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旅立つ女の胸には浪漫のカケラが欲しいのよ

【前回のあらすじ】

 ラリスくんがイチャつこうとするたび、必ず横槍を入れてくるミユちゃんのせいで、私のフラストレーションは鰻上り。

 その鬱憤をシドさん相手に晴らそうとするも、そんな私の心情なんてとっくにお見通しな彼の行為は、この頃どんどんサディスティック化してて…あぁ〜んっもぉ♩


 そんな悶々としたラブホテルからの帰り道、偶然?久々に出くわした学長さんこと、地球派遣保安官さんから、気になる情報を手に入れました。

 私の育ての親である『リンクラー』…お爺さんお婆さんは、どうやら月側を裏切ったのではなく、むしろその手引きで地球に降下したらしいということ。

 そして、私やマコさんら『ルナリアン』と、『モーント』皇帝三兄弟との出会いは単なる偶然ではなく、すべては黒幕の思惑通りなのでは…?と。

 彼らの野望、それは…私達『ルナリアン』の復活に留まらず、そこから生まれた『新人類』らによる、新たな地球文明の創造なのでは?…と。


 兎にも角にも、そんな彼らに対抗するためには、先日大破した旗艦『ソル・ラディアンテ』を一刻も早く改修し、月面へと直に乗り込む必要がありそうです。

 その打ち合わせのために皆が出払い、ようやく二人きりになった私とラリスくんは…晴れて、男と女の関係に…キャッ♩

 結局、肝心なところでまたもミユちゃんに妨害されたものの、より深く結びついた私達の心は、もう何があろうと無敵ですっ!


 …と、思ってたんですけどね。

 その時は、まだ。



◇



 そして場面は前回同様、早朝のラリスくんのお部屋から…


「…んんっ…はぁ…っ」


 インモラルな喘ぎ声と甘ったるい吐息が室内に充満します。

 が、その主は私ではありません。


「だいぶん感じやすくなってきたじゃねーか…え? ポチ子♩」

「ぃやんラリスくん…あふっ…」


 ベッドの上で、私とは比較にならないほど薄ぅ〜い胸や腰を、彼の気まぐれな指先でチュクチュク刺激される度にカワイイ声を上げる、煩悩脳汁ダダ漏れなミユちゃん。

 う〜んっ、セクシャルラブリー♩

 現役JC相当の年齢的にも、それ以上に幼い外見的にもモロアウトですけど、ギリッギリ宇宙人枠のケンネル人だから問題ないモンッ☆

 …とはいえやっぱり最初は、こんなちっこカワイイ子に、こーんなエロエロなコトさせるなんて…と葛藤もあったんですけどね。

 私達がえっちぃコトするなら、あたしも必ず混ぜるコト!…って、本人が言い出したんだから仕方ないですよね。


「はぁはぁ…ラリスくん…もっとぉ…♩」


 犬型宇宙人らしく、口の端からだら〜んと舌を垂れて…はだけた制服の下から真っ白なお腹を覗かせて…チンチンポーズ(アッチじゃなくてワンちゃんのほうネ☆)でラリスくんにマッサージをせがむ姿が、もぉ〜っ辛抱タマランほどエッッッロいわぁ〜〜♩


「ちょ待てよ。その前に…まずはこっちが先だな♩」


 キムタクみたいにミユちゃんに待ったをかけた彼は、彼女のカラダをまさぐっていた手を…今度は私の乳房に這わせて…あふんっ♩


「をを…ほとんどぺったんこなそっちとは段違いなボリュームだな♩」

「あぁ〜んっ、そんないぢわる言わないでぇ…あたしのほうも…」

「ダメよぉ〜中途半端は。一旦触っちゃったなら…最後まで責任取って…♩」


 まさにハーレム、朝っぱらから酒池肉林。

 以前のこの時間には、まだまだ寝ぼけまなこだったラリスくんも…

 最近じゃあもうすっかり、いろんなトコが早起っきしちゃって…♩

 ノリノリで私たち二人を押し倒した彼は、その上に馬乗りになると、懐かしのビリーズブートキャンプみたいに発破をかけて、


「ぃよぉーっしお前ら、まとめて準備はいいか?」

『Year!!』

「オッケー、レツゴー。

 ハイハイスリーツーワンッツー!!」

「…朝っぱらからなんなんですか、このサバト状態は?」


 せっかくの闘志を消化器で吹き消すようにして部屋の外からフラリと現れたのは、窓辺の朝日を照り返してギラリと光る眼鏡の下から、絶対零度の冷ややかな視線を送るマコさんです。


「お姉様まで一緒になって…いい歳して、どんだけただれ切ったら気が済むんですか?」


 ゔゔ…私と事実上の姉妹だってことが判明してから、ますます当たりが強くなってませんか?

 てゆーか、日頃から隙あらば歳上カレシな皇帝サマと乳繰り合ってる、ただれパパ活JCなアータにだけは言われたくないですよ!(←目クソ鼻クソ)


「あのー…そろそろ支度しないと、学校間に合わないっスよ?」


 腕組みして仏頂面な眼鏡っ子いいんちょの背後に隠れて、フレイアさんも遠慮がちに私達を促します。

 真っ赤に燃ゑる瞳と頭髪(比喩ではなく実際に)というド派手な外見をしてる割には、私達の中じゃいちばん落ち着いた常識的な性格なんですよね、この子。


 仕方がないので、言われるままにテキパキと身支度を整えた私達は、揃ってダイニングへ。

 今朝の朝食当番はマコさんだったらしく、出来立てホヤホヤの湯気を立てた和食中心の美味しそうなお料理の数々が、テーブル上に所狭しと並んでいます。

 テーブルの向かい側には、シャムス皇帝にシリウス師団長、そしてシドさんらモーント王室三兄弟が勢揃い。

 宇宙有数の華麗なる王族が庶民宅で和食を頬張るという、なんともシュールな絵面です。


「まったく…毎朝毎朝、よくも飽きないねぇ…」


 呆れ返ってジト目で睨むシドさん達の氷の微笑に耐え抜きながら、一心不乱に朝食をむさぼる私達。

 つい先日までは和やかな雰囲気に満ちていたはずが…どぼぢでこーなりましたか!?(←多分に自分のせいなことに気づかないド天然)


「…と、ところで、"改修"はどこまで進みましたかっ!?」


 沈黙の重圧に耐えかねて、私は誰にともなく話題を振ります。

 "改修"とは…言うまでもなく、我が家の上空に駐機中のモーント皇国旗艦『ソル・ラディアンテ』の件です。

 月側の手痛い一撃で壊滅的な被害を被った当艦ですが、地球側の全面協力が得られたことにより、予想以上の急ピッチで改修工事が進んでいます。

 月側の目的がどうやら"地球人類の刷新"である可能性が濃厚となった今…もはや『旧人類』となった地球人たちも看過できなくなり、モーント星団王国との同盟関係を締結するに至りました。

