ゲシュタルト崩壊の向こう側へ
【前回のあらすじ】
月面からの攻撃により大破した旗艦『ソル・ラディアンテ』の改修工事が済むまでの間、シャムス皇帝とシリウス師団長が我が家に住み着くことに。
モーント星団王国の王族が勢揃いだなんて…何なんでしょうねウチって?
婚約者であるマコさんの身を案じた皇帝サマの命により、フレイアさんが護衛として中学校に通うことに。
女装(?)の麗人として初日から大人気な彼女を、さらに師団長が気に入って、養女として迎えることになったりと…
諸々の偶然が生んだ奇跡の出会いは、さっそく様々な副次効果を呼んでいるようです。
けれども…喜ばしいことばかりではありませんでした。
私がラリスくんに特別な感情を抱いていたことは…シドさんには、最初からバレバレだったんです。
にもかかわらず、シドさんとの夫婦関係を自ら望んでおきながら、彼の想いを裏切った私は…夫婦の営みの真っ最中に、彼からこっぴどくお仕置きされちゃって…キャッ♩
結局、私にどこまでも深い愛情を寄せるシドさんは、彼と夫婦であり続けながら、ラリスくんとも男女関係を進めたい…という私のどーしょーもないワガママを、呆れ返りつつも了承してくれました。
元より一夫多妻制を採用する王家でなければ、こうはいかなかったでしょう。
…今は真逆の多夫一妻制ですけど。
ところが…不可避な問題が、もう一つ。
ラリスくんをこよなく愛する、ミユちゃんの存在です。
彼の口から私との関係を聞かされたミユちゃんは、泣きながらお家を飛び出して行方不明に…。
幸い、すぐに見つかりはしたものの…ラリスくん至上主義な彼女から、私達の交際許可を得るのは、ほぼほぼ無理ゲーな至難の業で…。
最終的には『交換条件』という形でOKサインは貰ったものの、その条件が…
ミユちゃんを私達の『養女』に迎え、ラリスくんの妹にするとゆーコペルニクス的発想で…って、なんでやねーんっ!?
ううっ…私達、これからホントに一体全体どーなっちゃうんでしょーか…?
◇
早朝。
「おはよっ、ラーリスくんっ♩」
…チッ、また先を越されましたか。
母親特権で彼の寝起きを襲撃するつもりが、先回りしたミユちゃんがベッドに入り込んでました。
とにかくもう、ラリスくんと私の行く先々に、必ずといっていいほど彼女の姿があります。
ただでさえ素早くて勘が鋭い犬型宇宙人のケンネル人にストーカー気質が加わると、もはや無敵ですね。
おかげでここ数日、ラリスくんとはスキンシップもままなりませんよ。
宣言通りウチの養女になったとはいえ、空き部屋がひとつも残ってない我が家にはミユちゃんの居場所はなく…
やむなく合鍵だけ渡して、元のお隣ん家からいそいそ通ってるという、文字通りの『通い妻』状態だというのに…フットワークが異様に軽いんですよ、彼女!
くうっ…まさに、可愛さ余って憎さ百倍! やはり地下室に監禁するしか…!
「…んだよ…また来たのかポチ子…?」
寝ぼけ眼をこすりつつ、仕方なくベッドから起き出して、隙あらば唇を狙うミユちゃんを抱き枕みたいに押しのけるラリスくん。
すでにフッた相手とはいえ、未熟な自分のせいで号泣させてしまった彼女を無碍に扱うこともできず、すっかり困り果てたご様子ですけど…
そこで手持ち無沙汰な私とバッチリ目が合うなり、バツが悪そうに照れた顔を逸らします。
「毎朝毎朝…どーにかなんねぇのかよコレ?」
「それはこっちのセリフですよ…」
「フッフッフ…あたしの目の黒いうちは、絶対イチャコラなんてさせませんよ〜♩」
勝ち誇った笑みを浮かべるミユちゃんが、小憎らしいけど可愛くて…。
だってコレ、私達の交際自体は半ば認めちゃってて、それでもお邪魔虫を働いてるって公言してるよーなもんですからね。
「へぇ〜? じゃあまずは、白目を剥かせてご退場願いましょっか?」
「ほへ?」
私の言葉にぽけっと呆けるミユちゃんを尻目に、私はラリスくんに「ヤッちゃえ♩」と目配せ。
それを見た彼は、ニヤリとほくそ笑んでから、ミユちゃんをヌイグルミのように抱き寄せて…
「お前も俺の妹になったんなら…『お兄ちゃん』の言うことは、ちゃあ〜んと聞かなきゃな?」
「お、お兄ちゃんて…♩」
禁断の赤面ワード(?)にポッと頬を染める"にわか妹ちゃん"に、ラリスくんはクイッと顔を近づけて、
「おっぱい揉ませて♩」
「ぅにゃあっ!?」
予想外の要求に、犬型宇宙人なのに猫みたいな鳴き声を上げるミユちゃん♩
かくいう私も反射的にラリスくんを張っ倒しそうになりましたが、これも作戦のうちなので我慢ガマン。
逆にいえば、これが現在のミユちゃんに仕掛けられるエッチ攻撃の最大値でしょう。
他は全員宇宙人なので、地球上の法律の適用外ですけど、同じく宇宙人のミユちゃんは地球生まれの日本産なので、ガッツリ日本人枠ですから。
とはいえ、万一訴えられたらモロ敗訴確定ですけどね。
え、以前の"くぱぁ"はって? ソレは言わない約束でしょお〜お客さん♩
そんなリスキーなラリスくんの要望に対して、ミユちゃんは不安半分、期待半分な様子で、
「ででっでもでもあたしっ、お姉さまやマコさんほどおっぱい無いけど…?」
「大丈夫、フレイアに比べりゃ圧倒的だ☆」
「…そ、そゆことなら…♩」
比較対象が悪すぎる気もしますけど、おだてられてまんざらでもない様子のミユちゃんは、あっさり同意してラリスくんの腕の中へと倒れ込みます。相変わらず激チョロですねぇ♩
ちっちゃくてもお年頃の女の子ですから、未知への探究心は、そりゃもぉ…♩
「でわでわ、さっそく…♩」
ルパン三世みたいに指をコキュコキュ鳴らしたラリスくんは、躊躇なくミユちゃんの幼い胸にフェザータッチ。
私の胸で散々鍛錬を積んだだけあって、指運びに一切迷いがありません。
そしてその様子を、ベッドの端に腰掛けてつぶさに見守る母親の私。
何なんでしょうかね、朝っぱらから倒錯しまくったこの構図は…?
「ふみゅんっ!?…あっ…ふぅ…っ?」
お子様離れした指使いが、お子様離れした吐息を呼んで……えっっっっろ!?
えっ、まさか私も…ラリスくんといつも、こんなコトしてたんですか?
なんだかもう…見てるだけでいろいろ溢れてきちゃいますけど…。
「…って、いつまでヤラセとくんですか!?」
「そ、そっスよ! ハイハイもうお開きっス!」
いつから見てたのか、慌てて部屋に飛び込んできたマコさんとフレイアさんが、ガムテープを引っ剥がすように二人の間に割って入ります。
ぬうっ…これはもう、邪魔者を討伐した後に私と彼とでラブラブどころじゃなくなっちゃいましたね。またまたアテが外れました。
これはもう、みんなの目を盗んで、二人っきりでまたカラオケボックスあたりにしけ込むしかありませんかね?
