第66話『嘘はいつか真実となる』
【登場人物】
誠:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。悪魔が嫌いなので悪魔に対して少しだけ口が悪くなる。
冬美:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。
孝志:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。誠の握るおにぎりが好き。
五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこにはある理由が…。悪魔が疲弊するくらいガチガチの追加契約を作った。
【登場する悪魔たち】
放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに異質。誠たちを翻弄する存在。
宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、【時計】の役割も果たしている。
名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。
可愛いけどやたらと声がデカいくて煩い。
シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。…誠たちの味方?
清掃の悪魔:常にテンションが高くノリの軽い青年。この空間の『清掃員』
軽い口調からいきなり雰囲気がガラッと変わるため油断できない。
誠が苦手意識を持っている悪魔。シェフとは古い友達らしい。
メイド:丁寧な口調で微笑む、美しいメイド姿の悪魔。
冬美専属の「レディースメイド」として身の回りの世話を担う一方でその本性は冷酷かつ策略家。「性格は悪いです」と本人も公言している。つい最近新しい契約者を得た。
整備士
部屋の整備や修理を担当する悪魔。
無骨だが気さくで、誰とでもすぐに打ち解ける“面倒見のいいおじさん”のような存在。
「嘘を見破る能力」を持つ特例の悪魔
普段は豪快に笑う気のいい兄貴分だが常軌を逸した執着と狂気がのぞく、油断できない悪魔である。
最近新しい契約者を得た。
鍵の悪魔(竜胆)
放課後の悪魔の使い魔。
昼夜性別が逆転する特殊な悪魔で両方の性を謳歌するくらいポジティブ思考。
その日の気分で体の入れ墨、名前を変える。
今は、体に竜胆の入れ墨を掘っているので
名前も『竜胆』にしている。
ご主人様である放課後の悪魔が大好き。
能力の使い方は多岐に渡る。作中で登場するのは、そのほんの一部。
他にも使い方がある。油断できない悪魔。
最近、新しい契約者『ご主人様2号』を得た。
『祝!チャンネル登録者数10万人超え~!』
仕事部屋に響き渡る若い男の声を聞きながら、目の前のノートにペンを走らせる。
『いやぁ~、まさか一か月も経たないで10万人超えるなんて思ってませんでした!もうね、こんな無名トレーダーの動画見てくれてほんっとありがとう!!』
ノートパソコンに映るYouTuber『名無しのトレーダー』
そいつは、組織が用意した身代わりのような男だ。
この男は株どころか、高校すら卒業していない。
でも、顔だけはいい人間だった。
俺は、この顔がいいだけの名無しのトレーダーの『ゴースト』をやっている。
――理由は、単純だ。
「腹減ったな……」
呟くように言って俺は、足のつかない椅子から飛び降りる。
降りた時に床に置いていた黒いランドセルに少し足が当たった。
『見て!見て!この盾も昨日届いたんだよ!俺、この盾もらうの夢だったんだよね~!本当みんなのおかげ!ありがとう!スパチャもありがと~!』
まだ子供の俺が、株や投資といった配信をすることはできない。
俺は知識と情報をこの男に与えて、喋る内容の台本も書いている。
仕事部屋の本棚には株に関する本、登録者数100万超えのYouTuberによる動画作りのノウハウ本などが並んでいる。
「あぁ、次に上がってきそうなのは……ここか?」
部屋からリビングに持ってきたノートパソコンを見ながらかつ丼を頬張った。
学校から帰宅して、作業をはじめて気づけば時計は夜の10時を回っていた。
冷たいかつ丼を食べながら、株の動きを見て、ノートに書いていく。
組織からは、証拠が残るからノートに書くのはやめろと言われているが、俺としてはいちいち思いついたことを打ち込むほうが面倒だ。
いつものように画面を見ながら書いて、ページをめくろうとしたら……
「あ……最後のページまで行ったか」
ページが、もう無かった。
「……チッ」
俺はノートを閉じると、リビングから出て仕事部屋に戻る。
そして、クローゼットを開いた。
クローゼットの中には、ノートと、シャープペンやマーカーの替え芯などが入っている段ボールが置かれている。
しかし、今日は少しイレギュラーなことが起こった。
「……ないな」
ノートが入っている段ボールの中身が空っぽだった。
「困ったな……明日も配信あるんだよな」
