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悪魔のシェアハウス――悪魔は人を騙すけど嘘はつかない。《友情》《裏切り》《契約》《願い》すべてを賭けた選択の脱出劇  作者: ユキマル02
【冬美編】

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第54話『この世界に一番なんていないんだ』



【登場人物】


まもる:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。悪魔が嫌いなので悪魔に対して少しだけ口が悪くなる。


冬美ふゆみ:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。


孝志たかし:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。誠の握るおにぎりが好き。


五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこにはある理由が…。悪魔が疲弊するくらいガチガチの追加契約を作った。



【登場する悪魔たち】


放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに異質。誠たちを翻弄する存在。


宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、【時計】の役割も果たしている。

名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。


シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。…誠たちの味方?


清掃の悪魔:常にテンションが高くノリの軽い青年。この空間の『清掃員』

軽い口調からいきなり雰囲気がガラッと変わるため油断できない。

誠が苦手意識を持っている悪魔。シェフとは古い友達らしい。


メイド:丁寧な口調で微笑む、美しいメイド姿の悪魔。

冬美専属の「レディースメイド」として身の回りの世話を担う一方でその本性は冷酷かつ策略家。「性格は悪いです」と本人も公言している。つい最近新しい契約者を得た。


整備士シンさん

部屋の整備や修理を担当する悪魔。

無骨だが気さくで、誰とでもすぐに打ち解ける“面倒見のいいおじさん”のような存在。


「嘘を見破る能力」を持つ特例の悪魔


普段は豪快に笑う気のいい兄貴分だが常軌を逸した執着と狂気がのぞく、油断できない悪魔である。


最近新しい契約者を得た。



寝室清掃の悪魔


銀髪眼鏡のメイド服を着た少女の悪魔。

主人公誠が偶然にも遭遇した裏方の悪魔。


普段は清掃が終わるとシェフの用意した食事を厨房に設置されている

従業員休憩室で食べている。


かなりのネガティブ思考で一人で突っ走り結論が出るとすぐに手持ちのナイフで自害しようとするので困る。まだまだ謎の多い悪魔である。




(以降、悪魔たちは順次追加予定)




――これは、中学1年生の頃の話だ。



「年末の大掃除、みんなでやらない?」


 肌寒い学校の帰り道、冬美は突然何か思いついたように人差し指を立てて、そんな突拍子のないことを言った。


 冬美の言葉に前を歩いていた孝志と五十嵐くんが振り返る。


「大掃除?」

「出たな。冬美の思い付き、てか、掃除って誰の部屋掃除すんだよ?」


 孝志がため息交じりに冬美を見ると、彼女はニッコリ笑って腰に手をあてる。


「五十嵐くんの家です!!」

「あぁ、俺の家……って、は??なんで?」


 冬美のいつもの思い付き発言を適当に流し聞いていた五十嵐くんが少し間を開けて驚いた声を出した。

 どうせくだらないことだろうと身構えていた孝志は冬美の話を聞くと、すぐに笑顔になって彼女に近づいた。


「おぉ、お前にしちゃ珍しくいいこと言うじゃん!採用!」

「えへへ、でしょ?五十嵐くんの家には冬美たちはお世話になってるから、恩返しってやつだよ!」


 孝志が冬美の頭を優しく撫でると、冬美は頬を赤くして嬉しそうに笑った。

 そして、今度は僕の方に彼女は顔を向けた。


「誠くんも手伝ってくれる?」

「もちろん僕も掃除手伝うよ!年末は五十嵐くんの家に行けないから、30日とかどうかな?」

「お前ら、家主を置いて勝手に話進めてんなよ」


 少し呆れた表情を浮かべながらも、五十嵐くんの声には嬉しさが滲み出ていた。

 いや、もう顔が笑ってるから、冬美の計画は実行される未来が見えている。


 年越し前に友達の家を掃除するなんて、こんなの楽しいに決まってる。

 僕は約束の30日が待ち遠しくて、寝付けない夜が続いた……


 今思うと、それが原因だったのだろう。


「うわっ!?」

「きゃっ!?」


 僕は冬美にフローリングの床に押し倒されていた。


 事故の場所は、五十嵐くん宅のリビング。


 競争するみたいに雑巾がけをしていた冬美と、リビングに置かれた本棚の整理をしていた僕がぶつかって、冬美に押し倒される形になったんだ。


 普通ならすぐに気づいて避けられた。

 でも、この時の僕は寝不足気味でぼーっとしていて冬美に気づかなかったんだ。


「ごめっ、誠くんっ」

「ぼ、僕こそ、ご、ごごめんっ」


 目と鼻の先に、冬美の赤らんだ表情と、少し開いた唇が見える。

 頬に触れた冬美の髪からは使っているシャンプーの匂いがした。


 心臓がドキドキを通り越して、激しく動いて痛い。

 目の前の冬美から目が離せなかった。


(これ、あと少し動いたら。く、口が触れちゃうんじゃないか?)


