↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青薔薇戦記~追放された妾腹王子は、ショタコン女騎士と王位を目指す~  作者: なすび
反撃編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/86

73 病院騎士団

【前回のあらすじ】

ゴードン率いる征伐騎士団は、ナハディガル修道院に対してリュカの引き渡しを要求するが、フローレンツ修道院長はそれを拒否。レイピアでもって使者を追い返すのであった。

 数分後。

 ゴードン親子を支え続けてきた参謀が、ゴードンの元に帰参《きさん》して、殆ど間を置かずに、ゴードン率いる征伐騎士団の残党は、勢いよくつづら折りを駆け上ってきた。


 修道院の門戸は硬く閉ざされていたが、強引にこじ開け、なだれ込む。


「ゴードン様、中はもぬけの殻です!」


「なに!? だが他に出入口はないはずだ! 隅々まで探せ!!」


 静謐《せいひつ》であるべき僧院が、けたたましい怒声と、金属が擦れ合う騒音で包まれる。

 だが――つい先ほどまで門戸に立っていたはずの、フローレンツ修道院長の姿さえ見えない。


 あの巨体では、身を隠すのも苦労するだろう。

 ゴードンは不穏な空気を察知しながら、やがて一人の部下が駆け込んできた。


「地下室に隠し通路を発見しました!」


「なに!? よし! 奴らはそこから脱出したに違いない! 即座に突入し、王子を捕らえるのだ!」


「御意に!」


 部下の報告の通り、倉庫として使われている地下室の奥に、鉄格子の扉が設けられていた。

 その先は剥き出しの土に、一定間隔で打ち込まれた木柱のみで構成された隧道《トンネル》が続いている。

 王子一行がここから脱出したのは、間違いない。


 ゴードンが顔を覗かせれば――松明の光と思わしき光源が、遠くに揺れているではないか!


「あの光は王子一行が掲げる松明の明かりに相違なし! 総員突入!! 行け行け!!」


 ゴードンの命に、次々と兵隊が、、暗闇の中へ飛び込んでいくのであった。



***



 一個小隊に及ぶゴードン麾下《きか》の兵隊は、松明を掲げながら隧道《トンネル》を進む。

 やがて正面より、ひらひらと揺れ動く僧服の裾が見えた。


 逃げ出した修道女達に追いついたのだ。

 その先頭には、リュカがいるに違いない。

 先方には手負いのアイゼがいる、その歩みが遅くなるのは仕方のないことで、ゴードン勢からすれば願ってもないことであった。


 兵隊達は喊声《かんせい》を上げながら、修道女の背中目指して歩を早める。


 ついにその背に追いつく――直前。


「ッ!?」


 ――突っ!


 逃げに徹していた修道女達が、一斉に踵を返した。

 僧服の中に隠し持っていた細剣《レイピア》が引き抜かれ、追いすがる征伐騎士団の鎧の隙間を、的確に貫く。

 なんとも信じられないことであったが、剣術の心得があったのは、フローレンツだけではなかったのだ。


「うわっ!?」


「ぎゃっ!?」


 彼らはまんまと、狭隘《きょうあい》な地形に誘いこまれたのである。

 兵士達は面を食らいながらも、応戦しようとするが、大人一人分の横幅しかないため、剣が土壁に引っかかって、まともに刃を振るうこと出来ない。


 一方の修道女達と言えば。

 突きを主とする異国の剣術を駆使し、追いすがる兵士の急所を次々と穿っていく。


 目の前の味方が倒れる。

 その積み重なった死体を乗り越えた先から、峻烈な突きが飛んでくる。

 征伐騎士団は、修道女一人斃(たお)すこと叶わず、次々とその数を減らす一方であった。


「くそ! 撤退だ! 一旦引くのだ!」


 兵士達は、風を食らって踵を返そうとする。

 だが――此度の陥穽《かんせい》を立案した偽僧ジャスパーの策は抜かりなかった。


「大変です! 後ろからも敵が!」


「なにっ!? どのから現れた!?」


 背後から、女人達の吶喊《とっかん》が轟いた。

 薄闇の中、炯々(けいけい)と榛色に輝く瞳を宿したフローレンツが、その先頭に立っている。


 実はこの隠し通路、絶妙な角度で分岐した支路が設けられていた。

 修道院から外へ脱出する際には、気付きにくい仰角の枝道に潜んでいた別動隊が、征伐騎士団が通過した後に飛び出し、退路を塞ぎ、挟撃の形を生み出したのである。


「聖職に生きる者として、無益な殺生は好みません。今すぐ投降してください」


 前後より、細剣《レイピア》の槍衾《やりぶすま》を突きつけられ、征伐騎士団の戦意は、完全に潰えた。


 しかしなぜ――医術に通暁しているだけの修道女達が、これほどまでの武力を備えているのか?

 後にジャスパーはリュカへ、以下の様に語った。


『一見ただの僧院に見えまするが、彼女らはかつて、獅子剣王リヒャルト陛下の海外遠征に随行《ずいこう》せし、負傷者の治療を担う直属の衛生兵団でございました――そして最前線で傷兵を回収する役目を請け負うからには、医術のみならぬ武術にも秀でている必要がございます』


 その言葉を聞いて、リュカは得心した。

 フローレンツがリュカに対し――獅子剣王の面影がある――と述べた言葉の意味を。


『すなわち彼女らは、僧侶にして、医師にして、騎士なのです――その三つの伎倆《ぎりょう》を兼ね添えた、国王直属の騎士団に対し、リヒャルト王はこう命名しました――病院騎士団、と』


 病院騎士団。


 鎮撫騎士団や警邏騎士団に続く、国王直属の騎士団であり――

 ナハティガル修道院は、平時こそ近隣住民の治療を請け負う修道院であるが、有事には国王のためなら海の向こうだろうと随伴する――病院騎士団の詰所でもあったのだ。


 無論――ジャスパーはナハティガル修道院の正体を、端《はな》から承知の上で、彼女の元を訪ねていた。

 リュカがアイゼに付きっきりで看病に励んでいた際、かの偽僧《ジャスパー》は真僧《フローレンツ》と密に連携を取り、このような事態に備えた策を周到に整えていたのである。


 そして更に付け加えれば――一見逃げ出したと思われた隠し隧道《トンネル》の一行に、リュカ達の姿は、どこにも見えなかった。


 リュカ一行は予め、他の隠し部屋に息を潜めており、征伐騎士団が隠し通路に殺到するその隙に、悠々と正門から脱出する腹積もりであったのだった。

 毒こそ完治したと言えど、未だ病み上がりで、一人で歩くのも覚束ないアイゼを抱えたまま、隠し通路から脱出を計るのは、危険と判断したが故である。

 無論――ナハティガル修道院ないし、病院騎士団の面々には、彼女らを囮に使うことを承諾された上での作戦である。 


「さあ、アイゼ殿。歩けますか?」


「お前に肩を借りて、辛うじてな……」


 アイゼに肩を貸しているジャスパーは、エフィとリュカを伴って正門へ脱出を測る。


 だが――信じ難い事が起きた。

 此度ジャスパーの策は――あろうことか、浅慮と侮っていたゴードンに、見透かされていたのだ。


「やはり、隠し通路は囮であったか」


「これはしたり……どうやら拙僧は、ゴードン卿を甘く見積もり過ぎていたようです」


 隠し通路の中にリュカの姿がなかったように――突入した征伐騎士団の中にも、ゴードンの姿はなかったのである。

 修道院の門外は、ゴードンを筆頭に、予め分割して、丘の反対側に伏せておいた一個小隊に包囲されていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。