気に入り!
美沙兎とシドに救ってもらった恩を感じて、しっかり二人を立てつつも、でもやっぱり…とゆー美味しさてんこ盛り、非の打ち所がない完全完璧なライバルキャラの誕生です。
てか現実的にも、不倫で最終的に勝利するのって、こーゆー尽くすタイプなのよネ(笑)。
けどまぁ、美沙兎のシドへの想いも、前回で早くもブレブレになってきてますからねぇ。
夫婦仲に余裕が出てきたところで、思えば最初からコイツが気になって結婚に踏み切ったという愚息・ポラリスのこともやっぱり気になる。
けれども彼はすでに御幸がガッツリキープ!
そこに加わった新家族の麻胡は、彼らにいかなる化学変化をもたらすのか…?
果たして、物語の結末やいかに!?
…てな塩梅ですかね。
そして忘れてもらっちゃ困るのが、このお話は単なるラブコメじゃなくて社会派SF(笑)だってことですね。
今回触れられた、宇宙人反対派の母体である宗教団体もいまだ健在だし、シドを撃った井谷奈記者もまた、なーんのお咎めもなく娑婆に解き放たれてしまいましたし…。
事態はいまだ何も解決してないどころか、ますます複雑化する一方です。
いやはや、最初の構想時には、よもやここまで深い話になるとは予想だにしませんでした。
どこまで描き切れるかわかりませんが、中途半端には終わらせないよう今後も頑張ってみますです、ハイ♩




