氷山の一角は全体の一割以下
【前回のあらすじ】
私、竹取美沙兎はこの春から華の女子大生に。
幼い頃から可愛いとか美しいとか散々褒め尽くされてきて…まぁ自覚はしてますけど、そのせいですっかり過保護に育てられてしまいました。
そんな育ての親だったお爺さんとお婆さんを不慮の事故で亡くし、天涯孤独となった私の後見人として、お隣に住むシドゥス教授ことシドさんが名乗り出てくださいました。
その後も色々あって、結局彼と結婚することになった私は、彼やその息子さんの中学生・ポラリスことラリスくんと同居を始めたのです。
ところがこのラリスくん、私を親とも思わずにからかってばかり。なのに女の子には全然興味ないみたいで、貰ったラブレターも読みさえせずに放りっぱなし。
このままじゃダメダメな子になっちゃう、はやくなんとかしたげないと!?…という焦りが、私が結婚を決意した最大要因でした。
そんな三人揃っての学校からの帰り道、私達は予想もしなかった事態に見舞われます。
突然、街に現れたでっかいマンタみたいな怪物…宇宙から飛来したエイラス人が、私を探しに来たのでした。
そしてシドさんとラリスくんは、そんな私を守護するために、やはり宇宙からやってきた『保護管理官』だったんです!
そう…実は私も地球人ではなく、かつて絶滅したと思われていた希少種族『ルナリアン』の、最後の生き残りだったのです…!
◇
《もう諦めろって。ここまでやったらタダじゃ済まないことは、お前だって解ってるだろ?》
《クッ…だからといって、このままオメオメ引き下がれるものカッ!》
巨人化したラリスくんとエイラス人との押し問答が膠着状態に陥る最中、身動きがとれない車内に取り残された私は…
「…ふぅ〜〜〜ん?」
想像以上に壮大な御先祖様の歴史を聞かされてドッと疲れた挙句、溜息とも相槌ともつかない気の抜けた声を洩らしてました。
だってそうでしょう? 「私のお家は何処ですか?」って訊いただけなのに、イキナリ『宇宙神話』からお話が始まっちゃったんですよ? しかも私自身にはあらかた関係ないし。
「あー…いやまずは、『ルナリアン』であるキミが、どうして今まで地球人に紛れ込んでてもバレなかったのか…って説明から始めるべきかと思ってね」
すっかり退屈そうな顔で、彼から貰った『黄金比』の名刺を爪弾いていた私に気づいたシドさんが、慌ててフォローを入れます。
ビヨョーン、ビヨョーン…良い紙使ってるだけあって、とても軽妙な調べですね♩
まぁ、旦那様のお話はとっても解り易くて、さすがは人気教授なだけありますけど…やっぱり学者先生の話って回りくどいわー。
早い話が私は『天然ダイヤ』で、地球人はそれを模した『人工ダイヤ』ってことでしょう? そりゃー値打ちがまるで違うのも当然ですよね。
おそらく歴史上の偉人や世界三大美女さんも、隔世遺伝みたいな感じでルナリアンの血筋がたまたま色濃く表れたために、絶大なカリスマ性や美貌を誇って世界を動かすまでの存在になったのでしょうか。
それでも…たぶん、彼らと私とではまるっきり毛色が違うんでしょうね。さっきエイラス人さんも、私を一目でルナリアンだと見抜きましたし、見る人が見れば一目瞭然なんでしょう。
ということは、ほぼ百パーセント近くの血統を持つ『オリジナル』ってことで…単なる遺伝では、そんな純度になることは計算上あり得ませんし。
じゃあ、私は…いったい何処から来たんでしょうか?
「それは目下調査中だね。現時点では見当もつかないよ」
ホラやっぱり、肝心なトコが判らない。
テレビの超常現象特番でも、最後にそうはぐらかして、その後に結果が判明した試しなんてタダの一度もありませんし。
「ただし…キミの名字にもなってる『竹取物語』の元ネタは、どうやら本当にあったことらしいよ」
「でっかい草の茎にすぎない竹から生まれただなんて生物の基本原則を根本的に無視した肉食獣が、周囲の男をさんざん振り回して破滅させた挙句、最後は月へと逃げのびて全てをチャラにしたってゆー悪女伝説がですか?」
「だいたい合ってるけど…ずいぶん偏った認識だねぇい」
え〜え〜、此奴とこの名前のせいで、子供の頃は私のアンチにずっと皮肉られっぱなしでしたから、そりゃあ恨みつらみが篭ってますとも。
あ、でもこの悪女、最後は月に…
「そう、ソコ。ということは、この物語が出来たとされる約一千年前には、かつてのルナリアンの移民船だった月はまだ機能してて、地球との交流もあったようだね」
「つまり…その頃には、オリジナルなルナリアンも少なからず生存していた…」
だから私は約一千年ぶりに確認された、彼らの直系の末裔…ということなんですね。
「けど、月が今現在どうなってるかは、僕らにも不明なんだよ。
あそこは宇宙連盟からも立ち入り禁止地区に指定されてて、誰も近づけない『禁忌』だからね…」
真昼間の現時刻では見えないだろう空の月を見上げて、シドさんは眩しげに目を細めます。
それって明らかに、連盟は何かを知ってて隠してるって前振りですけど…。
最近になってまた地球人が月の周りをウロチョロしてますけど…連盟さんが何も手出ししないのは、彼らが手出し無用の未開人であると同時に、亜種とはいえルナリアンの末裔には相違ないことと、どのみち大したことは出来まいという奢りからでしょうか?
それってもう、典型的なフラグみたいな…。
「ともかく、それが今回の件にどれだけ絡んでいるのかも、今のところ不明なままだ。
なにしろ『リンクラー』…キミのお爺さんお婆さんの匿い方が実に巧妙だったせいで、キミの存在はつい最近まで全く判らなかったからね」
リンクラー…Wrinkler…しわくちゃ?
あのエイラス人といい、宇宙の種族名って、案外安直なんですね。
「が、どういう事情からかは知らないけど、焦った彼らが購入希望者との取引中に安直な『隠語』を用いたせいで、宇宙ネット巡回ロボットに引っ掛かってね」
ま、今日びのネット社会でバレない悪事なんて何一つありませんしね。
ネット経由でイケナイ葉っぱの取引をしてらっしゃる方々? いくら隠語とかでカモフラージュしようと、当局はとっくに勘づいた上で泳がせてるだけなんで、いずれお縄になることを覚悟しといた方がいいですよ♩
そんなこんなでリンクラーの違法取引を察知した地球派遣保安官が、シドさんたち『宇宙保護管理局』に対処を打診したのが一連の騒動の発端みたいです。
あ、ちなみに地球で生物学の教授をやっているシドさんは元々、宇宙でも有名な希少生物研究家で、その豊富な知識を買った宇宙連盟からの要請を受けて、管理局に出向中だったんだとか。
だからラリスくんも彼のことを『センセ』って呼んでるんですね。
二人のコンビはもうずいぶん長くて、地球時間で数百年間は組んでるんだとか。そんだけ付き合ってれば、阿吽の呼吸なのも当然ですよね。
詳しいお話を聞いてビックリ、二人の実年齢は共に数千才という、私なんかから見たら人生の大先輩な御年配サンでしたとさ。
沈着冷静なシドさんはともかく、ヤンチャ坊主なラリスくんの方はまったく信じられないけど…。
実際には数百年は開きがあるらしいけど、宇宙的な時間感覚からしたらそれくらいは誤差の範囲内で、じゅーぶん同世代なんだとか。
なんでも、異性人種には地球人をはるかに上回るご長寿さんが多いらしくて。
逆に地球人の平均寿命が長くても百才前後と短いのは、かつてルナリアンに無理やり遺伝子操作されて誕生した影響だろうと…。
宇宙は広いとは言いますけど、もぉ何を基準にしたらいいのやら…?
