第68話『呪い』
【登場人物】
誠:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。悪魔が嫌いなので悪魔に対して少しだけ口が悪くなる。
冬美:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。
孝志:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。誠の握るおにぎりが好き。
五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこにはある理由が…。悪魔が疲弊するくらいガチガチの追加契約を作った。
【登場する悪魔たち】
放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに異質。誠たちを翻弄する存在。
宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、【時計】の役割も果たしている。
名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。
可愛いけどやたらと声がデカいくて煩い。
シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。…誠たちの味方?
清掃の悪魔:常にテンションが高くノリの軽い青年。この空間の『清掃員』
軽い口調からいきなり雰囲気がガラッと変わるため油断できない。
誠が苦手意識を持っている悪魔。シェフとは古い友達らしい。
メイド:丁寧な口調で微笑む、美しいメイド姿の悪魔。
冬美専属の「レディースメイド」として身の回りの世話を担う一方でその本性は冷酷かつ策略家。「性格は悪いです」と本人も公言している。つい最近新しい契約者を得た。
整備士
部屋の整備や修理を担当する悪魔。
無骨だが気さくで、誰とでもすぐに打ち解ける“面倒見のいいおじさん”のような存在。
「嘘を見破る能力」を持つ特例の悪魔
普段は豪快に笑う気のいい兄貴分だが常軌を逸した執着と狂気がのぞく、油断できない悪魔である。
最近新しい契約者を得た。
鍵の悪魔(竜胆)
放課後の悪魔の使い魔。
昼夜性別が逆転する特殊な悪魔で両方の性を謳歌するくらいポジティブ思考。
その日の気分で体の入れ墨、名前を変える。
今は、体に竜胆の入れ墨を掘っているので
名前も『竜胆』にしている。
ご主人様である放課後の悪魔が大好き。
能力の使い方は多岐に渡る。作中で登場するのは、そのほんの一部。
他にも使い方がある。油断できない悪魔。
最近、新しい契約者『ご主人様2号』を得た。
「死神、憑き……」
俺のつぶやきに近い小さな声は、誰も動かなくなった空間に静かに響いた。
「っ待て、なんでお前は、そんなことまで知ってんだよ?」
睨みつけながら言えば、悪魔はゆっくりとした動作で俺の方へと振り返る。
「なんでって、面白いからや。犬神憑きなんてもんは見慣れとるけど、それが進化した姿なんて長い悪魔人生でも初めて見るからなぁ」
「まさか、冬美の、前世を辿って調べたのか?」
ここにくるまでに見せられた数々の現象を考えれば
答えはもう出ていた。
「そやで。おじさんたちには人間の前世見るなんて簡単にできるからなぁ。いやー、なかなかに面白いもんやったで?」
「犬神憑きってことは、冬美は誰かに恨まれていた。そういう認識でいいんだよな?……前に冬美は、なにをして恨まれたんだ?」
俺の質問に悪魔は口元を釣り上げた。
そして、長い指先を再び鏡へと向ける。
その指を追って、再び鏡へと目を向けた。
「あれは……あれが、冬美の前世の姿か?」
鏡には町娘のような恰好をした美しい若い女性が映されていた。
彼女の周りには常に男がいて、侍らせているというよりは、群がられて困っているという様子だった。
「綺麗やろ?他の人生でも、冬美ちゃんは必ず美人さんに産まれて、沢山の男に言い寄られててな。その中にはイケメンさんも沢山いたんや」
「悪女って感じには見えねぇな……父親といる方が、自然な笑顔浮かべてて可愛いよ」
美しい町娘は、家族といる時の方が表情が豊かだった。
その二つの情報で、俺の中で結論は出ていた。
「……嫉妬か」
「おー、すぐその答え導き出せるのすごいなぁ五十嵐くん」