 なお、その前段階として、宇宙連盟加入国として強い発言権を持つモーント側が、地球を公式な『惑星国家』と認めたため、なし崩し的に宇宙連盟への加盟が正式に認められました。

 また、その地球側が、今までは陛下の自称に過ぎなかった『皇帝』を宇宙で最初に正式に認めてしまったため、モーント"王"国も公式に『モーント星団皇国』と名称が改まりました。


 さらに、旗艦の改修に携わることで得られた、地球側にとっては驚愕すべき最先端技術の数々も、瞬く間に世界中に浸透しつつあります。

 空を見上げれば…『ソル・ラディアンテ』のすぐ隣に、二番艦と思しきよく似た巨大な艦影が確認できるはずです。

 モーントの技術支援により、地球側が新造中の最新宇宙艦『きぼう』です。

 同名の日本が開発したISS(国際宇宙ステーション)用実験ユニットがありましたが、名目上はその二番艦として開発が進んでいます。

 こちらは完成までまだまだ要する見込みのため、『ソル・ラディアンテ』が月面に再接近する際の助力にはならないでしょうけど…

 その艦名通り、人類の『希望』となることを期待してやみません。


「うむ、順調だ。早ければ今週中には完了するのではないか?」

「えっ…そんなに!?」


 得意満面に答えた皇帝サマに、私は思わず声を上げてしまいました。

 だって、そりゃなるべくはやく済むに越したことはありませんけど…

 その時こそは、今度こそ月側との最終決戦の火蓋が切って落とされるときですから…。


「心配しないで。今度こそ大丈夫なはずだから…理論的にはね」


 不安げな私の様子を見てとったシドさんが、穏やかながらも自信ありげに胸を張ります。

 先日、彼が提案した『新技術』とやらが如何ほどのものか、私はいまだによく知らないんですけど…予想以上のモノになりそうだと、お偉いサン達は揃って鼻高々なんですよね〜。

 けど…このお話において、そーやって要らぬフラグを立てた輩がどーゆー目に遭わされるかは、シドさん自身も身をもって痛感したはずでしょ?

 はてさて、いったいどーなることやら…?



◇



「ハッ! ィヤッ! トォッ!」


 翌朝。なんとなく早起きしてしまった私は、いつものようにラリスくんのお部屋へ…

 向かう途中、廊下に面した中庭から、勇ましい掛け声が聞こえてきました。

 見れば…シリウス師団長の指導のもと、技の鍛錬に精を出すフレイアさんの姿が。

 師団長が剣術メインらしいので、てっきり同じ技での指導かと思えば…合気道や空手を合わせたような、素手で闘う武道みたいですね。


「ご苦労様です」

「あ、ミサ姉。おはようございまっス!」


 額の汗を拭いつつ、爽やかに応えるフレイアさん。うんうん、礼儀正しくて良い子ですね♩

 チャイナ服にも似た道着を纏っているのが、これまたよくお似合いです。


「初めて拝見しましたけど…武器は使わないんですね?」

「ええ、いろいろ試してみて、コレがいちばん自分に合ってるかなって。

 それにホラ、あたいって火炎放射メインだから、下手な武器はよけいにかさばるんスよ」


 確かに。戦闘形態の彼女は、火炎放射器状の手をたずさえた遮光器土偶みたいな姿ですからね。

 火炎攻撃の死角から攻めてくる敵を相手にするには、拳や体術による肉弾戦が最も効果的かもしれません。


「師匠の武器も、一見カタナみたいっスけど、実は銃火器とか槍とか棍棒とか、いろんな形状に切り替えられる万能武器なんスよ。だからスンゴイ参考になるっスね♩」


 をほっ、イイSFガジェット!? あのイケオジ、剣術だけじゃなく格闘や飛び道具までイケちゃうっスか! もうほとんどジェームズ・ボンドですネ♩

 まぁ実戦では相手も必死だし、律儀に得意武術だけで攻撃してくるわけもないから、様々な事態に臨機応変に対応できるようにしておくのは、皇帝陛下の護衛役としては当然の心構えでしょうけど。


「それに…とっても優しいっス。この人に出会えただけでも、思い切ってココまで来た甲斐があったっスね♩」


 ポッと頬を赤らめて、少女らしい本音を吐露するフレイアさん。ずっと孤独に耐え抜いてきた彼女にとっては、今が幸せの絶頂かもしれませんね。

 また、そんな彼女を養女に迎えたからには、親の愛情をたんまり示しておくのが、師団長としては当然の義務かもしれませんけど…

 ん〜…なんてゆーか、私の女の勘としては、この二人ってそれ以上に"強い絆"で結びついちゃってるよーな?

 初対面のときの師団長サンも、私が思わず誤解するほど彼女に"ベタ惚れ"しちゃってましたし…。

 すべてが片付いてモーント皇国に戻った後、正妻サマとの間でトラブルにならなきゃいいんですけど…?


「んで…そんなアナタの旦那…いえ"お義父様"は…今、何を?」


 庭石にドッカリ腰掛けて腕組みをし、愛娘の修行をつぶさに見守っている…かに遠目には見えた彼は、


「…ぐう。」


 目ぇ開けたまま爆睡してらっさるし! 怖っ!?

 こんなテキトーな指導にもかかわらず、素人目にも目に見えて上達してるってことは、序盤の教育がよかったのか、はたまたフレイアさんの生マジメさの勝利か…

 ともかく、『愛』のなせる業ですね♩


「まあまあ、師匠も最近は何かとお忙しくてお疲れなんスよ。

 ハイハイお爺ちゃん、そろそろお部屋に戻ってお布団に入りましょーねぇ〜♩」


 一見、老いた父親をいたわる孫娘みたいなほのぼのした情景ですけど…「お爺ちゃん」?


「ムニャムニャ…やだやだ、おネンネ前におぱーいチューチューするのぉ〜っ!」


 こ、これはっ…夢の中では誰しも幼児退行化する傾向がありますけど…戻り過ぎでしょ!?

 意外すぎる師団長さんの素顔に唖然とする私の前で、彼の手は…

 灼熱の炎獄娘な割には薄氷のように薄ぅーい、フレイアさんの胸元へと…♩


「ひゃふっ!? お、お義父さんやめて…っ!」


 一部の嗜好家にクリティカルヒットしそうな悲鳴を上げて身悶えするフレイアさんに、寝ぼけたままの師団長さんは、なおも絶壁の壁面をフリークライマーのようにまさぐって、


「…ヌゥ? しばらく見ないうちに、ずいぶんしぼんだな。俺達もそろそろ歳か…?」


 そんな彼の口ぶりから、標準以上にたわわなモノをお持ちな奥様との夫婦仲は、いまだご健在なことが窺い知れますけど…

 言われたほうはたまったもんぢゃねー。


 ゴッ…!