「彼らリンクラーはそこそこ強力な催眠能力と、それをも上回る口の巧さで被害者を出し続けている、宇宙規模の詐欺師種族だ」
その能力で私や周囲を洗脳して、うまく地球人になりすましてたんですね…あのお爺さんお婆さんは。
でも、それ以外の大した力は皆無…だからこそ詐欺なんて働いて荒稼ぎしてるコスい連中なんです。
広い宇宙で生き抜くためには、弱者は弱者なりに知恵を働かせなければならないので、一概に悪人とも決めつけられませんけど。
「そんな臆病者たちが、よもや自ら禁忌に触れるなんてリスキーな真似はしないだろうし…。
だから最初は眉唾物だと思ったけど、依頼とあっちゃー無視できないしで、念のため調査に来てみたんだ」
そうして秘密裏に地球を訪れたシドさんとラリスくんは、たまたま空き家だった竹取家の隣家に引っ越してきた親子を装い、リンクラーの素行調査を始めたそうで…それが今から約半年前のこと。
ちなみに彼らの現地人への『擬態』は、宇宙で広く一般に出回っている変装キットを利用すれば簡単なんだとか。
でもお手軽な分、その土地の環境や当人の精神年齢に大きく影響されたりして、何にでも自由に化けられる訳ではないそうで…
それで枯れたオッサンとクッソ生意気なガキ…あーいえいえ、苦味走ったナイスミドルとカワイイお子様に身をやつして…なるほど納得です。
「でも実際、キミをこの目で確認したときには…それでも我が目が信じられなくて、すっかり舞い上がってしまったほどだよ!」
そんなクワガタムシを捕まえた少年みたいなキラキラお目々で力説されましても…。
実際、まんまと虫カゴに放り込んだ虫ケラな私のカラダを自由に弄べるご身分にまでなったというのに、いまだに指一本触れられないチキンな御主人様の分際で…フンッ。
「んで、調査を続けるうち、いよいよ連中がキミを相手に譲渡する動向を掴んでね。
そうはさせるか、絶対阻止してやると意気込んで追跡を開始したのが…あの事故の日さ」
現行犯か十二分な証拠が無ければ容疑者の身柄を拘束できないのは、地球でも宇宙でも同じこと。
そして二人は、私達が乗った車が人里離れた峠道に差し掛かり、周囲に人気が無くなったのを見計らって捕縛作戦を開始しました。
そう…あの時、私が目も眩むような閃光を目撃した瞬間のことです。
「けど…あれはさすがに予想外すぎた。
まさか連中が、僕らめがけて突進してくるなんてね…」
ラリスくんの巨体と普通乗用車では、どう考えたって敵わないことは誰でも判ったでしょうに…
お爺さんが運転する車は、私やお婆さんを乗せたまま体当たりを敢行して…大破し、爆発炎上したそうです。
「すんでのところで、なんとかキミだけは救出できたけど…。
容疑者を目の前で死なせてしまうだなんて、大失態もいいところさ」
いまだに後悔しているような苦悶の表情で、シドさんはハンドルに顔を突っ伏しました。
そっか…あの時、私を車外に引っ張り出してくれた温かい感触は…ラリスくんの手のひらだったんですね…。
彼らは正義の味方などではなく、単なる『保護管理官』というお役所の下っ端にすぎません。
警察組織でもないので、調査権はあっても捜査権はなく、拘束権はあっても逮捕権はありません。
…ここいらへん、何がどう違うのかってビミョーなトコではありますけど。
いかにチンケな小悪党が相手でも、我が物顔で蹂躙したり、命を奪うことは許されないし…第一、宇宙人とはいえ、その心情は私達となんら変わらない人間なのです。
本当に…お爺さんお婆さんはいったい何を考えて、自殺行為にも等しい暴挙に及んだのでしょうか?
それも、大切な『商品』の私まで巻き添えにするなんて…。
やっぱりあの二人にとっては、私なんてその程度の価値しか無かったのでしょうか…?
◇
…な〜んて感じで、三十分のテレビアニメなら車内の会話シーンだけで一話分を消費しそうなほどの長話をようやく終えたにもかかわらず、
「それはさておき…いつまで掛かるんですか、コレ?」
なかなか組み合わない喧嘩神輿の勝負前の打ち合わせのごとく、一向にラチがあかない巨人と巨大エイとの睨み合いを、いいかげん辟易した顔で見上げる私の眼前では…
《何も全部よこせとまでは言ってないだロ!?
ほんのちょびっとだケ、片手の先っぽだけでもいいんダってばヨ!》
《どわぁーから切り売りなんて出来っかよ! コイツはナマモノなんだぞっ!?》
怖っ!? そしてホントにしつこっ!
あのオマンタ親父、もはや何がなんでも私を手に入れなければ気が済まないようです。
最初は『吾輩』とか言って偉そーだったのに、どんどん庶民じみたセコさになちゃーってるし。
《ところでお前、給料いくら貰ってるんダ? ソレの倍払ってやるかラ…見逃してくれよン♩》
《ぅをいっ!? 人を賄賂で釣ろうとか、どんだけ腐ってやがんだよテメェはッ!?》
あー…こりゃも〜ダメですね。
「今回は割りかし難儀してるみたいだねぇ…」
などと仕方なさげに苦笑するシドさんにも、だんだんムカついてきたーっ!?
「今さら言っちゃアレですけど…ラリスくんが交渉役って、明らかに人選ミスじゃないですか?」
「んー、あれでもけっこー説得成功率は高いほうなんだけどねーアイツは」
嘘おっしゃい! アレですか、宇宙人てのはどいつもこいつも『ハッタリ』と『眼力』で会話が成立するよーな不良漫画レベルのイタイ子ばっかなんですかっ!?
まぁ確かに、あれだけ巨大な敵には、さらに巨大でいかにも強そうな相手をぶつけなければ、そもそも会話にすらならないかもしれませんけど…。
「取っ組み合いで物理的に折り畳むとか、手とか眼からビーム出してトドメ差しちゃったほうが手っ取り早いんじゃ?」
「いやいやイヤイヤ、さっき僕らは正義の味方じゃないって納得してくれたんじゃなかったの!?
それに、ンなコトしたら街じゅうブッ壊れ放題で、後で怒られるのは僕らの方だから!」
現実の巨大ヒーローは、テレビ特撮番組のアレやコレやとは比較にならないほど堅実で地味なお仕事でしたとサ。
でも、このままじゃ…もうすっかりお昼過ぎだっていうのに、まだ何も食べてないから…
ぐうぅうぅううう〜〜〜〜〜〜っ♩
「あ…あー、そりゃお腹空いちゃうよね? もうすぐ終わると思うから、もう少し我慢して…」
盛大に鳴り響いた私のお腹に気づいたシドさんが、申し訳なさげにフォローしてくれました…けどっ!
「どっ……ぎゃあぁあーーーーっすッッ!?」
「ぅへえ゛〜〜〜〜っミミミサさんっ!?」
ざっっっけんなァッ!! オメーらのせいで旦那様にバレちまったじゃねーかァッ!?
女の子が男の人に腹の虫を聞かれるのは、ウ◯コやシッ◯やサイズが合わないズボンやブラのホックが弾け飛ぶのと同じくらい恥ずかしいんだぞぉコンチクショーめッ!
「守ってくれるって言ったのにっ…私のプライドはちぃーっとも守ってくれなかったぢゃないですくわァッ!?」
おかげでこちとら、もぉズッタズタのボッコボコですからっ!
ぅああーっもぉっ、あ゛あ゛ーっもぉッ!!
溜まりかねた私は、車のドアをガチャリンコと蹴破って、
「ちょちょちょお〜〜〜〜っ!?」
青ざめたシドさんの制止も振り切り、ガン◯ムのようにズズーンッと大地に聳り立つなり、両手をメガホンにして、
「くぅおらぁーッいつまでチンタラやっとんじゃいバカ息子ッ!? とっととソイツのエイヒレむしり取ってヒレ酒にしたらんかァーイッ!!」
《なっ…バカはテメーだろがこのバカ女っ、こんなトコにしゃしゃり出てくんじゃねぇーッ!!》
大慌てで私に怒鳴り返すラリスくんの頭上で、エイラス人は触手ごとその先端の目玉をわななかせて、
《なん…だとぉ〜〜〜〜っっ!?》
あ゛…ヤッヴァーいっ。怒らせちったテヘッ☆
《フッフフ、どーせ吾輩が買ったモノを…どーしようと吾輩の勝手だよなァーッ!!》
怒りに任せたエイラス人は触手をビュルビュル伸ばし、真っ赤な目玉で私を叩き潰しにかかります!
えぇ〜ソレって武器にもなるのぉ〜!? そんなコトしたらお目々痛くない!?
しかも、ビルの屋上から地上までは彼の本体の何倍も距離があるのに、余裕で届きそうなほど、すんっごい伸っびぃーーーーるっっ!!
あ、コレ…今度こそ死んだかも…?
《させるかぁーッ!!》
そこへラリスくんの巨体が視界に割り込んできて、文字通り身を盾にして私をかばいました。
ズヌンッ…辺りを襲う地響きとともに、肉を裂くような不気味な音が間近で聞こえて…
《…痛ってぇなぁ〜クッソぉ…》
エイラス人の目玉に肩を貫かれたラリスくんが、地べたにズズンッ…と倒れ伏します。
え゛…あの目ん玉、刺殺能力まであったの?
