↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/40

第32話 預ける相手

翌朝、ギルドの階段を上がる前に、俺は革袋の結び目を確かめた。


「四回目」


 エステルが言う。


「昨日から数えてるのか」


「今朝からよ」


 隣でリンが吹き出した。彼女は育成機関へ顔を出してきたばかりで、いつもの旅装に戻っている。


「緊張してるなら、私も一緒に入る」


「もう三人で来てるだろ」


「それを聞きたかった」


 リンが先に扉を開けた。


     ◇


 王都ギルド長の部屋には、剣も飾りもなかった。机の上に、西の街道から届いた地図が広げてある。


 ギルド長はヴァルクと名乗った。白髪交じりの男で、俺たちが座るより先に立ち上がる。


「ロイ・フェルドだな」


「はい」


「村からの知らせは受けた。怪我人を連れてここまで来たそうだな。座ってくれ」


「渡すものがあります」


 椅子へ向かう前に、俺は革袋を机へ置いた。


 ヴァルクは手を伸ばしかけ、俺の顔を見て止める。


「まだ開けない方がいいか」


「……俺が開けます」


 結び目をほどく。布に包んだ欠片は、村を出た時と同じように冷たい。


 俺が包みを開くと、ヴァルクの眉が動いた。


「形は、聞いていたものと合う」


「知ってるんですか」


「見たのは初めてだ。村のギルド長から、ずいぶん前に知らせを受けている」


 ヴァルクは、欠けた縁へ指を近づけた。触れずに止める。


「ロイの父親から預かった黒い金属片がある。必要になったら王都へ届ける、と」


「何の欠片かは」


「知らない。古いものだとは聞いた。どこで手に入れたかも、知らせにはなかった」


 期待が少し膨らみ、すぐしぼんだ。


 父ちゃんの名前を知る人なら、全部説明してくれると思っていたのかもしれない。


「父に会ったことは?」


「一度だけ。十年以上前、依頼の帰りにこの部屋へ来た」


 ヴァルクは俺を見た。


「その時、息子の話をした。よく盾の英雄の話をせがまれる、と」


 俺は欠片から目を離した。父ちゃんが他人に俺の話をしていた。その事実が、予想外のところから胸へ来た。


「父は、これの話もしたんですか」


「いや。少なくとも私にはしていない」


 ヴァルクはごまかさなかった。


 俺は包みを閉じる。机の向こうへ押す前に、言っておきたいことがあった。


「村のギルド長が、直接あなたに渡せと言いました。調べるために預けるのは分かります。でも、何か分かったら俺にも聞かせてください」


「当然だ」


「俺がいない所で、これを別の人へ渡さないでほしい」


 ヴァルクはすぐに頷かなかった。


「調べる者の手に渡さずには済まない」


「立ち会わせてください。無理なら、誰がいつ見たか残してほしい」


 エステルが少しだけこちらを見た。リンは黙ったまま、俺の返事を待っている。


「調査を止めたいわけじゃありません。村でこれに触れた後、俺は――」


 マレナへ向いた黒い円盤を思い出す。


「自分で何をしたか、知っておく必要がある」


 ヴァルクは頷いた。


「封印箱に収め、調査の記録を残す。開く時は事前に知らせる。危険がなければ立会いも認めよう」


「危険がある時は?」


「その理由も知らせる。黙って持ち出すことはしない」


 そこで初めて、俺は包みを机の中央へ動かした。


 ヴァルクは布ごと欠片を木の箱へ収め、蓋に封をした。箱には俺と彼の名前を書いた紙を添える。どちらか一人が開いたら分かるよう、封の端を二人で押さえた。


「受け取りの控えだ」


 渡された紙には、預けた日時と、欠片が布に包まれていることだけが書かれていた。正体の欄は空白だ。


 俺はそれを畳んで、空になった革袋へ入れた。


「ほかに、聞きたいことはあるか」


「村のギルド長のことを」


 ヴァルクの顔が少し険しくなる。


「安否は、こちらでもまだ分からない。現場へ向かう隊には捜索を頼んだ。生きていると言える材料も、亡くなったと言える材料もない」


 俺は頷いた。サイのおっちゃんから聞いたのと同じだ。聞きたくない答えではあるが、今ある答えはそれしかない。


「西の森の魔物と、これの関係は?」


「今は判断できない。君の報告だけで結ぶのは早い」


「俺も、そう思います」


「だが、同じ時に起きたことは調べる」


 ヴァルクは机の地図を畳み、引き出しから古い資料の目録を取り出した。


「金属の手がかりは、物そのものだけとは限らない。昔の記録に同じ形が残っていないか、別に探してみる」


 俺が立ち上がると、エステルが報告書の控えを机へ置いた。


「私も見た事実を追加します。ロイの記憶だけで判断しないでください」


「助かる」


 リンが俺の空の革袋を見た。


「軽くなった?」


「重さは、最初から大したことなかった」


 廊下へ出てから、袋を腰へ結び直す。


 父ちゃんの欠片は手を離れた。それでも、俺が確かめるべきことまで誰かへ渡したわけじゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。