「ぐふっ…ガクッ。」

「あ゛ー、うっかり手が滑ってお義父さんに当たってしまったっスー。だいじょぶスかー?」


 そしてスンゴイ棒読みで永眠させとるー!?

 …ま、まぁ、すっかり仲良しサンで安心しましたケド。

 よもや、私が知らないトコでこんな痴態が繰り広げられていようとは…フレイアさんもなかなか隅に置けませんネ♩



◇



 さて、いつも自宅周辺でアヘアヘしてる私を見て、ついに大学辞めたのか…などと危ぶんでる、そこのアナタ!

 ちゃーんとキャンパスライフを謳歌してますとも、失敬な!? これでもまだギリッギリ十代の若者ですからね!

 けど物語最序盤の第四話あたりを最後に、以降は学内描写が一切なかったのも事実ですので…久々にどーぞ♩


「をを〜っ、竹取さん…!」

「いつ見てもお美しい…♩」

「モーント王子妃ってのも納得だよな…」


 私が学内を闊歩するたびに、効果音のように囁かれる称賛と羨望の声は、近頃ますます華やかに。

 ここ最近の出来事で、宇宙有数の星団国家であるモーント皇族の人気は世界的に鰻上り。

 弱きを助け強きを憎む、正義感の塊のような彼らの行いは、リアルヒーローとして大絶賛されており…

 私たち竹取家の面々がその関係者ということも、今では広く知れ渡っています。


「それに最近、ますます綺麗になってない?」


 中にはこんな鋭いご意見も。

 それはまぁ…そんなリアルヒーロー達のエキスを、夜な夜な吸収しちゃってますしネ♩

 とまぁ、そんな評価だけではなく…


「こん時のギャルファッションは、もうやってくれないのかな…?」

「アレは特別って話だぞ? ホラ、この子の手間、仕方なくって…」

「ムッヒョーなんだこのゴスロリ、めっちゃカワイイじゃん!?」

「ラリスくんだよ。ほら…息子の」

「!!!???…まぢで?」


 こんな具合に、それぞれのスマホの写真を見せ合って、密かに?盛り上がってるグループも…。

 先日のラリスくんとの親子デートは、予想外に多くの学生に目撃されちゃってたみたいで…

 その時に隠し撮られたらしい私やラリスくんらの写真が、学内外で高値で取引されているみたいなんです。

 ゔゔっ…竹取美沙兎、一生の不覚…!

 無論、肖像権は私にありますし、隠し撮りはモロに犯罪行為ですから、鶴の一声で今すぐやめさせることも可能でしょうけど…

 今やモーント皇族の一員となった私が、その程度のことで腹を立てたり恥ずかしがってるだなんて思われると、様々なところにマイナスイメージが付きかねませんし…

 有名税みたいなモノだと思って、諦めるしかないでしょう。

 それに…


「このときの服、駅前のブティックに売ってるみたいだよ?」

「マジで!? え〜欲しいっ!」

「ネットでも買えるみたい。思ったより高くないし…」

「ホント!? 買う買う、絶対買うっ☆」


 とこんな塩梅に、あちこちのお店の売り上げにも貢献しちゃってるみたいですしね。

 同様に、マコさんやミユちゃん、フレイアさんに皇帝三兄弟の情報も勝手に広まってくれて、わざわざ紹介する手間が省けてるのも利点でしょうか?


「それにしてもよぉ…いまだに信じらんねーよな…」

「あぁ、昔っからそーゆートンデモ説はあったけどよ。まさかマジだったなんてな…」

「俺たち人間が…人工的に造られた種族だったなんてな」


 モーント皇国との同盟締結にあたって、その理由を説明する必要に迫られた地球側の各首脳は、やむなく地球人の存在理由を公表しました。

 地球人、並びに太陽系は『ルナリアン』による創造物であること。

 そしてまた、モーント人もかつて『ルナリアン』に寄せた人種改良を行った、半人工種族であること。

 そして、今…その『神』にも等しいルナリアン側が、自分達に無断で地球環境の改変を目論んでいること…。

 首脳達の狙いは見事に当たり、世界中で月側への反対運動が盛り上がりをみせています。

 さらには私とマコさんの『新生ルナリアン姉妹』も、あらゆる倫理観を無視して産み出された悲劇的な存在として、地球側のシンボルとなりつつあるのです。

 シンボルといえば、他にも…


『…………』


 誰もが無言で見上げる空の彼方に、嫌でも目に入る『ソル・ラディアンテ』と『きぼう』の姿。

 その威光がそのまま人類の『輝ける太陽』、そして『希望』と成り得るのか…

 今はまだ、誰にもわかりません。



◇



「…やだっ!!」


 その日、大学ついでに街でのお買い物を済ませてから家に帰ると、先に帰宅していたミユちゃんの駄々っ子じみた大声が。

 今度はいったい何だというんでしょうか?

 辟易しながら、声が聞こえたリビングを覗いてみれば…


「ワガママゆーんじゃねーよっ、おとなしく言うこと聞けって!」

「あなたのためを思って言ってるのよ?」


 懸命に説得を試みるラリスくんやマコさんと対峙して、


「やだもんっ、あたしだけ仲間外れにしないでっ!!」


 泣き腫らした顔のミユちゃんが、必死に抵抗しています。

 そんな三人の様子をハラハラ見守るフレイアさんは、成す術もなくオロオロするばかりで…。

 けれども私には、みんなが何で揉めているのかがすぐに理解できました。

 いずれ、月面への突撃作戦が敢行されれば…

 主戦力のラリスくんやフレイアさんはもちろん、当事者である私とマコさんも皇帝三兄弟に同行する運びとなっています。

 けれども…そのどちらでもない、ミユちゃんは…。


「…ミサお姉母さま!? お姉母さまは、あたしを置いてかないでしょ!?」


 部屋の戸口から様子を窺っていた私に気づいた彼女が、何度聞いても語呂が悪さげな独自の呼び名で私を慕いつつ、さっそく詰め寄ってきました。

 でも私も、どう答えていいものやら…。

 無理やりとはいえ、私達の養女になった彼女のたっての希望は、なるだけ叶えてあげたいのは山々ですけど…

 今回ばかりは、素直に頷けるものではありません。

 シドさんは、自ら考案した『秘策』とやらに相当な自信があるようですけど…

 あの『ソル・ラディアンテ』を一撃で沈めるような相手ですから、絶対安全という訳ではありませんし。

 見た目的にも実年齢的にも最年少な、しかもこんなに愛らしいミユちゃんを、あんなに危険で殺伐とした場所に連れて行くことには、どうしても抵抗が…。


「な、なんか特技でもあれば、話は別なんスけど…ね?」


 遠慮がちに口を開いたフレイアさんの提案に、そんな話じゃないでしょ?と内心苛立ちつつ……あ。


「ミユちゃん…ちょっとこっち来て?」

「ほぇ? う、うん…?」


 手招きしながらリビングを後にする私に、可愛く呆けつつもテコテコついてくるミユちゃん。やっぱりラブリー♩

 他の顔ぶれも、何だ何だと首を傾げつつ、その後にぞろぞろ続きます。廊下を通って玄関口から外に出た私は、そのまま庭に回り込むと、その脇を突っ切って…とある部屋の窓前へ。