 頬を赤らめてお互い無言で見つめ合っていると――


「あー、邪魔しちゃったか?」

「っ!??そ、そんなことっ、痛っ!?」

「じゃ、じゃじゃ邪魔なんてっ、いったぁ!?」


 聞こえてきた孝志の声に慌てて起き上がろうとしたら僕と冬美の額がぶつかった。


「わーっ!!ふ、冬美っ、ごごごめん!!」

「っだ、大丈夫だよ!誠くん!ほら!フユミ、ゲンキ!!」

「なんでカタコト?」


 冬美はよくわからないムキムキポーズをすると立ち上がり、「五十嵐くんのほう手伝ってくる!」と言って五十嵐くんの部屋に走って行ってしまった。


 僕は冬美の走り去っていく背中を見送りながら、そっと自分の胸に手を当てた。

 ――体が熱い。今も、心臓がずっとドキドキしてる。


 冬美は可愛いくて優しい、僕の自慢の友達なのに、どうしてこんなに胸が苦しいんだろ?


「誠?大丈夫か?」


「えっ、あ、うん。大丈夫」


 心配する孝志の声に僕は空返事で答える。

 そして、唇に指先でそっと触れた――



 どうしてこんな昔のことを思い出していたのか、それは……



「誠様。私と、契約してください」



 あの時と同じように、僕は人生で二回

 女の子に押し倒されているからだ。



 ――やっぱり僕は、あの時から冬美が好きだったんだ。



 場所は違うけど、似たようなシチュエーションで僕は女の子に押し倒されている。

 けれど、あの時のような、ドキドキや体の熱さを感じてはいなかった。


「誠様?」


 遠目から見てもメイドは綺麗だと思っていたけど、近くで見ても美人だ。

 ピンク色の長い睫毛は照明の光で艶やかに光っていた。


「ごめん。僕、冬美が好きなんだ」


「えっ」


 無意識だった。でも、それが答えのように自然と言葉が出てきた。


 両腕を押さえつけるメイドの手から力が抜けるのがわかった。

 僕は自由になった手で静かにメイドの口を覆った。


「古臭いって笑ってもいいよ。でも、僕が知らないことを体験するときに、隣にいて欲しいのは、冬美だけなんだ」


 できるかどうかもわからない未来の話だ。

 でも、こんな状況になったからこそ改めてわかったんだ。


「僕は、冬美が一番好きで、冬美以外の人を好きにならない」


 僕の言葉にメイドの赤い瞳が大きく見開かれる。

 だけど、それも一瞬で、メイドは優しい笑みを僕に向けた。


「ふふ、大丈夫。わかっていますよ。少し、冗談が過ぎましたね」


「へ?」


 メイドは僕の上からゆっくり体を離した。


 そして、ベッドから降りるとメイドは服についた皺を雑にパンっと片手で叩いて整える。

 少しメイドらしくない姿に僕は違和感を覚えた。


 困惑しながらも僕も体を起き上がらせると、押し倒されてぐしゃぐちゃになった後ろ髪を手で軽く整えた。一体、この悪魔は何がしたかったの?


「じょ、冗談って、じゃあ……さっきの契約の話も」


「いえ、そちらは本当の話です」


「えっ、そっちの方が絶対冗談だって思ってたんだけど!?で、でも、なんでいきなり僕と契約したいなんて言ったの?」


 メイドには既に冬美という契約者がいるはずだ。

 ――と、考えたところで僕は内心首を傾げる。


(メイドの能力と名前が奪われた今、メイドの契約状況ってどうなってるんだろ?)


