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悪魔のシェアハウス――悪魔は人を騙すけど嘘はつかない。《友情》《裏切り》《契約》《願い》すべてを賭けた選択の脱出劇  作者: ユキマル02
【五十嵐くん編】

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第70話『冬美を守れる場所』



【登場人物】


まもる:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。悪魔が嫌いなので悪魔に対して少しだけ口が悪くなる。


冬美ふゆみ:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。


孝志たかし:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。誠の握るおにぎりが好き。


五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこにはある理由が…。悪魔が疲弊するくらいガチガチの追加契約を作った。



【登場する悪魔たち】


放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに異質。誠たちを翻弄する存在。


宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、【時計】の役割も果たしている。

名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。

可愛いけどやたらと声がデカいくて煩い。


シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。…誠たちの味方?


清掃の悪魔:常にテンションが高くノリの軽い青年。この空間の『清掃員』

軽い口調からいきなり雰囲気がガラッと変わるため油断できない。

誠が苦手意識を持っている悪魔。シェフとは古い友達らしい。


メイド:丁寧な口調で微笑む、美しいメイド姿の悪魔。

冬美専属の「レディースメイド」として身の回りの世話を担う一方でその本性は冷酷かつ策略家。「性格は悪いです」と本人も公言している。つい最近新しい契約者を得た。


整備士シンさん

部屋の整備や修理を担当する悪魔。

無骨だが気さくで、誰とでもすぐに打ち解ける“面倒見のいいおじさん”のような存在。


「嘘を見破る能力」を持つ特例の悪魔


普段は豪快に笑う気のいい兄貴分だが常軌を逸した執着と狂気がのぞく、油断できない悪魔である。


最近新しい契約者を得た。


鍵の悪魔(竜胆)


放課後の悪魔の使い魔。

昼夜性別が逆転する特殊な悪魔で両方の性を謳歌するくらいポジティブ思考。


その日の気分で体の入れ墨、名前を変える。

今は、体に竜胆の入れ墨を掘っているので

名前も『竜胆』にしている。


ご主人様である放課後の悪魔が大好き。

能力の使い方は多岐に渡る。作中で登場するのは、そのほんの一部。

他にも使い方がある。油断できない悪魔。


最近、新しい契約者『ご主人様2号』を得た。



「……これが、五十嵐優介の記憶だよ」


 小さな手のひらの上に浮かび上がっていた

 水晶玉がゆっくりと静かに透明な色に変わっていく。


 僕も、孝志も、今見たモノ全てが、衝撃的過ぎて、言葉を発することができなかった。

 ただ言葉の代わりに、涙が静かに頬を伝い続けている。


「っぼく、あの時っ……本当に、孝志が、僕を止めてくれてよかったっ」


 思い出すのは、このシェアハウスに来た一番初めの日だった。

 孝志が、あの時、僕を止めてくれなかったらと思うと怖くなった。


 その場の感情だけで、彼を拒絶してこの日を迎えていたらと思うと、足がすくんだ。


「っやっぱり、自分のためじゃなかったんだな……っなにが、みんなと一緒にいるためだよっ」


 僕の隣で孝志が肩を震わせて袖を濡らしてながら、何度も涙を拭っている。


「アイツは、全部……冬美の人生背負ってたんだっ……しかも、ちょっと前どころの話じゃないっ、高1の頃から、ずっと……」

「五十嵐くんに選択肢なんてなかったんだ。彼は、頭がいいから、死神憑きがいる限りっ……冬美の未来は変わらないって、だから……契約したんだ」


 記憶の部屋には、僕たちのすすり泣く声ばかりが響いていた。


 不思議なことに鏡の中に映し出されたものは全て音声だけで、僕たちは映像を見ていない。

 でも、音声だけでも、店の中で行われていたものは、嫌でも理解できてしまった。


(もし、鏡の中の音声が僕の知らない現実だとしたら……)