けど、あそこの店員さんにはもう顔を覚えられてしまったでしょうし…かといってラブホにラリスくんを連れ込むわけにもいきませんし…。
思えば…大昔の日本家屋とかって、今以上に狭くて明け透けでしたし、他に致す場所もそうそう無かったでしょうに…諸先輩方は如何にしていらしたんでしょーか?
テルミーホワイ!? テルミーハウツー!!
とまぁ始終こんな感じで、私としては常にストレスフルな毎日を悶々と過ごしておりました。
せっかくシドさん達を説き伏せたのに、以前にも増して付き合いづらくなったんじゃあ、どーしょーもないですよ!
◇
「ムフフ、予想通りだね。僕としては、エッチな奥さんを毎日楽しめて言うことナシだけど♩」
昼下がりのラブホテルの一室で、初戦後のアンニュイな空気を纏ったシドさんが、まだまだ欲求不満気味な私を見てほくそ笑みます。
もちろん、彼との仲もいまだ顕在ですよ♩
決してラリスくんの代わりとかじゃなくて、旦那様には旦那様の良さがありますし…なんといっても、優しいですし。
ただ…先日の一件以来、家の中ではさすがにベタベタできなくなったんで、こうした場所が必須ですけど。
今日はたまたま私とシドさん両方の予定が空いていたので、いよいよ念願の"愛の巣"へとやって来ましたよ♩
なんてゆーか…思った以上に安普請ってゆーか、そこはかとなく昭和感全開ってゆーか…令和の今となっては、それこそ絶滅危惧種的なレアスポットですけど。
それも平日の真昼間からこんな場所にしけ込んでるだなんて、背徳感てゆーかダメ人間感ハンパないですけど。
とまぁこんな塩梅に、場所の確保にすら一苦労するハメにはなっちゃいましたけど…
それでも定期的に夫婦の営みは継続中ですんで、何の問題もない…はずなんですが。
でも…どこか満たされない、この気持ち。
どなたか解って頂けますか?
…あ゛? 解るわけねーだろ、この売女って?
えーえーおっしゃる通りですとも。
旦那公認でセカンド彼氏とも付き合っといて、その上まだ不満だとか、いったい何考えてんのかって、自覚はしてますよ!
現にシドさんも、
「僕としてる真っ最中に、他の奴のことを考えてるだなんて…妬けるねぇ〜まったくッ!」
スぱァンッ!!
「ひゃぅんっ!? ま、まだ挿入ってるのに…お尻叩かないでぇっ!」
しかもまた、おっきくなっちゃってるし…。
子宮にズシンと響くんですよ…あふっ♩
…ご覧の通り、シドさんってばすっかり攻撃的になっちゃって。
たぶん、こっちが本来の彼なんですね。
今までは私を大切に想いすぎて、愛情以外のあらゆる感情を押し殺してたのが…
『相棒』ラリスくんへの嫉妬がキッカケで、本音を包み隠さず吐露できるようになったんです。
『保護管理官』の指揮官およびブレインとして…そして絶滅種『ルナリアン』、つまり私やマコさんの保護に成功した超優秀な隊員として、シドさんの名前は宇宙規模で轟いているそうです。
もう、『モーント星団王国 第三王子』なんて肩書きがなくとも十二分に活躍できるまでに。
けれども…実質的な手柄をあげているのは、むしろ最強コンビの片割れである、ラリスくんのほう。
人間・動物を問わず、あらゆる生物にモテモテという、生命体の保護業務に最も重要視される才能を最初から持ち合わせていた彼に、同業者のシドさんが嫉妬心を抱かないはずがありません。
それでも、彼はかけがえのないパートナーだからと…ラリスくんの才能がなければ、この仕事は成立しないからと…
そして、地球上で潜伏生活を送るための設定とはいえ『親子関係』である彼を無碍にはできないと…
シドさんは、自らが我慢する方針を貫き続けました。
そんな緊迫した関係が…私を巡っての争奪戦で、カンッペキに崩壊してしまったわけです。
しかもコレ、のっけからすでに勝敗がついちゃってましたからね。
ラリスくん自身は何もしてない…というよりも、恋愛感情そのものを理解してなかったのに、そんな彼に私のほうが完全に惚れ込んじゃってましたから。
にもかかわらず、私は…いわゆる普通の夫婦関係に憧れるあまり…シドさんを本気にさせてしまった。
自分はルナリアンの盾になれるだけで光栄だからと…夫婦なんて、肩書きだけの間柄に過ぎないからと…
そんな具合に、欲深さなんて微塵もなかった彼に…私を手に入れた喜びを味わわせてしまったんです。
これについては、私も今でも充分幸せだと思ってますし、後悔もしてませんけど…
そこで踏みとどまれなかった、私や…ラリスくん…そして、シドさん。
最初から歪すぎた、家族関係や親子関係の綻びが…ここに来て一気に表面化してしまった訳です。
それでも、私は…私達は…
「…まぁね。僕としては、そんなキミの自由奔放さにも憧れてるから、今さらとやかく言わないけどさ」
どーでしょうか、このシドさんのマリアナ海溝よりも深い理解力! 並みの夫じゃこうはいきませんよ!?
「その代わり、ラリスくんとのことについては一切アドバイスしないからね。
それで痺れを切らしたアイツが、キミに愛想を尽かせば万々歳だし♩」
ぅぅっ…引き換えにメタくそドライですけどね。
夫である以前に、優れた生物学者であり民族研究家でもある彼だからこそ、夫婦としてはとっくに限度を超えたこの状況をも楽しめる、どこまでも際限ない器の広さがあるのかもしれませんけど…。
「あ、そーだった…それで思い出したけど…ネッ!」
プツンッ☆
「ひギィ〜〜〜〜っ!?」
天使の微笑を浮かべた夫に、イキナリ毛を…しかも髪の毛ではなく、そ、そのぉ…"下の毛"を毛根から引っこ抜かれて、私は苦悶の悲鳴を上げました。
何の断りもなく…いや仮に断ったとて、ンなトコのお毛々なんてどーすんのよアータ!?
「いや何、キミ達『ルナリアン』について、もう一度詳しく調べ直してみようと思ってね」
にわかにマッドサイエンティストじみた理由を述べつつ、シドさんは私から無断採取した毛髪を、どこぞから取り出したサンプルケースに保管しています。
「ミサさんが『ルナリアン』であること自体には、外見的特徴から何の疑いも持ってないんだけど…
その"攻撃的な性格"や"性欲の強さ"が、どうにも腑に落ちなくてさ」
…いきなりディスられてます?