 ここは私のお部屋ですが、用があるのは、その二階…ラリスくんのお部屋です。

 窓辺にはバルコニーが付いてますが、その周辺には足場になりそうな物は何も無く…

 お隣さん家の真向かいのお部屋が、ミユちゃんの自室になりますけど…

 あそこからココまでは、家一軒分ほどもある広いお庭に遮られているので、飛び移るなんて到底不可能な芸当です。

 けれども、先日…


「…をっ? そーだよ。ポチ子お前、どーやって俺の部屋に入ってきたんだ?」


 ラリスくんもやっと私の意図に気づいてくれたようです。

 そう、私とラリスくんが彼のお部屋でくんずほぐれつアヘアヘしていた真っ最中…

 いきなり窓から乱入してきたミユちゃんが、いったいどーやってあそこまでよじ登ってきたのか、ずっと不思議だったんですよ。


「ん? どーやってって…」


 そう応えるなりミユちゃんは…突然なんの前触れもなく一階の壁に向かって体当たり!?

 …するかと思いきや、壁面の微妙な凹凸に爪先を引っ掛けながら、トントントーンッと瞬く間に二階まで駆け登り…

 窓辺のバルコニーに片手を掛けると、腕一本でクルンッと身を翻して…


「…こーやって。」


 バルコニーの手すりに平均台みたいにチョコンッと飛び乗ると、窓枠にトンッと手を突いて、こちらに微笑み返しました。

 こ、これは…っ!


「…凄っ!?」

「これなら、どこでも侵入し放題じゃないですか!?」


 目の前で繰り広げられた忍者映画さながらのアクションに、興奮気味なフレイアさんとマコさんが手に手を取って歓声を上げます。

 いやはや…香港ワイヤーアクションも真っ青な、足場無し垂直壁登りとか…あーた本当に犬型宇宙人ですか?

 ここまでカンペキな技術を披露されてしまったら…


「…チッ、しゃーねぇな。

 けど、当日は俺もお前を守ってやるだけの余裕はねーだろうからな。足手まといにはなるなよ?」

「うんっ、ラリスお兄ちゃんっ☆」


 渋々同行を認めてくれた彼に、嬉しそうに抱きつくミユちゃん。

 思えばウチの人員は総じて、一騎当千の突撃タイプばかりですからね。

 こうした隠密行動が得意なメンバーが一人でもいれば、戦略もワンパターンにならずに済みます。


「ご褒美にチューしてチュー♩」

「調子のんなっ、もうお前にチューは絶対しねーからなっ!?」

「あう〜っ、ラリスくんの毛チン棒…」


 照れて真っ赤になりながら彼女のひょっとこ口を押しのけるラリスくんに、ちょっぴり大人になったミユちゃんはセクハラまがいの文句を口にしますが…

 私の心は、もう決まっていました。


「…いいでしょう、ついてらっしゃい」

「お姉母さまっ♩」


 喜んでラリスくんから私に飛び移ってきたミユちゃんに、私は微笑み返します。


「どのみち…私達が負ければ、そこで地球はオシマイですからね」


 …たぶん、自分でもかなり歪(いびつ)だったろうと思われるほどの、引きつったぎこちない表情で。


『…………』


 みんな一気に意気消沈。

 しまった、とは思いましたけど…私はいまだに不安が拭い切れないままだったんです。

 だって、あんなトンデモナイ攻撃を仕掛けてくる連中相手に、どうやって対抗すればいいものやら…?


「フム…じゃあ、実験してみよう♩」


 某教育テレビの科学番組の司会者みたいな軽ぅ〜いノリで話しかけられ、驚いて振り向けば…いつの間にかシドさんをはじめ、皇帝三兄弟が勢揃い。

 どうやらまた一緒に『ソル・ラディアンテ』の視察に行ってたようですけど…男子ってホントにSFガジェット大好きですね。


「あ…いえ、実験て…どーやって?」


 まさか、また私達を引き連れて宇宙にトンボ返りですか?


「いや、もうそんな面倒な真似はしなくていいんだ。ついといで♩」


 手招きするシドさんを訝しみながら、私達一行はまたゾロゾロ家の中へと…

 …家の中?



◇



 そしてたどり着いたのは…我が家の地下室。

 それだけで、ミユちゃんとマコさんがプルプル震えちゃってますけど…今は気にしないでおきましょ♩

 物置きと化していた室内はいつの間にかキレイに片付けられて…広々とした部屋の片隅にPC端末。

 そして部屋中央には、プラネタリウムの映写機をまんま小型化した、プロジェクターみたいな機材がポツンと置かれています。


「コイツはまぁ、一種のシミュレーション装置さ。過去の記録映像とかをAIが自動解析して、そっくりそのまま再現してくれる。

 …あ、ココにあった荷物は、一時的にあっちに運び込んであるから」


 地下室の天井…その彼方に停泊中の『ソル・ラディアンテ』を指差すシドさん。

 大学教授らしく?モーント皇国の旗艦をはやくも私物化しちゃってますけど…?


「良い良い。我が愚弟はこのほど正式に、我らモーント皇国の技術顧問に任命された。

 必要とあらば何をしようと構わんからな?」

「ハッ、ありがたき幸せにございます♩」


 口は悪いけど皇帝サンは、もうシドさんに全幅の信頼を置いてるみたいですね。

 ということは現状、宇宙随一の頭脳と認められた訳で…妻の私も鼻高々です♩


「んで…まずは前回の、例のシーンを再現してみるけど…」


 と言いながら、シドさんが端末を操作した途端、プロジェクターから光が溢れ出して…


『…ををっ!?』


 皆が口々に感嘆の声を洩らします。

 小狭い地下室にいたはずが、辺りは一瞬にして無限に広がる大宇宙に…!

 プロジェクターに投影された映像に過ぎないはずなのに、驚くほどリアルな臨場感があって、床に立っている感覚すら無くなるほどの浮遊感が…


「単なる立体投影じゃなくてね。視覚や聴覚・嗅覚…あらゆる感覚を刺激して、脳に擬似体験を味わわせるようになってるんだ。

 地球(こっち)でいうところの『VR技術』の発展型だね♩」


 とか簡単に説明しちゃってますけど…コレだけでもう、地球(こっち)の最新技術を遥かに超越しちゃってますよ!?


