第69話『変わらない未来』
【登場人物】
誠:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。悪魔が嫌いなので悪魔に対して少しだけ口が悪くなる。
冬美:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。
孝志:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。誠の握るおにぎりが好き。
五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこにはある理由が…。悪魔が疲弊するくらいガチガチの追加契約を作った。
【登場する悪魔たち】
放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに異質。誠たちを翻弄する存在。
宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、【時計】の役割も果たしている。
名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。
可愛いけどやたらと声がデカいくて煩い。
シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。…誠たちの味方?
清掃の悪魔:常にテンションが高くノリの軽い青年。この空間の『清掃員』
軽い口調からいきなり雰囲気がガラッと変わるため油断できない。
誠が苦手意識を持っている悪魔。シェフとは古い友達らしい。
メイド:丁寧な口調で微笑む、美しいメイド姿の悪魔。
冬美専属の「レディースメイド」として身の回りの世話を担う一方でその本性は冷酷かつ策略家。「性格は悪いです」と本人も公言している。つい最近新しい契約者を得た。
整備士
部屋の整備や修理を担当する悪魔。
無骨だが気さくで、誰とでもすぐに打ち解ける“面倒見のいいおじさん”のような存在。
「嘘を見破る能力」を持つ特例の悪魔
普段は豪快に笑う気のいい兄貴分だが常軌を逸した執着と狂気がのぞく、油断できない悪魔である。
最近新しい契約者を得た。
鍵の悪魔(竜胆)
放課後の悪魔の使い魔。
昼夜性別が逆転する特殊な悪魔で両方の性を謳歌するくらいポジティブ思考。
その日の気分で体の入れ墨、名前を変える。
今は、体に竜胆の入れ墨を掘っているので
名前も『竜胆』にしている。
ご主人様である放課後の悪魔が大好き。
能力の使い方は多岐に渡る。作中で登場するのは、そのほんの一部。
他にも使い方がある。油断できない悪魔。
最近、新しい契約者『ご主人様2号』を得た。
違和感はすぐに気づいた――。
「もう家に来ないって、どういうことだよ、冬美?」
冬美からの突然の電話。
手のひらに汗をかいて、スマホを持つ手に力が入る。
『ち、違うのっ、あのね、あの……家のこととか、五十嵐くんの話をしたら空いてる部屋を貸してくれるって言ってくれたの』
「部屋を貸すって、前に言ってた店長が?」
『う、うん。そう!そうだよ、だから学校もそこから通えばいいって。そしたら殴られることもないよって、怪しまれるようなら裏口から出ればバレることは無いって』
「……そうか」
――嘘だな。
冬美の喋り方や声から、それがすぐに嘘だと気づいた。
電話口の向こうから聞こえてくる冬美の声は震えていた。
「わかった。でも、困ったときはいつでも連絡してくれ」
『う、うん。五十嵐くん、ごめんね……五十嵐くんには、冬美いっぱいお世話になったのに……』
「前にも言ったろ?俺が好きでやってることだから気にすんな」
『う、うん。ありがとうね……じゃ、じゃあ、また明日、学校でね』
「うん、また明日」
スマホを耳から離すと、テーブルの上にそれを放り投げ、
そのまま仰向けにソファーへと倒れ込んだ。
「……アイツ、泣いてたな」
話の内容と声があまりにもチグハグ過ぎて聞いてるだけで辛かった。
他人が聞けば希望のあるような話だ。
でも、冬美の声から喜びを一切感じなかった。
「キャバクラ、雫ね……」
俺は体を起こすとスマホで店を調べた。
だが、WEB上の情報など氷山の一角に過ぎない。
すぐに検索ページからホーム画面に戻ると電源を落とした。
「……アイツ、殺されたりしないよな」
あの日からずっと、鏡の中で見た映像が頭から離れない。
冬美から店の話を聞いた時は、すぐに反対した。
「店の人たちはいいヤツ等って話も嘘だったのか?」
店でのことを話す冬美は、本当に楽しそうだった。
『うーん、今が一番……怖く、ないかなぁ。お店の人たちは仕事には厳しいけど、それ以外はみんな優しいの!』
店長が率先して従業員を守るなんて、そんな漫画みたいな店あるわけねぇよって思っていたけど、冬美の表情を見て、その話もあながち嘘ではないんじゃないかなって思っていたのに……
「怖くないんじゃ、なかったのかよ……」
あれは、何かに怯えている声だった。
冬美は、誰かに脅されたのか?
まず、電話してきた場所は店だったのか?それとも、アイツの家?
どこでかけてきた?なぜ、怯えていた?
