第62話『能力発動!』
【登場人物】
誠:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。悪魔が嫌いなので悪魔に対して少しだけ口が悪くなる。
冬美:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。
孝志:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。誠の握るおにぎりが好き。
五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこにはある理由が…。悪魔が疲弊するくらいガチガチの追加契約を作った。
【登場する悪魔たち】
放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに異質。誠たちを翻弄する存在。
宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、【時計】の役割も果たしている。
名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。
シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。…誠たちの味方?
清掃の悪魔:常にテンションが高くノリの軽い青年。この空間の『清掃員』
軽い口調からいきなり雰囲気がガラッと変わるため油断できない。
誠が苦手意識を持っている悪魔。シェフとは古い友達らしい。
メイド:丁寧な口調で微笑む、美しいメイド姿の悪魔。
冬美専属の「レディースメイド」として身の回りの世話を担う一方でその本性は冷酷かつ策略家。「性格は悪いです」と本人も公言している。つい最近新しい契約者を得た。
整備士
部屋の整備や修理を担当する悪魔。
無骨だが気さくで、誰とでもすぐに打ち解ける“面倒見のいいおじさん”のような存在。
「嘘を見破る能力」を持つ特例の悪魔
普段は豪快に笑う気のいい兄貴分だが常軌を逸した執着と狂気がのぞく、油断できない悪魔である。
最近新しい契約者を得た。
寝室清掃の悪魔
銀髪眼鏡のメイド服を着た少女の悪魔。
主人公誠が偶然にも遭遇した裏方の悪魔。
普段は清掃が終わるとシェフの用意した食事を厨房に設置されている
従業員休憩室で食べている。
かなりのネガティブ思考で一人で突っ走り結論が出るとすぐに手持ちのナイフで自害しようとするので困る。まだまだ謎の多い悪魔である。
(以降、悪魔たちは順次追加予定)
――どこか聞き覚えのある声に僕は起こされた。
「誠サマ。朝ですよ~、起きてください」
「……んっ」
肩を強く揺すられて、閉じていた目を開いた。
(あれ?なんか、変な感じだな……)
目はしっかり開いているのに、なんだか見えづらい。
あの日、僕の部屋で一度だけ見た銀髪眼鏡の少女も、なんだか少しぼやけて見える。
「あれ、キミは確か寝室清掃の――」
……と、言いかけて僕の口はピタリと閉じる。
言葉を途中で切った僕を銀髪少女が首をコテンっと傾げて不思議そうに見つめていた。
「……お前、竜胆だろ」
「あは!寝起きでも頭はしっかりしてるんだなぁ、誠」
偉い偉い、そう言って銀髪……いや、竜胆(昼の姿)が僕の頭を乱暴に撫でた。
本人から実際に話を聞いていたとしても、見た目が違いすぎて反応に困る。
「というか、昼でも竜胆の意識ってあるんだね」
「当たり前だろ?昼も夜も、俺に変わりないんだから。あ、誠が寝てる間に恐怖心は【unlock】しといたぜ?」
可愛い見た目の少女の口から昨日聞いた男の竜胆の声が聞こえる。
違う意味で頭が痛くなりそうだ。
「あ、ありがとう。……でも、その見た目で、男の声出すのやめて?視覚と認識がバグって気持ち悪くなるから」
「えっ、き、気持ち悪いって……ごめんなさい、死んで詫びます」
僕の言葉にニコニコ笑顔だった竜胆は、一瞬にして表情を無にする。
そして、どこからかナイフを取り出して自分の首元に刃先を当てた。
「わああ!?なんでそのネガティブ思考消えてないの!?自殺ダメ!アウト!ほら、ナイフしまって!命令です!!」
僕はパニックになりながらも竜胆に命令をした。
命令が効いたのか、竜胆は持っていたナイフを首元から遠ざける。
朝からスプラッターなんて見たくないよ。
「うーん、ネガティブ思考なのは、性欲を抑制された反動みたいなものですかね?ボク、女の子になると、なんか心が繊細になるんですよ」
「か、間髪入れずに自殺する人は、繊細って言えないと思うけど」
僕は、ベッドに後ろ手をついて、ゆっくり上半身を起こした。
周りを見ると、開きっぱなしにされた扉から昨日見たお酒が並べられたカウンターが見えた。
どうやら、僕は、あのまま気絶して、竜胆の寝室に寝かされていたらしい。
「そっか……見えづらいのは、当たり前か」
竜胆と会話して、ようやく昨日の出来事を鮮明に思い出すことができた。
「……僕、今、片目がないんだ」
【鍵の悪魔】である竜胆の対価は『目』だった。
僕は昨日、竜胆と契約して対価を渡した。
でも、情けないことにあまりの痛さに気絶してしまったらしい。
「痛覚ありですからね。気絶するのは当たり前ですよ!上手く取り出せなくて、結構目の神経ブチブチって引きちぎっちゃったし」
「うわわっ!ちょっ、やめて!想像しちゃうから!!」
竜胆の話を聞いて僕の肌には、冷や汗と同時に鳥肌が立った。
神経引きちぎるってなに?もうちょっと優しく取り出してくれないかな!?
