50 改造ゴーレム
アイゼがゴードンと干戈を交えていた一方。
王子軍本隊と、スタンス城より飛び出した駐屯兵との野戦もまた、佳境を迎えようとしていた。
ジャスパーの采配により、あえて王宮より増援が送られてくるまで、消耗を抑えていた王子軍であったが、戦いの舞台が攻城戦から野戦へと移れば、話は変わってくる。
鎮撫騎士団はその末端に至るまでが卓越した馬術を持ち、野戦においては無類の強さを誇った。
時に剽悍に攻めたて、時に退いて見せては、逃げ様に騎射で反撃したりと、鎮撫騎士団団長イリアーナの指揮で、スタンス城の駐屯騎馬兵を次々に返り討ちにしていった。
しかし――その中でもひときわ、シュタンシュテット伯爵の残り少ない頭髪に負荷を掛けたるは、錬金術師アルフォンタスの御する青銅巨人と、吟遊詩人ヘリワードの繰り出す正確無比な弓撃であった。
とはいえ、かつてのガーナーゲート砦での防城戦の様に、自由奔放に暴れまわっている訳ではない。
むしろその逆、青銅巨人ダイダロスは、二本の足で直立すると、戦場の真ん中で身動ぎせず棒立ちしている。
青銅巨人は動かすだけで莫大な燃料を要する。
そしてそのエネルギーの補充にも時間を要する欠点があった。
リュカ達が一ヶ月の間、オクスフォード領で蟄伏していたのは、それもまた大きな理由の一つである。
軍師ジャスパーは、その燃費の悪さから、虎の子は王都での最終決戦まで温存することに決め、必要最小限の動きで運用することに決めた。
その運用方法の一つが――移動式櫓である。
ダイダロスが二本足で直立した場合の全長は、10メートル半ばに達する。
そしてアルフォンタスはジャスパーの指示に従い、頭部に改造を施すと、内部をくりぬいて搭乗スペースを確保し、くりぬいた建材で王冠のような凹凸部――胸壁を作ったのだ。
分かりやすく説明すれば、ひっくり返した銅鐸に手足がついたような形である。
そこに射手が三人乗り込み、青銅の肉壁に守られた上方より、弓を射るという寸法である。
「くそう! あの性悪キツネめ! ワシの青銅巨人をこんな不細工極まりない形に改造しよってからに……! これで宮廷錬金術師にする約束を反故にしたら、真っ先に反乱を起こすぞ!」
「ほらアルフォンタス殿。ダイダロスの足元に敵兵が群がってきました。対処をお願いします」
「その細目をこっちに向けるな! 忌々しいキツネの顔を思い出して不愉快じゃ!」
「その文句はジャスパー殿に言ってくださいよ……わたしもキャラ被ってるの気にしてるんですから……」
移動式櫓と化したダイダロスに搭乗している、三人の射手の一人は、勿論ヘリワードである。
彼は矢頃二つ分離れた距離からでも、正確無比な射撃で鎧の隙間を貫く鷹の目を持っている上、ダイダロスを制御するために同乗したアルフォンタスの、お目付け役としての役割も担っている。
スタンス城の駐屯兵は、移動式櫓への対策を余儀なくされ、かなり無茶な犠牲を強いる突撃でもってダイダロスの足元へ到着すると、その足にしがみつき、よじ登ろうとしたり、弓矢でヘリワード達を射かけてくる。
だが――ダイダロスはただの移動式櫓ではない。
それ単体で神話の巨人に匹敵する戦闘力を秘めた怪物である。
アルフォンタスは胸壁と化したダイダロスの頭部から身を乗り出すと、幼女特有の短い腕を伸ばす。
彼女の腕には赤い染料で彫られたタトゥーが刻まれており、それが赤く輝くと、櫓に徹していたダイダロスが動きだし、腰までよじ登ってきた敵兵を羽虫のように振り払い、足元で矢を射かける弓兵を蟻のように踏みつぶした。
ダイダロスが血霧の舞う足を再度持ち上げると、そこには赤黒い染みが大地にこびりついていた。
「なんだあの石の櫓は!? 移動するだけではなく、まるで人間の様に自在に動くのか!?」
「怯むな! 上に乗っている弓兵は我らと同じ人間だ! 奴らを射殺せ!」
「なんか身を乗り出してる子供めちゃくちゃ怪しくないか!?」
「この面妖な絡繰りの術者の可能性がある! 射れ射れ!」
ガーナーゲート砦での時と同様に、種が暴かれ、アルフォンタス目掛けて大量の矢が放たれる。
「だから身を乗り出さないでくださいアルフォンタス殿! あと我々が乗っているので、激しい動きは抑えてください。こっちまで振り落とされてしまいます」
ヘリワードは間一髪の所で、アルフォンタスの襟首を掴んで、胸壁から引きずり下ろした。
「そうは言うてもじゃな……視認できん限りはダイダロスを動かすことは出来ぬからのぅ。それに――大人用に施された改造故、子供のワシにはいささか高すぎるのじゃ」
ダイダロスの搭乗スペースは決して広くない。
中にいる弓兵が腰を屈めて身を隠せば、仲間の膝にぶつかってしまう。
そのため、立ったまま胸壁の凸部で頭まで守れるように、深く掘られているだ。
一桁後半程度の幼女の肉体のアルフォンタスは、宙ぶらりんになって身を乗り出さないと、外の様子を伺うことが出来ないのである。
「ああもう仕方ないですねぇ! あなたといると調子が狂いますよ全く……!」
ヘリワードは一旦得物を背負うと、アルフォンタスの脇の下に腕を差し込み抱きかかえた。
そうして視認性を確保したアルフォンタスは、安定した視界から、足元に纏わりつく敵兵を踏みつぶしていく。
敵の弓が飛んできた際は、即座にアルフォンタスごと胸壁の裏側で身を隠すことで、アルフォンタスの身を守っていた。
趨勢は完全に王子軍に傾いている。
更に拍車をかけるように、釣り野伏の計により指揮官が捕虜となり、潰走してきた征伐騎士団が、逃げ込むようにスタンス城の開門を迫ったのが決め手となり――城主シュタンシュテット伯は退却の合図を出す。
かくして、スタンス城前にて繰り広げられた野戦の結果も、王子軍の快勝によって、幕間へと移り変わったのであった。




