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悪魔のシェアハウス――悪魔は人を騙すけど嘘はつかない。《友情》《裏切り》《契約》《願い》すべてを賭けた選択の脱出劇  作者: ユキマル02
【鍵の悪魔編】

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第60話『その警戒心✕✕しちゃおうか』



【登場人物】


まもる:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。悪魔が嫌いなので悪魔に対して少しだけ口が悪くなる。


冬美ふゆみ:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。


孝志たかし:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。誠の握るおにぎりが好き。


五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこにはある理由が…。悪魔が疲弊するくらいガチガチの追加契約を作った。



【登場する悪魔たち】


放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに異質。誠たちを翻弄する存在。


宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、【時計】の役割も果たしている。

名前は『宇佐美』白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。


シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。…誠たちの味方?


清掃の悪魔:常にテンションが高くノリの軽い青年。この空間の『清掃員』

軽い口調からいきなり雰囲気がガラッと変わるため油断できない。

誠が苦手意識を持っている悪魔。シェフとは古い友達らしい。


メイド:丁寧な口調で微笑む、美しいメイド姿の悪魔。

冬美専属の「レディースメイド」として身の回りの世話を担う一方でその本性は冷酷かつ策略家。

「性格は悪いです」と本人も公言している。つい最近新しい契約者を得た。


整備士シンさん

部屋の整備や修理を担当する悪魔。

無骨だが気さくで、誰とでもすぐに打ち解ける

面倒見のいいおじさんのような存在。


「嘘を見破る能力」を持つ特例の悪魔


普段は豪快に笑う気のいい兄貴分だが常軌を逸した執着と狂気がのぞく

油断できない悪魔である。


最近新しい契約者を得た。



寝室清掃の悪魔


銀髪眼鏡のメイド服を着た少女の悪魔。

主人公誠が偶然にも遭遇した裏方の悪魔。


かなりのネガティブ思考で一人で突っ走り結論が出ると

すぐに手持ちのナイフで自害しようとするので困る。

まだまだ謎の多い悪魔である。




(以降、悪魔たちは順次追加予定)


「おにぎりありがとうなぁ!めっちゃ旨かったわぁ~……じゃあ、あと24時間くらい寝るから起こしてくんなよ」


「あ、ハイ。お、おやすみなさい~」


 口元が引きつっている自覚はある。


 僕は笑顔を保ったまま、扉が閉まり切るまで手を振り続けた。

 廊下にバタン、という扉の締まる音が静かに響いた。


 それと同時に僕は隣に立つシンさんの腕を強く掴んだ。


「~っ誰ですか、アレ!?いつもと別人過ぎませんか!?」

「いや、だから言っただろ。アイツ寝起き悪いって」

「寝起き悪いとかのレベルじゃなかったよ?僕の記憶が正しければ、アイツ、僕のこと一瞬殺そうとしましたよね!?」


 僕が縋りつくのがわかっていたのか、シンさんは食堂に返す予定の食器を落とさないように頭上に上げていた。


 結構な勢いで掴んだのに、体幹がしっかりしてるからか、シンさんの体はビクともしていない。


「まー、よかったじゃねぇか。事故とはいえ、今ので五十嵐様の契約がしっかり効いてることがわかったんだからよ」


 シンさんは、ははっと笑うと空いてる方の手で僕の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。

 確かに、シンさんの言うように悪魔たちが契約を破った場合の『ペナルティー』を一瞬だけでも見ることはできた。


 正直言って、さっきまでの出来事は僕がこのシェアハウスに来てから一、二を争うレベルで怖かった――。



◇◇◇



「あ?あぁ、忘れてたわ。五十嵐くんの友達殺すの禁止だったんやった」


 これは、部屋に入って放課後の悪魔を起こした時、開口一番に言われたセリフだ。

 どういうこと?って思う前に、後ろからシンさんに襟元を掴まれて強く後ろに引かれた。


「ぐえッ、い、いきなりなにすんですか、シ――」


 シンさん――そう続けようとした言葉は

 視界に見えた真っ赤な色を見て止まった。


「え?」


 本当に、一瞬の出来事だった。


 僕の目の前でまるで真上から包丁で一刀両断されたかのように、放課後の悪魔の手が切れた。

 鮮血と骨、その映像を理解するより先に後ろから誰かに両目を塞がれた。


 誰かなんて、分かっている。後ろにいるのは一人しかいない。


「ははっ、流石サタン様って感じだなぁ。お前がそこまで疲弊してんの珍しい~。契約忘れるとか、お前らしくねぇなぁ」


「チッ……今、その名前だすなよ。あぁ、回復すんのめんどくさ」


 僕を抱き込む形でシンさんは、いつもと変わらない声で会話を続ける。

 心臓の鼓動があり得ないほど速く動いて苦しい。なんだ、今、何が起こった?