「以前にも言った気がするけど、モーントの伝聞によれば『ルナリアン』は極度の平和主義者でね。
乱獲者にもほぼ無抵抗だったが故に、その数をいたずらに激減させる一方だったらしい」
挙句、乱獲を完全に終わらせるために、自ら創造した人工種族である『地球人』との交配を推し進めたという、消極的にも程がある政策を実行したほどですし…。
「そこへいくと、控えめなマコさんの性格はともかく…ミサさんの性格なんて、もうカンペキに真逆だろ?」
「…あ゛?」
「だから怒るなって。そして二人とも、常人離れした性欲の強さだ。
生殖行為って、要は種の保存のための本能的な活動なんだ。
だから現在、増えすぎた地球人にも、性に対して淡白な若い世代が増えてるだろ?
そう考えると、キミらは…自らの種を放棄したルナリアンの行動理念からは、明らかに逆行しているんだ」
その点につきましては、まぁ…反論できませんケド。
「つまり、それらを考え合わせると…
何者かが、今度こそ種の保存に適した、新たな『ルナリアン』を産み出そうとしているに違いない…!」
なる…ほど。
元の種族から闘争本能を大幅に強化させ、しかも繁殖力も強いという、あたかも外来種並みの生命力を持った『新種』を…
絶滅した『原種』に代わって、地球上に…
そして、やがては…宇宙全体に…!
「そんな大それたことを考えてる人が…"あそこ"に…?」
閉ざされたラブホの窓からは、その姿を窺うことはことはできませんけど…
鉄壁の守りを誇る、銀河皇帝の旗艦『ソル・ラディアンテ』をも一撃のもとに沈めた、脅威の技術力を持つ…
そんなトンデモナイ相手が棲まう"禁忌の星"…『月』。
私達の『真実』を知るためには、そこにいる"未曾有の存在"を相手にしなければならないだなんて…!
「…ま、そう身構えなくても、いずれ向こうから何らかのアプローチはあるだろうけどね」
表情をこわばらせる私の頬を、シドさんが右手の人差し指でツンツンからかいます。
私達が見守る眼前で『ソル・ラディアンテ』を攻撃したということは、もうその存在をひた隠す必要もないということでしょうしね。
そして…おそらくは彼らによって創られ、世話役だった『リンクラー』…お爺さんお婆さんの裏切りで盗み出された、この私が…
今現在、この街で暮らしていることを…
彼らは、すでに知っている。
「良くも悪くも、もうあまり時間は残されていないだろうね。
いずれ訪れるであろう"その時"に備えて、僕らができる事といったら…
『ルナリアン』へのより詳細な研究分析と、そこから何らかの対抗策を見つけ出すことかな?」
もっともらしい理屈をこねながらも…何故だか先程、私の『生体サンプル』を採取したのと同じケースを、どっからか何個も取り出すシドさん。
そ、そりって…まさか?
「フフリ。せっかくの機会だし…さらなるサンプル採取にご協力頂こうか…なっと!」
ブチブチブチチィーーッ!!
「ぎにゃあぁあ〜〜〜〜っっ!?」
かくして、後ろから前からどうぞ♩状態で、量産型エヴァと化した鬼畜シドさんに『生体サンプル』を毟り取られる私。
わずかばかりのプライドとともに、内も外も採取し尽くされて、あっという間に鳥葬状態ですよ…ぐっすん。
でも、セクシャルバイオレンスな旦那様も、コレはコレで♩
◇
…エライ目に遭いました…。
せっかくの夫婦二人っきりの蜜月空間だったのに、何故だか物悲しくて…。
「真っ昼間っからエッチするからだよ…♩」
映画『愛人〜ラ・マン〜』のレオン・カーフェイばりに甘く囁きかけるシドさんに若干イラッとしつつ、ラブホテルから暮れなずむ街中へと出た直後の私達に…
「いやはや、奇遇ですなぁ♩」
背後から突然呼びかけてきたのは、ずいぶん久々のご登場な大学学長こと地球派遣保安官さん。
相変わらず神出鬼没にして、柔和な笑みを湛えた素敵なオヂサマですけど…私達はもう、知ってしまいましたから。
いつも朗らかな彼の正体が、泣く子もチビって失神する、まんま山羊顔の漆黒の悪魔…『デーモン人』であることを。
しかも、よりにもよって、こんな場所で…。
「奇遇なワケないでしょう? 僕らは今日は夫婦水入らずの休暇中なんですよ? いったい何の御用で?」
さっそく不機嫌ブリバリなシドさんが、果敢に上司に噛みつきますが、学長さんは彼そっちのけで私に向き合い、
「これはこれは竹取さん、いつにも増してご機嫌麗しいご様子で…。
さぞかしご堪能頂いたご様子ですなぁ…ムッフッフ♩」
いくら紳士的に接しようと、下世話であることには変わりないですからね?
「…なんで私達がココにいるって判ったんですか?」
「いや何、アナタのお家にお住まいの教授のご兄弟方に訊いたら、たぶんココだろうと教えて頂けたものでね♩」
ヌハッ、家族ぐるみでバレてるぅーっ!?
「取り急ぎ、お伝えしたいことがあったのですが…私も何かと多忙なものでして。
ホラ先日、月面に近づいた『ソル・ラディアンテ』が撃墜されかけたでしょう?」
長い長ぁ〜い前置きを経てようやく本題に入るなり、イキナリ核心をついてくる学長さん。
「あの一件で思い出して、アレコレ調べたんですよ。
アナタの育ての親である『リンクラー』…あの老夫婦のことを」
「…お爺さんとお婆さんについて、何か判ったんですか…!?」
私自身、彼らについてはいまだその正体が、生まれながらにシワクチャの老人みたいな外見をした『リンクラー』と呼ばれる宇宙種族だったことくらいしか知りません。
洗脳能力に秀でた彼らは、長年に渡って私や周囲をその能力で巧みに欺き続け、この街で潜伏生活を続けていた…ということしか。
「ともかく…ここじゃ何ですから、あとはウチでお聞かせ願えますかね?」
というシドさんの提案で、私達と学長さんは一路、我が家へと。
…そういえば、今ではすっかり顔馴染みなこの人をご招待したのって、意外にも今回が初めてなんですよね。
◇
「…そ、粗茶ですが…」
リビングへとお通しした学長さんへのお茶汲み係を買って出たマコさんも、彼の正体を知っているので、さすがに緊張したご様子。
その背後では、戸口の陰から涙目のミユちゃんがガクガクブルブル様子を窺ってるかと思いきや、
「…なに泣いてんだ?」
先日、宇宙から来たばかりのフレイアさんは、そんな地球人勢の態度が理解できずにキョトンとしています。
イカやタコをありがたがって美味しく頂く日本人がいれば、その原産国であるモルジブ界隈の人々は『デビルフィッシュ』と呼んで恐れおののく…みたいな価値観の違いが如実に垣間見えて興味深いですね。
「フフフ、なんとも華やかなご家庭ですなぁ。
しかも将来の銀河皇帝夫人直々にお茶を淹れて頂けるとは…まさに感激の極み♩」
とか言ってる割には表面上、まったくはしゃいでるように見えないあたり、いかにも紳士のたしなみですけど。
けど今、私達がアナタに求める興味の矛先はそこじゃないんで。
もったいぶらずに、そろそろお願いします。
「コホン。ではさっそく…あの『リンクラー』達の地球への来訪方法ですがね…」
いったん本題に移ると、いきなりド核心から語り始めるのは、学長さんの個性なんでしょうかね?