「あぁ、お前の言うようにこの映像には顔がいい男もいる。皆、彼女に惚れてるって顔してるし、この男たちに惚れてる女もいたんだろ?」
「その通り!正解やで~!!……冬美ちゃんはな、なんも悪い事してへんねん。あの子は、ただ美しかった。それだけで恨まれたんや」
「……美人薄命ってやつか」
鏡には、時代を移り変わるように、姿かたちは違えど美しい女性が映されていた。
そして次に映るのは、決まってその女の最期だった。
どの時代の姿も、若くして亡くなっている。
「……殺し方が、変わってる」
着物を着ていた時代の冬美は、突然発狂したり、事故死……自殺が多かった。
しかし、制服姿の時代になると強姦の末の殺人と言った……
――『男』による殺害が定番となっていた。
「じゃあ、アイツの妊娠も……呪いの影響なのか?」
思い浮かべるのは、空き教室で俺に縋りついて泣きじゃくる冬美の姿だった。
「その可能性はあると思うで?母親の恋人が全員、母親の娘に必ず惚れるってありえへんやろ?」
「そうだな。母親の選ぶ相手全員、小児愛者ってことになる」
「うわっキモッ!ありへんわー!」
「母親の方も、冬美ほどじゃないけど普通に綺麗だったよ」
病院のことを話すときに一度だけ会った。
明らかに俺に色目を使っているような仕草が少し気持ち悪かったのを覚えている。
「なぁ、お前の力で死神憑きを殺すことはできないのか?」
鏡から目を逸らすことなくそう言った。
数々の映像を見て、一番最初に考えたのは、悪魔に死神を殺してもらうことだった。
「悪魔なら、できんだろ?」
少し挑発も込めて言えば、悪魔は顎に手をやって考えるようなそぶりを見せる。
「できないこともないけどなぁ~。コイツ消すってなると、おじさんでも結構強い力使わんとあかんかもしれん」
「強い力?」
「あぁ、力とちゃうか。……『対価』や」
何気なく続けられた言葉を耳に入れた時、空気の時間が止まった気がした。
「対価……」
そして、悪魔が醸し出す雰囲気の変化。
さっきから肌がピリピリして落ち着かない。
「ん~、死神憑きなら、そうやねぇ。対価は、『命』くらい貰わんと割に合わんかなぁ」
「……命だと」
悪魔の言葉を聞いて、俺の額から嫌な汗が流れ落ちた。
今まで、こんなに緊張したことがあっただろうか?
続ける言葉が、見つからない。
「っそれは、対価って言わねぇだろっ。もし、仮に命を渡したとして、俺はお前を信用してねぇ」
なんとか絞り出した言葉に悪魔は俺を見下ろして、唇の端をゆっくり持ち上げた。
「信用してない?それは正しい答えじゃないよな?」
「っ!」
いきなり喋り口調が変わった。
「信用してないんじゃない。お前は、命を差し出すが嫌なんだよ。そりゃそうだよな?お前には、大切な友達がいて、好きな人もいる。命を対価に渡すってことは、そいつらのこの先の人生を見ないで死ぬってことだ」
「……っそれは」
何も言い返せなかった。
「っそうだ。俺は、理由を付けて、対価を変えられねぇかって考えてる」
そして、コイツと少し話して確信した。
この悪魔に、嘘は通用しない。
「残念だけどそれは無理だな。死神憑きを殺せるのは、俺か、ベルゼブブ、それ以上の悪魔でしか殺せない」
「ベルゼブブって……マジかよ。そんなに強いのか、アイツ」
「あぁ、歪みが尋常ではないからな。罪のない人間の魂を探して見つけて三百年以上殺している呪いなんて、厄介でしかない」
「クソっ!……流石に俺でも知ってる悪魔の名前出されたら、無理ですなんて言えなくなったわ」
俺は悔しさに唇を強く噛み締めた。
視界の端では、セーラー服姿の少女が男に首を絞められていた。
「……一つだけ……お前から、死神憑きの話を聞いてから、頭の中でずっと考えていることがある」
でも、それは絶対に実行してはいけないことだ。
「俺としては、五十嵐くんが今考えてることの方が対価も安く済むと思うけど?」
「っ対価の問題じゃねぇんだよっ……」
冬美は、この世界に男が存在している限り、死神憑きの呪いで殺される未来が決まっている。
「俺は……っおれは……」
なら、男がいない世界を作ればいい。
どうしようもできない、変えられない冬美の人生に、俺は頭をかきむしった。
そして、ゆっくりと後ろにいる友達に目を向ける。
「こんな……っこんな、友達の人生犠牲にするような、作戦なんて考えたくなかったっ!!」
自他共に自分の頭が人より優れているのは自覚している。
だからこそ、迷いなく浮かんだ、構想に恐怖した。