これは俺のミスだ。在庫の確認を怠っていた。
無理を言って、筆記用具やノートの使用の許可をしてもらっていた。
組織から、在庫管理は自分で行えと言われていたのに……。
「買いに行くか。3冊あれば、在庫が届くまで一か月は持つだろう」
しかし、困ったことに俺は登校以外の外出を許されていない。
外出が必要な場合は、連絡しろと言われているが、俺はその連絡が苦手だった。
「悩んでる時間がもったいないな。……はぁ」
俺は溜息をつくと、視界に入ったノートパソコンに目を向ける。
名無しのトレーダーのライブ配信は、いつの間にか終わって画面は真っ暗になっていた――。
◇◇◇
「お久しぶりです。父さん、母さん」
ノートパソコンの画面には2枚の美男美女のイラストが表示されている。
恐らく2つともインターネットの拾い画だろう。
『なにか、問題でもありましたか?五十嵐優介』
待機していたオペレーターの一人だろうか
画面から聞こえてきたのは女性の声だった。
(違う。俺の知ってる母親の声は、コレじゃない)
もっと日本語が下手で、子供の前で煙草を吸うような母親だ。
でも、ハンバーガーを食べている時「ゆっくり食べな」と言って俺の頭を何度も撫でてくれた。
撫で方が雑で痛かったけど、不快だとは思わなかった。
「いえ、株、YouTube収入に関しては順調です。問題は、ありません」
『では、連絡してきた理由を簡潔に述べてください』
次に聞こえたのは男性の声だった。
(こいつも違う。父親は、こんな綺麗な日本語を話さない人だった)
父親は、母親よりも日本語が下手だった。
でも、ハンバーガーを食べている時、口元についたソースを拭いてくれた。
「わかりました。では、ご説明させて頂きます」
連絡が苦手な理由は、コレだった。
この理想のような両親の画像を見るたびに、俺はあの二人と比べてしまう。
あの二人と、もう一度会話したいと願ってしまう。
――そんなこと無理だってわかっている。
「――というのが理由です。一時間だけ外出の許可を頂きたいです」
『わかりました。外出を許可します』
「ありがとうございます」
俺はパソコンの電源を切ると、スマホのアプリを開いて残高を確認する。
「もう50万も貯まってるのか……」
組織が用意したスマホには『餌代』が毎月10万以上振り込まれている。
水道代、光熱費は親名義で支払いをしているが、食事代だけは毎月用意してもらっていた。
「へぇ、本屋さんってデパートみたいなとこにもあるんだ」
家を出てアプリで本屋を検索すると沢山候補が出てきた。
そのまま地図を開いて、近場の本屋の名前を検索するとルートが表示される。
組織からはタクシーを使えと言われたが、久しぶりの外出だから、少しだけ好きに動くことにした。
スマホに表示されているルートを頼りに歩いていると……
「あ、ハンバーガー屋……」
あの日、食べたハンバーガー屋の看板が見えて自然と足が止まった。
そして、なんとなく自分の腹を触る。
「さっき食べたばっかだけど、夜食ってことにすればいいかな」
自分に言い聞かせるように呟いて、口元に少し笑みを浮かべた。
そして、ハンバーガー屋に背を向けて、横断歩道を渡った。
「ありがとうございましたー」
家を出て本屋に到着したのは、10時30分近い時間だった。
目的のノート3冊は問題なく買えたし、あとは帰るだけなんだけど……
「ねぇ、キミ何歳?めっちゃかっこいいよね~。お姉ちゃんたちとさぁ、ご飯行かない?」
「……」
俺の目の前には高校生らしき女の子が3人立っていた。
本屋に入る時に近くのアイスクリーム屋さんにいた高校生だ。
(これは……よくわからないけど、待ち伏せしてたのか)
ノートを買う前に雑誌コーナーや、読んだことのない漫画雑誌を見ていたから、入店して出るまで10分以上はかかっていたはずだ。
【カシャ!】
「っ!?」
少し考えていると、音と同時にフラッシュが目を刺激した。
「あははっ、ごめんねぇ?もしかして考え事してた?」
「えっ、いや」
どうしよう。目の前の女性がなにを考えているのか、わからない。
俺が戸惑っている間も女性3人はスマホを向けて勝手に写真を撮っている。
そして、取った写真を見せあっては「やっば、カッコいい。え?ヤバくない?将来絶対イケメンなるじゃん」などと、よくわからない会話をしていた。
(いけめん?ってなんだ?新しいハンバーガーの名前か?)
……困った。帰り道のルートは女性たちの背後だ。
女性たちが背にしているエレベーターでここまで来た。
帰りもあのエレベーターを使う予定だった。
(それに、このままここにいたら面倒なことになりそうだ)
この女性たちの言ううように「ご飯」を食べに行ったら、一時間で戻ってこれないのは確実だろう。
組織は時間に煩い。俺もまだ、他の金の子と比べたら稼ぎが低い方だから、我儘も言えない。
いつか外出が許されるくらい稼いで……それこそ一番になれば、もっと自由に――
俺の方が組織を『操作』できる。
「うわっ、パパから電話来たんだけど。マジ、最悪」
(! 今だ……!!)