なら最初からソレでお願いしますよ。
「…正規の方法を踏んでいないんですよ」
そりゃそーでしょーね、宇宙的な犯罪者なんですから。
などと私がガックリ肩を落とした隣で、シドさんが興味津々に、
「それはつまり…なんの履歴も残っていない、ということですか?」
「左様で」
それのいったい何が問題なの?と、素人の私はチンプンカンプンでしたけど…詳しく聞いてみれば。
現在、宇宙人が未開惑星である地球を訪れるための方法は、わずかに二つ。
一つは、宇宙船で直接飛来する方法。
もう一つは、地球の地下空間に築かれた広大な管理施設の物体転送装置を使う方法です。
けれども前者は、こんな辺境の地にまで到達する諸経費や手間暇がバカにならず、シャムス皇帝陛下並みの物好きなお金持ちでもない限りはほぼほぼ不可能とのこと。
さらに、未開惑星人に不用意に姿を晒すことは宇宙連盟法で強く禁止されており、大半の地域に人口が密集している地球人を欺いての運用は困難を極めるとか。
そのルールを頭に血が上ってブッチしちゃった結果、地球人に宇宙人の存在を認めざるを得なくした第一話登場のエイラス人は、ある意味では偉大な改革者だったのかもしれませんけど…。
そして後者は、宇宙連盟所属の宇宙人なら誰でも利用可能な共同施設で、自前で宇宙船を用意するよりもよっぽど安上がりだし、移動時間もほんの一瞬だとか。
シドさんやラリスくん、フレイアさんもソレを使って地球に来ました。
ただし…渡航には資格審査や施設利用料金が必要ですし、犯罪歴がある者は当然不可です(フレイアさんのヤンチャ歴はシドさんが王族特権で揉み消しました♩)。
さらに、転送施設はどの星のどの地域にもあるという訳ではないので、利用可能な場所までの移動費用も当然かかります。
そして、コレがいちばん肝心なのですが…いずれの方法にせよ、その移動履歴は宇宙連盟当局にバッチリ監視・記録されているため、そうそう下手な真似はできないという点です。
宇宙ネットワーク網が全域的に整備された現在、その警備網をすり抜けることは事実上不可能で…
違反者は前述のエイラス人のように、速やかに摘発・捕縛されてしまいます。
全世界的に完成されたインターネット管理下にある今の地球にも、同様のことが言えますけどね。
闇バイトメンバーとか国際テロリストとか、もうどこにも逃げ場がないように…。
「ところが、あの『リンクラー』達も…彼らが連れていたであろう『ルナリアン』…つまりは竹取さん、貴女も…
この街で発見される以前の記録が、ただの一つも残ってなどいなかったのですよ。
これはもう…極めて異常なことです。」
学長さんが私に向ける視線がひときわ強くなって…居心地悪さを覚えた私は、思わず身震いしました。
「つまり…我が艦『ソル・ラディアンテ』をも上回る未知の移動手段を"連中"が持っている…ということか?」
いつの間にか私達の背後に立っていたシャムス皇帝の問いに、学長さんはうやうやしく頭を下げることで、その答えとご挨拶を同時に済ませました。
ふと気づけば、私達の話に興味を覚えた他の家族全員がリビングに集結しています。
「貴方がた竹取さんの存在に気づくまでの数年間…連中は、この街で…この家で、のうのうと暮らしていたのですよ。
『保安官』である、この私のすぐそばでね…っ!」
シドさんやラリスくん、そして私の顔を見回して…学長さんは悔しげに声を震わせます。
そうだったんですね…。
私という存在そのものが、『保安官』である彼のプライドを傷つけた原因そのものであると同時に、命を賭してでも守り抜くべき『使命』、そして『希望』でもあったんです。
だから…そんな私や、私のかけがえのない家族であるシドさんを傷つけた、あの井谷奈記者にも…学長さんは、モーント王国の人気テレビ番組への出演という形で、自らケジメをつけたんですね。
「それなら…なおのこと気になるね。
それだけ細心の注意を払ってココに潜伏し続けていた彼らが、うっかり自らの居場所を暴露してしまうほど慌てることになった…
その『原因』が、いったい何だったのか…?」
シドさんがいう、お爺さんお婆さんのミスとは…
私の"売却処分"を急いだ彼らが、比較的解読が容易な『密売用語』を、うっかりネット上に晒してしまったことでした。
それにより、私の存在を知ったシドさんら『保護管理官』が、この地に駆けつけて…購入客であるエイラス人の手に渡る前に、私を奪取・保護することに成功したのです。
思えば、この私の波乱に富んだ…
そして、シドさんやラリスくん達みんなとの、刺激的で幸せな日々は…
全ては、そこから始まったのです。
◇
要件だけを伝え終えた学長さんは、そそくさと我が家からお帰りになることに。
お忙しいご身分というのもあるでしょうけど、モーント王家のスリーカードが揃った我が家の居心地に、恐縮なされたみたいですね。
ですが「今度、月へと乗り込む機会には、是非とも協力させてほしい」という、願ってもない頼もしい言葉が頂けたのは幸いでした。
「…あっそうそう。でしたらついでに、コレの分析もお願いしたいのですが…」
玄関先で、シドさんがうやうやしく学長さんに手渡したのは…ハンカチに包まれた、ポケットサイズの小箱。
私にはすぐに判りました。ソレが先刻、私から散々搾り取った例の生体サンプルが封じ込められた、あのサンプルケースだって。
ハンカチをわずかにズラして内容物を確認した学長さんは…
「…ほほぉ…これは楽しみですな。ムホッ♩」
いつもの紳士的な態度に、少しだけ邪悪で卑猥な笑みが宿りましたよ!?
私の裸そのものを見られるよりも、採取りたてホヤホヤの陰毛だの愛液だのをコッテリたっぷり吟味されるほうが百万倍恥ずかしいんですけどぉ〜っ!?
そんな私の心中などお構いなしに、
「なるべく早く結果をお伝えしますよ。フォッフォッフォッ…」
バルタン星人みたいな笑い声とともに遠ざかる彼の後ろ姿を見送りながら…
「しかし、これはなかなか…厄介なことになったな」
シリウス師団長の一言を皮切りに、皇帝三兄弟の会談が始まりました。
「うむ。我らがモーントの技術力を上回るということは…必然的に、相手は『ルナリアン』か…」
「あるいは、その技術や知識をすべて継承した、彼らと同等の存在…ということになるね」
シャムス皇帝の推測をシドさんが補完します。
ルナリアンが持つ秀でた知識や科学技術は、現在においてもなお宇宙最高レベルを誇り…
そんな彼らと古くから同盟関係にあったモーントもまた、その技術を享受することで、宇宙有数の星団国家を築き上げてきたのです。
つまり、彼らの…そして、『ルナリアン』である私の敵は…『私自身』ということに…?