「っ絶対に、願ってやらねぇっ!!俺は、もっと、俺にできることを探すっ!!だから、失せろっ!!!」
少し半狂乱になりながら悪魔を睨みつけた。
悪魔は俺に怯えるどころか、余裕のある笑みを浮かべて一歩後ろに下がった。
「今日は退散するわ。もし、五十嵐くんが会いたくなったら、またここに来てな」
「っ来るわけないだろ」
「来る」
「っ!?」
「キミは、絶対来るよ」
悪魔はそう断言すると、パチンっと指を鳴らして一瞬にして消えた。
――その瞬間
「嘘でしょ、誰か止めて!」
「きゃあああっ」
「っどうして誰も喋ってないのに反応してるんだ!?」
俺の世界に、音が戻って来た。
悪魔が消えた場所からゆっくりと、鏡に顔を向ける。
そこには自分の姿しか映ってなかった。
「い、五十嵐くん……?」
後ろから誠に手を掴まれても、俺は鏡から目を離すことが出来なかった。
頭の中には、幾多の時代の冬美が殺される姿が延々と走馬灯のように流れていた――。
◇◇◇
「は?店で働いてる?高級キャバクラって……お前、まだ未成年だろ?」
自分でも驚くくらい低い声が出た。
「っご、ごめんなさい」
俺の前に立つ冬美が怯えたような顔をするから、俺は慌ててフォローした。
「悪い冬美。怒ってるわけじゃねぇんだ、その……最近の引っ越しは、その店が関係してんのか?」
「う、うん。お母さんのスナックに、そのキャバクラの店長さんが来て、お母さんをスカウトしたいって」
「なるほどな。冬美の母親って、顔だけはいいもんな、顔だけは」
「ははっ、そうなんだよね。お母さん、顔だけはいいの!店長さんもね、顔だけでスカウトして後悔したーって言ってたよ」
そう言って冬美は、ソファーに座る俺の隣に腰を下ろした。
店からの帰りなのか冬美の体からは少しだけアルコールの匂いがした。
「羽振りが良くなったから引っ越したのか?」
「そんな感じかなぁ。お母さんは、私のお給料がいいからってすぐに辞めちゃったけど」
「娘に集る気かよ、マジでクズだな」
本当に冬美の母親は顔だけの人間だ。
顔が良くなければ、性格の悪さで恋人などできなさそうだと思った。
「なんか飲むか?」
「えっ、なに飲もっかなー。久しぶりに炭酸飲みたいかも!」
「了解。今、持ってくるわ」
ソファーから台所に移動すると冷蔵庫の中から炭酸ジュースを取り出してコップに注いだ。
「その、雫だっけ?キャバクラで嫌なことされてねーの?」
コップに注ぐ俺の脳裏には、一か月前に見た鏡の映像が流れていた。
キャバクラなんて、冬美の死が近づくような場所だ。
引っ越しと、冬美が俺の家で飯を食わなくなったこと。
ちゃんと意識していれば気づいたことは沢山あったのに……
(くそっ、ダメだ。あの鏡で見た映像が、ずっと頭から離れねぇっ……)
「あのね、私、あの店で遅くまで働けるから……その、お母さんの恋人とも会わないし、乱暴されることも減ったんだ」
「そうか……それは、よかったって言っていいのかよ」
「うーん、今が一番……怖く、ないかなぁ。お店の人たちは仕事には厳しいけど、それ以外はみんな優しいの!」
「そうか……」
冬美の楽しそうな声を聞けば、その店が今の冬美にとって、心が休まる場所なのだとわかる。
でも、それでも……
「……なぁ、また戻って来いよ」
「えっ」
「俺、金だけはあるんだ。つーか、金しかねぇけど。でも、お前が無理して働かなくてもさ、お前が卒業して新しい仕事見つけるまで、養えるよ」
「五十嵐くん……」
少しでも冬美を死の運命から遠ざけたかった。
でも、冬美の目を見れば、俺の提案は受け入れられないとすぐに理解した。
「五十嵐くん。私、あの店なら……変われる気がするの」
冬美の目は、未来を見ていた。
それは、今いる場所が冬美にとっての希望である証拠だった。
(後ろ暗い噂のある店だと思っていたけど、もしかしたら噂は噂なのかもな……)
「……っ、そっか」
俺は、続ける言葉を唾液と共に飲み込んだ。
お前には死神憑きがいて、ソイツがいる限り未来は変わらないと、言えたらよかったのに。
「五十嵐くんが冬美のことすごく考えてくれてるのはわかるよ。でも、冬美は五十嵐くんにこれ以上迷惑かけたくないっ」
「うん。俺も、お前の気持ち無視するようなこと言って悪かった」
「ううん。冬美は、今の話すごく嬉しかったよ?ありがとう、でも……ごめんね」
久しぶりに見た冬美の笑顔に俺は、彼女の頭を撫でることしかできなかった……。
最後まで読んで頂きありがとうございました!




