第21話 私の英雄様
「ロイ!」
リンの表情が、一気に崩れた。
「そう! 私! 分かる!?」
「…………」
「ロイ!」
「リン……」
その名前を。
もう一度。
ロイが口にする。
ほんの一瞬だけ。
濁っていた目に。
いつものロイが戻ったように見えた。
「よかった……」
リンが一歩踏み出す。
「ロイ、私――」
「う……」
「……ロイ?」
「う……うう……」
ロイが頭を押さえた。
「ロイ!」
「うあああああああああああああっ!!」
「っ!」
叫び声と同時に。
黒い《障壁》が。
弾けるように増えた。
一枚。
二枚。
三枚。
さっきまで止まっていた黒い円盤が、再びロイの周囲を埋めていく。
「ロイ!」
リンが走り出そうとする。
「下がれ、リン」
「でも!」
「下がれ」
男の声が変わった。
さっきまでの。
気の抜けたような調子じゃない。
「そんな顔すんな」
男はロイから目を離さなかった。
「殺しゃしねえよ」
首を軽く鳴らす。
「ちょっとばかし、おねんねしてもらうだけだ」
「で、でも、ロイが……」
「リン」
「…………」
低い声だった。
リンの足が止まる。
「お前は何のために、三年間強くなったんだ」
「っ……」
リンが息を呑んだ。
「ここであいつの横に座って、泣くためか?」
「…………」
「違うだろ」
男が、ちらりと村を見る。
倒れている人。
助けを呼ぶ声。
泣いている子供。
まだ魔物から逃げている住民。
「助けたい奴がいるから、剣を握ったんじゃねえのか」
「…………っ」
リンが唇を噛んだ。
視線は。
それでもロイから離れない。
「でも……」
「俺がいる」
「…………」
「こいつは俺が止める」
男は、黒い《障壁》へ目を向けた。
何枚あるのか。
もう私にも分からない。
それでも。
男の表情は変わらない。
「だから」
今度は。
まっすぐリンを見る。
「お前は、お前にしかできねえことをやれ」
「…………」
リンは。
しばらく何も言わなかった。
やがて。
ぎゅっと。
剣の柄を握る。
「……分かりました」
声はまだ震えていた。
それでも。
顔を上げる。
「お願いします」
一度だけ。
ロイを見る。
「……師匠」
「ああ」
男が笑った。
「任された」
リンが振り返る。
村へ。
助けを求める人たちの方へ。
その背中を見送って。
男は、もう一度ロイへ向き直った。
「さて」
黒い《障壁》が。
一斉に男へ向く。
「…………」
男が。
面倒くさそうに頭を掻いた。
「まずは――」
一歩。
ロイへ近づく。
「その物騒なの、しまってもらおうか」