 清掃の悪魔は自分を『メイドのご主人様』と言っていた。

 それはつまり、メイドは個の悪魔ではなく、違う悪魔の所有物になったってことだ。


「あのさ、今もメイドは冬美と契約しているの?」


「いえ、冬美ちゃんとの契約は切れました」


「!そ、そうなんだ」


 ここに来るまで不安に思っていたことが確信に変わった。

 それと同時に、僕の脳裏には清掃の悪魔の悪意に満ちた笑い声と、肉の腐った匂いが蘇る。


「っやっぱり、記憶消されてなかったんだね」


「……はい」


「っごめん、僕がもっとちゃんと念を押してアイツに――っ!?」


 僕の強く握りしめた拳に冷たい手が触れた。

 驚いて顔を上げると、メイドは僕のことを優しい眼差しで見ていた。


 この部屋に入ってから、メイドは僕が今まで見たことのない表情を見せる。

 僕とメイドの関わりは薄い。だから、どう反応していいのか分からなくて、戸惑ってしまう。


「いえ、ご主人様はちゃんと約束を守ってくれました」


「でも、冬美と契約が切れたことを覚えてるってことは、あの戦いを覚えてるってことだろ?」


「はい。しっかりと覚えてるのは、清掃の悪魔と戦ったことだけです」


「え?ど、どういうこと?」


 メイドに手を握られたまま首を傾げる。

 すると、メイドはゆっくりと目を細くして笑顔を浮かべた。


「痛みです。清掃の悪魔は私から『痛みの記憶』を取ってくれたんです」


「痛みの記憶?」


「はい。だから誠様、ご主人様は約束を破ってなどいないのですよ」


「でも、メイドはそれでいいの?」


「痛みの記憶があるのと、ないのとでは違います。私にとって、今日の戦いは痛みの記憶がないので、テレビ番組のドキュメンタリーを見てるような気分なんです」


「そ、そうなんだ」


 メイドの説明に僕はいまいち納得できなかった。


 映像を覚えているなら、痛みの記憶だって蘇るはずだ。

 悪魔だから、痛みと記憶を分けて考えることができるのだろうか?……僕なら無理だ。


「冬美ちゃんの対価に関しては、私の名前を言う前に……対価は返しました」


「そうなんだ、よかっ――えっ!?ちょっと待って!!た、対価って返せるの?」


「返せますよ?だって私たちは契約時に対価を取るとは言っていますが、『返せない』なんて一言も言ってませんから」


「!?な、なんだよそれっ!それじゃあ、孝志もっ」


「誉めてくださらないのですか?」


「へ?」


 強く前の方に手を引っ張られた。目と鼻の先に少し頬を赤らめたメイドが僕を上目使いで何かを求めるように見ている。これは、どういう状況?


「冬美ちゃんの対価を返したのは、新しいご主人である、清掃の悪魔の魔の手が冬美ちゃんに行かないためです。対価は悪魔と契約者を繋ぐもの。もし、契約したまま名前を言っていれば、私だけじゃなく、冬美ちゃんもご主人様の意のままにできていたんです」