 僕の目は、自然ともう一人の冬美に向けられる。

 見覚えのない、綺麗なドレスを着た冬美。


 あの冬美は、きっと店で働く彼女の姿だったんだ――。


「それで、五十嵐の記憶を見て。キミたちは、何かヒントを掴めたのかい?」

「ひ、ヒント?」

「まさか、五十嵐の過去を知りたいだけなんてことはないだろう?」

「……」


 小さな五十嵐くんの言う通りだ。


 僕は、ゲームに勝つヒントが彼の記憶にあると踏んで、ここまで来た。


 袖で涙と鼻水を拭うと、小さな五十嵐くん向き直った。

 頭の中では、悩み苦しむ五十嵐くんの姿や声が鮮明に思い浮かんで、胸が苦しくなる。


「一つだけ、わからないことがあるんだ」

「わからないこと?」

「冬美が、生きて行くためにこの隔離された空間が必要なのは理解できる。でも、なんでその空間に僕たちまでいるの?友達と言っても、僕たちは、男だ。危険因子に変わりないはず」

「なるほどな。その質問が来るとは思わなかったよ」


 小さな五十嵐くんは、少し驚いたように目を開くと

 すぐに余裕の笑みを口元に浮かべた。


「じゃあ、そうだな。自分に置き換えて考えてみなよ」

「自分に置き換える?」

「そう。食べたいときに食べ物が食べれて、眠たい時に寝れる。トイレ、バスも完備されているから綺麗も保てる。娯楽施設も沢山作られる予定だ。


 でも――その空間には、お前しかいないんだよ。

 どう思う?楽しいか?幸せか?」


「 !……そ、それは」


 ――寂しい。

 僕は、素直にそう思った。


「あと男だから危険因子っていうのも、間違いだ。……これ、見てみろよ」


 再び水晶玉を両手に持つと、そこにはありふれた日常の一部が映し出されていた。


『もうっ!孝志くん、ちゃんと私の話聞いてるの!?』

『おー、ちゃんと聞いてるから、そんな怒んなって』


「これって……」

「俺と冬美だな」


 水晶玉には、頬をぷくっと膨らませて怒る冬美の頭を撫でる孝志が映し出されていた。

 かなり幼い。小学生くらいの頃の会話だろうか?


「まだあるよ」


 小さな五十嵐くんの言葉と同時に違う映像が映し出される。


『冬美、髪に砂すごいついてるよ』

『え?本当?さっき走った時に着いたのかなぁ』

『外、すごい風だったもんね。ほら、こっちにおいでよ。はらってあげる』

『へへ、ありがと!誠くん!』


 場面と人物が変わって、次に映されたのは、冬美と僕だった。


 体育の後なのだろうか?