「さてと、まずは座標を前回の位置に設定して…」


 シドさんの操作に合わせて、空間全体が超高速で流れて…あっという間に月面上空の風景に。これだけで宇宙酔いを覚えるほどですが…

 振り向けば、私達の背後には、太陽光を反射して白亜に輝く『ソル・ラディアンテ』の勇姿。

 対する月面をよくよく観察すれば、大地に走った深い亀裂の奥底に垣間見える、メカニカルな内部構造が…。

 この光景は…たしかに先日の中継で見た、『ソル・ラディアンテ』が撃沈される寸前の様子そのものです。

 やがて…月面の一端にギラリと煌めく、禍々しい光の束が…!


「あの光だけど…どこかで見覚えないかい?」


 映像を一時停止させたシドさんが、その光束を指差して質問します。

 …確かに見覚えありますね。それもつい最近、極々身近な場所で…。


「…ラリスくんが巨大化するときの"輝き方"にそっくりですね?」

「俺の?」


 キョトンとするラリスくん。いつも無意識に変身しているため、その詳細は本人も知らないようです。

 私達だって、いつもどうやって声を出しているのかと訊かれたら、すぐには答えられないのと同じです。


「ご名答。つまりは『物質融合』さ。」


 シドさんの口から、また耳慣れない言葉が飛び出しました。

 彼ら宇宙人が擬態して、地球人から本来の姿に戻るとき…またはその逆をこなすには『擬態ツール』なる、宇宙ではごく一般的に入手可能な、市販の変身キットを利用しています。

 ほぼ同等な質量の物体を任意に転換することは、宇宙技術レベルでは比較的容易なんだとか。

 ですが…これが極端に異なる質量同士となると、そう簡単には済みません。

 例えるなら、ネズミをクジラに変えるようなお話ですから…普通は無理、となります。

 そこで…足りない質量分は、自分の周囲にある物質や、大気中の成分を"変換"し"融合"して補う…。

 これが『物質融合』です。

 地球上ではいまだ困難とされている『核融合』もこれと同じで、これまで発電や核爆弾に利用されてきた『核分裂』とは異なり、理論上は放射能や汚染物質を撒き散らさないクリーンエネルギーとされています。

 そして、その際に発生する夥しい力量の奔流が…あの、直視できないほど眩いばかりの『閃光』なのです。


「つまり、敵のあのビームは単なる光粒子の結束ではなく…周囲のものを取り込んで"成長"する『エネルギー集合体』だったんだ。

 そして僕らが誇る鉄壁の盾『リフレクトシールド』には、相手の攻撃ベクトルをそのまま相手側に跳ね返す作用がある。

 ここまで言えば…もう解るね?」


 …なるほど。跳ね返された敵の『融合ビーム』は、自らの反射エネルギーを取り込んでますます増大し…

 やがて臨界点を超えて、シールドはおろか、何重もの防御措置が施された『ソル・ラディアンテ』をも破壊するほどの膨大な力を得た…!


「…その通り。だから、こちらの攻撃や防御をいくら強化しようと、ますます相手の攻撃をパワーアップさせてしまうだけだったのさ」


 でも、そんな原理が解ったからといって…そんなトンデモ攻撃にどう対処すれば…?


「そこで…僕が考案した『新兵器』の登場さ♩」


 ステージ上で自信ありげにプレゼンするIT企業社長のように胸を張りつつ、シドさんは今までのシミュレーション映像を、最初の時点まで巻き戻します。

 そして再び、月面から例の眩い光線が放たれて…


「…まぁ、見てて♩」


 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な彼の言葉に合わせて、今度は『ソル・ラディアンテ』側から…謎の"怪光線"が照射されました!

 いえ、コレを"光線"と呼んで良いものか…?

 その軌跡を中心に、周囲の風景が歪んで見えるからこそ、ソコに何かあることが確認できますが…そのものズバリは光るでもなく、色が付いてる訳でもなく…まったくの無色透明なのです。

 そんな得体の知れない"怪光線"が、ついに敵の光線と衝突した瞬間…


『…!!』


 光が…消えた!?

 敵が放った光線が、謎の"ソレ"に触れるなり、まるで氷が一瞬で蒸発するようにモヤッと揺らいで、跡形もなく消滅していきます。

 "怪光線"はそのまま、敵の光線を喰らい尽くしながらひた走り…ついには月面まで到達すると、周辺に巨大なクレーターを穿ちました!


「こ、これって…?」


 目を丸くする私達の反応に、シドさんは満足げに頷き返して、


「どこで誰が聞いてるかわからないから、詳細は伏せとくけど…要は、敵が『プラス』で来るなら、こっちは逆に『マイナス』をぶつけたまでさ♩」


 SFでは大昔から出てくる『正物質』と『反物質』の対峙みたいなものでしょうか?

 それにしては、こちらの効果の方が明らかに勝りすぎていて、マイナスというよりは『ディビジョン(除算)』ですけど…?


「まぁ、これはあくまでもシミュレーションだから、実際ここまでうまく行くかは判らないけどね…」


 と苦笑するシドさんを、


「いや、仮に多少の相違があったとて、これだけの威力があれば十二分に対抗可能だ…!」

「うむっ、でかしたぞ我が弟よ!」


 シリウス師団長とシャムス皇帝が手放しで称賛します。一見甘やかしすぎな気もしますけど、今までの不仲を思えば…ね♩

 けどこんな、敵のあらゆる攻撃を無効化可能な、途方もない威力の兵器…

 今はあくまでも、月側への対抗手段に留まってはいますけど…

 この三兄弟が本気を出したら、余裕で全宇宙を殲滅可能なんじゃ…?



◇



「そこいらへんは大丈夫じゃない? 僕ら兄弟には、そこまで尊大な野望を抱いた者は一人もいないからね」


 みんなが寝静まった夜。二人だけの寝室で…

 浮かない気持ちの理由を素直に打ち明けた私を、シドさんは笑って諭します。

 確かに、師団長と皇帝サマは自分達の国を支えるだけで手一杯で、それ以上の欲はないようですし…

 シドさんに至ってはもっと無欲で、私のそばにいられさえすればそれでいい…なんて、くすぐったいことを本気で思ってるみたいですけど♩


「でも…敵もそうだとは限りませんよね?」


 こちらが強力な武器を生み出せば、相手側もすかさずソレを解析し、より強力な武器でもって対抗してくる。

 するとこちらは、それを上回るますます強力な武器を開発して…そしたら相手もさらに…

 てな具合に、どちらかが白旗を掲げるまでは尽きることなく武装強化に励み、それによる犠牲者も鰻上りに増大するばかり…。

 そんな、尽きることのない悪夢が戦争というものです。


 挙句、それによって当初の想定を遥かに凌駕する技術が誕生すれば、目的自体が変容し、さらなる悲劇を招く…ということもザラにあります。

 たとえば現状では、月側の計画に必要不可欠と思しき私やマコさんら『ルナリアン』がすべて地球側についてるからこそ、敵も下手に手出しできず静観しているものと思われますが…