そんなモンで大切な『商品』の私をマジコロしかけたの、あのエイヒレ親父!?
反動で道路や建物がビキビキひび割れ、付近に停まっていた車が何台かペチャンコに押し潰されましたが…そんなことはこの際、気にしちゃいられません!
私達とは似ても似つかない姿なのに…大きく抉られたラリスくんの傷口からは、私達と同じ真っ赤な鮮血がポタポタ滴り落ちて、地面に大きな水溜りを作っています。
それを見たとたん、私は自分の行動がいかに軽率だったかを思い知らされました。
「ラリスくんっ!? ゴ、ゴメンなさいっ。私…!」
《…ヘ、ヘヘッ、大丈夫だって。こんなんツバつけときゃすぐ治るって…痛ちち…っ》
口も無いのにどうやってツバをつけるのか解りませんが…オロオロするばかりの私を昭和世代の親みたいな励ましで気遣いつつ、ラリスくんは気丈に振る舞ってみせます。
でもでも…ハニワみたく無表情なその顔からは、彼の苦痛を窺い知ることはできないまでも、傷口を押さえてうずくまるその様子は、とても痛々しくて…。
そんな彼を励まさなきゃならないのは、母親の私のほうなのに…!
居ても立ってもいられなくなった私は、横たわる彼の身体をよじ登って傷口のそばに寄り、おっかなびっくり手を添えます。
「痛いの痛いの…飛んでけぇーっ!」
《ア痛ツッ…だーからそんなんますます痛ぇだろーがっ。何やってんだよお前?》
「『おまじない』です。本当に効くんですよ、コレ」
彼の血で衣服が汚れるのも厭わずに、私はおまじないを掛け続けます。
「…ハイ、これでもう痛くないでしょう?」
《…ま、確かに…少しは効いたみてーだな…》
彼の身体に手を添えて撫で撫でする私を、ラリスくんも珍しくおとなしく見つめていました。
…よくよく見れば、本当に少しずつ傷口が塞がりかけてますし…ツバをつけるまでもなく、凄まじい回復力です。
が、そんなことは露知らず、ビルの屋上からこちらを見つめる加害者は…
《ち、違う…そんなつもりじゃなかったんだ…っ!?》
引き戻した両目をキョロキョロ落ち着かない様子で振り回しつつ、あからさまに動揺しています。
好んで人を傷つけたくなんてないのは、宇宙人でも同じこと。
どうやら現実は、正義が必ず悪を滅ぼす特撮ドラマのように殺伐とはしていないようで、私はどこかホッとしました。
《わ、吾輩は…私は…っ!?》
意図的に自称してたらしい一人称がブレブレになったエイラス人を、突然、雲間からカッと射した陽光が、サスペンスドラマで犯行を独白する犯人に当たるスポットライトのように…
…いいえ、陽光ではありませんでした。
「な…何だアレ!?」
「また何か出てきたぞっ!?」
「…でっっっか…っ!?」
街じゅうの人々が見上げる先に…雲間から悠然と姿を現したのは、これまた何処ぞのSF映画で見たような超巨大UFOでした…!
《…そこまでだ。速やかに投降すれば、キミの身柄は保証する。》
《…クソ…ッ》
UFOからの呼び掛けに、もはや抵抗する気も失せた様子のエイラス人はガックリと項垂れました。
そんな巨大マンタをすっぽり取り囲んだ謎のビームで牽引しつつ、UFOはなおもこちらに向けて、
《ご苦労さん。街の修繕費用その他諸々は、後ほど『管理局』宛てに請求させて貰うよ♩》
《クッソー狸親父めっ! ま〜た始末書かよ…》
ラリスくんが悔しげに呟き、シドさんは車内で頭を抱え込んでいますが…
あ、ちなみに車はラリスくんが倒れ込んでくる寸前で、シドさんがちゃっかり移動させていたから無事でしたけど…
でも、あれ? 今の声、どこかで聞いたよーな…?
《そりゃ知ってるだろ、お前の大学の学長サマだよ》
あ、道理で…って、ええっ!?
「…そう、彼が『保安官』だよ」
いつの間にか人間形態のナイスミドルに戻ったシドさんが、そう打ち明けながら車から下りて私に手を差し伸べます。
あぁ…それであんなに簡単に入学させて貰えたんですね。
「とゆーことは、『裏口入学』には当たらなかったんですね…♩」
ラリスくんから降りつつホッと胸を撫で下ろす私に、シドさんは頬をポリポリ掻き掻き、
「いやまぁ、裏口っちゃあ裏口だけどね。
ミンナ ニハ ナイショ ダヨ?」
…え゛。
◇
知らず知らず不正行為に加担していた衝撃に放心している間に、私はまたシドさんに車に乗せられ…
巨大UFOが消えた方角をいまだに眺めてヤンヤヤンヤと大騒ぎな群衆を尻目に、とっとと現場からズラかりました。
ラリスくんもいつの間にか姿を眩ましてて、少し離れた場所でやはり人間形態でひょっこり現れ、何食わぬ顔で合流しました。
「ずいぶん時間を食ってしまったけど、これから遅めの昼食と洒落込もうか?」
「その前に、コイツの格好をなんとかしようぜ。このまま飯食いに行ったら別の意味で大騒ぎになっちまうからよ」
彼の血で染まった私を指差して苦笑するラリスくんの提案で、
「なら…やっぱり"あそこ"かな?」
と、シドさんはハンドルを切りました。
何から何までお手数お掛けします…。
…しばらくして到着した場所は、街の喧騒から離れた地点に建つラグジュアリーホテル。
いかにも高級な雰囲気はもちろん、外泊なんてしたこともない私は、それだけで心臓バクバクです。
「いや泊まらない泊まらない、明日も学校あるでしょ? ここなら着替えと食事がいっぺんに済ませられるからね」
というシドさんの案内で裏口(また裏口…)からホテル内に通された私に、素早く係の人が寄ってきて…
この血まみれな格好を見ても顔色一つ変えず、奥の部屋に案内してくれました。
そこにはこのホテルの支配人さんが既に待機してて、うやうやしくお辞儀してくださってから、目にも止まらぬ速さで部下達に指示を出しています。
この効率良い組織力と待遇…
「…もしかして、この人達も宇宙人なんですか?」
「いや、彼らは普通の地球人だよ。ただし、僕らの素性を知った上で協力してくれる『スポンサー』だけどね」
地球各地には昔から、このようにして宇宙連盟に協賛する人々が無数にいるようです。
シドさんたち異星人の地球上での活動をフルサポートする見返りに、地球にはあり得ない技術や知識を宇宙から得る…まさにWinWinの関係です。
今日でも噂が絶えない米国の砂漠エリアの真っ只中の秘密基地とかは、もはや公然の事実かと。
時には革新的すぎて人々の生活を一変させるムチャ技術が公表されたりと…たとえばネットとかステルスとかスマホとか…いささか性急な瞬間もありますが…
彼らはそうやって、地球が一日もはやく宇宙連盟に加入できるよう尽力しているのです。
そんなスポンサー達の御好意で、私は手早く入浴を済ませて身体の汚れを落とし、真新しいカジュアルドレスに袖を通し…
ちゃっかりフォーマルウェアに着替えていたシドさんやラリスくんと一緒に、ホテル内のレストランに招待されました。
「をを…なんだあの三人は?」
「とんでもない美人と美形揃いだぞ!?」
「番組ロケか何かかしら?」
「綺麗…♩」
事情を知らずに羨望の眼差しを送る一般客に混ざって、やっと待望のランチタイムを堪能できました。
時刻的にはもうアフタヌーンティータイムですけど。
「血だぁ〜血が足りねぇ〜っ!」
カリ城ルパンのような台詞をのたまいつつ、ラリスくんは肉料理ばかりがっついてます。先刻の傷はもうすっかり癒えたようですけど…。
かくいう私も負けないくらい腹ペコだったはずですが…もうお食事どころじゃない心境で、せっかくの豪華なグルメもろくに喉を通りません。
特にラリスくんに対しては、申し訳なさと自身の情けなさとで…もう、まともに顔を合わせることもできなくなっていました。
「なんだよ、まぁだ気にしてんのか?