 冬美の髪についた砂を僕が掃ってる姿が見えた。


「ジャージ着てるから、これは中学生の頃かな?」

「だな。このジャージの色覚えてるわ」

「懐かしいね」

「うーん……まだ気づかない?」

「え?」


 水晶玉から手を離すと呆れたようなため息を吐いた。


「立花冬美は、男が苦手とかのレベルじゃない。男性恐怖症に近いものを持っている。抵抗しても無駄な行為以外で、男に触れられるのを彼女は極端に嫌っているはずだ」

「……あ」

「ようやく気付いたか。彼女に触れて拒絶反応されていないのは、誠、孝志、五十嵐だけなんだよ」


 言われてはじめて気づいた。


「そうだ……確か、冬美が僕を助けてくれた時も……」


『キミっ、やめなさい!いますぐやめるんだ!!』

『!?ヒっ!!いやっ!!さわるなっ!!!』


 あの時の、冬美の怯え方は尋常じゃなかった。

 窓の下で縮こまって怯える彼女の姿は、本当に見ているだけで辛かった。


「あっ、思い出した」

「孝志?思い出したって、なにを?」

「冬美の奴さ、いつも英語で悪い点ばっか取ってただろ?それで、珍しく冬美がテストでいい点取った時に、先生が「よく頑張ったな」って冬美の頭撫でたんだよ」

「……あ、それ、僕も覚えてる」


 撫でられた途端に冬美は、先生の手を振り払ってそのまま教室を出て行ったんだ。

 誰よりも早く孝志が後を追いかけて、僕が教室に残った。


「悪い先生じゃなかったから、ちょっと可哀想だったよね」

「あぁ、でも、冬美にとってあれは、苦痛でしかなかったんだな」


 流石にこれだけ映像で見せられては、認めざる負えなかった。

 いや、小さな五十嵐くんは自覚させるためにこれを見せたのだろう。


「確かに、僕たちが選ばれるのは納得だ」


 隣にいても、触れてもいいと冬美が許可した男は、僕たちだけだ。


「――ご主人様」


 静かな空間に、竜胆の声が響いた。


 でも、その声はさっきまで聞いていた声と違う気がする。


「竜胆?」


 僕は、竜胆の方に目を向ける。


「えっ」


 そこには、上半身裸の入れ墨男はいなかった。


「時間切れです」


 扉の前には、白と黒のメイド服を纏った銀髪眼鏡の美少女が扉の前に立っていた。

 メイド服姿……それは、夜の終わりを象徴する。


「竜胆、時間切れって」


 ギィっと、僕の言葉を遮るように竜胆の背後にある扉がゆっくり開かれる。


「よぉ、出遅れた感じか?」

「!……い、五十嵐くん」


 扉を開けたのは五十嵐くんだった。

 その後ろには、放課後の悪魔の姿も見える。


「へぇ、ここが記憶の部屋か……想像してたのと違うな」


 五十嵐くんは、周りを見渡しながらゆっくり歩いてくる。


 僕たちは、五十嵐くんの過去を知ってしまった。

 彼を、昨日と同じように見られる気がしない。


「懐かしいな。いつの頃の俺だ?」


 五十嵐くんは、小さな五十嵐くんの前に立って、その子供を見下ろしていた。


「火災で引っ越す前の俺だよ」

「あぁ、あの頃か」

「流石、俺だね。もっと驚くと思ってたのに、残念だ」

「まぁ、大体の想像はついてたからな。大体でいいから、誠たちに見せたもん教えろよ」

「いいよ。孤児院、金の子、火災、冬美の店の話、鏡の中の映像。あ、映像は見せてないよ、音声だけ」

「いや、あれは音声だけでもエグいだろ……その水晶で、俺の記憶を見せるって感じか、なるほどね……理解した」


 五十嵐くんは、小さな五十嵐くんと短い会話を終わらせると、僕と孝志の方にゆっくり顔を向ける。

 その顔には、叱られる前の子供のような、眉を下げた情けない表情があった。


「見たから、わかると思うんだけど……騙してて、ごめん」


 五十嵐くんは、そう言って深く頭を下げた。

 いや、下げようとしたのを、僕と孝志二人の手が彼の肩と頭に触れた。


「謝らないで」

「謝るな」


 確かに孤児院の姿を見た時は驚いた。

 両親が彼の作り出した幻想だと知った時は……怒りよりも先に、悲しさが胸に広がった。


「っお前ら、何つー顔してんだよ。ははっ、……ッスゲー、不細工」


 五十嵐くんの言うように、僕たちの目からは涙があふれ出ていた。

 鼻水も出てるし、さっきから呼吸が苦しくて言葉が出てこない。


「っお前、何が、俺たちと一緒にいるためだよっ!冬美のっ、あいつのためだろーが!!」


 孝志の小さな手が、五十嵐くんの肩を強く叩いた。


「うん。ごめん」