「っ、なんだよソレ」


 冬美が、あの清掃の悪魔に好き勝手される。悪寒と同時に怒りが湧いた。

 ここから出たいという気持ちは変わらない。


 でも、僕たちの目の届く場所で冬美が悲しむ姿は見たくないと思った。


「でも、それは夜だけの話でしょ?」


「いえ、五十嵐様の契約は『人間』ならば適用されます。しかし、ご主人様が冬美さまを人でない、ナニカに変えてしまった場合は無効となります」


「うわっ、すごい想像できる!アイツなら普通にやりそう!!あ、あの、冬美を守ってくれてありがとう」


「!っは、はい。誠様が冬美ちゃんを好いてることは知っていましたから、冬美ちゃんも――」


 メイドは何か言いかけたところで言葉を切った。「いえ、これを言ってしまうのは野暮というやつでしたね」と言って、それ以上は何も言わずに僕に向かってほほ笑んだ。


「あ、あの、手、離してもらっていいですか?」


「このままお話しちゃダメですか?」


 眉をハの字にしてメイドが小さく首をかしげる。どうしよう、普通に可愛い。

 絞り出すように蚊のように小さな声で「だめです」と言ったら、メイドはニコっと笑ってあっさりと手を離した。


「あ、あの、話を戻していいかな?僕と契約したいって冗談だよね?」


「いや、本気ですけど」


「えっ!?な、なんでいきなり?僕がメイドに関わったのなんて、今日くらいで、あんまり話したことないよね?」


 単純な疑問だった。本当に僕なんかとメイドが契約したい理由がわからない。

 悪魔同士の戦いの時だって、僕は吐き気を堪えながら見ていただけだった。


 それに――


「僕には、契約したい悪魔がいるんだ」


 記憶の部屋を開けるために必要な能力を持つ『鍵の悪魔』

 僕は、コイツを見つけて契約をしなければいけない。


「その悪魔の対価もわからないまま、『指』を失うわけにはいかないんだ」


 言いながら僕は自分の手のひらを見下ろした。

 シェフの対価は『味覚』、メイドは『指』だった。


 悪魔の対価が体の一部であるのは明確だ。鍵の悪魔との契約は僕の中で決定事項だから、今、このタイミングで何も考えないでメイドと契約するのは危険だと思った。


「対価は、いりません」


「へ?」


 静かな室内に響いた、メイドの信じられない言葉に僕は耳を疑った。


「た、対価がいらないって。っまさか、た、対価って払わなくていいとか言わないよね?」


 もし、そうなら。孝志は?僕のために味覚を失った孝志はどうなるんだ――!?


「落ち着いてください。誠様。私と他の悪魔を同じと考えてはいけません。私が、貴方に対して求めていない、と言うだけです」


「求めてないって、どういうこと?」


「……はじめてだったんです。「ありがとう」ってお礼言われたの」


「えっ」


 彼女は軽く笑って、僕の隣にゆっくり腰掛けると両足をプラプラと揺らした。

 その姿がどこか、あの日、夕暮れに見たブランコを漕ぐ冬美と重なった――


『ただ見た目が変わっていくだけで、中身の私は、変わらないのにね……』


「あのさ……」


 僕はメイドの方に体を向けると彼女の顔を見てまっすぐに言った。


「僕の前では無理しなくていいよ」


「えっ?」


 メイドが驚いたように僕の方を見た。

 冬美のことを思い出したと同時に、なんとなく思ったんだ……


「こうして話してると、なんとなく思ったんだ。無理してるなって」


 大人になっても、悪魔になって不老不死になっても

 きっと中身は変わってないんじゃないかなって――


「僕にはタメ口でもいいよ。メイドが一番疲れない姿でいた方が絶対いいから。僕は気にしないから」


 イジメられていた頃の僕は、ある意味で猫を被っていた。

 あの狭い箱に用意されてる『いじめられっ子』の椅子に座るしかなかったからだ。


 孝志と友達になってから、僕は驚くことがたくさんあった。


 喋っても馬鹿にされなくて、ちゃんと話を聞いてもらえて、周りの目を気にしないで教室を歩くことができる。会話ができる。


「っそんなこと、初めて言われました。キャラを作ってるつもりなんて、なかったんですけどね……でも、そうですね。誠様の命令ですもんね」


「えっ。あ、うん。そうだね、じゃあ命令ってことで」


 まさかメイドの方から命令権のことを言われるとは思わなかった。

 驚きはしたが、話を合わせるためにメイドの言葉に僕は合わせた。


「疲れない姿か……では、一人称を変えてもよろしいですか?」


「一人称?えっと、うん。いいよ」


 メイドの言葉によくわからないまま許可を出すと、彼女は唇に笑みを浮かべて、ゆっくり口を開いた。


「じゃあ、誠様の前では――『俺』って使いますね」


「!?えっ、お、俺!?」


 予想外の一人称に僕は驚いた。心なしか、いつもよりメイドの声が低くなってる気がする。

 もしかして、声も作ってたのか?


「あははっ!俺なんて久しぶりに使ったかも。男兄弟の末っ子だったからさ、お兄ちゃんたちの口調が移って、女なのに俺ってよく使ってたんだ」


「そ、そうなんだ」


「うん。だから、吉原に売られた時に俺って抜けなくてさ。よく折檻されてたんだ」


「せ、折檻」


「そ!だから、本当に、それこそ……俺なんて使ったの、父ちゃんと母ちゃんが脚気で亡くなって以来だよ」


 メイドは少し寂し気な表情を浮かべたかと思うと、僕の目の前で体を後ろに倒してベッドの寝転んだ。


「あ---っ!!」


「うわっ!?ビックリしたぁ、い、いきなりどうしたの?」


 メイドは寝転びながら大声を上げた。

 びっくりしてメイドの方を見ると、メイドは強く唇を噛み締めて涙を流していた。


「っアイツに言われたこと全部図星だったんだ。なにも言い返せなかった。俺は……他人を頼る生き方しか知らなかったから、悪魔になっても、男を誘惑して、生活する場所も自分の性欲も、男任せだった。きっと、俺を本当に愛してくれた人間なんて一人もいなかった」