「片目が無いってことは、僕けっこうグロイことになってんのかな」
僕は、恐る恐る違和感のある『右目』に触れた。
――『ペタ』と、指先に当たる固い感触に肩がビクッと跳ね上がった。
「は?え?あれ、空洞、じゃない?なんで?」
何度そこに触れても固いものが当たる。
切実に、今、この瞬間、鏡が欲しいと思った。
「り、竜胆っ!」
答えが知りたくて、プチパニックになりながらベッドの近くで待機している竜胆に顔を向けた。
焦った表情の僕と目が合うと、竜胆は唇を釣り上げてニコリと美しい笑みを僕へと向ける。
「なんて言ったかな、あ!『義眼』ってやつですよ。誠サマの右目には、特別な義眼を埋め込んでます」
「と、特別な義眼?」
「はい。その義眼は視力の役割は果たしていませんが、誠サマが見た方向に合わせて眼球が動く仕組みになってます!」
「そ、そうなんだ」
竜胆の話を聞いてもいまいち腑に落ちなくて、僕は何度も右目の義眼をペタペタと触ってしまう。
「僕、代わりが用意されるなんて思ってなかった。対価は渡したら、無いのが当たり前だって思ってた」
意識もしないで自然と口から出た言葉に竜胆が眼鏡の奥の瞳を少しだけ大きくすると、すぐにその瞳をスッと細めた。
そして、一歩踏み出して僕に近づくと、白く細い指先が僕の顎を捕らえた。
「そりゃあ用意するさ。だって、どこに他の悪魔がいるのかわかんねぇじゃん?あ、悪魔だけじゃねぇわ、魔術師もだ」
目の前に見えるのは眼鏡の美少女なのに、声を聞くだけで男の竜胆と姿が重なって、どっちと会話しているのかわからなくなる。
「昨日普通に生活してた人間が、次の日いきなり片目無くしてきたらどう思う?不審に思わねぇか?」
「お、思うけど」
「だろ?対価は確かに大切だ。でもな、悪魔にとって能力バレねぇことが対価よりも大切なことなんだよ」
「っでも、竜胆は放課後の悪魔が守ってくれるから、いいんじゃないの?能力も、公表してるんでしょ?」
「ご主人様は強いからなぁ、でも、俺だってなるべくは大好きなご主人様の手を煩わせたくねぇんだよ。特に、俺の対価はアフターケアが重要。だからこその、義眼なんだよ」
そう言って竜胆はコツコツと、指先で義眼をつついた。
義眼だとわかっててもむやみやたらと触られるのは嫌なので、僕は竜胆の手を軽く振り払った。
「悪魔も、いや……竜胆ってちゃんと考えてるんだな」
「おい、なんで悪魔から俺の名前に言い直したんだよ!」
「ちょっ、痛っ、ほっぺたつつくな!」
青色のネイルが塗られた指先が力の加減もなく僕の頬を突き刺した。
普通に痛いので辞めて欲しい。
もう完全無視を決め込んで二度寝でもしようと思ったときだった――
「あ、よかった!誠サマ、起きたんですね!」
「へ?め、メイド!?なんで、ここに?」
開きっぱなしの扉から入ってきたのは、銀色のトレーを両手に持ったメイドだった。
メイドは笑顔で僕に近づくと、まるで当たり前かのようにベッドに座る竜胆を……
――片足で蹴り落とした。
「え?は?」
一瞬過ぎてわからなかった。
今、目の前で何が起こった?