「おにぎりやったら、片手で食えるやろ。皿よこせや、早く寝たいんねん」


「ん。ほいよ」


 未だに混乱する僕など、二人は意にも介さず会話を続ける。


 見えなくても肌で放課後の悪魔がいつもと違う雰囲気なのは

 なんとなくわかってしまった。


 鼻につく鉄臭い香りに口が歪んでしまう。


「あー、お前血流し過ぎだって」


「うっさいわ。俺は早く寝たいんねん。つーか、こうして大人しく自己満の善意に合わせてやってるだけでも感謝して欲しいわ」


「っ!」


 見えなくても、放課後の悪魔の言葉が誰を差しているのかわかって体が強張った。


(嫌だな、この感覚……いじめられていた頃と一緒だ)


 ワザと本人に聞こえるように言われる悪口。

 クスクスという笑い声に、見えなくてもわかる周りからの視線。


(自己満だってわかってて、こうして言われると……辛いな)


「自己満ってわかってて付き合ってんのは、それこそお前の勝手だろ?」


 ――え?


 後ろから聞こえたシンさんの言葉に沈みそうになった意識が戻ってきた。

 言葉は強いのに、そこに責めるような感じはしない。


「お前、珍しく余裕ねぇな?人間みてぇに弱い生き物に八つ当たりしてる悪魔とかダセェんだよ。24時間でも、一か月でも寝ちまえよ」


「……」


「し、シンさん?」


 シンさんの言葉に放課後の悪魔は無言だった。

 静かになった室内にはおにぎりを咀嚼する音だけが響いていた。


「…………なぁ、ほんまに?今の、俺ダサい?」


 静かな室内にポツリと落ちたつぶやきに近い悪魔の言葉にシンさんは間髪入れずに「ダセェな!」と明るく答えた。


 その瞬間、部屋の空気、目の前にいる悪魔の雰囲気が変わったことを肌で感じる。


「マジか~、おじさん人間如きに八つ当たりしてたん?恥ずかしいわぁ」

「おう、なんかしょうもねぇいじめしてる餓鬼みたいだったぜ!」

「いや~恥ずかしいっ!!シンちゃんの言う通り、おじさんちゃんと寝るわ!教えてくれてありがとうな!誠クンもおにぎりありがとな!」

「えっ、あ、いや……」


 いつもの調子に戻った二人に安堵するも、僕の心にモヤっとしたものが残った。

 だって、放課後の悪魔の言ってることは正しいからだ。


(もしかしたら、無意識に感謝を押し付けて、自分がピンチになったら助けて欲しいとか……思っていたのかもしれない)


「キミ、自分で思ってるよりもそんな器用な人間やないやろ?」


「えっ」


 目を塞いでいた手がいつの間にか外されていた。


 驚いて顔を上げた時、薄暗い室内に放課後の悪魔の赤い髪と、赤い瞳がハッキリと見えた。


 切れたはずの手も綺麗に治っている。


「心、読んだの?」


「さぁ?どっちやと思う?おじさんたちは長く生きていろんな人間見てるから、大体の人間は顔見れば何考えてるかわかるからなぁ」


 放課後の悪魔はニヤリと笑ってそう言った。

 酷く曖昧な答えだ。


 でも、サタンにたどり着くまでの、この悪魔の行動を考えれば

 心を読めるか()()()()()、なんて考えは、もう浮かんでこない。


「誠クンの意図なんてこっちはとっくに気づいてんねん。まー、もうおじさんからしたら契約守るための行動でしかないんやけど、そこで感謝に繋がるのがホンマ意味わからんわ」