『キミは、絶対来るよ』
「っ……」
俺の思考の隙間に、タイミングを見計らったかのように
アイツの言葉が入り込んできた。
「っくそっ!!」
寝転がりながら髪をぐしゃぐしゃにかきむしった。
「……悩んでる暇なんて、ねぇよな」
ソファーから立ち上がって部屋の電気を消すと、再びソファーに座ってゆっくり目を閉じた。
――それから一週間後……
「お久しぶりです。藤沢先輩、でしたよね?」
少しふくよかな背中に声をかけた。
「!き、君は、確か……い、五十嵐くん?」
あの日、放課後の悪魔の時にいた藤沢って先輩だ。
放課後の悪魔がいる部屋に行くためには、この人が必要だった。
「ここから先は、俺一人で大丈夫です」
当たり前のように後ろからついて来ようとする先輩に俺は待ったをかける。
「えっ?」
「あの後、放課後の悪魔について調べたんですけど…悪魔は一人きりの時にしか現れない。それ以外は『違反ペナルティ』らしいです」
「え!?そ、そうなの?」
インターネットにも乗ってない噂話をその場で勝手に作った。
「はい。もし周りに人がいた場合は違反とみなされて、イタズラされるって――あの時、音声ガイダンスが鳴ったのもきっと、悪魔に違反とみなされたからなんですよ」
「そ、そうなんだ。知らなかった」
先輩は俺の嘘を信じてくれたようで、一歩下がって俺に美術準備室の鍵を手渡してくれた。
少しの罪悪感を心に残して鍵を受け取って中に入る。
「……よぉ、お前の予想通り、また来てやったぞ」
あの日と同じように、鏡の前に立ってそう言えば、肩に覚えのある重みを感じた。
「っチ、悪魔ッっつーのは、いちいち人間の肩に手置かないと登場もできねぇのかよ」
「わははは!相変わらず辛辣やねぇ、五十嵐くん!」
鏡の中ではなく、俺のすぐ隣にソイツは姿を現した。
悪魔の手を振り払うと、少し距離を開けて悪魔を見据える。
「魂以外なら、なんでもくれてやる。だから、今は――『仮契約』しねぇか?」
「へぇ、仮契約なぁ」
俺の言葉に悪魔は面白いとばかりに目を細めて、眼鏡の奥にある赤い瞳を輝かせた。
「悪魔に『何でも』は危険な言葉やで?ほんまに、なんでもくれるん?」
「あぁ、魂以外は全部くれてやる。でも、すぐにはやれない」
「なんやて?」
「俺には知りたいことがあるんだ。それを知るまでは五体満足でいたい。いきなり片腕とか足無くなって誠たちに心配かけさせたくねぇし」
「卒業してからは手足無くてええんかい」
「生きてりゃどうとでもなる。幸い、俺は……金の子だからな。金を稼ぐ知識は人よりある。手足が無くなろうと、金さえあればどうとでもできる」
「へぇ、って?ん?あれ、五十嵐くん、金の子やって気づいてたん?あれ、別人格やろ?」
さっきまで余裕の笑みを浮かべていた悪魔が眉間に皺を寄せて俺に顔を近づけてくる。
驚いたな、コイツはそんなとこまで知ってんのかよ。
「流石に気づくっての。金の子の仕事部屋は、俺の家にあるんだ。過去全ての手書きのノートによく知らねー登録者数百万超えの数十人のYouTuberのデータ分析表……判断材料が揃いすぎてて、答えなんてすぐに出た」
「いやいや、それだけで答えにたどり着けるのは君だけやって!よう金の子にたどり着いたな」
「もともと、都市伝説系の掲示板で『金の子』の話は有名だったんだよ。隣国の闇ビジネスってね……俺も好きでよく見てたよ。内容見る限り、あれは金の子だった人間が書いたものだと思う。仕事内容から、連絡手段まで俺の時と一緒だった」
『金の子』のスレはすぐに削除されていた。スレ主はどうなったかは、考えるまでもないだろう。
「ホンマ、おじさんが予想した通り面白い人間やねぇ!」
「……俺には、両親がいなかったんだな」
情けないくらい小さな声が出た。
答えにたどり着いた時には、覚悟を決めていたのに、こうして言葉にすると、心に言いようのない虚しさが広がっていく。
「おじさんにお願いしたら、すぐにでも五十嵐くんを溺愛してくれるご両親用意できるけど?」
「は?んなもん、いらねぇよ……本題に戻るぞ」
「切り替え早くておじさんついて行けへんわ」
「うるせぇ。……俺が知りたいのは、今の冬美の状況だ」
誠や孝志にはこれといった変化はない。