3人の女性の一人のスマホが鳴って、他の二人の意識がそっちに向かった瞬間、俺は背を抜けて走り出した。
「ちょっ!?イケメン小学生どこ行くのー!!」
後ろから俺を呼び止める声がしたけど、無視をしてそのままエスカレーターを駆け下りた。
帰りにハンバーガー屋に行くことを考えたら、これ以上時間を無駄にしたくなかった。
エスカレーターを下りると、見覚えのない景色が広がった。
「これは……テレビってやつか?」
荒くなった呼吸を整えながら、テレビ画面をぼーっと見ていると画面に、学生服を着た顔の整った男女が映った。
『お父さんとお母さんは?帰ってきてないの?』
画面に映っていた一人の女性が手前に立つ男性に言葉をかけた。
『両親は、俺のこと完璧な子供だと思っててさ。自分たちが面倒見なくても、『餌代』置いて死なないようにしてれば、いいって思ってんだよ……』
『餌代って、そんなっ……酷いっ』
『二人とも医者で、金持ちだからさぁ。母さんの手作りご飯なんて、俺一回も食ったことねぇんだ』
もう一人、画面に映る男性のセリフを聞いて、俺の中の何かが【ドクン】と、動いた。
足が床に縫い付けられたように動かなかった。
組織から連絡が来るまで、俺は画面を食い入るように見ていた。
――気づいた時には、帰りのタクシーに乗っていた。
タクシーに乗っている間までは、俺は『普通』だった。
「ただいま」
玄関を開けると見えたのは、真っ暗で物が少ない無人の部屋だ。
いつもの光景なのに、俺は少し呆れたようにため息をついた。
「また帰ってきてないのか……」
そう、いつものことだ……
俺の家に、両親が帰って来ないのは、いつものことだった。
◇◇◇
――ブウンッと、目の前の水晶が真っ暗になった。
「……」
「……」
誰も、言葉を発することができなかった。
今、見たものが、想像を超えるものだったからだ。
「っ……」
会話の糸口も、最初に発する言葉も見つからない。
気になって孝志を横目で見ると、孝志も額に大量の汗をかいていた。
「っあのさ、俺、五十嵐と友達になってから高校までアイツの家で飯食ってたの覚えてるか?」
「えっ、う、うん。覚えてるよ」
孝志も僕と同じように混乱しているのか、よくわからないことを言いだした。
僕の頭もまだ混乱しているようで、孝志の話に何も考えずに言葉を返した。
「アイツと友達になったのが、6年生くらいだろ?それで、俺がいたのは高1までだから……えっと、な、何年だ?」
「えっ、……5年かな」
「そっか、そうだよな。5年だ。俺、アイツの家で晩飯5年一緒に食ってたんだけど……」
――アイツの家族を一回も見たことが無いんだ。
「えっ……」
5年も両親が家に帰って来ないことなんてあるのか?
「そ、そんなありえないよ!だって僕は、冬美が入院するって聞いた時に五十嵐くんからお母さんの話をっ」
――と言いかけたところで言葉が止まった。
「誠?」
「そうだ、あの時も……」
思い出したのは、あの日交わした五十嵐くんとの会話だった……。
『母親に相談したら、意外と親身に話聞いてくれて、アイツの家のことも話したんだ。そしたら、知り合いの病院紹介してくれるって』
『五十嵐くんのお母さんが?』
『正直俺も驚いた。……まともな会話なんてしたことなかったから』
(そうだ。僕は、五十嵐くん経由で母親の話を聞いただけで、一度も彼の両親の姿も、声も聞いたことがない)
気づいた瞬間、背筋がぞわっとした。
「っ五十嵐くんは、孤児で……っ」
友達になった日に聞いた、両親の話は?……餌代は?
「本当は、両親なんていなくてっ……」
五十嵐くんは……僕たちに嘘をついてたの?