アレが俺達の仕事なんだから、お前は安心してお守りされてりゃいーんだよ」
ラリスくんはそう言って私をねぎらいますけど…それは本来なら、母親である私がするべき事なのです。
自分の子供を守れないどころか、ますます危険に晒すだなんて…母親失格もいいところじゃないですか…。
そんな意気消沈した私の様子に、シドさんは仕方なさげに溜息をついて…
「…食事が終わったら、寄ってみたいところがあるんだけど…いいかな?」
「をっ、デートのお誘いか? ヤルねぇ〜親父殿ッ♩」
「コブ付きでデートもへったくれもないだろ? ちょっと"アソコ"に行きたいだけさ」
「…あぁ、"アソコ"か…いいんじゃねーか?」
何処へ行くつもりかは知りませんけど…もう、ついていくしかないでしょう。
私が黙ってコックリ頷くと、
「…よし、決まりだな」
シドさんも頷き返して、ワイングラスをクィッと傾けました。
…あっコレ、これから運転される方でタダの地球人さんは、真似しちゃダメですよ絶対!
◇
デートスポットなんてホテル周辺にはいくらでも転がってるのに…再び発車したシドさんはそんな場所には見向きもせずに街を離れ、どんどん山の手へと向かっていきます。
いつしか周囲から人気も消えて…こんな寂れた場所で、彼はいったい何を…?
も、もしかして…私を慰めるために、ふ、『夫婦らしいコト』をするんだったら、さっきのホテルでも充分だったのに…♩
「相変わらずシケたとこだなぁ、ここいら辺はよ…」
って、そーいやコブ付きでしたねギャフンッ。
でも、その口ぶり…ラリスくんもこの場所に来たことがあるみたいな…?
それに、この道…どこか見覚えがあるような…。
ろくに外出したこともなかった私が、唯一覚えてる場所っていったら……あ。
「…到着。」
やがてシドさんがタイヤを小さく軋ませて停車したのは…あぁ、やっぱり。
峠道の中腹にある、あの『事故現場』でした。
私とお爺さんお婆さん…リンクラー達が永遠に別れることとなった、あの…。
ずっと彼らに騙されていたとはいえ…それでも、私にとってはかけがえのない育て親ですから…嫌でも郷愁が込み上げてきます。
「道中はすげー退屈だったけど…やっぱイイよな〜この景色は。未開すぎてつまんねーこの星で唯一褒められるトコだぜ♩」
相変わらずの皮肉を口にしつつ、ラリスくんが近寄っていくのは…道端にある、土地が展望台のように盛り上がった一角でした。
少しずつ黄昏れてきた空はなおも晴れ渡って、辺りは匂うほどの草木に覆い尽くされて…
そこには…誰が置いたのか、しおれた花束が添えられています。
二人のお墓は、まだありません。
だから、この場所がその代わりです。
「…よっ、また来てやったぜ。今日は手ぶらで悪ぃけど、手土産はまた今度な」
その花束にひざまづいて優しく語りかける、ラリスくんの背中を見て…彼が事故後も何度もこの場所を訪れていたことを、私は初めて知りました。
「アイツはああいう奴さ。仕方がなかった事故でも、他人の命を奪った自分を…アイツは絶対許せないんだ」
人間以上に人間らしい…と言ったら失礼ですね。
宇宙人も地球人も皆、等しく人間なんですから。
そんな中でも…彼の優しさは、やはり特別なのかもしれませんけど。
でも…
…先刻、初めて私の目の前で巨大化した、私達とは似ても似つかないラリスくんの姿を見て…私はやっと理解しました。
巨人の彼からすれば、私や地球人なんて、まるでハムスターか観賞魚みたいなもの。
私達がそれらを見て「カワイイ♩」とは思っても、それ以上の感情はまず湧かないように…
彼が私に向ける目も、所詮はそこまでのものだったのです。
だから、お部屋に"地球人向けの"エッチなモノが皆無だったのも、私を「母親だなんて一度も思ったことがない」のも当然ですし…
学校で貰った大量のラブレターが鞄の奥にほったらかしだったのも、それで納得できました。
ペットがやたら吠え盛ってても、何を訴えたいのかが解らず、結局放置したままのことって、よくあると思いますけど…
ラリスくんもそんな飼い主と同じで、答える答えない以前に、彼女達の自分への想いがいまいち理解できず、途方に暮れていたんです。
でも、今は理解してあげられなくても、そのうち解る日が来るかもしれないから…
いい加減な返事で悲しませるくらいなら、それまで待っててもらおうと、保留にしていただけだったんです。
それが…誰にでも気さくに接するけれど、相手の想いにはなかなか気付けない不器用な彼の"本当の優しさ"だったのです。
「あとキミ、二人への結婚報告がまだだっただろ?」
そう言って優しく背中を押すシドさんに促されて、私もやっと「そういえば…」とハッとしました。
けれども、あの人達はずっと私を騙し続けてたのに…今さら何をどう言えば…?
ためらいがちに花束のそばへと歩み寄る私を背後からシドさんと、墓前からラリスくんが静かに見守ります。
今までも、これからも…この二人は、ずっと私を見守り続けてくれるに違いありません。
それに比べたら…
「…お爺さんお婆さんも、困った人達ですね。こんなに優しい人達を困らせて…私まで巻き添えにしようとするなんて…」
「そうだね…。いったい何をどう考えて、彼らがそんな暴挙に至ったのか…」
ついついこぼれた私の恨み節に、シドさんも頷いて疑問を呈しますが…
「だーから、小難しく考えすぎなんだよオメーらは。んなもん、決まってんだろーが?」
ようやく墓前からゆっくりと身体を起こしたラリスくんは、そう言いながら…振り向きざまに私を指差しました。
「お前が可愛かったからだよ。」
彼のそんな一言を誤解した私の胸が、トクンッと大きく波打つと同時に…
唐突に山肌を吹き下ろすつむじ風が、私の黒髪をバサバサとそよがせました。
その途端、今の今まで忘れ去っていた…いいえ。おそらくはお婆さんが最後の力を振り絞って私にかけた記憶の封印が、パッと大輪の花が咲き誇るように、一気に解き放たれました。
◇
"ガーディアンか!? クソッ、取引がバレとったんじゃなっ!"
"ど、どうするんだい爺さん!?"
あの日、この場所でラリスくん達が放つ閃光を目撃したお爺さんお婆さんが、激しく動揺します。
"仕方ない…この子を引き渡そう。上手くいけば罰金だけで済むかもしれんしのぉ…"
''ダメだね。そんなことしたら、あの粘着質なエイラスが黙っちゃいないよ!"
"くぅ…っ。だいたい、なんであんなセコい奴を取引相手に選んだんじゃ!?"
"時間が無かったんだからしょうがないさね! あんただって納得してたじゃないさ!?"
"そんな焦りがハッキリ表に出ておったから、アイツに足下見られて安く買い叩かれちまったんじゃろうがっ!?"
"…確かに、大失敗だったさね。この子の値打ちはあんなモンじゃないってのに…っ"
お婆さんは悔しげにぼやきながら、私をギュッと抱きすくめます。
でも私は…その時も今も、夢の中の自分をぼんやり見ているような感覚で、何の反応もできません。
"…なぁ。ずっと考えてたんじゃが…あんな奴にくれてやるぐらいなら…"
''…!? バ、バカ言うんじゃないよっ! この子まで巻き添えにするなんて…っ!?"
"じゃがな、このままじゃとどの道…この子はあんなチンケな野郎の慰みモノになるか、ずっと実験動物みたいな扱いをされるか…。
それで一生を終えるなんて…そっちの方がよっぽど可哀想なんじゃなかろか?"
私を憐れんで見つめるお爺さんの問い掛けに、お婆さんはしばらく黙りこくって私を見つめ続けて…
"…そうさね。どうせこの先どこまで行ったって、ろくな嫁ぎ先は見つかりっこないさね。
この子に釣り合うお相手なんざ、そうそういやしないしねぇ。
それに…綺麗な子は綺麗なまま逝くに越したことはないだろうしねぇ"
いささか自己中心的な解釈が過ぎる気もしますけど、そう答えて優しく私を抱き寄せます。
"…よし。決まりじゃな…っ"
短く呟いたお爺さんは、自らを奮い立たせるように深呼吸を繰り返すと…ハンドルをギュッと握り直して、
"行くぞぉバケモノめがァーッ!!"
アクセルを全開まで踏み込み、閃光めがけて特攻します!
"そうさ、この子はもう、あたし達のもんさね…っ"
私を守るように抱きすくめたお婆さんの小さな身体は、武者震いに打ち震えています。
"もう…誰にも渡しゃしないさねぇーッ!!"
"うおおおぉぉぉぉーーーーーーッッ!!"