「はは!それは俺も同感だぜ。普通なら恩を売ってやろうとか思うのによ、コイツにはそういうの悪意ってつーのがねぇんだよ。面白いよなぁ」

「ホンマそれなぁ、面白くて飽きないわ」

「……そ、それは喜んでいいの?」


 得体の知れない悪魔と嘘を見破る悪魔二人に気に入られるとか恐怖でしかない。


「も、もう、食べ終わったなら早く寝た方がいいよ!僕とシンさんは退散しますので、ごゆっくり!」


「あ、ちょお待って、見送りするわ」



 ――そうして、冒頭に戻るのである。



◇◇◇


「あれ?誰もいない」


 食堂に戻ると無人だった。


「そこまで長居したつもりはなかったんだけどな……」

「大体、30分くらいじゃねぇか?」

「えっ、そんなにいた?」

「俺、食器下げてくるわ」

「あ、はい。お願いします」


 軽くあくびを零して、だるそうに歩くシンさんの背中を見送った。


「シンさんが護衛で、よかったな」


 おにぎりを握ることは他の人たちにも相談して決めたことだった。


 五十嵐くんはそんなこと気にするなと言ったけど、他の二人

 孝志と冬美は僕と長い付き合いだから僕の性格をわかっているのか、賛成してくれた。


 3対1で折れたのは五十嵐くんだった。

 そして僕に助言してくれたのは、シェフだった。


「行くならシンさんを連れて行け」

「え?シンさんを?なんで?」

「あの人は能力の関係で気配に敏感なんだ。もし、放課後の悪魔がお前に何かしようとしても、あの人なら対処できる」


 いい意味であの人は遠慮が無いんだ。

 そう言ってシェフは夕食の準備をするために僕に背を向けて厨房に消えて行った。


「シェフの言う通りだった」


 殺されかけるとは思わなかったけど……。


「悪魔が護衛とか笑えるよなぁ。ま、よくわかんねぇけど俺の護衛は上手くいったみたいだな!」


「は、はい!すっごく助かりました!」


 いつの間に戻って来たのか、シンさんは僕のすぐ後ろにいた。

 僕は後ろを振り返ってシンさんに向かって頭を下げる。


「お礼言われるようなことそんなしてねぇって」

「あ、あの、シンさんはこれからまた整備の仕事ですか?」

「ん?そうじゃねぇかな?なんか、放課後の悪魔から追加で4階に紅茶飲める専用の部屋作ってくれって言われてんだよ」

「!そ、その部屋って……っ」


 サタンが作った架空の部屋だ。


「っ……」


「ん?どうした、誠?」


 サタン、紅茶専用の部屋、それは僕の記憶を呼び覚ますのには十分すぎる材料だった。


(そうだ、僕には時間がないんだ。こんな風に、のんびり悪魔と話してる余裕なんて、本当はないんだ……っ)