「誠、朝の紅茶飲むか?」
「え、あ、うん」
何事も無かったかのようにメイドは、素の口調になって僕にカップを手渡した。
僕の視界の端には、蹴落とされた竜胆が土下座に近い体制で床に転がる姿が見える。
「あ、美味しい」
「美味しいじゃねよ!お前、俺のご主人様2号だろ!?怒れよ!俺のために!」
床にぶつけた顎をさすりながら竜胆が立ち上がり、僕の隣に立つメイドに詰め寄った。
「いや、脳が現実に追いつかないというか……え?メイドと仲悪いの?」
「誠、可愛い女の子だからって油断したらダメだからな?コイツの性欲は昼であろうと、俺と変わらない」
そう言ってメイドはゴミを見るような目を竜胆に向ける。
「え!?そうなの?さっきの繊細って、やっぱ嘘じゃん」
「コイツに繊細とかありえないです。私コイツと遊ぶ程度ヤってますけど、性格は昼も夜もクズですから」
「ゴフッ……!げほっ!ごほっ!ちょ、え?なんて??」
さらっと爆弾発言されて飲んでいた紅茶が変なところに入ってむせた。
「2人は恋人同士なの?」
「まさか、セフレです!」
「こんな性格悪い女と恋人とかありえねーって」
「えぇ、セフレって」
ダメだ。僕にはコイツ等の常識が理解できそうにない。
僕は好きになるなら一人の人がいい。体だけの関係なんて、僕にはできない。
「あ、あの、僕がここにいるってよくわかったね。シンさんから聞いたの?」
これ以上話していると、二人の口から放送できない話が飛び出してきそうだ。
話題を変えるための質問にメイドは少し、ぷくっと頬をふくらませて胸の前で腕を組んだ。
「あのな、誠。契約したら誠が何処にいても、俺にはわかるんだぞ?」
「へ?そうなの?……あっ、お気に入り登録か!」
竜胆のことがあって忘れていた。
メイドと契約したおかげで、夢の世界へと連れ去られた僕の居場所がわかったんだ。
放課後の悪魔が間に合ったのもメイドのおかげだ。
もし、契約してなかったら放課後の悪魔が場所を絞ることもできなかったし、僕は、何度サタンに殺されていたのか……
「あのさ、遅くなっちゃったけど……」
僕は姿勢を正すと真剣な表情でメイドの方に体と顔を向けた。
「僕を見つけてくれてありがとう。成り行きみたいな契約だったけど、メイドのおかげで僕は、あれ以上殺されずに済んだんだ」
そう言って僕はメイドに向けて深く頭を下げた。
静かになった空間に息を飲むような小さな声が聞こえる。
「誠は、やっぱり変わってるな。悪魔に頭を下げる人間なんて、お前くらいだ」
悪魔とは思えない、とても優しい声色に少し驚いて顔を上げると嬉しそうに頬を赤らめるメイドと、その後ろで気持ち悪いとばかりに眉をひそめて舌を出す竜胆が見えた――。
◇◇◇
「誠、ゆっくりしてる時間はないからな」
「へ?」
メイドの言葉に紅茶を飲もうとした手が止まる。
まるで、それが合図のように部屋の外から『コンコン』というノックの音と――
「誠~、飯の時間だぞー」
孝志の声が聞こえてきた。
「お前、この部屋にいる理由話せるのか?」
真剣な表情でメイドが問う。
ノック音は少し遠い。ノックしてるのは僕の部屋だろうか?
