6.お迎え
その後、ガーフの要請した侯爵家からの護衛達と王都の警備兵が共にやってきて、無事犯人達は全員逮捕となった。
「……それにしてもガーフ、あなただけ随分早く小屋に来れたものね?」
レーネが首を傾げると、ガーフは褒められるのを楽しみにしている子供のようにニコリと笑った。
ガーフが一足早く、しかもレーネ達が小屋に運ばれたのとほとんど変わらないタイミングで辿り着いた真相を聞いて、レーネは呆れる。
耳飾りを託された彼はすぐに応接室にとって返し、ちょうどこちらも戻って来ていたメイドにレーネが誘拐されたことを知らせて耳飾りを渡すと、自身はその後そのまま馬を駆って、まだ肉眼で小さく確認出来た犯人達を直接追跡したというのだ。
「……命令無視は処罰対象よ」
ところ変わって、保護されて連れてこられた警備部の応接室。
レーネとジェニー、そしてガーフはそこで引き取り手が来るまで待機させられていた。
「申し訳ありません、お嬢様。でも俺、魔術師団じゃなくただのお嬢様の護衛なんで」
可愛くないことを言ってくるので、レーネは貼り付けたような笑顔を浮かべた。
「OK、お嬢様として罰を与えてあげてよ。まず減俸……」
「本当に申し訳ありません、許してください」
「よろしい」
ガーフは途端、平身低頭の姿で謝ってくる。最初からそうすれば良いのだ。
誘拐の被害者として、職員の女性達が気遣ってくれて温かい毛布や飲み物が差し入れてくれたが、むしろ手厚い優しさが必要なのは犯人達の方だろう。
何せレーネに魔術で吹っ飛ばされ、巨漢のガーフに殴る蹴るを一方的に受けていたのだから。
護衛のガーフの制止を振り切ってわざと誘拐されたことだし、きちんと謝ったので許すことにして、レーネはソファに座ってふんぞり返った。誰も指摘する勇気のいる者はいなかったが、その姿は彼女の従兄にそっくり。
すると、それまで二人のやり取りを目を白黒させて見ていたジェニーが一歩前に進み出る。
「あ、あの、ガーフさん、助けて下さってありがとうございます……!」
「せ、聖女様! とんでもありません、俺は自分の役目を果たしただけで……!」
赤面してお見合いをする二人を見遣って、レーネは白けた気持ちで頬杖をつく。
これは、一日に二度も「人が恋に落ちる瞬間を見てしまった」というやつだ。レアケースだ。世界は愛で溢れている。
「でもガーフさんはレーネさんの護衛がお役目なのに、私のことまで助けてくれて……!」
「いや、むしろお嬢様に護衛なんていらなくて、俺より強い美人のゴリラみたいなものだから」
赤面して照れながらしどろもどろに話す二人だが、聞き捨てならない言葉が聞こえてレーネは拳を握る。
「ぶん殴ってあげてもよくてよ、ガーフ」
「本当にすみません、調子に乗りましたお嬢様」
良い子のお返事にレーネは溜飲を下げる。
魔術師団長は、ただの魔術の技術だけでは務まらない。
このか弱く見えるように線の細いボディを維持しつつ、フィジカルの訓練も怠らないレーネは体術だけであったとしても巨漢のガーフに勝つ自信があった。
一度は口を挟んだものの、互いに少しずつ会話を進めているガーフとジェニーをレーネはもう構うことなく見守っていた。
そしてこれは従兄の「聖女との結婚をなんとかしろ」という依頼達成といってもいいだろうと独りごちていると、ノックの後に応接室の扉が開き、今考えていたばかりのイヴァンが室内に入ってきた。
「レーネ!」
「まあ、お兄様」
珍しく息を乱したイヴァンは、レーネの前に立つなり怒鳴る。服装も若干乱れているし、険しい形相は初めて見るものだった。
「このじゃじゃ馬が、誰が囮までしろと言った! 依頼よりも自分の方を優先しろ馬鹿が!」
頭ごなしに怒鳴りつけられて売り言葉に買い言葉、レーネはカチンときて形の良い柳眉を逆立てた。
どんな戦いだろうと、レーネ・クレメンタインの辞書に敗北の二文字はない。
「んまぁ、人がわざわざ身を粉にしてお兄様のご依頼達成に勤しんだというのに、なんという物言い!」
「心配したと言ってるんだ!」
「仰ってません!」
ますます必死な様子でイヴァンに言われて、レーネも返す刀で言い返す。だが、これは明らかにイヴァンの分が悪い。
深呼吸をしたイヴァンは、一旦落ち着いてからレーネの細い腕をそっと取った。
「……すまん。心配した……お前が強いのは重々承知しているが、無茶はしないでくれ」
「最初からそう仰ってくださいまし、お兄様。ご心配をお掛けして、申し訳ありませんでした」
レーネも殊勝に言うと、ほっとため息をついたイヴァンに抱き寄せられる。
「無事でよかった……」
その腕の温かさに、レーネもそっと目を閉じて身を委ねた。