「となると…そんな彼らを『リンクラー』が裏切って、ミサさんを拉致した…という今までの仮説も、ちょっと怪しくなってくるかな?」
たしかに…モーント中でもとりわけ優秀な皇帝三兄弟ですら手を焼く相手を、こう言ってはアレですけど…コソ泥程度の技量しか持たない、お爺さんお婆さんがどうにかできるとは到底思えません。
「ということは…何者かが二人をそそのかして、私を…?」
「うん。あえて地球上に送り届けるよう仕向けた…と考えるほうが自然だろうね」
シドさんの推理が正しいとするなら…いったい何の目的で?
「ともあれ…それなら少なくとも、月の連中がキミを敵視することは無さそうだ。
むしろ問題は…僕らモーント王家が絡んできてしまった…という予定外の要素のほうじゃないかな?」
同盟関係にあるモーント人に極力手を出したくないのは、月側とて同じこと。
彼らとほぼ同等の技術力を持つモーントが絡んでくれば、彼らの計画に失敗の恐れが出てしまう…。
だから、彼らの攻撃で先日大破した『ソル・ラディアンテ』も、あれだけド派手な損傷の割には死傷者ゼロという、最小限の被害で済んだんです。
奇跡的…ではなく、その程度にとどまるように手加減したから。
そして、それは…『これ以上、我々の邪魔をするな』という警告でもあったんです。
「無論、そんな脅しにおめおめ屈する我らではないがな!」
その場に立ちこめる不穏な空気を、高らかに笑い飛ばす皇帝サマですが…
「だが…どうする? 我らが誇る『リフレクトシールド』をもたやすく突き破る、連中の"あの攻撃"をどうにかせん限り…我らに勝ち目はないぞ?」
普段は沈着冷静にして勇猛果敢な師団長の躊躇ぶりが、敵の"あの攻撃"に対抗する困難さを如実に物語っています。
けれども、そこで…
「…僕に『秘策』がある。うまくいくかどうかは、やってみないと判らないけどね」
おずおずと挙手したシドさんが、自信なさげに口を挟みました。
宇宙的な民族学者に生物学者として名を馳せる彼ですが…実はそれら専門分野以外にも、宇宙地理学や考古学、物理学や先端科学など、あらゆる分野にくまなく精通する大天才なんですよ?
さすがは私の旦那様ですね、エッヘン♩
「ふむ? もったいぶらずに聞かせてみせよ」
「どんな思い付きでも構わんぞ、"あの攻撃"をどうにかできるのならば、な」
「…自分でも、無理無茶無謀だと思ってるから…笑わないでよ?」
なんてゆーか…見た目、街中で売れっ子イケメンホストとそのボディーガードにからまれた悲劇の中年リーマンみたいになっちゃってますけど…
実は案外仲良しな皇帝三兄弟は、イタズラの打ち合わせみたいに顔を見合わせて和気藹々と。
最初に見たときのギスギス感はさっぱり影を潜めて…なんだかイイですね、こーゆーの♩
「…ほう!? なかなか面白そうではないか!」
「うむっ、すぐに技術開発部に検討させてみよう!」
シドさんの話を聞いた途端、皇帝サマと師団長さんがにわかに色めき立ちます。
「いやあの、これはまだ思い付きの段階で…!」
慌てて止めに入るシドさんでしたが、
「何をいうか、これほどまでに画期的なアイデアは数世紀ぶりだぞ!」
「そうだぞシドゥス。仮に目的通りにはいかなかったとしても、他にいくらでも使い道はある。
間違いなく、お前の手柄だ…!」
兄上二人の大絶賛を受け、その表情は次第に喜びへと変わります。
特に…
「…ハハ…シャムス兄上に褒めてもらったのなんて…生まれて初めてだ…!」
「ム、そうだったか?…まぁ良い。
ホレ、もっと胸を張れ♩」
長年に渡った二人のわだかまりは、もう完全に解消されたみたいですね。
いったいどんなアイデアかは、たぶん私には理解できないでしょうから、あえて訊きませんけど…シドさんが嬉しそうだと、私まで幸せになっちゃいます♩
◇
「あんだけ仲良しこよしなトコ見せといてよぉ…なんでお前、センセだけに絞れないんだ?」
「私をその気にさせた張本人のアナタが、いまさらそれを言いますか?」
夕食後のリビングにて。
久々に私の間近に座ったラリスくんが、いまさらな追及で私を困らせます。
新技術開発に湧き立つ三兄弟が、私達をほったらかして『ソル・ラディアンテ』へと向かってしまったので…
お家の中には久々に、私たち女性陣とラリスくんだけが取り残されました。
いつの間にかとっぷり日も暮れたので、ミユちゃんも自分のお家に帰っちゃいましたし。
私たち夫婦の養女になると言い出したり、私がまた抜け駆けしてラリスくんに手を出しやしないかとヒヤヒヤしてはいるようでしたが…
まだまだ産みのご両親のことも気になる、甘えん坊さんなお年頃なんですね♩
「そっスよぉミサ姉。あっちもこっちも独り占めなんて、ズルくないスかぁ?」
ここぞとばかりに非難してくるフレイアさんは、ミユちゃんがいない場所ではちゃっかりラリスくんの隣をキープ。
でも、だいぶん解ってきましたけど…彼女にとってのラリスくんは、まだまだ憧れの対象の域を出ず…
恋人になりたいとか、彼と◯◯したいとか、そーいった具体的な願望は今のところない模様なので、ミユちゃんみたいに必要以上にベタベタすることもありません。
それでもまぁ…いつもはボーイッシュな彼女も、こうして見てみると案外カワイイ女の子なので…油断大敵ですね。
「そのくせ、シド先生が私に手を出したら滅茶苦茶キレてましたよね?」
ごもっともな正論で私を問い詰めるマコさん。オホホホホホお黙り♩
「お姉様がそれで許されるんだったら…私も二股しちゃおっかな…?」
愛しの皇帝サマがいなくなった途端、トンデモなことを言い出す彼女にも要注意です。
若くしてオジサマ好みという、ある意味もっとも厄介な彼女が次に狙っているのは、中身がお子様なラリスくんではもちろんなく…私の旦那様である、シドさん。
てゆーか、もともと彼に恋焦がれていたところに、その兄である上位互換の皇帝サマが現れて…なんやかやあって、現在のカタチに落ち着いたわけで。
この、私達ルナリアン姉妹にそれぞれ二人ずつ彼氏候補がいるという世も末な図式のせいで、本来ならとてもシンプルな人物相関図が、とてつもなく歪な多角多重関係に陥ってるわけで…。
「でも…う〜ん?」
と、そこでマコさんが、なにやら浮かない顔で考え込みます。
「…どうしました? そろそろシドさんの思いがけない鬼畜ぶりに愛想つかして、手を引く気になりましたか?」
「あ、いえ、それはまだいいんですけど…」
いいんだ、アレで!?
「その…さっきの先生の見解ですけど…アレって正しいのかな?って…。
ホラ、モーント王家の介入は、月側にとっては予定外…ってところですけど…」
ををっ、人生の師と仰ぐシドさんの見立てに異論を唱えるだなんて…成長しましたね、マコさん♩
「現状、どう考えてもそうは思えませんよね?