「違うよ。もう一人の五十嵐は、嘘をついてない」
「えっ?」
僕の思考を遮るように幼い声が聞こえた。
「俺がさっき言ったこともう忘れたの?記憶っていうのは、一番曖昧で、一番本人が自由に改ざんできるものなんだよ。本人の口から語られるものが真実とは限らない」
「それって……」
「もう一人の五十嵐は、自分には子供を放置する金持ちの両親がいるって、本当に思っていたんだよ」
小さな五十嵐くんは僕の目を真っ直ぐ見てそう言った。
「あの日食べたハンバーガー、偶然見たドラマが、今の五十嵐の土台を作ったんだ」
「……」
「……五十嵐は、愛されたかったんだな」
孝志は真っ暗になった水晶玉に触れながら、ポツリと呟くように言った。
「孝志……」
「そうだよ。五十嵐は、少し特別な子供ってだけで、中身は他の子供と変わらない……ただ、愛されたい子供だった」
「だから、仮初の両親を自分の中で作ったんだな」
「流石、孝志だね。その通り、五十嵐は、今でも信じてる。自分には両親がいるって……だから、嘘であって嘘じゃない。自分を騙し続けた結果……」
――人を騙せるほどの『本物』になってるんだよ。
「そんなっ、そんなのって……っ」
僕は、今でも覚えてる。母親と久しぶりに会話ができたって、少し照れくさそうに喜ぶ五十嵐くんの表情……。
だけど、それは全部……嘘で塗り固められたものだったなんて、信じられない。……信じたくなかった。
「でも、金の子だっけ?見た感じ、今の五十嵐って感情を覚えたんだよな?その状態で、仕事なんてできんのか?」
意外と冷静に孝志が小さい五十嵐くんに質問をする。
僕は少し驚いて孝志の方を見てしまった。
「あぁ、そこは大丈夫。生存本能ってやつかな?ほら、俺が生きてる理由は、金を稼げる頭脳を持ってるからだろ?だから、仕事の時間になれば自動的に意識が、もう一人の俺と切り替わるんだよ」
「もう一人って、五十嵐ってもしかして、多重なんたらってやつか?」
「多重人格のこと?うーん、だとしたら少し違うかな。五十嵐の場合は役割分担だよ。人生をエンジョイするやつ、金稼ぐやつ、性格悪い奴ってな感じでね」
「なるほどなァ。なんつーか、五十嵐らしいな」
「ちょ、ちょっと待って孝志。なんで、そんな冷静なの?ぼ、僕、まだ頭の中整理できなくて、ぐちゃぐちゃなんだけど?」
普段は絶対言わない質問をしているあたり、僕は冷静では無い。
「なんでって……気持ちが、わかるからかな」
「気持ち?」
「うん。俺も、愛されたい子供なんだよ。昔も、今もさ……」
「孝志……」
孝志の言う、愛されたい人は、きっと……お父さんのことだろう。
僕は、孝志の隣でずっと孝志の頑張りを見てきたから知ってるんだ。
「さて、雑談はここまでにして。これを見てよ」
長い静寂を破ったのは、小さい五十嵐くんの声だった。
小さい五十嵐くんは持っていた水晶玉に手のひらを乗せた。
「あっ、なんか映った!」
真っ黒な水晶玉には、建物が映っていた。
でも、これは現実のものじゃない。
下にニュースでよく見るテロップが表示されている。
「ん?富裕層向けマンションで火災って……なんだよコレ?ニュース番組でも見てんのか?」
僕と同じように水晶玉の映像を見て孝志が少し呆れたように言った。
しばらく見ていると、小さな親指が映った。
そこで初めて、さっき見ていたのは五十嵐くん目線で映し出されたスマホのニュース映像なのだと気づいた。
「そうだよ。五十嵐が住んでいる階層とは別の場所で火事が発生したんだ。原因は煙草の不始末」
「五十嵐くんは無事だったんだね。よ、よかった」
「うん。でも、この火事が原因で五十嵐は引っ越すことになったんだ」
「え?引っ越しってなんで?だって、五十嵐くんの家は火災に巻き込まれなかったんでしょ?」
話をしている間に、水晶玉に映る景色が変わる。
窓の外を流れる景色と、後部座席から見える運転席。
ハンドルを握る、日に焼けた男の手が視界に入る。
これも五十嵐くんから見た景色なのだろう。
「荷物が少ないからね。機材を引っ越し予定の家に届ければ、一日で引っ越しは終わったよ」
「火災の当事者ならわかるけど、なんで引っ越しなんて」
「警察が来るからさ。火災が起これば周辺に警察が聞き込みに来るだろう?映像を見てれば分かるように、五十嵐には戸籍が無い。そして、両親もいない」
「あっ……」
火災の話をしているはずなのに、頭の中では『戸籍がない』『両親がいない』という言葉だけが何度も繰り返される。
「あの部屋を見れば、勘の鋭い警察は違和感を覚えるだろう。だから、警察が来る前に引っ越す必要があったんだ」
「……なるほど。組織も、馬鹿じゃないんだね」
「あぁ、だから、五十嵐が去った後も、組織が用意した新しい両親、五十嵐と同じ年齢の子供がしばらく住んでいたよ」
小さい五十嵐くんは、水晶を指先で軽く撫でながら続けた。
すると、水晶に映る景色がゆっくりと揺らぎ始める。
「それに、この火災がなければ……五十嵐が、キミたちと出会うこともなかった」
「えっ、まさか、この後の引っ越し先って……」
『お前ら、こんなとこで何やってんの?』
「!?」
聞き覚えのある言葉が聞こえてきて、水晶玉に目を向ける。
そこにはあの日の、僕たちがいた。
「運命って面白いよね。偶然火事が起こって、引っ越し先で仮初の両親よりも大切なものができた五十嵐は……今度こそ……」
――感情を持った『人間』になったんだよ……。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