 サタンとのゲームに勝って見た現実世界は、僕が想像しているよりも酷いものだった。


 妹は不登校になっていた。

 母さんは暗い表情でいつ帰って来るかもわからない僕の部屋を掃除していた。


 明るく笑いの溢れていた自宅にはどんよりとした暗い空気が漂って、別世界のようだった。


「シンさん……っ、鍵の悪魔がどこにいるか教えてください」


 拳を強く握りしめて、僕は顔を上げて悪魔を見据えた。


「お?珍しいな、お得意の考えることを放置したか?」


 僕を見下ろすシンさんの空気は変わらない。

 でも、僕はやっぱりこの悪魔と対峙するのはいつだって緊張してしまう。


 シンさんと会話するたびに、自分の中に秘めた言葉をさらけ出してしまっているのかと錯覚してしまうんだ。


 それくらい、この悪魔は確信に近い言葉を当たり前のように言ってくるから、怖い。


「放棄したんじゃないよ。悪魔が正しい答えをくれないことなんてわかってる。だからこそ、会話することで見極めるんだよ。そこに、ヒントが無いか」


「へぇ、人間が悪魔を見極めるってか?すげぇ発想だな」


 僕の言葉にシンさんの瞳が、品定めするかのようにスッと細められる。


「僕はそこまで頭は良くないし、勘だって鋭くない。それでも――

 何もしないより、何か行動したほうがいいに決まってる。……それに」


「それに?」


 僕は言葉を切ると、静かに目を瞑った。

 脳裏に過ぎるのは、サタンに何度も殺された映像だ。


 恐怖の体験は、どうしてか僕に勇気を与えてくれた。


「僕は、悪魔の頂点に立つサタンに勝ったんだ。今更、他の悪魔になんか怖がってられるか」


 そう言ってシンさんを強く見据えると、僕の言葉にシンさんの瞳が大きく見開かれる。

 シンさんにしては珍しい、ちゃんと驚いてるとわかる顔だった。


「強く出たな。確かに、サタン様のゲームに勝ったお前だから言える言葉だよなぁ」


 シンさんは口元に手を添えると、喉の奥でくくっと笑った。

 そして、一歩足を踏み出して僕との距離を縮める。


 僕の体に緊張が走った。


「なら、サタン様に勝ったご褒美を俺からやろうか?」


 そう言ってシンさんは腰に手を添えると、少し背を丸めてグイッと僕に顔を近づけた。

 シンさんの紫色の瞳がいつもより鋭く光って見えるのは気のせいだろうか……。


「っ、ご、ご褒美ってなんですか?まぁ、くれるなら貰いますけど」


 もし、それが鍵の悪魔に関する情報なら絶対に欲しい。

 僕はシンさんから少し顔を遠ざけながら、紫色の瞳を見返した。


「モノじゃねぇよ。俺がお前に渡すのは、軌道修正だよ。いや、助言と言った方がいいか?お前、見た感じなんか間違った道に行きそうだからよ」

「助言?」

「あぁ、俺から情報を引き出そうとしてる時点で無駄なんだよ」

「そ、それは、僕みたいな、人間は悪魔から情報は引き出せないって言いたいの?」


 緊張しながらも聞き返せば、呆れたようなため息だけが返ってきた。


「だからな、そこがもう間違ってんだよ、だってお前、何があっても、どんな対価を要求されても、鍵の悪魔と『契約』するつもりなんだろ?」

「う、うん」


 僕はシンさんの問いに素直にうなずいた。

 家族の現状を見て僕の決意は揺るぎないものになっていた。


「なにが来ても契約するって決めてるやつが、今更情報収集してどうすんだ?んなことしてる暇あったら、直接鍵の悪魔に会いに行けばいいんだよ」


「会いに行けばいいって……っだ、だから、その鍵の悪魔がどこにいるかわからないから僕は今、シンさんと話をしようとしてるんだけど」


 無責任な発言だ。

 場所も知らない相手に、どうやって会えって言うんだ。


「108号室」

「へ?」

「鍵の悪魔の部屋だよ。ちなみに言うと、これは秘密の情報とかじゃねぇからな。お前が良く連れてる宇佐美に聞けばフツーに教えてくれたと思うぜ?」

「えっ、は、は!?そんな、か、鍵の悪魔の存在は秘密じゃないの!?」


 衝撃の事実に開いた口が塞がらない。


 続ける言葉も見つからなくて、目を見開いて、シンさんを見上げることしかできなかった。

 だって、こんなの灯台下暗しもいいところだ。


「五十嵐様は、ここに来てすぐに、モモンガに何号室にどの悪魔がいるのか聞いてたぜ?」


「で、でも、五十嵐くん鍵の悪魔の話してた時、僕と同じような反応だったじゃん。僕は、あれを演技だなんて思えないよ」


「あー、ま、来てすぐだからその情報も忘れちまってたんじゃねぇか?だから、記憶の部屋の時にお前と同様の反応してたんだろうな」


 人間の記憶力って短いからなぁ、そう言ってシンさんは軽く笑った。


「嘘だろ……。じゃ、じゃあ、聞いたら教えてくれたの?」


「当たり前だろ?逆に聞くけどよ、聞かれてないのにいきなり教えるやつの方が変だと思わねぇか?会話の途中でいきなり「鍵の悪魔は108」とか言い出したら、お前どう思う?」