お爺さんお婆さんの雄叫びをたなびきながら、車はどんどん加速していって…
そして…。
◇
「お前が助かったのは…婆さんが最後まで、しっかり守っててくれたおかげなんだぜ。」
他人の心情に疎いラリスくんでも、そんな二人の最期の姿には否応なく胸を打たれたのでしょう。
彼が今でも二人のお墓参りを欠かさないのは、そんな慚愧の念にいまだにかられているからでしょうか…。
そんな彼のおかげですべてを思い出した私は…もう、顔じゅうグシャグシャにして、花束の前に泣き崩れていました。
「お爺さん…お婆さん…ごめんなさい…ごめんなさいっ!!」
たとえ最初は商売っ気しか無かったとしても…二人が最後に私に向けた愛情は、紛れもなく本物だったのです。
二人は私にとって…本当にかけがえのない両親も同然だったのです。
そんな彼らの思いを、ほんの少しでも疑った自分がもう、情けなくて…。
そして…そんな大切な人達には、もう絶対会えないんだって、今更ながらに痛感できたら…どうしようもなく、寂しくて…悲しくて…。
思えば私は、二人を亡くしてから初めて、声をあげて泣いたのでした。
「ったくよぉ。せっかくの真新しい服をまた汚しやがって…」
墓前のしおれた花束にすがって泣きじゃくる私の背中を、ラリスくんは子供をあやすようにさすり続けてくれます。
本当にもう、どっちがどっちの親なんだかわかりません。
「ほらセンセ、アンタも慰めてやれって」
「い、いや僕は…」
「本来なら夫の役目だろこいつは? いいかげん観念しやがれって。
『夫婦生活』はこれからも続くんだぜ♩」
「…よ、よし…っ」
半ば強制的にラリスくんに手招きされたシドさんは、なにやら気合いを入れて私のそばに腰を下ろすと…転んで泣き喚く子供を慰める親のように、そっと私の身体を包み込んでくれました。
いよいよ赤味を増す黄昏時の春風は、この時間帯ともなればまだまだ肌寒いけれど…
こんなにも温かい二人に囲まれた今の私は、もう、どんな寒さでも平気です。
お爺さんもお婆さんも、私の将来を悲観していたけれど…安心してください。全然そんなことはありませんから。
むしろ、こんなに優しくて格好いい人達は…彼ら以外にはもう金輪際、私の前には現れないことでしょう。
でも…これこそが彼らのお仕事。
異星人にして『保護管理官』でもある長命な二人は、それとは比較にならないほど短い私の命が尽きるまでは、ずっとそばで見守り続けねばならない使命をおびているのです。
それは保護される側のこの私も同じで…もう一生、自分が自由に過ごせる時間とは無縁なのでしょう。
けれど…それでもいいんです。
だって…今の私は、こんなにも満ち足りた幸せを感じているのですから。
それに比べたら、所詮は何も出来ないままに漠然と過ぎ去っていく、つかの間の自由なんて…そんなに大切なものなのでしょうか?
やがて黄昏色が真っ赤に染まり、夕陽が地平線の向こうに沈んで宵闇が訪れ…
泣き疲れた私が、彼らの腕の中で健やかな眠りにつくまで…
二人はずっと辛抱強く、私を見守り続けてくれました。
それは…仮初の私達が、やっと本当の家族になれた瞬間だったような気がします。
お爺さん、お婆さん。
美沙兎はいま、とっても幸せです。
◇
「やぁやぁ、こうしてお会いするのは二度目ですかな?」
とっぷり日も暮れた頃、寝ぼけた私を乗せて峠から街へと戻った車は…
ラリスくんに叩き起こされた私を連れて、適当なお店で御夕飯を済ませてから、今度はシドさんの提案でとある場所へ。
飄々と出迎えてくれたのは、学長こと『保安官』さん。
そう…ここは私やシドさんが通う大学の、地下数百メートル地点に造られた『保安官事務所』です。
とはいえ、事務所とは名ばかりの広々としたドーム状の大空間で、さながらどこぞのSF映画で観たような未来的な軍事工場の様相を呈しています。
最奥には昼間も見かけた超巨大UFOの他、やはりSFチックな機体が何隻も駐機し、大勢の整備スタッフがガヤガヤと動き回っています。
なかには明らかに地球人とは異なる姿形の人々も…。
もちろん一般の学生や教授陣は、この場所の存在を知りません。
「こうした活動を続ける上では、『学長』という立場は何かと便利なものでしてね」
私達に事務所内を案内しながら、保安官さんは簡潔に自らの素性を明かしてくれました。
宇宙の有人惑星には、彼のように宇宙連盟から派遣された無数の保安官が着任しているそうです。
「いやはや、貴女ほどのお方が我が大学に在籍していらっしゃるのは、本当に光栄に思っているのですよ♩」
「は、はぁ…」
なんでも宇宙連盟界隈では私はとっくに有名人で、どこへ行こうとスーパースター並みの待遇が約束されているそうで…。
「で、あちらが『取調室』ですが…ご覧になられますかな?」
取り調べ…ということは。
通された別室の小窓からこっそり室内を見回すと…いました。昼間の一件の『容疑者』が。
「さすがにあの巨体はこの事務所内にも収まり切れませんからな、地球人サイズに『擬態』してもらっていますよ」
という件の『エイラス人』は…予想に反して、いかにも神経質で苦労人っぽい雰囲気の、眼鏡をかけて骨ばった痩せ型の中年男性でした。
自らを『吾輩』などと呼称していた不遜な態度はもはや微塵もなく、背中を丸めて取り調べに素直に応じる姿は、人間サイズでも一際小さく感じます。
擬態前とは全然違う容姿なのに、言われてみれば案外似通ったイメージなのがまた不思議ですけど…。
「ここ最近の不景気で、会社の資金繰りが滞ってて…今度、不渡りを出したらもうオシマイだと焦ってて…
何か解決策はないかとネットを漁ってたら、たまたま『ルナリアン』の取引情報を見つけたもので…転売目的で飛び付きました…」
…それであんなに切羽詰まってたんですね。
「でも当日、指定された受け渡し場所にはいくら待っても誰も来なくて…
まさか騙されたのか? 冗談じゃない!…って血まなこになって調べるうちに、連中は不手際から自滅して、『商品』は保護局の手に落ちたって裏情報をキャッチして…」
大事な商談ほど必ず邪魔が入る、ビジネスドラマあるあるですね。
…実際には、それ以上にドラマチックな展開でしたけど。お爺さん…お婆さん…。
「フザケるなっ、このためにどれだけの金と手間暇を費やしたと思ってるんだ!?…って、すっかり血が上ってしまって…」
そこで彼はなりふり構わず、受け渡し場所から逆算した『商品』の生息域に降下して、当てずっぽうに捜索していたところ、運良く(?)私にバッタリ出くわした…というのが経緯らしいです。
う〜ん…なんだかどんどん可哀想になってきました。だってこの人、とことんツイてなくて…。
あれだけの群衆から見事、私を探し当てた時点で、すべての運気を使い果たしてしまったんでしょうか?