 仮にそれ以外のより優秀な"素材"が見つかって、私達や地球そのものが必要かなくなったとすれば、敵がとる行動は火を見るより明らかでしょうし…。


「…ま、いくら心配したって仕方ないよ。この先どうなるかは誰にも判らないんだし、その時はその時さ♩」


 なんともお気楽なシドさんの反応に、思わず腰砕けになる私ですけど…こんな楽天家な性格な彼だからこそ、なんでも重く受け止めがちな私が救われてる面もあるわけで…

 思えばラリスくんのほうにも、常にワイルドで傍若無人な態度に何かを期待してしまうからこそ、優柔不断な私が惹かれてしまったわけで…

 カラダの相性がどうこう以前に、この二人といると、とても気楽っていうか…どんなにピンチな時でも、不思議と安心できちゃうんですよね♩

 そんな、常に表裏一体な二人を切り離して考えることは、私にはどうしてもできない訳で…

 だから…どちらか一方を選ぶだなんて、とてもじゃないけど…。


「…まーた何かよからぬコトを考えてるね?」

「あうっ!?」


 ついつい考え込んでしまって、眉間に深いシワを寄せていた私にパチンッとデコピン食らわせて、イタズラっぽく微笑むシドさん。


「あまりクヨクヨしてると、早く老けるよ?

 せっかくの美人が台無しじゃないか♩」


 老けっ…!? ま、まだ十代の私に向かって、なんたる侮辱!?

 先日、お互いの素直な気持ちを包み隠さず曝け出しあってから、まったく遠慮がなくなりましたねこのシト。

 本当に小憎らしいったら…

 …あ。


「そういえば…最近、ラリスくんとお話しできてます?」


 あの日以来…以前と比べて、あまり二人でいるところを見かけないってゆーか…最近はだいたい御兄弟とご一緒ですからね、この人。

 そんな私の指摘に、シドさんは「目ざといねぇ」と苦笑して、


「正直、互いによそよそしくはなってるかな?

 …誰かさんのおかげでね。」


 ですよね〜。

 だからこそ、なおさら焦りを感じちゃってるんですけど…。

 そりゃね、私のせいってのは百も承知ですし、今まで通りの関係ではいられないことも充分理解できますけど…

 最終決戦を控えたこの時期にまで、ギスギス感が残ってるままじゃ、心残りが大きすぎて…

 う〜ん…やっぱり、コレしかないですね!?


「シドさんっ!」

「ぅをわっ!? な、何なの急に!?」


 突然、お布団を跳ねのけて彼に馬乗りになった私に、シドさんは幽霊にでも襲われたかのように目ん玉ひん剥きます。

 なのに…下のほうはちゃっかり反応して…あンッ♩

 そんな彼の顔に、自分の顔をズイッと近づけて…ついでに腰もスリスリ擦り付けた私は、満面の笑みでこう促しました。


「闘ってください。私のために…ラリスくんと!」

「あっちょっキモチイ……はぁ!?」



◇



 翌日の夕暮れ時。

 人里離れた峠道の一角に飛び出した、小高い崖の上に私達の姿がありました。

 ここは…そう。第二話以来久しぶりに登場の、お爺さんお婆さんが事故で亡くなった、あの現場です。

 以前訪れた直後にこの場所を買い取った我が家は、二人のお墓を急ピッチで準備して…今ではちょっとした展望台みたくなってます。

 私有地につき、部外者は立ち入れないようになっているので、私達以外に人影はありませんけど。

 そして崖っぷちには、先日完成したばかりの真新しいお爺さんお婆さんのお墓。


 そこに花束を添えた私は、しばらく手を合わせて黙祷を捧げてから…クルリと背後に向き直ります。

 目の前には…次第に赤みを増す夕日に照らされ、格闘ゲームのように左右に分かれてファイティングポーズをとる、シドさんとラリスくんの勇姿。

 二人とも地球人に擬態したままの、ナイスミドルと男子中学生の姿なので、大昔の青春ドラマの親子対決のように見えなくもありません。

 いいえ…これから二人が行おうとしているのは、まさしくその『決闘』です!

(宇宙人の正体を現すと能力差が大きすぎるので、このままの格好でとお願いしてあります)


「二人とも…私のために争わないで…!」

「…何をしらじらしい。焚き付けたのはお姉様でしょ? どんだけサイコパスなんですか…」


 ハラハラ見守る私の横から、マコさんが空気を読まない茶々を入れます…チッ。

 私自身ではつけられない決着を、当事者二人に丸投げしたのが、そんなにおかしなことでしょうか?


「だから、そのへんが…ハァ。もーいいです。

 私としては、先生を応援したいのも山々ですけど…そうするとお姉様との仲を後押しすることになるし…う〜ん…」


 などと、なにやら複雑な顔でシドさんに熱視線を送るマコさんの様子を、そばに立つ皇帝サマが苦々しげに見つめています。

 ラリスくん派のミユちゃんとフレイアさんも、同様な理由から大っぴらには応援できないみたいですし…皆さん人生色々ですねぇ。


「フム、なかなかに見事な景観だな…やはり地球は良い。

 月側との戦いが一段落したら、ゆっくり巡ってみたいものだ…」


 唯一、蚊帳(かや)の外な師団長さんだけが、美しい夕焼けに照らされた眼下の街並みに見惚れながら、何気に死亡フラグをおっ立てちゃってますけど。

 その"月側との戦い"で何の気兼ねもなくベストを尽くして頂くための、私なりの小粋な計らいなんですから、不吉な真似はやめてほしいんですケド…。


 とまぁ、ギャラリーからは予想外に不満げな意見しか寄せられないみたいですけど…

 当の本人たちは、意外とヤル気満々ですよ?


「ヘヘッ…思えば、センセとガチでやり合うのって、これが初めてじゃねーか?」

「…だよね。そもそも今まで、わざわざいがみ合うような案件には一度も出くわさなかったからね」

「けど…今回はさすがに、いくらセンセでもおいそれと譲ってやる気にはなれねぇなぁ?」

「奇遇だね。僕もまったく同意見だよ」

「なら、やっぱ…ハッキリさせるしかねーよなぁ…?」


 どこぞのヤンキー漫画みたいに剥き出しの闘志をぶつけ合って、互いに昂めあうラリスくんとシドさん。

 ウンウンい〜ですねぇ、やっぱり男の子はこうでなくっちゃ♩


「って、その『景品』なお姉様がどっちとも分け隔てなく付き合うって公言しちゃってる以上、決着なんて付きっこないじゃないですか?」


 ゔ…いちいちヤカマシイ小姑ですね、この眼鏡っ子は?