「……」


「だって、俺の価値は『容姿』と『性行為』しかないと思ってたから」


「!それは」


「悪魔として長く生きたよ。興味のあることはなんでもやった。でも、ただそれだけだった。長く生きて得た豊富な知識も、俺には価値のないものだと思ってたんだ」


 メイドは言葉を止めると、寝転んだ状態でゆっくり僕の方に顔を向けた。

 綺麗なピンク色の髪が涙に張り付いて、輝いていた。


「でも、違ったんだ。セックス以外でも感謝されるんだ。俺の価値のないと思っていた知識でも「ありがとう」って言葉を貰えるって、今日、はじめて知ったんだ」


「っ……」


 メイドの話を聞いて、鼻の奥がツンと痛くなった。


 清掃の悪魔の時から思っていたけど、どうして悪魔は重い過去をこんなにも淡々と話すのだろうか。

 聞いてるこっち側は、感情がかき回されて大変だ。


「っこれは、僕が勝手に思ってることなんだけど……っこの世界は『一番』なんていないんだ」


「一番はいない?」


「うん。例えば、漫画は描けるけど、文章は書けない人だっている。逆に絵は描けないけど文章が書ける人がいる。じゃあ、その人たちがすごいかって言われたらそうじゃない」


「その人たちは、一番じゃないの?」


「うーん、その分野では一番かもしれないね。でも、その人たちは大学の教授のように頭がいいわけじゃない。でも、頭が良くても長距離走は速くないし、逆もある。だから、一番なんていないんだ。みんなすごい」


「!す、すごい。そんなこと、考えたこともなかった」


「メイドが価値がないと思うものに一番はいない。でもね、それをできない人からすれば全部すごいことなんだよ」


「誠……」


 メイドは片腕で流れていた涙を拭うと、ベッドからゆっくり体を起こす。

 そして、少し濡れた手で僕の両手をぎゅっと強く握った。


「俺と契約してください」


 とても、柔らかい声だった。僕を見つめる瞳には涙の幕が張っていた。

 赤色が薄まってメイドの髪と同じようなピンク色に見えた。


「対価はいりません。俺が――いえ、私が誠と契約したいんだ」


「ほ、本当にいいの?だってさっきメイドが言ってたじゃないか。対価は悪魔と契約者を繋ぐものだって」


 迷いながらも聞けば、メイドはキョトンとした表情を浮かべて……


「あははっ。誠様は肝心なところで、鈍感なんですね!」


 次の瞬間には大きな声を出して笑っていた。


「対価をいらないと言ったのは、誠とご主人様を繋がないためです」


「!?あ、そ、そっか!」


 考えればわかることだった。

 というか、やっぱり善意とかじゃなくて意図があっての対価不要だったようだ。


 悪魔に無償の優しさなんてないと思っていたから、逆に安心した。


「ほ、本当にいいの?」


 僕の言葉にメイドは作った表情じゃない、子供のような満面の笑顔を浮かべて「うん!」と大きく頷いた。


 こんな、僕にとって都合がいいことがあるなんて信じられなかった。

 でも、目の前のメイドが嘘をついてるようには思えなくて――


「わかった。僕と、契約してくれ」


 僕はメイドが握っている手を強く握り返すと、力強くそう言った。


〖承知いたしました。ご主人様〗


 僕の言葉にメイドは眩しいほどの可愛らしい笑みを浮かべて、嬉しそうに頷いた。




最後まで読んで頂きありがとうございました。


Xでは【悪魔のシェアハウス】の自作の表紙を公開してます。

作画から色塗りまで全部ひとりでやってます。

こちらでお見せできればよかったのですが、なろうは表紙設定出来なので(^_^;)


もしご興味のある方は覗いて頂けると嬉しいです!

めっちゃ気合い入れて描いてるので!どの表紙も自信作です!

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