「あの人が支払った私の代金って…?」
「まだ前金を何割か振り込んだだけのようで…残りは取引成立時に支払う話になっていたようですな」
具体的な金額を聞けば、我が『竹取家』の資産から余裕で払い戻せる程度でした。
宇宙レベルの取引相場がどうなっているのかは知りませんから、安いのか高いのか見当もつきませんが…。
「…あの…面会って出来ますか?」
私の希望が予想外だったらしい保安官さんは「ほぉ!?」と目を丸くしましたが…結局、ラリスくん達が立ち合うという条件下で直接面会が叶いました。
刑事ドラマ同様、意外と普通な造りのドアを開けて入室すると…
「…!? すっすす済みませんスミマセンッ、悪気は無かったんですぅ〜〜っ!!」
私の姿を目撃した容疑者は雷に撃たれたように大きくのけ反ってから、怒涛の勢いで土下座を披露しました。
本当に悪気が無いなら、そもそも人身売買になんて加担しないと思いますけど…
それもこれも私という存在が根本的な原因なのですから…他人事ではありません。
「…こちらこそ、ご迷惑をお掛けしました。ご購入代金は全額お返しします」
と謝罪した私に、エイラス人だけでなくシドさんやラリスくんや保安官までもが仰天します。
「かぁ〜〜〜っ…どんだけお人好しなんだよ、お前はっ!?」
頭を抱えたラリスくんに、
「でもでも、実質的な被害は…あ〜まぁ、色々ありましたけど…」
お爺さんお婆さんはあくまでも事故死であって、この人には直接関係なかったですし…と釈明する私に、
「そうもいかないよ。保護管理官を負傷させた上、いくらか街に被害も与えたんだし。どれもこれも重罪だからね」
あ…シドさんが言う通りのことも確かにありましたね。ラリスくんの怪我はもうすっかり癒えてたから、コロッと忘れてましたけど…。
「何より許し難いのは、未開惑星の住人に不用意に姿を晒したことですな。
あれからもう、街じゅう…いやもう地球中が大騒ぎになっとりますぞ」
白昼、ビルの屋上に突如出現した巨大マンタと、それに対峙した謎の巨人、そしてトドメの巨大UFO降臨…。
怒涛の勢いで立て続けに発生した、これら一連のニュースは瞬く間に世界中を駆け巡り、「いよいよエイリアンの地球侵略開始か!?」などと大パニックを巻き起こしていました。
なかには、マンタと巨人が闘っているようにも見えたり、巨人が謎の美女…てゆーか私を守っているようにも見えたことから、「あの巨人はウル◯ラマン的な正義の味方ではないか?」という、まぁ割と正確な考察も乱れ飛んではいましたけど。
いつの間にかちゃっかり撮影されていたそれらの様子を、遅ればせながらスマホのニュースサイトで確認して…
「うわー…どーすんですかコレ、もぉ収拾つかないですよね絶対?」
「それは『上』が判断することで、我々下っ端の出る幕ではありませんなぁホッホッホ♩」
「うーん、確かにそろそろ、僕らの存在を地球人が認識するには良い頃合いかもしれないけどね…」
「を〜っ、結構カッコ良く映ってんじゃん俺♩
あと、お前もバッチリ映ってたから、明日からまた取り巻きが増えるぜ絶対!」
ラリスくんの怪我に右往左往する私の姿は、ニュースサイト以外でも大きく取り上げられて「女神降臨か!?」などとお祭り状態。ぅへぇ〜っ…。
「すんませんスンマセンしゅんまへぇーんっ!!」
パニックを引き起こした張本人の中年エイラス人は、顔面蒼白でずっと床に頭をこすりつけています。もう、お気の毒サマとしか言いようがありません。
「…この人、どうなっちゃうんですか?」
「既に『上』が話し合いをつけておりまして…後日、エイラス政府が身柄を引き取る手筈となっとります。
まぁ、これだけの騒動を引き起こしたのですから…それなりの処分は覚悟してもらわなけれはなりませんな」
「ぅぅ…うぅう〜…っ」
保安官さんの弁に、エイラス人は背中をわななかせて…ついには嗚咽を洩らし始めました。
ほんの出来心から全てを不意にする…とりわけネット社会は、そうした悪事に加担した自らの責任を軽く感じてしまいがちなので要注意ですね。
それでも…この人にまだ、やり直せるチャンスがあるとするなら…
「…お顔を上げてください」
「…え…?」
なおも土下座を続けたままだったエイラス人の手を取り、そう促した私を…涙に濡れた顔の彼が、唖然と見つめ返します。
「あなたの罪は一生消えないかもしれませんけど…私はあなたを赦します。
残念ながら、あなたの物にはなれませんが…これからのあなたを、応援していますから。」
眼鏡の向こうの彼の瞳の奥底をまっすぐに見つめて、諭すように語りかけた私に…エイラス人は再び涙腺を崩壊させました。
「女神様…女神サマァ〜〜〜〜ッ!!」
子供のように泣き喚き、私に向けて一心不乱に両手を合わせる修行僧のような彼を見て、これ以上の取り調べは不可能と判断した係員が、部屋の外へと連行していきました。
けれど、その後も、
「ありがたや、ありがたや…!」
奇跡を目の当たりにした高僧のような顔で、保安官さんは神々しそうに私を拝み倒しておりまして。
どうやらここに新たなる『聖女・竹取美沙兎伝説』が爆誕してしまった模様です。
「ハハ…さすがは僕の奥さんだね♩」
「さすがは俺の母ちゃんだぜっ☆」
異口同音に私を誉めそやすシドさんとラリスくんにも、やっと認めてもらえたみたいで嬉しい限りですが…
うんっ、この絶好の機会を逃す手はないでしょう!
「それならば…この天上天下唯我独尊な、アナタ達の妻にして母の私から、お願いがあります。」
「ワハハッ、さっそく調子に乗り始めたぜ?」
おどけるラリスくんをまずはビシィッ!と指差して、私は告げます。
「母親の私が恥ずかしい思いをせずに済むよう、これから毎日キッチリ学校に行ってください。いいですね!?」
「チッ、結局ソレかよ…わーったよ、行きゃいいんだろ行きゃ!?」
ブーたれつつも、いつになく素直に応じたラリスくんに安心しました。
なんだかんだ言って私を大切にしてくれる彼は、少なくとも、これで勝手にサボることはなくなるでしょう。
「それから…ア・ナ・タ♩」
そのままスライドさせた指をシドさんの胸元にツンツン突きつけた私に、彼は「えっ僕も!?」と意外そうな顔。
「当然ですっ。一見、私への慈愛に満ち満ちているようで…その実、妻を妻とも思わない不遜な態度の旦那サマには…!」
むしろ、こっちの方が厄介なお願いかもしれませんけどね…彼にとっては。
◇
自宅に帰った頃にはだいぶんいい時刻になっていたので、明日に備えてとっとと休むことに。
「んじゃ、また明日な。お二人サン♩」
「あ、じゃあ…僕もそろそろ…」
ニヤニヤ笑って自室に引っ込んだラリスくんと、どこか挙動不審なシドさんを見送ってから、私も自室に戻って寝巻きに着替えます。
さて…では、寝床に向かうとしましょうか!
…え? このまま自室で寝るんじゃないのかって?
フッフッフッ。今夜からは違うんだなぁコレが。
「…よよっようこそおいでくださいましたっ!」
やがて、別のお部屋の戸口に現れた私を、テンパりまくりな様子のシドさんが三つ指ついて出迎えます。
「ふ、ふつつか者な夫ですがっ、何卒よろしくお願い致しますっ!」
「旦那サマ、それ逆。わ、私のほうこそ、よろしくです…っ」
かくいう私も、やっぱり全然落ち着きません。
自分から言い出したことだというのに…。
そう…結婚後まだまだ半年にも満たないド新婚カップルだというのに、昨日までは別々の寝室で眠るという耐え難き枯れ具合だった私達は…
いよいよ今宵、初めての『初夜』を迎えちゃうのですっ♩…ってコレ、日本語ダイジョブ?
"今夜からは、夫婦一緒の寝室で過ごしてください。"
それが先刻、私がシドさんに課した条件でした。
常日頃から貞淑な新妻に徹してきた私の欲求不満も、あまりにも人畜無害が過ぎる彼の草食動物ぶりにはそろそろ爆発寸前でしたから。
「と、とっても可愛いパジャマですねっ?」
「あ、ありがとございまふっ!(←噛んだ)」
今夜の私のお召し物は、無難に普通のパジャマです。
同居開始前に気負って買った透け透けネグリジェだとか、正気の沙汰じゃないほどのアブナイ下着だとか、他にも色々候補があって散々悩みましたけど…
初日から攻め過ぎてドン引きされるのもどうかと危ぶんだ挙句の賢い選択でしたが、お褒めにあずかり光栄至極にございます♩
それにそんなの、私の羞恥心のほうが持たないし。(←ならなぜ買った?)
でもまぁ…服装なんて、いざコトに及べばもぉ無関係ですしね…ムフフ♩
「そそっそれでは、どうぞこちらへ…っ」
「は、はははい…っ」
誘われるようにダブルベッドに滑り込んだ私達は、ぎこちなく隣り合います。
それだけでもう心臓が爆発しそうなのに、この先どーなっちゃうんでしょう…ドキドキッ♩
「で、では、おやすみなさいっ」
「はっはいっ、おやすみなさいませ…っ」
消灯。ぐぅ…
…………
…って、そーじゃないでしょーがッ!?
もっと他に色々あるでしょ『夫婦の営み』ってモノは!
たまらずお部屋の灯りを点け直した私の不穏な気配を察知して、旦那様はオドオドと、
「いや…今日は色々ありすぎて疲れてるんで、用があるならまた今度に…」
そう言ってさっさと背中を向けてしまいました。
どーですかこの草食っぷり? そしてもはやろくな日常会話すら無くなった倦怠期真っ只中な夫婦のごとき、貯水率ゼロのドライっぷりは!?
すぐ隣に「さぁ召し上がれ♩」って上げ膳据え膳な私がいるというのに…嗚呼、なんたる屈辱!?
女はソレが我慢できない…っ!
けれども…飢えた獣に迂闊に背中を預けてしまったのが、アナタの運の尽きです…よっと!