陛下のご兄弟御三方と、私達ルナリアン姉妹が、こんな短期間で一箇所に揃うだなんて…明らかに作為めいた何かを感じませんか?」
…………。
言われてみれば…確かに、偶然とは思えないほど出来すぎた出会い…ですよね?
「それに…ほら、私達や皇帝陛下との出会いに…いずれも"あの教団"が絡んでいたじゃないですか?」
『真世界統合協会』ですね。
"宇宙人は認めない!"をスローガンに掲げつつも、その背後には宇宙人らしき影がチラついていた二律背反な宗教団体でした。
もう壊滅しちゃいましたけど…過去回を見ればご理解頂ける通り、私達とは何かにつけて因縁深かった組織です。
確かに…今にして思えば、私達の行く先々に不自然なほど介入してきましたし…それが結果的に、私たち『家族の絆』をより強固にしたといっても過言ではありません。
「もしも、これが…最初から月側の思惑通りに進展した結果だとしたら…」
私達は…計画的に引き合わされた…?
「それだけじゃなくて、ミユちゃんだとか…ラリスくんや、フレイアさんも…。
いずれも強力な能力を持った宇宙人ばかりが、一箇所に集まっているという今の状況は…極めて不自然だとは思いませんか?」
…………。
な、何なんでしょうね、コレ?
考えれば考えるほど、背筋が寒くなってきましたよ…?
「だとしたら…そうしてまで成し得たい"月側"の目的は…?」
自然と囁き声になる私の問いに、マコさんもヒソヒソ声で、
「先日の先生のお話を…憶えてらっしゃいますか?
"トキの繁殖"についての話です」
ええ、憶えてますとも。
一旦は絶滅した日本産のトキを、中国から譲り受けたトキでもって復活させるプロジェクトですね。
学術的にはほぼ同種のトキを野に放ち、日本の土壌で自然繁殖させ、交配を重ねることで…いずれは"日本産のトキ"が甦る…!
「…あ。」
「お解り頂けましたか?」
ええ…大体は。
私達『ルナリアン』もそれと同じで、そのクローンとして生み出された地球人のなかで交配を繰り返せは…いずれは『オリジナル』のルナリアンが繁殖するようになる。
自分では無意識ですけど、私やマコさんの『性欲』が強いのも…数多の繁殖に耐えうるように、そう造られたから…!?
「私はそこに、もう一捻り加えてみました」
マコさんの鋭い推理が冴え渡ります。
「陛下や先生ら『現在のモーント人』も、かつて憧れのルナリアンに少しでも近づきたいと、大幅な人種改造を施して生み出された『新種』でしたよね?」
そうでした。そしてその結果は、彼らが思い描いたほど芳しいものではありませんでしたが…
遺伝学的には、よりルナリアンに近似した『モーント人』になったはずで…
「…!?」
「そうです…。月側が、私達『ルナリアン』の今度の"繁殖相手"として選んだのは…」
もはや進化の極みに達した感のある地球人…ではなく、より技術や能力に優れた…
「…我々『モーント人』という訳か?」
不意に背後から掛かった声に驚いてみれば…
皇帝サマにシドさん、師団長さんがお揃いでご帰宅になったところでした。
「なかなか興味深い推察だね。しかも僕よりはるかに上手だ。さすがはマコさん♩」
「あっいえ、そんな…」
と、隙さえ見せればすかさずイイ〜ィ雰囲気をぶちかますシドさんとマコさんに、私も皇帝サマも苦々しい顔。
けれども…マコさんの見解は、たぶん当たってる気がしますね。
地球創生、そして人類誕生から遥かな時を経ても、いまだに『未開人』から抜け出せず、同族同士の不毛な争いを際限なく繰り返す、野蛮な地球人。
期待外れなその現状と行く末の不安に、大いに絶望した『ルナリアン』の末裔がいたとすれば…
おそらく、そんな出来損ないな種族は見捨てて、新たな人種を創造しようと画策するのではないでしょうか…?
「ところで…例の『秘策』とやらは、うまく行きそうなんですか?」
「ああ、技術開発部の承認は得た。あとは、成功を祈るのみだね」
私の質問にホッとしたように答えるシドさんを、
「そう謙遜するな。既存の技術のみで、ここまで効果的な対策を思い付くとは…と、開発部もベタ褒めだったろうが」
師団長がホクホク顔で褒めそやします。
照れ笑いを浮かべるシドさんに、皇帝サマも我が弟を自慢するようにウンウン頷いて…
なんだかイイですね〜兄弟同士のこーゆー触れ合いって♩
いったい何をどうするのか見当もつきませんけど、既存の技術だけで済むのなら何とかなりそうですし。
「あとは…艦がなるべく早く直るよう、果報を待つのみだな!」
得意げに我が家の天井を見上げる皇帝サマにつられて、みんなで虚空を見つめます。
その遥か上空に浮かぶ、旗艦『ソル・ラディアンテ』への思いを込めて。
その改修が済んだ、その時こそが…おそらく、最終決戦のはじまりです。
◇
我が家での一服が済んだ後、皇帝サマと師団長さんは再びお空の旗艦へと。
新技術の開発・実装に備え、人員の割り振りだとか、やる事はまだまだあるんだそうで。
なにしろ乗組員だけで数千名もいますからね。
ついでに、皇帝サマは将来の皇妃であるマコさんを、師団長さんは養女となったフレイアさんを関係者に紹介するため…
そしてシドさんは、久々に乗艦する『ソル・ラディアンテ』を懐かしんで…みんなまとめてお空に昇ってしまって…
家のリビングには、本当に久しぶりに、私とラリスくんだけが残されました。
「…もしかして…気を遣われちゃったんでしょーかね?」
「…だろーな」
どーせヤルならとっとと済ませろ、というみんなの声が聞こえてきそうです。
「じゃあ…お言葉に甘えて?」
「…だな」
まずはいつものように…熱い口づけから。
誰もいないのは判ってるんですけど…いつもはみんながたむろしてる場所でこーゆーコトするのは、この上ない背徳感が…♩
おかげで、いつも以上にむず痒い感じが、もぉ〜辛抱たまらなくて…これだけでイッちゃいそうです。
「でも、ココだとさすがに…みんながいつ帰ってくるか判りませんし…」
「…俺の部屋、内鍵あるぜ?」
え?…あっ、そう言えばそうでしたね。
シドさん達と同居しはじめた当初、男の子なら母親に見られたくないコトもいろいろあるよね、キャッ♩…と気を利かせて、わざわざ鍵が掛かるお部屋にしてあげたんでしたね。
でもラリスくんてば徹底的に無警戒とゆーか、見られて困るモノがまったくないからか、一度も鍵を掛けたことがなかったので、すっかり忘れてました。
お部屋自体はお掃除とかでしょっちゅう立ち入ってるし…なんなら今朝も期待して入ってみたら、ミユちゃんに先回りされてたりでヤキモキしましたけど…。
そしてもう、お互い見られて困るコトなんて何もないくらい、アレコレ見尽くしちゃいましたけど…。
今なら、誰の邪魔も入りませんし…。
「とゆーことなので…お邪魔しまーす♩」
さっそく移動してみましたけど…やっぱり男の子のお部屋って、それだけでドキドキしますね♩
ミユちゃんが足繁く通うようになってからは、キレイ好きな彼女のおかげでキッチリ片付いてますし。
「いまさら遠慮すんなって。ホラ、はやく脱げよ」
ホントに遠慮が一切ない彼は、部屋に入ったとたんに率先して服を脱ぎ出して…。
ま、私もそのつもりだったから、異存はないですけど…ってなわけで脱ぎ脱ぎ♩
そしてお互い、一糸纏わぬすっぽんぽんなカラダを見せ合います。
以前、一緒にお風呂に入ったときに、一通り見てるはずなんですけど…
こうして、普通のお部屋でハダカを見せ合うのって…
「…相変わらずエッロい乳だな。何食ったらそんなだらしないカラダになれるんだ?」
さっそく私の胸を揉みしだきながら、無礼千万な感想をのたまうラリスくん。
せめて『ふしだら』って言って…って、ほとんど同じ意味でしたね?