「っ無理だ、話せない。だって、話したら……対価のことも言わなきゃいけなくなる」
サタンのことがあってから、孝志は朝起こしに来るようになった。
たぶん、孝志のことだから心配ゆえの行動なのだと思う。
でも、今、その優しさは僕にとって恐怖でしかない。
これ以上、孝志に心配はかけさせたくなかった。
「っ、ど、どうしよう!孝志、絶対僕の部屋に入るよね!?」
このまま部屋に居続けたら孝志が僕の部屋に入り、無人であることに疑問を抱いて他の人間や、悪魔を呼んで来る可能性がある。
「誠、俺の能力を忘れたのか?」
「えっ」
慌てる僕とは対照的にメイドは冷静だった。
ゆるく口の端を釣り上げたメイドはゆっくりとした動作で両手で優しく僕の手を取った。
「誠はもう俺の能力が使えるんだ。今使わないで、いつ使うんだ?ご主人様」
「能力って……っ」
言いかけて僕は、ハッとしたように竜胆に目を向ける。
竜胆はメイドの隣で「暇です」と言った表情で下を向いて爪を触っていた。
(メイドの能力は僕たち以外知らない。今、他の悪魔がいる前で使っていいのか?)
焦る僕を更に急かすように、外から聞こえる孝志の声にも心配の色が乗っているのがわかった。
持ってあと数分か、数秒……それでも、メイドのことを考えると能力を使うことに迷ってしまう。
「ふふ、誠は優しいな。俺の能力がソイツにバレることを心配しているなら大丈夫だ」
「へ?」
メイドは頬を赤らめて嬉しそうにクスクス笑うと、僕の頭を優しく撫でた。
「俺は、清掃の悪魔の所有物になった。俺の名前も、能力もアイツの物だから奪うことなんてできないんだよ」
「そ、そうなの?」
「あぁ、悪魔の物になるのは自由を失う代わりに身の安全や能力の安全は保障される。悔しいけど、俺のご主人様は強いからな」
「そっか……じゃあ、使わせてもらうよ」
僕は、力強く頷くとベッドから降りた。
片方しか見えない状態にまだなれなくて、少し体がふらついたけどメイドが支えてくれた。
「大丈夫か?誠」
「う、うん。ごめん、まだ慣れなくて。でも大丈夫、メイドと一緒に出たらそれこそ怪しまれるから。僕一人で行くよ」
「誠……わかった。孝志に姿は見せるなよ、言葉で操ることができても記憶を消すことはできないからな」
「わ、わかった」
少し駆け足で出口に向かいながら声だけで返事を返した。
そして、入口の扉に近づいた時だった――
「あー、ちょい待ち。ご主人様2号」
後ろから竜胆に声をかけられ、腕を強く掴まれた。
「わっ、ちょっと竜胆!今お前に構ってる暇は――」
――【rock】
【ガチャン】と僕の中で、何かが閉まるような音が聞こえた。
「は?」
もう聞き慣れたその音に驚いて振り向くと、そこには真剣な表情で僕を見据える竜胆がいた。
気迫すら感じる瞳に体が震えてしまう。
コイツは、今、どこを閉じたんだ?