「え、どう反応していいか困る」


「だろ?これはさ悪魔だからとかじゃねぇんだよ。聞かれてねぇのに、なんで教えてくれなかったんだ!って言われてもこっちが困る」


「た、確かに……」


 どうしよう、納得してしまった。


「僕、すごーく回り道してたんだ。あぁ、今まで悩んだ時間返して欲しい~!」


 ショックのあまり僕はその場に座り込んでしまった。

 涙は出ていないけど、涙が出るほどに悔しい気持ちでいっぱいだ。


「なんで人間ってのは時間も金かからねぇ『聞く』ってことをしねぇんだろうなぁ」


 シンさんは僕と同じ目線になるようにしゃがむと僕の頭を乱暴に撫でた。

 それが、なんだか馬鹿にされているような気がして腹が立った僕はその手を払いのけて立ち上がる。


「俺たち悪魔のスタンスは、聞かれれば答える。聞かれなければ答えない、なんだよ。これテストに出るからよく覚えておけよー」


「シンさん……」


「ん?なんだ」


「あの鍵の悪魔の話をした時に僕は、なんて聞けばよかったの?」


「……お前はあの時、俺に、どうして、そんなこと教えてくれるんですか?って聞いただろ?」


「うん」


「その問いは、鍵の悪魔の情報に繋がってねぇんだよ。お前が、情報を知りたいならこう聞くべきだった――鍵の悪魔の居場所を知ってるんですか?……てな?」


「っ!」


 僕の反応が気に入ったのか、シンさんはにっこり笑って

 静かに上体を起こし僕を見下ろした。


「学びを得たと思えよ。人間は成長する生き物だからよ、期待してるぜ?ちなみに鍵の悪魔は『夜』に会い行くのがおススメだぜ」


「夜?なんで?」


「俺がお前に与えた情報は鍵の悪魔に関するヒントじゃねぇ。鍵の悪魔と会ったときの『答え合わせ』のための情報だったんだよ」


「答え合わせ……」


「お前は知りたい欲が強いんだよ。だから、行動する前に考える」


「!そ、そんなことは……」


 思い当たる節もあるし、少しだけ自覚している部分でもあったからだ。

 流石というか、この人もやっぱり悪魔なんだと恐怖に近い認識を感じた。


「よし、長話もここまでにしてメシ食おうぜ!シェフが俺らのぶんのメシ、厨房の方にちゃんと用意してるからよ」


 シンさんは、僕たちの周りに漂っていた緊迫した空気を払うかのように「パンッ」と手を強く叩いた。


「う、うん。そうだね」


 その音と同時に僕の体からも力が抜けた。


 シンさんは振り返ることなく厨房にまっすぐ向かっていく。

 後を追いかけようと一歩踏み出した時だった――。


「あ、言い忘れてた。お前、今日は孝志に会わねぇほうがいいと思うぜ?」


 くるっと僕の方に振り返ってシンさんはそう言った。


「えっ、なんで?」

「だってお前一人で行くつもりなんだろ?でもよ、お前って考えてること顔に出るから、すぐにバレる」

「うっ、そんなとこでバレてたのか」


 シンさんの言うように僕は鍵の悪魔には一人で会いに行くつもりだ。

 孝志には怒られると思うけど、こればかりは譲れない。


 事後報告で怒られる覚悟も決めていた。


「ま、そこは任せろよ。最近、孝志と俺って仲イイのよ」


「……あの、シンさんっていつの間にか孝志のこと名前で呼ぶようになったよね、いつから仲良くなったの?」


 シンさんが孝志の名前を当たり前に呼んだ時から、違和感を覚えていた。

 上手く言葉にできないけど、あの時から心がもやもやして落ち着かない。


 理由は分からないけど、たぶんこれは無視しちゃいけないものだと僕の本能が警告しているような気がした。


 僕の質問に、シンさんはゆっくりと目を細めて口元に笑みを浮かべるだけで何も答えてくれなかった。

 呆然と立つ僕にシンさんは再び背中を向けると、今度こそ振り返ることなく厨房に消えて行った。


 その大きな背中を見ながら、改めて思う……


 やっぱり、シンさんと話すのは、苦手だ――。



◇◇◇


 ――深夜1時。



 僕は、108号室の前、一人立っていた。

 時計役の宇佐美も連れてきていない。


「はぁ……やっぱり、緊張するな」


 シェフの時は隣に孝志がいた。

 でも、今の僕は正真正銘、一人である。


 さっきから何度も誰もいない隣に目線を向けてしまう。

 僕は、不安を取り払うように、首を左右に振った。


「ここで怖気づいてどうするんだ。もう、迷ってる時間なんてないんだ」


 孝志にこれ以上一人で背負わせたくない。


 それに不本意ではあるが、宣言通りシンさんが孝志をゲーム部屋に誘ったことで孝志と会ったのは夕食の時くらいだった。


 その時も、珍しくシンさんから積極的に孝志に話かけてくれていた。

 僕も契約のことを考えないで食事に集中できた。


「もう、逃げないって決めたんだ」


 悪魔の協力を経て僕はここにいるのに、往生際の悪い弱虫な僕がまだ邪魔をしようとしている。

 ドアをノックするために上げた手が中途半端なところで止まって、震えている。


 だって、僕は今から顔も名前も知らない悪魔と契約するんだ。

 不安にならない方がおかしいに決まってる。


「さ、3回、深呼吸をしたらノックをしよう、だ、大丈夫。頑張れ、僕」


 そう、自分に言い聞かせて胸に手を当てて、すうっと空気を吸ったときだった――



「じれってェなぁ。入るならとっとと入れよ。気配がウゼェ、あ?あぁ、警戒心で動けねぇのか?じゃあ、その無駄な警戒心は……」



 ――【rock】だ。



 その声を聞いた瞬間、【ガチャン】と僕の中で

 何かが閉まるような音が聞こえた――。








最後まで読んで頂きありがとうございました。


※すみません勘違いで次の話を一瞬だけ公開してしまいました。

週一更新なのでそちらの話はすぐに削除させて頂きました。




【お知らせ】


続きを待ってくださっている方向けに

noteで【先読み】を始めました!


最新話より少し先まで読める内容になっています。

応援も兼ねた形になりますが、興味のある方はぜひ覗いてみてください!


先読み更新はXにてお知らせします。


ページはこちら↓

https://note.com/yukimarudayo

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