「そっちこそ…こんなのブラ下げてて、よく歩けますね? 歩くセクハラですよ」
私も負けじと彼の股間に手を伸ばして、ソレを捻り上げます。
…ホントにスゴイですねコレ。片手じゃ掴みきれないんですケド…♩
「やりやがったなコンニャロ!」
お返しとばかりに彼は、私の身体を軽く小突いて、ベッドの上に押し倒して、その上に覆い被さると、
「ヘヘッ…これで大っぴらにお前を独占できるな♩」
胸とか首筋とか太ももとか…至る所にちゅっちゅぱちゅっちゅぱキス三昧。
いつぞやも眠ってる間にキスマークだらけにされてて慌てましたけど…どうやらラリスくんって、キス魔なんですね。
もちろん、私も負けじと彼をひっくり返すと、そのカラダに唇を這わせて…
「ぅをほっ!? ち、ちょい待て、そんなトコまで舐めるのか…?」
勢い余って、彼のソレを口に含んだ私に慌てふためく彼が、またカワイくて…♩
「…キライですか、こーゆーの?」
「いやまぁ…嫌いじゃねーけど…ビビっただけだよ」
…ね? いつになく素直でしおらしいでしょ♩
そのまま彼のをいじくり続けてると、すぐにムクムクおっきくなって…!
「…タ、タンマ! こんなん、すぐ出ちまうって!」
タンマ!? 宇宙人なのに、ほとんど死語な日本語よく知ってますね。
でもそしたら…どうするんですか?
「そんなん…こーするに決まってんだろ!?」
またまた私をひっくり返したラリスくんは、防衛本能的に縮こめてしまった私のカラダを押し開くと、両足首を両手で持って、
「ご開帳〜♩」
…こゆトコだけおぢさん臭いのは何故ですか?
でも私にも抵抗する理由はないので、なすがまま、されるがまま、オムツ交換される赤ちゃんみたいに両脚を開いて…恥ずかしっ。
「…こないだ見たときより、さらにエロくなってね? なんでだ?」
「…シドさんも、最近なにかと積極的ですから…♩」
「へぇ? そいつぁ聞き捨てなんねーなぁ…くちゅくちゅくちゅっ!」
「あひぃっ!? いきなり掻き回しちゃラメぇ〜〜〜〜ッ!!」
シドさんも最近は時々乱暴だけど、ラリスくんは元からヤンチャすぎて…でも、そこが好き♩
…もしかして、私…M気質?(←ンなわけない。)
「…おしっ、こんだけ濡れてりゃもういいだろ?」
一瞬にして息も絶え絶えになったマナ板の鯉状態の私を見て、満足げにほくそ笑むラリスくん。
彼だけじゃなく、このお年頃の子たちって、こうした性知識をどっから教わるんでしょーか?
「ほんじゃま…いくぜ?」
軽口とは裏腹に、坑道にダイナマイトでも仕掛けるように慎重な面持ちで、ラリスくんのラリスくんの先っちょを、私の私の入り口に押しあてるラリスくん。
…何を言ってるのかサッパリでしょうけど、私ももう気が動転して頭ん中ぐちょぐちょ…いえグチャグチャですから、察してください。
いえいえ私自ら望んだことですから、今さら抵抗なんてしませんよ?
でもでも、何事にも心の準備ってものが…
ぎちっ…ずむんっ。
「ひぎっ…!?」
予想以上の衝撃を伴って、ラリスくんが私のなかに分け入ってきました。
な、なにコレ…シドさんとはもう何度も肌を重ねてるのに…それとは全然違う…っ!?
そっちは、身体を引き裂かれるような感覚って表現した覚えがありますけど…
「くっ…あ…っ!?」
ラリスくんのは、そのものが大き過ぎるだけに…体内の肉壁すべてが引きずられて、巻き込まれていくような感じで…っ。
ス、スゴイッ…こんなの、初めて…っ!?
「お、おい大丈夫か? なんか辛そうだぜ?」
「ええ…誰かさんのせいでね…っ。
…もぉ全部、入りましたか…っ?」
「んにゃ、まだ半分くらい。結構キツくて、先へ進まねーんだよ…っ」
嘘ぉんっ、これでぇ…っ!?
しかも、なんだか別の生き物みたいに脈打ってて…すっごく、熱くて…っ!
私はたまらず彼の身体に、全身でしがみつきました。
するとお腹の中の、何かがつっかえたみたいな抵抗が、嘘みたいにスムーズになって…!?
ずっ…ずりゅりゅっ…ずぐん…っ!
「か…はぁ…っ!?」
身体の奥底を丸太で小突かれるような、この鈍い衝撃は…
今度こそ、全部入ったみたいですね…♩
「す、すげぇなコレ…次から次へと絡みついてくるみてーだぜ…!
こんなに…気持ちいいもんなんだな…」
新鮮な驚きに満ちた彼の、優しい笑顔が…とっても可愛くて…愛おしくて…。
そして…彼に初めてそんな顔をさせたのが、私だって思うと…なんだか、誇らしくて…♩
「…動けますか?」
「あぁ…なんとかな。やってみる…!」
自信なさげに頷いた彼が、おっかなびっくり、腰を揺さぶり始めると…あっ、これ…!
「…んぁ…はあっ…い、いい…っ!」
「…そ、そうか?…ははっ♩」
自然にほころぶ私の顔に、ラリスくんもやっと自信をつけたようで、どんどん腰の動きを速めていきます。
「すんごい締めつけだなっ…今にも全部搾り取られそうだぜ…っ」
「アナタがそうさせてるんですよっ…
男の子でしょ? もっと…頑張って…!」
私より先に果てるなんて…許さないんだから…っ!
そんな私の叱咤激励が届いたのか、ラリスくんは私の上で懸命に腰を振り続けます。
健気に頑張る彼のことが、どうしようもなく愛おしくて…私は彼に絡ませた手脚に、ますます力を込めて…
私達を載せたベッドが、今にも壊れそうなくらいギシギシ軋んで…
「あっ…あっ…んはあっ!?」
「ぅっ…くっ…あダメだ…もぉイク…ッ!」
二人同時に高みに達しようとした…
まさにその時!