「り、竜胆。いま、なにしたの?」
僕の記憶が正しければ竜胆は能力を使うときに、どこをロックするのか宣言していたはずだ。
けれど、さっきは【rock】という言葉しか聞こえなかった。
だからこそ、得体の知れない不安が体中を駆け巡って動けなくなる。
「あー、まぁ、特に動きを封じてるとかじゃねぇから。んな、不安になるなって、今の施錠はお前にとってプラスにしかならねぇからさ」
「プラスになるって」
「つーか、早くしねぇと孝志クン?お前の部屋に入ってくんぞ」
「っ!あ、あとで理由ちゃんと聞くからな!」
「はいはい、いいから早く行けって。てめぇは考えてから行動するから動きがトロいンだよ」
シッシっと手で追い払う仕草をした竜胆にメイドが回し蹴りをするのを見届けると僕は寝室から出て行った。
酒が並んだカウンターを通り過ぎて部屋の入口の前まで来ると、ゆっくり扉を開ける。
「誠~?お前、あと30秒出てこなかったら部屋に入るからなー」
扉の隙間から、パーカーのポケットに片手を入れながら、僕の部屋の扉をノックする孝志の姿が見えた。
上手く使えるのか、自信はない……。
それでも僕は、唾をゴクリと飲み込むと震える唇をゆっくり開いた……
【今から、一分目を瞑れ、孝志】
僕が言葉を発した瞬間、ノックをしようとして孝志の手が力を失ったかのようにダラっと下がって、孝志がゆっくり目を瞑った。
「っよし、成功した。今だ……っ」
僕は竜胆の部屋から飛び出すと走って自分の部屋に向かった。
――『バタン』と自分の部屋の扉を閉めると
そのまま扉を背にズルズルと下がって床に座り込んだ。
「はぁっ……はっ……き、緊張したぁ~っ」
まだ心臓がドクドクと強く脈を打っている。
髪の先からは大量の汗がポタポタと絨毯の上に落ちていた。
「っごめんね、孝志……」
つぶやくように言って腕で汗を拭うと、呼吸を整えるとゆっくり立ち上がってドアノブを静かに回した。
扉の向こうには目を瞑った孝志がいた。
その姿に、僕の胸が罪悪感に痛みを覚える。
「孝志、おはよ」
僕の言葉に、孝志の閉じられていた瞼がゆっくりと開かれる。
黒い瞳に、光が戻って、僕の姿を映し出した。
「あれ?ま、誠?あれ?いま、バタンって……え?お前、起きてたのかよ」
「う、うん。ちょっと、嫌な夢を見ちゃってさ。二度寝しちゃったんだ」
「そ、そっか。何回、声かけても返事なかったから、またサタンが来たんじゃねぇかって……」
孝志の顔がくしゃりと歪んで今にも泣きそうな表情を浮かべた。
僕も大変だったけど、外で待ってる孝志たちも辛い思いをさせてしまったんだな……
「心配かけてごめんね。放課後の悪魔が言ってただろ?もうサタンが来ることはないって」
「アイツの言ってることは信用できねぇ」
「ははっ、確かにね。でも、そこは安心してよ、放課後の悪魔だけじゃなくて、サタン本人が約束してくれたんだから」
あの日、家族の様子を見て泣きじゃくる僕にサタンは言ったんだ――
『私はもう帰るよ。ここにいても、これ以上面白いこと起きそうにないし。バイバーイ』
最後までサタンという悪魔は存在が掴めないというか、軽い男だった。
サタンのあまりにも自由人すぎる発言に流れていた涙も驚きすぎて一瞬引っ込んだ。
「それより早くご飯食べに行こう?僕、お腹すごく減ってるんだ」
「そうだな。俺も腹減った!」
まだ表情に不安の色を残しつつも、孝志はいつものように笑った。
「あ、待って。宇佐美も連れて……――は?」
時計役の宇佐美を連れて行こうと後ろを振り返って、視界に見えたメイド服に思考が停止する。
いや、お前、なんで僕の部屋にいるの?
「えっ?誠……そ、ソイツ、誰だ?」
孝志の困惑した声に、僕の目の前に立っていた銀髪眼鏡の美少女は、首を少し傾げて楽しそうににっこりと美しい笑みを浮かべる。
「初めまして孝志クン。ボクは、『鍵の悪魔』の竜胆です」
「んなっ!?」
「は!?えっ?か、鍵の悪魔って、え?」
竜胆の言葉に孝志は頭が追い付いてないのかポカンと口を開けて僕と竜胆を交互に見つめる。
「あ、ご主人様2ごっ……いや、ここはめんどくせぇけど名前呼んだ方がいいよな。ゴホンッ、誠サマとは昨日ご契約させて頂きました」
「は!?け、契約!?」
最悪だ、コイツ全部ばらしやがった!
「り、竜胆ーっ!!」
2階の廊下には僕の怒鳴り声が大きく響き渡った……。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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