75 また新しい女人誑かしてるな
「リュカ・ローゼンベルク王太子殿下へ、病院騎士団団長フローレンツが申し上げます」
征伐騎士団が王都へ退却したその後。
フローレンツは修道服の裾を整え、リュカの前に片膝をついた。
残る修道女も、一人残らずそれに倣う。
とはいえ――身の丈190センチにもなる彼女を前にしては、跪いてなお、その目線はリュカとほぼ同じ高さを有していたのだが……。
「殿下の一塵の曇りもなき、高尚にして慈愛なる御心根を拝し、衷心より感服仕りしました。殿下こそまさに――聖職者として、医師として、騎士として、お仕えするに相応しき御仁。願わくば、その高潔なる御志を時に護る盾として、時に癒す僕として、我ら病院騎士団の殿下の軍門に加えてくださいますよう、謹んでお願い申し上げます」
「ああ、勿論だ。貴顕らの武辺並びに、薬学の深い造詣は、まこと感服に値した。どうか世を正しき方へ戻すべく、力を貸して欲しい」
「御意に」
その様を見て、駆けつけたアルフォンタスは呆れていた。
「この人誑し、行く先々で女人の心を攫うておるわい」
「あなたも生物学的には、その誑かされた女人に含まれるのでは?」
「結果的に逆に戦力が増えましたね」
ジャスパー、エフィ、アルフォンタスの三者がそれぞれに言い合う。
此度の一幕、当初はリュカが王たる役割を疎かにし、一人の臣のために進軍の歩みを止めたことが端を発した。
しかし蓋を開けてみれば――アイゼは一命を取り留め、衛生に通じた精鋭の騎士100人が新たに軍門に加わる結果となった。
更にもう一つ、ケーヒニス砦に戻った王子軍の元へ、朗報がもたらされた。
王子が軍を率いて、王都奪還を目指しているという報せが、大陸全土に伝播しており、王子の旗の下に参じようとする兵が続々とケーヒニス砦に集結していたのである。
総勢は5000に及んでいた。
しかも彼らは参集する道中――王弟派の諸侯による攻撃を受けていたスタンス城にて、助太刀を果たしたことで、その忠義は紛れもないものと証明され、王子は二つ返事でその軍勢を受け入れた。
つまり王子軍は、南方より迫る憂いを排したのみならず、総戦力を10000にまで膨らませたのであった。
無論、新たに王子に与した勢力の中には、数に劣る王子軍に媚びを売ることで、戦勝の暁には要職を求めようと、打算を抱く諸侯もいたと思われるが、それでも戦力には代わりない。
ジャスパーは、「面従腹背の者が紛れている可能性も考慮しながら、うまく使うまでですよ」と、不敵に笑って、新参の軍勢を王子軍の末席に加えたのであった。
***
だが――王子軍が戦力を増強したように……。
王都を掌握する王弟ヨハンもまた、全国に与する王弟派閥の諸侯に檄を飛ばし、兵を参集させていた。
結果――王子がナハティガル修道院で足止めを喰らっている隙に、王都に総勢50000にも及ぶ兵力を集めたのであった。
アイゼの延命と病院騎士団の合流と引き換えに、ジャスパーが当初に掲げた――電撃的進軍によって王弟派閥の諸侯が集結する前に、王都を奪還するという計画は失敗の運びとなってしまった。
かくして、王子軍10000に対する、王弟軍50000。
最後の決戦が、王都の城前にて、始まろうとしていた。
次回から今度こそ最終決戦になります……!