「ラメぇえぇえ〜〜〜〜〜〜っっ!!」
ガッシャアーーーーンッ!!
ターザンのような雄叫びとともに、窓ガラスを蹴破った小柄な人影が、私達の愛の巣になだれ込んできましたッ!
それは、言うまでもなく…ミユちゃん!?
◇
『え゛え゛〜〜〜〜っ!?』
抱き合ったまま絶句する私達に、ほっぺたをフグ提灯みたく膨らませたミユちゃんは、涙目でドタドタ走り寄って、
「あたしがいない内に、こんなコトしちゃメーッなのぉ〜!!」
幼児退行気味に怒鳴り散らしながら、その小柄な体躯からは信じられない怪力で、私達を無理やり引き離すミユちゃん!
きゅぽんっ☆
「あんっ♩」
インクがこびり付いた油性ペンからキャップがようやくすっぽ抜けるように、発射寸前のラリスくんのソレが私の内から引き抜かれました。
拍子抜けした彼のモノは、果てることもなく意気消沈して、萎れた花弁のように…。
お、おのれぇミユちゃん、許すまじ…っ!
「って、なんでポチ子がここにいんだよ!?」
「なんでも何もっ、あたしの部屋がお向かいサンってこと、忘れてないっ!?」
あ…すっかり忘れてましたね、てへぺろっ♩
せめて、お部屋の灯りを落としてカーテン閉めとくべきでしたね…。
それにしても…自慢じゃないですけど…いえやっぱり自慢ですけど、私のお家はとぉーっても広いんですよ?
だから、いくらお向かいったって、ラリスくんのお部屋とミユちゃん家の間には、普通の家屋一軒分くらいの間隔が空いてるんですよ?
当然、室内でよっぽど大声を上げないとまず聞こえないような距離だし、ベランダ越しや屋根伝いにちょっとやそっと飛び越えたくらいじゃ届きっこないし、足場になるような塀や庭木もないのに…
一体全体どーやって私達の粗相を知って、いかにしてここまで!?
「だって…見えちゃったし、聞こえちゃったんだモン…!」
…どうやら、彼女のケンネル人としての能力を見くびっていたようですね。
というか、犬型というよりはほとんどネコやクマのよーな脅威的な機動力です。
…ん? てことは…ラリスくんの常日頃からの一挙手一投足は、彼女に余すことなく筒抜けってことなんじゃ…?
まぁそれはともかく…結局、彼女の目が行き届く場所にいる限り、私とラリスくんに安住の地はなさそうです…。
「あー…ポチ子…」
「…まず、そのイケナイ子をしまって。」
説得を試みようとしたラリスくんから、真っ赤な顔を極力そらして、彼の股間を遠慮がちに指差すミユちゃん。
見てないフリしてるだけで、しっかりちゃっかり見ちゃってますよねコレ?
「そ、そのぉ…ラリスくんとお姉さまが、お互い本気で好き合ってるってゆーのは…これでよぉ〜っく解ったから…」
あらま。てっきり、まだ反対されるものだとばかり思ってたのに…
ミユちゃんも本気でラリスくんを好きになったからこそ、私達の気持ちが単なる遊びじゃないってことに納得してくれたみたいですね?
「だ、だから…今度また、こーゆーエッチぃことするときには…
…あたしも仲間に入れてっ☆」
爛々と輝く瞳を、いまだ裸のままの私達に向けて、鼻息も荒くワクテカしてる彼女を見て…私はすべてを悟りました。
あーこりゃ、許してくれたってゆーよりも…自分もやってみたくなっただけだなーって。
「…どーします?」
「…どーするよ?」
顔を見合わせて首を捻りあう、私とラリスくん。
思春期たけなわ、好奇心旺盛なミユちゃんの希望を叶えてあげたいのも山々ですけど…
いきなりそんな素っ頓狂なお願いをされちゃいましても…ねぇ?
「…あ、みんな帰ってきたみたい」
真っ先に気づいたミユちゃんに遅れて、階下がザワザワざわめく気配が…。
どうやら今夜はここでお開きみたいですね。
残念そうに溜息をついた私とラリスくんも、そそくさと脱いだ服を着直します。
「…ね? あたしがいて助かったでしょ?」
突然押しかけてきたくせに、恩着せがましく微笑むミユちゃん。
たしかに彼女と一緒にみんなのもとへ向かえば、よもや人目を忍んで二人っきりでヌップリねっとりな一夜を過ごしていたとは思われないでしょうけど…。
ラリスくんのお部屋の窓を丸々交換という、手痛い罰金を支払わされはしましたけどね。
でも…
『…フフッ』
自然に互いの顔を見つめて、笑い合う私達。
世間様的には、あまり褒められた関係ではないことは百も承知ですけど…
少なくとも、彼と同じ方向を向いていることは確認できましたから…
うん、まだまだこれからですよ♩
私達は何の疑いもなく、そう信じていたのです。
…その時までは。
【第十三話END】
のっけからエロエロな雰囲気で始まる今回。
途中でマジメなお話も挟んで、少しずつ謎が解き明かされていきながらも…
最後は結局、またエロエロで終わるとゆー…いかにもエロコメ的な宿命ですね(笑)。
ちなみにサブタイトルの『ゲシュタルト崩壊』には、ずーっと見ていた画像や文字の認識が怪しくなってくるというお馴染みな意味の他に、様々な解釈がありますので調べてみてください。(←他力本願)
実は今回の執筆中に、作者を取り巻く仕事環境も大きく様変わりしておりまして。
何かと気ぜわしかったので、筆がなかなか進まずに苦労して…。
実は、いつもは一話あたり一週間で仕上げてるのに、今回は倍の二週間かかってます。
おかげで常に一週間分の余裕を持たせてたのが、今回でストックが無くなりました(笑)。
結果的にいつもより文章量的には幾分少なめと相成りましたが、そのぶん内容は濃密となっとりますので、これで何卒お許しを〜!
んで、今までずーっと匂わせばかりで全っ然繋がらず、いつ致すのかと作者もヤキモキしていた美沙兎とポラリスも、ここへきてやぁ〜〜っと最後の一線を乗り越えました。
このためにわざわざR指定に移行したといっても過言ではないので、気合い万端で存分におやらかしになられております(笑)。
このままだと際限なくズルズル行きそうな二人ですので、ストッパーとしてミユたんには頑張って頂いとります。
機動力の塊な彼女なら、どんなに無茶な状況下でも駆けつけられるので、たいへん重宝しています。
ただ、最終的には性への好奇心に負けて、美沙兎たちの仲を認めてしまったので、今後はアテにできませんけどね(笑)。
そして最後のあたりが、ちょっと不穏な締めくくりになってますけど…
次回あたりからは、いよいよ本作の核心部分に迫っていくので、そのための"新たな匂わせ"ですね。
というか今回で、いわゆる『月側』の野望はほぼ解明されてしまったので、それを詰めていく作業になります。
ええ、ただ闇雲に新キャラを増やしていた訳ではなく、ちゃーんと存在意義があったんですねぇ♩
あるいは、コレさえも何者かの意思なのかもしれませんがね…フフリ。
てな次第で、あと暫くのお付き合いをば♩