 そーゆーアータこそ、さっきから皇帝サマがすんごい形相で私を睨みつけてるのを何とかしてくださいよっ!(←自業自得)


「さ、さぁさぁゴタクはそのくらいで!

 どちらさんも、よろしゅうござんすね…?」


 レフェリー役の私の仕切りに応じて、一瞬静かに互いを見据えるシドさんとラリスくん。

 私は『喝采』を唄うちあきなおみのよーに、ゆっくり右手を振り上げて…

 はい、見合って見合ってぇ〜…


「…入りますっ!!」

『ッ!!』


 勢いよく手を振り下ろすなり、がっぷり四つに組み合う二人!

 勝っても負けてもどうにもならない不毛な闘いの火蓋が、今、切って落とされましたッ!


「…不毛な闘いって認めちゃってるし…」


 ハイ眼鏡うるさいっ。



◇



 …数分後。


「へ、へへ…やるじゃねーかセンセ?」

「ハ、ハハ…キミもな…!」


 地べたに大の字に倒れ伏して、互いの健闘を讃え合う男二人を、紅蓮の夕陽が照らします。


「…って、アレ? も、もぉオシマイですか?」


 な、なんてあっけない…。

 もっとこう、『北斗の拳』とか『ジョジョ』ばりの顔面崩壊パンチが乱れ飛んで、車田正美ばりの顔面着地をズシャアーッ!と決める地獄絵図を期待してたんですけど…

 結局、力くらべだけで精魂尽き果てて倒れ込んだシドさんとラリスくんに、私は巨大な肩透かしを食らっていました。

 なんてゆーか、事前に散々煽るだけ煽って視聴者の期待を最高潮にしといて…いざ蓋を開けてみれば、張り手の応酬だけであっさり引き分けた、いつぞやの年末格闘戦みたいじゃないですか!?


「どんだけ顔面崩壊が見たいんですか、だから? イケメンの変顔をありがたがるなんて、お姉様くらいのもんですよ…。

 先生、掴まってください」


 相変わらずブチブチ愚痴りながらシドさんを助け起こすマコさんを見て、


「ラリスくんっ、ダイジョブ!?」


 ミユちゃんも大慌てでラリスくんに駆け寄りますが、


「大丈夫も何も、押し合いしかしてないっスよ…」


 さすがに百戦錬磨のフレイアさんは、私と同じく気が抜けた顔でヤレヤレと溜息をついてます。


「なるほど…確かにこれは見事だな。どれ、ここいらに別荘でも建ててみるか?」

「ならば窓はなるべく大型にして、せっかくの景色の邪魔をせぬように…」

「いや、これだけの自然を損なう、ありきたりな建築はいかがなものだろうか。人工的な建材が目に付いてしまっては興醒めであろう?」

「となれば…この崖をそのまま活かした地下型という手も…」

「ほぉ…面白い! では、その線で…」


 皇帝サマに至っては、すっかり勝負に飽きて、師団長と一緒に物件の算定に入ってる始末。

 いちおーココ、我が竹取家の土地ですんで、実施前には一言かけて頂ければと…。


「…お前もこれで、気が済んだだろ?」


 不意にそう呼びかけたのは、ミユちゃんに寄りかかって…というか、逆に小柄な彼女をヌイグルミみたいに抱っこして、晴れ晴れとした顔色を浮かべたラリスくん。

 対戦相手のシドさんに…ではなく、私のほうに向かって。


「まったく…常に男を振り回してばかりの厄介な女を嫁にすると、一瞬たりとも気が休まらないね」


 服に付いた泥をパンパン払って、わざわざマコさんにベッタリ寄り添ったシドさんが、私を挑発するように意地悪な笑みを浮かべます。


「…ん、茶番は済んだか?」


 こちらの様子が一段落したのを見てとった皇帝サマが、ズカズカと私達の間に割って入り、ついでにマコさんを弟からペイっと取り上げました。

 そして私を責める代わりに、浮気性な彼女の頬をツンツンつついて戒めながら、


「お前が我が弟の妻でなければ、もう何度も縛り首に処しておるところだぞ?

 感謝するが良い、性悪女♩」


 怖っわ!? てか、え? モーント皇国ってまだそんな前時代的な処刑法なの?

 えーえーわかってますよ、シドさんにもラリスくんにも微塵も非がないってことは。

 全部、優柔不断な私が悪いんです。

 結局、どちらにも決めきれなくて…

 それでも、二人ともに愛してほしくて…

 最終決戦前のこのタイミングなら、吊り橋効果でより深い愛情が二人ともから得られるかもって期待して…

 この期に及んで、二人を試していただけなんですっ!!


「…ごめんなさい…ぐっすん。」


 涙ぐんでうなだれた私を…シドさんとラリスくんが、二人がかりで優しく抱きしめてくれて…。


「しょうがないなぁ、キミは…」

「ったくよぉ。

 …前にもあったよな、こーゆーコト?」

「あぁ。よりにもよって、"同じ場所"でね」


 言われてみれば…ココは、お爺さんお婆さんのお墓の前でした。

 自分が地球人ではなく『ルナリアン』だと知った、あの日…

 シドさんと、ラリスくんが…そして死んだお爺さんお婆さんが、私をどんなに大切に思ってくれていたかを知って、泣き崩れたのも…

 ちょうど、この場所でした。


「言っただろ?…お前は俺が守る、ってな♩」

「おいおい、ひとりだけイイ格好しないでくれよ」


 そう言って笑い合う、彼らと私の関係は…

 あの頃から、ずいぶん変わってしまったようで…

 本当は、何も変わってなかったんですね。

 それどころか…今は、こんなにも大勢の仲間達に恵まれて…。


「…お爺さん…お婆さん…」


 油断するとすぐに溢れ出てしまう涙を何度も拭い去りながら、私は…

 私たち三人は、二人の墓前に手を合わせます。


「私達は…今、とても幸せです。」


 街並みの向こうへと沈みゆく真っ赤な夕陽が、爽やかな夜風を運んできて…私達の頬をくすぐります。

 もう…何も思い残すことはありません。


 …あ、だからってそう簡単にやられるつもりもありませんけどね、もちろん♩



◇



 そしていよいよ、『ソル・ラディアンテ』の改修工事が終わりました。

 以前にも増して眩く光り輝く旗艦の真下には…想像を絶するほどの大観衆が集まっていました。

 今日は新生『ソル・ラディアンテ』…

 いえ、新艦名『ソル・クレスタ』の竣工式、ならびに発艦式です!