孝志はバイトが忙しいくらいで、たまに俺たちとも遊んでる。
誠は……通常運転といったところだろう。
アイツの周りは、なんか学生の空気が流れているみたいで落ち着く。
「冬美の店に、何か変わったことが起きてないか。それを知りたいんだ……店の人間か、店の方針が変わったか、そのどちらかだ。これは予測じゃなくて、確信だ」
悪魔を真っ直ぐ見据えてそう言えば、悪魔は意外にも真剣な表情でゆっくり口を開いた
「おススメせんよ」
「なぜ?」
「五十嵐くん見たらかな~り。いや、めっちゃショック受けると思うわぁ」
「なんだよ、それ……そんなに、酷い状態になってんのか?」
「おじさんも悪魔やし?それなりにエロ嗜んどるけど、あれはなぁ~……オェッて感じやったわ」
悪魔は、不快だというような表情を浮かべると舌を出して吐くようなポーズをした。
「それでも、いい。見せてくれ」
「……ええよ」
悪魔は俺から離れると、大きな鏡に近づいて手のひらでそっと鏡に触れた。
鏡があの日と同じように、ゆっくり渦を巻いて歪んでいく……
「昨日のお店の様子見せたるわ。吐いてもええで?おじさんが特別片付けといたるから」
悪魔が無駄話をしている間も鏡の中の渦はぐるぐると回り続けている。
こめかみから、顎にかけてゆっくりと汗が流れ落ちるのを感じた。
「もうすぐ見えると思うわ」
「……あぁ」
目を逸らさず鏡を静かに見据えていると、鏡の中の渦がどんどん透明になっていく。
「見えてきたな。これが――」
五十嵐くんの見たい『現実』や。
「っ……!?」
鏡に映し出されていたのは、見るのも悍ましい映像だった。
高級そうな店内に溢れているのは、男の下品な笑い声と、女の喘ぎ声だった。
美しい見た目の女性従業員が、裸に近い状態で複数の男に群がれ、悲鳴に近い泣き声を上げている。
ボーイがトレイに乗せて運ぶのは酒じゃない、大量の避妊具だ。
自分の数ある知識の中で、この状況に当てはまる言葉は
――『耽美退廃』という言葉が近いだろうか。
「っも、いい。もう、消してくれっ!」
ここまで不快に感じたことはあっただろうか。
胸に溜まる気持ち悪さに耐え切れずに、俺はその場に膝をついて吐いた。
「はぁっ……っゲホッ、ゲホッ……っ」
あれは、店として機能してない。キャバクラってなんだ?
風俗店の間違いじゃないのか!?
「おーおー、やっぱり吐いたかぁ。ま、正常な反応やで」
言いながら悪魔が俺の背を優しく撫でた。
その手を振り払いたくても、脱力感で自分の体を支えるのが精一杯だった。
「冬美ちゃん見つけられた?」
「っあぁ……」
あの、複数の男に群がられていた従業員は、冬美だった。
「うっ……ゲホッ……っくそ、やっぱり、全然大丈夫じゃなかったじゃねぇかよっ!!」
強く握りしめた拳に涙が当たって、拳の面に沿って流れ落ちる。
それは、何度も何度も、歪む視界の中で繰り返された。
「あの店なー。前の店長さんが死んでもうたんや。それで、次に来た新しい店長さんが、最悪な人間だったって話」
「っ前の、店長は、普通だったのか?」
「大体ああいう店って違法な接待が定番やけど、前の店長はそういうの一切しない人間やったらしいで」
「そうか……」
俺は口元を拭って立ち上がると、悪魔へと目線を向ける。
「放課後の悪魔。さっき言ったように、魂以外はなんでもやるから、今、一つだけ願いを叶えて欲しい」
「願い?」
「あぁ……冬美が、卒業するまで」
言いながら、俺はなにも映さなくなった鏡に目を向ける。
「妊娠しないようにして欲しいんだ」
俺が少しでも、できることはそれくらいだ。
頭には、あの日、思い浮かんだ作戦がちらついて追い払うように頭を左右に振った。
「……ええよ。卒業まで冬美ちゃんの子宮守ったるわ」
「あぁ、頼む。それと……お前にも、俺の側にいて常に冬美の様子を俺に見せて欲しい」
「契約してへんのに?」
「最初に仮契約と言っただろ?俺なりに、何かできないか考えて、それでもし……何も、解決策が思いつかなかったときは……」
「ときは?」
途中で言葉を切ると、ゴクリと唾を飲みこんで再び悪魔へと顔を向ける。
「衣食住が安定した、現実世界とは隔離された世界を……願うよ」
最後まで読んで頂きありがとうございました!