むにゅりんこっ☆
「あひょっ!? ミミミミサさんっ!?」
パジャマの布地越しにたわわな胸を押し付けた私に、シドさんはうわずった声を上げます。
ウフフ…ラブコメの十八番奥義『当ててんのヨ♩』の威力は、やはり絶大ですね。
加えて、我ながらこの特大サイズはなかなかの攻撃力かなーって自負してるんですケド♩
「あ、あああのねぇ…っ!?」
背中のふんわり触感に耐えきれず、身体ごとこちらに振り返った彼の片腕を、腕ひしぎ逆十字固めの要領で絡め取って…えいっ☆
ずっぽしぽぉんよよよぉーんっ♩
「ひぃあーっ!?」
私の深い胸の谷間に食い込まされた自分の腕を、あたかも肉食獣に身体をかじられたかのように絶望的な表情で目撃して、シドさんは女の子みたいなか細い悲鳴を上げました。
「ダダッダメだよこれ以上はっ!?」
「なんでですか? 『絶滅種』との肉体的接触は規制されてたりするんですか?」
「い、いや、むしろその結果『亜種』が得られるなら喜ばしいことだと推奨されてる面もあるけど…っ」
「なら無問題じゃないですか。いいかげん覚悟を決めてください。
私の方は…アナタとの結婚を決めた時から、とっくに覚悟完了してたんですから…っ!」
今まで言えなくても言えなかった『女の決意』を伝えて、やっと胸のつかえが取れた安堵感からでしょうか…思わず涙がこぼれてしまいます。
「これ以上…女に恥を掻かせないでください…っ!」
早鐘のように脈打つ、私の胸の鼓動が…彼にもとっくに聞こえていることでしょう。
涙ながらの私の訴えを、シドさんは反芻するように黙って聞き届けてから…
「…解った。今さら後戻りはできないからね?」
胸の谷間から自分の腕を引き抜くなり、私の上に力任せに覆い被さりました。
その反動でパジャマのボタンがプチプチ弾け飛んで…あえてブラを着けなかった私の両乳房が、彼の前にぷよよんっとまろび出ます。
ズボンも半分脱げて、質素な純白パンツがはだけちゃって…ううっ。
やっぱり、もっとオシャレなのを穿いてきたほうが良かったかな…?
その様子を、シドさんは食い入るように見つめて…や、やっぱり覚悟は決めてても、これだけ間近だと気恥ずかしいものですね…っ。
「…綺麗だ…」
ポツリと呟いた彼の顔が、擬態中だった地球人の中年男性から、本来の眉目秀麗で若々しいハンサムな好青年へと、モーフィングのように自然に変化していきます。
彼なりに誠意を示そうと、元々の姿に戻ってみせたようですが…おかげで私の心臓はなおさらバクバク鳴り出しました。
日頃から格好良いナイスミドルな姿のシドさんだけど…こんな場面で、よりカッコイイ少し年上のお兄さんになっちゃうだなんて…反則もいいところですよ。
余談ですが、このようにそれほどの大変化を伴わない擬態の場合には、今見たようなスムーズな変身で充分なようです。
けれどもラリスくんのように、体組織や身体サイズそのものが大幅に変化する場合には、核融合レベルのエネルギーが必要だそうで…あの閃光はその副産物なんだとか。
「本当に…美しい。これこそ…見事な芸術品だ…!」
彼の澄んだ空色の瞳が、宝物を見つけた子供みたくキラキラ輝いています。
「あ、ありがとう…ございます…」
褒められて悪い気はしないんですが、なにぶん裸なもので…身体が火照って仕方がありません。
「…全部…あなたのモノですから…自由にしちゃっていいんですよ?」
「っ…」
我ながら恥ずかしさ全開の誘い文句に、シドさんは喉を詰まらせたように押し黙ってしまいました。
そして、後ろめたそうに視線を彷徨わせてから…
「僕は…僕たち『モーント人』はね、ミサさん。ずっと、キミに…キミ達に憧れ続けていたんだ。」
◇
遠い昔、遥か彼方の銀河系で…
宇宙でも類稀な美貌を誇る『ルナリアン』の母星から程近い同星系内の惑星にて、ほぼ同時期に『モーント人』もまた産声を上げました。
にもかかわらず、彼らモーント人はルナリアンとは雲泥の差な容姿に過ぎず…。
ほんのわずかな差異がこれほどの隔たりを生むとは、まさに宇宙の神秘といったところでしょうか。
けれども、早くからルナリアンに畏敬の念を抱いていたモーント人は、ほとんど宗教的な信仰の対象として彼らを崇め…
それ故に、程なくして宇宙の方々で勃発するルナリアンの大乱獲に異を唱え、彼らを死守したことで友好関係を築いた数少ない種族でした。
…やがて、ルナリアンへの羨望が頂点まで極まったモーント人は、憧れのルナリアンに少しでも近づくべく、自らの身体の大改造へと舵を切ります。
同盟を組んだルナリアンも、この試みには大いに賛同し、助力を惜しみませんでした。
広大な宇宙で常に狙われ続ける『希少種』な彼らと同等な種族が増えれば、それだけ彼らの価値が下がり、乱獲の危険も軽減されるであろうことに期待したのです。
種族間交配やクローン技術、その他諸々の考え得る限りの手法を駆使した結果…モーント人は以前とは見違えるほど美しい容姿を手に入れました。
けれども…それはモーント人が目標としていたルナリアンの美貌には程遠く…
これ以上、どんなに苦心し続けようとも、彼らには決して追いつけないことを悟っただけでした。
唯一無二の美麗種族『ルナリアン』は、その存在そのものが宇宙の奇跡であり、共有財産であるとの確信を得たのです。
そんな奇跡的な存在が、単に私利私欲や商業目的などの目先の利益で損なわれることは、それこそ宇宙的な損失である!と…
今こそ全宇宙が一丸となり、彼らのような希少種族を保護すべきである!と…
同時期に発足したばかりの『宇宙連盟』に強く訴えかけたモーント人は、自主的に『宇宙希少種族保護管理協会』を創設しました。
しかし、その思想が宇宙全体に浸透するまでには、さらに長大な時間を要し…
彼らの悲願がようやく結実した『保護管理局』が公式に設立された頃には、前述した地球人との交配による『種族改革計画』(第一話参照)を進めていたルナリアンは、ごくわずかな数にまで激減していたのです。
それから間もなく、『ルナリアン絶滅』の一報が宇宙を駆け巡った際には、モーント人は「神は去った」と全種族をあげて喪に服し、もう二度とこのような悲劇を繰り返してはならないと、ことさら希少種の保護活動に尽力する決意を改めたのでした。
◇
…つまり私とシドさんは、種族的にも、昔から互いに守り守られる親密な間柄だったんですね。
そう、まるで従兄妹か、兄妹みたいな…。
「…お兄さまっ♩」
「ゔをふっ!? この状況でその呼称はますますマズイよ…マイディアシスター・ミサちゃん?」
ゾクゾクッ。あ、なんかスンゴイ背徳感…♩
なんだかんだで気に入ってくれたみたいですね。
「でもでも、モーント人の外見って…そんなに言うほど酷い落差ですかね?
私から見たら、シドさんは本当にカッコイイし…綺麗…ですけど?」
ルナリアンの複製種族、イコールそこそこイケてるはずの地球人にも、こんなにハンサムな人ってそうそういないと思いますけど…。
「キミにそう言ってもらえて光栄だけど…
僕は種族の中じゃ、並み以下の容姿でね。ずっとコンプレックスを感じてきたんだよ」
え゛…コレ以上のイケメンなんて、想像もつかないですけど…もしかしたらモーント人の審美眼て、どこか狂ってません?
「だから…成り行きとはいえ、こうして夫なんて立場になれただけでも…身に余る栄誉なんだよ」
見た目はこんなに華やかなのに…本当に謙虚な人です。
…あ、でも、虹色に輝くその髪は、ちょっと派手すぎるかも…。
街中で急に話しかけられたら、絶対いかがわしいビデオの出演交渉か何かだと思って逃げちゃうかも…。
…実際、いかがわしいコトしてる真っ最中ですし。きゃっ☆
「絶滅から一千年ぶりにキミが発見されたというニュースは、僕らの種族ではそりゃもう後世まで語り継がれるほどの歴史的エピソードとなったし…
厳正な選考審査を経て地球に派遣されることになった僕には、もう…言葉では言い表せないほどの凄まじい期待が寄せられてるんだ。
それこそ、仮に失敗しようものなら、一族全員が死んで詫びるしかないレベルのね…」
そうしてシドさんが私を心の底から大切にしていることは、今の話で痛いほど伝わりました。
「でも…そんな使命よりも、何よりも…
僕はね、ミサさん…キミのそばにずっと着いていたいんだ。」
思えば…彼は最初から大嘘つきでした。
全てはルナリアンの私を奪還するため、巧妙に仕組まれた罠でした。
私が知ってたお爺さんお婆さんの死因も嘘。
昔からの隣人というのも嘘。
ラリスくんと親子というのも嘘。
地球人だというのも嘘。
自分が地球人だと信じて疑わなかった、私の正体でさえも嘘。
大学教授というのも嘘…じゃないけど、後付けでしたし。
「ただ、それだけで…充分だと思ってたんだ」
けれども…この私を大切に思ってくれている気持ちだけは、最初から本物でした。
そして、今…彼は自分の本当の気持ちを、今度こそ包み隠さず、洗いざらい正直に伝えてくれました。
「最初にキミを見た瞬間から…僕はキミに、ずっと恋焦がれてたんだ。」
たぶん、これからも…もう、彼が私に嘘をつくことはないでしょう。
成り行きとはいえ、そんな誠実な彼を夫に選んだことを…私は誇りに思います。
「だから、これ以上の高望みなんて…許されないことなんだって…」
…でもね、旦那様?