 大勢の観衆に混ざり、国内外から詰めかけた多くのVIPや著名人で、会場は空前絶後の大賑わいです。

 先程からお偉いさんの御挨拶や有名アーティストによる大パフォーマンスなど、趣向を凝らした催し物が矢継ぎ早に披露され、ボルテージは最高潮。


 …ふと上空に目をやれば、白亜に輝く『ソル・クレスタ』と、その姉妹艦『きぼう』が居並ぶ大空を、各国自慢の航空隊が幾重にも飛び

交い、最新鋭機による無数の大隊がその周囲を取り囲んで静かに浮かんでいます。

 そう、従来の"飛ぶ"というイメージよりは、"浮かぶ"という表現がしっくり来るのが現用機の特徴です。

 モーント皇国からの高度な技術支援により、地球上の科学技術はこのわずかな期間で数世紀分は進歩したそうです。


 さらにその上空には、この日に向けて全宇宙から飛来した有力種族の各艦隊が、まさに空を覆い尽くさんばかりにひしめき合って…

 これほどまでに凄まじいイベントは間違いなく宇宙史に刻まれ、いつ果てるともなく語り伝えられてゆくだろう…と、宇宙中のメディアで華々しく報じられています。


 それだけ、今回の作戦への世間の関心と期待がいかに大きいかを物語っています。

 万一失敗すれば、地球の…ひいては全宇宙の存在が危ういかもしれない訳ですから…。


《…さて、本日お集まり頂いた諸君!》


 やがて一通りのプログラムが終わると、シャムス皇帝陛下自らが皆の前に立ちました。

 もともと人前で目立つのが大好きとゆー、どっかの超大国の金髪絵札大統領並みに困ったチャンなこの人、今日ばかりは面目躍如の大舞台です。


《まずは、これだけ盛大なお見送りをして頂いたことに、心から感謝してやろう。

 …ありがとう。》


 安定の上から目線ですけど、もはや誰もが彼の性格を解っているので、会場のあちこちで笑いが巻き起こりこそすれ、腹を立てる人は誰もいません。

 世界で最も愛されている『俺様キャラ』ですからね♩

 むしろ、"あの"皇帝サマが素直な感謝の意を伝えたことに、戸惑いのざわめきがさざなみのように伝わってきます。

 日頃から私たち下々の者に囲まれて暮らしてみたおかげで、少しはカドが取れたのでしょうか?


《大変名残惜しいが、もう時間はあまり残されてはいない。

 我々はこれより…さっそく"あの場所"へと向かう!》


 ステージ上から皇帝サマがまっすぐ指差す上空には…荘厳な連合艦隊の遥か向こうにかすかに浮かぶ、モノクロ印刷のような真昼の月。

 確かによくよく注意すれば、白昼でも見かけることは時々ありますが…ここ最近はほぼ昼夜を問わず、絶えず目にするようになった気がします。

 あるいはこれも月側の思惑なのでしょうか?


《なぁに、案ずることはない。一度は体良く追い返された我々だが…二度目はない!

 我々は戦い、そして勝利する!

 奇しくも今日は我らモーント星団皇国の建国記念日であり…そして今より、また新たな意味を持つ。

 今日こそは、この大宇宙に住まう我々全人類の『共同国家』建国記念日だッ!!》


 ゔおぉおおおーーッ!!…と大歓声が大地を揺るがし、四方八方で祝砲が打ち鳴らされる、感動的な、そして記念すべき一場面…

 なところ悪いですけど、コレどっかで著しく既視感あるんですけどぉ〜っ!?

 てゆーか、そんな大事な母星の記念日当日に、こんな辺境の地で油売ってていいんですか皇帝チャマ!?

 そしてまたトンデモなくデッカイ死亡フラグ打ち立ててくれちゃってまぁ…。


《それでは、さっそく乗艦と洒落込もう…

 と、その前に!

 お返しに、余からも諸君らにプレゼントがあーる!》


 人差し指をピンッとおっ立てて、得意満面な皇帝サマ。

 はてさて? コレは本当に何も聞いてませんよ、私達?


《そこのお前達、一歩前に進み出るがよい!》


 立てた指を真横に倒した皇帝サマは、シドさん、ラリスくん、マコさん…そして私を順繰りに指差して、自らが立つ壇上へと誘います。

 訳もわからず、とにかく言われた通り彼の周りに集う私達。

 …と、その上空にプロジェクターを抱えた中型ドローンが音もなく飛来して…スポットライトのように私達を照らし出します!

 すると私達の姿に、投影されたホログラム映像がピタリと重なって…


『…!?』


 こ、これは…『花嫁衣装』!?

 私とマコさんはよく似たデザインの絢爛豪華な純白ウェディングドレス。

 そしてシドさんラリスくんと皇帝サマは、お揃いの純白タキシード姿!

 唐突にして美麗なその姿に、会場全体から「ほぉ…!?」と感嘆の声が洩れます。


《どうだ!? 正式な挙式は無事に生還できた後に改めて執り行うが…これで心残りはあるまい!

 皆の者、心置きなく盛大に祝ってやるがよい!!》


 もはやどこのリングアナウンサーかと思うほどノリノリな皇帝サマのアナウンスに従って、まさに地球が割れんばかりの盛大な拍手と歓声が轟いて…

 ってだから、最終決戦前にコレ絶対ダメなヤツぅ〜〜〜〜っっ!!


 あ〜も〜ヤダヤダッ! こんなに幸せなのに…まだ死にたくなーいーっ!!(←なおさら不安にさせる奴)




【第十四話END】

 今回はいわゆる中休み会ですね。RPG名物、最終決戦前の思い思いのひとときって感じです。

 なので、今まであまり出番がなかったキャラに焦点を当てたり、久々にSFっぽい設定が出てきたりと、好き勝手やってみました。

 ちいーとばかり遊びすぎて、とりとめが無くなった結果、着地点をどこにするかで散々悩んで、そのせいで執筆期間も過去最長になってしまいましたが…。


 ラストに出てきた結婚衣装は、それを強引にまとめるための苦肉の策です。コレさえやっときゃ大概のお話はまるく収まります(笑)。

 それに、思えばコイツら、入籍はしたけどまだ式を挙げてない設定だったな…と今さら思い出しまして。

 社会通念的にはなかなか受け入れられないであろう重婚も…ま〜ヤッたモン勝ちですよガタガタ言うなやゴルァ♩(笑)


 そんなこんなで、次回からはよーっやく最終決戦に突入します。

 まだまだ解き明かされていない謎や伏線も、なるべくキレイに回収できるよう、只今精鋭努力中ですので。

 当初の想定とは大きく様変わりして「人妻モノどこいった?」な本作ですが(笑)、めげずにいましばらくお付き合い頂ければと。


 また、次回作の構想もそろそろ固まってきまして…詳細はまだ明かせませんが、ある意味、今作とは真逆なイメージになる予定です。

 そちらも乞うご期待♩

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