「っなんで、ごめんなんだよっ。孤児院のことだって、あんなの、お前を捨てた親とか神父とか、ワンとか、よくわかんねー大人たちのせいだろうがっ!」

「そ、そうだよっ!五十嵐くんが、あ、あやまることなんてないんだっ!」


 僕たちの言葉に五十嵐くんは少しだけ目を伏せた。


「孤児院はそうかもしれないな。でもさ、このシェアハウスは違うだろ?俺は……お前を家族から永遠に引き離したんだ」

「っそ、それは……」


 返せる言葉がなかった。

 俯いて、涙を拭う僕の頭を五十嵐くんは優しく撫でる。


「俺はさ、孤児院の頃から変わってねーんだ。放課後の悪魔から死神憑きの話を聞いた時に、もうこのシェアハウスの計画が頭に思い浮かんでた」

「五十嵐くん……」

「孝志も、ありがとな。お前は、なんつーかさ。初めて会った頃から、やっぱスゲーよ」

「っなにが、だよ」


 孝志は、少し頬を赤らめながら、両腕で涙と鼻水を拭っていた。


 その様子を見て、五十嵐くんは苦笑いを浮かべながら、孝志の頬に残った涙の雫を人差し指ですくい取った。


「なにがって、そりゃあ――」

「?五十嵐くん、どうしたの?」


 屈めていた腰を起こした時、五十嵐くんの目線がピタリと一人の人物へと止まる。


「……は?なんで、俺の記憶に、冬美がいるんだ?」


 五十嵐くんの声は震えていた。


 そして、冬美に向けられていた目線はゆっくりと動いて

 僕たちへと向けられる……


 見 た の か ?


「っ!」


 そう言って、問いかける五十嵐くんは無表情だった。


 一瞬、彼を人間だと認識するのを忘れてしまうくらい

 今の彼からは、人間らしさを感じなかった。


 流れていた涙も、いつの間にかピタリと止まっていた。


「っみ、みてないよ……ま、まだ」

「まだ?」


 言った瞬間に、僕は余計な一言を付けてしまったと後悔した。

 でも、後悔したところで、もう遅かった……。


「――シン。俺の声が聞こえてるなら、今すぐ来い」

「えっ、シンって……」


 ほんの数秒だった。


「っ!?」


 五十嵐くんの隣に竜巻のような黒い闇が発生したかと思えば、そこから工具箱を持ったシンさんが現れた。


「おー、呼び出しなんて珍しいねぇ」

「時間が無いから単刀直入に聞く。お前、『牢屋』作れるか?」

「牢屋ぁ?10分もあればできるけど」

「じゃあ、今すぐ作れ。放課後の悪魔もだ、早く行け」

「えー、おじさんはこれからの展開見届けたいん」

「行け。命令だ」

「はいはい、わかりましたよ。ご主人様」


 いきなり繰り広げられる悪魔と人間の会話に僕たちはついて行くことが出来なかった。


「い、五十嵐くん?いきなりどうしたの?」

「おい。そこにいるやつ、お前、鍵の悪魔だろ?」


 シンさんと放課後の悪魔に指示を終えると、五十嵐くんは扉の前で待機していた竜胆に声をかけた。


 待ってくれ、いきなり本当にどうしたんだよ、五十嵐くん。


「お呼びですかぁ、ご主人様」

「……朝食の時にお前、俺になんかしただろ?」

「さぁ?」

「気持ち悪さが残ってんだよ。その感覚が来る前の会話も俺は覚えてる」

「!そ、それは、すごいですね」

「もし、あの言葉が能力に関係するものなら。お前……鍵を開けるだけの能力じゃねぇだろ?」

「っ!?」


(嘘だろ。あの会話だけで、竜胆の能力見抜いたのか!?)


「へぇ、あれだけでそこまで見抜けるのかよ。やっぱ、アンタスゲーな」


 竜胆も僕と同じことを思っていたのか、男の時の口調に戻っていた。


「俺の契約の主軸は放課後の悪魔だが。他の悪魔の能力は、軽いものであれば使用できるのは知っているな?」

「あぁ、知ってるぜ。今の俺には、誠っつー契約者がいる。ご主人様3号は、俺に何を願う?」


 竜胆に向けられていた目が、冷たい瞳が再び僕らへと向けられる。


「アイツ等が部屋を作るまでの時間」


 僕も孝志も、怒涛の展開に頭がついていかない。

 悪魔と会話をする五十嵐くんを見ていることしかできなかった。


「誠と孝志の、意識に鍵をかけろ」

「!?まっ、まって五十嵐く――」

「了解!そんくらいなら、いいぜ……」

「っダメだ!竜胆ッ」


 二人に手を伸ばそうと一歩踏み出した瞬間、


【ガチャン】と僕の中で、何かが閉まるような音が聞こえた――。





最後まで読んで頂きありがとうございました!

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