ソレはソレ、コレはコレです!
私がただ一つ、そして何よりも不安なのは…そんな彼の私への想いが、本当に『愛情』から来るものなのか、いまいち確信が持てないことなんですっ。
だって…それを何一つ行動で示してくれないんですもの!
「…大事に守りすぎて、失くすモノだってあるんですよ?」
「え…?」
誰かが街のどこかで、恋をするたびに傷つきやすくなるんですっ!(←?)
このまま私が『賞味期限切れ』になるまで、後生大事に棚の奥にしまい込んでおくつもりなんですかっ!?
だいたい、いざこれからって場面でイキナリ関係ない回想シーンに飛んだりして、肝心な"その瞬間"になかなかたどり着かないとか、典型的な『ちょいエロ漫画』の罠にハマってるじゃないですくわっ!?
「…あーいや…だからね、そのぉ…一体全体、これから何をどーしたものかねぇ…タハハ?」
そんな私の抗議の視線に気圧されたシドさんは…この期に及んで嫁に全部丸投げだとぉ!?
「えーっと実はね…僕らの種族は過去に、惑星規模の感染症に見舞われて、全人口の大半が死滅しかけたことがあって…」
ちょっと前に地球で猛威を振るったコロナウイルスよりも、さらに悲惨な経験をしたんですね。
無理やり種族改造なんて行ったツケが回って、免疫不全に陥って疫病への耐性が低下してしまったんでしょうか?
「以来、直接的な肉体接触はタブー視されて、繁殖行為は人工授精が主流になってるんだよ」
あー、それでますます私に触れることを極度に恐れてる訳ですね、納得。
フンッ、どーせこちとらバイ菌だらけの土壌で育った不潔極まる野生児ですよーだっ!
「まぁ僕も学者の端くれだから、『地球式』の方法は知識としては心得てるんだけど…
いかんせん『経験』が決定的に欠如してて…何をどうしたものやら…」
あ…どうやら違ったようです。
興味はあるにはあるらしいけど…そりゃ、方法が解らなければ事に及びようもないですよねー。
見た目も実年齢も、私よりもずーっと年上のオトナの人だと思ってたのに…
本当はとってもピュアな、子供みたいな心の持ち主で…なんだかカワイイ。くすっ♩
それじゃあ……チュッ♩
「…!」
困惑したシドさんの首筋に両腕を絡めて引き寄せた私は…自信なさげに震える彼の唇に、軽く自分の唇を重ね合わせました。
「…ね? これなら簡単でしょう?」
などと言いつつ…私の心臓は遅れて慌ただしく騒ぎ出しました。
だって、コレ…よくよく考えたら、ファーストキス…だったんですもの。
「…そうだね。これなら…僕にもできるかな」
シドさんも、私を宝物のようにそっと抱き寄せて…チュッ♩
とっても優しいキスをお返ししてくれました。
たったそれだけなのに…彼の温かさが身体中に染み渡っていきます。
二人とも、とっくに成人年齢に達した大人なのに、いまさら子供みたいなコトに一喜一憂しちゃってますけど…私はそれでも充分満足でした。
…けれども、
「つ、次は…どうしよっか?」
ハードルを一つ飛び越えて自信をつけたシドさんが、興味津々に訪ねます。
その視線は、剥き出しの私の胸に注がれてて…やっぱり男の人って、おっぱいが好きなのかな? カワイイ♩
それなら…と、私は自分の乳房を片っぽ、手のひらで持ち上げてみせて、
「今度はコレ、チューチューしてみます?」
「!? おっおぱっ…ちゅーちゅー!?」
カチーーーーン。
あ、フリーズしちゃった。
さてはモーント人は授乳も人工的でしたか…ちぇっ。
ウブなネンネの旦那様には、まだまだ刺激が強すぎたみたいですね。昭和世代みたいに鼻血を吹かなかっただけ、まだマシですけど。
「…大丈夫ですよ。これからゆっくり、少しずつ進んでいきましょう?」
精魂尽きて私の隣に倒れ込む旦那様に身体を預けて…そっと耳元に囁きかけます。
そう、焦る必要なんてないんです。
私たち夫婦の時間は…今、やっと始まったばかりなんですから。
でもこの分だと、スタート直後のお城の周辺でひたすらスライムばかり狩り続けるような、地道な作業になるかもしれませんけどね。
やっと他の土地を巡れるくらいになるまで、はやくレベルアップしてくださいね、旦那様♩
そして…天国(?)のお爺さん、お婆さん。
美沙兎は今宵、『女』になりました♩(※なってません。)
【第二話END】
とゆー訳で矢継ぎ早にお届けする『げんじつ。』第二話です。
前回、疾風怒涛のごとく過ぎ去った第一話では、とにかくインパクトとスピード感を優先したため、細かい説明は全部後回しにしまして。
その分、今回はミドルテンポに抑え、前回取り残した説明から、決着、回想、そして初夜(笑)となるべくスムーズに展開させました。
前回、せっかく怪獣とウルト◯マンが出てきたのに一向に取っ組み合わなかったから、今回こそは!と期待した方もいらっしゃったかもしれませんが…やりませんよ、ンな当たり前なこたぁ(笑)。
本作の主題はあくまでも『人妻』であって、SFだのアクションだのは単なる味付けですから!
今どき怪獣同士のプロレスなんか見ても、なーんもオモロくないっしょ?(笑)
その周りでウロチョロしてる人間達の群像劇のほうが、よっぽどドラマチックじゃーないスか。
てかもー怪獣いらねーし。(←なら何故出したし?)
そんなこんなでろくに闘わない宇宙人対決や、悪人など結局誰もいなかった…というオチから、このお話の基本方針がそれなりにご理解頂けたかと。
物の見方は一つだけじゃないのに、固定観念に執われすぎると痛い目を見るぞ?…という意図が今回のサブタイトルにも込められています。
つまりはそーゆー『ワカラセ回』でした。
戦争だの何だのと世界中がキナ臭い昨今、たまにはこういう、読んでてなんだかホッとできる(かコレ?)お話もいいかな〜ってことで。
前々作『野性刑殺』、前作『ワン畜生』(未完)と立て続けに殺伐とさせすぎた反動もありますけど(笑)。
んで、今回もいちおーギリギリセーフだろ?と全年齢対象にしてあるんですけど…初夜シーンって大丈夫ですかねコレ?
最近の漫画やアニメがアレとかコレとかなもんで、基準がよー解らなくなっとりまして(汗)。
結句、昨今の水準からすれば一線すら越えてはいない、肩透かしなサジ加減に落ち着きましたけど。
具体的には、チューして乳拝んだだけですけど(笑)。
いかにも露骨な描写は控えて、あっカワイイ♩と感じてもらえる程度には抑えておいたつもりなので、親御さんにも安心してオススメできますネ☆
いまどきコレかいっ!?と自分でも思いますけど、でもまだ二話目なのに早々とアレコレいたしちゃうと、(主に作者の)熱が冷めがちで後に響きますし(笑)。
でもコレを乗り越えなければ、美沙兎とシドゥスの関係がいつまでも夫婦未満なままだから、イマイチ感情移入できないだろうし、後々のNTR展開にも繋げられな…いやゲフンゲフフンッ!
ちうわけで次回以降の見どころは、究極の朴念仁、人を人とも思わない(文字通りな意味で)ヤンチャ坊主のラリスくんをどーやって調教開発するか?ですかね。
なにしろ責任感が強い母親・美沙兎のことなので、きっと色々しでかしてくれるかな? ドキドキわくわくっ♩(笑)
女性キャラももっと増やしたいですしね、今んとこオッサンだらけだし(笑)。




