第53話『ありがとうな、冬美ちゃん』
【登場人物】
誠:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。悪魔が嫌いなので悪魔に対して少しだけ口が悪くなる。
冬美:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。
孝志:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。誠の握るおにぎりが好き。
五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこにはある理由が…。悪魔が疲弊するくらいガチガチの追加契約を作った。
【登場する悪魔たち】
放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに異質。誠たちを翻弄する存在。
宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、【時計】の役割も果たしている。
名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。
シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。…誠たちの味方?
清掃の悪魔:常にテンションが高くノリの軽い青年。この空間の『清掃員』
軽い口調からいきなり雰囲気がガラッと変わるため油断できない。
誠が苦手意識を持っている悪魔。シェフとは古い友達らしい。
メイド:丁寧な口調で微笑む、美しいメイド姿の悪魔。
冬美専属の「レディースメイド」として身の回りの世話を担う一方でその本性は冷酷かつ策略家。「性格は悪いです」と本人も公言している。つい最近新しい契約者を得た。
整備士
部屋の整備や修理を担当する悪魔。
無骨だが気さくで、誰とでもすぐに打ち解ける“面倒見のいいおじさん”のような存在。
「嘘を見破る能力」を持つ特例の悪魔
普段は豪快に笑う気のいい兄貴分だが常軌を逸した執着と狂気がのぞく、油断できない悪魔である。
最近新しい契約者を得た。
寝室清掃の悪魔
銀髪眼鏡のメイド服を着た少女の悪魔。
主人公誠が偶然にも遭遇した裏方の悪魔。
普段は清掃が終わるとシェフの用意した食事を厨房に設置されている
従業員休憩室で食べている。
かなりのネガティブ思考で一人で突っ走り結論が出るとすぐに手持ちのナイフで自害しようとするので困る。まだまだ謎の多い悪魔である。
(以降、悪魔たちは順次追加予定)
【※注意】本章は、冬美という人物の人生と過去を描くため、未成年への性的被害や家庭内での暴力を含みます。興奮を目的とした描写ではありません。読むことで辛くなる可能性がありますので、少しでも辛いと感じた場合は、読むのを中断してください。
――体中が痛い。体の奥も、心も、もう限界だった。
「痛っ……」
地獄のような行為が終わった。
鍵のかかった扉の向こうで男たちが酒盛りして馬鹿笑いしてる声がうっすらと聞こえてくる。
痛む体を起き上がらせて、ベッドの下に落ちていた下着とシャツを身に着けた。動く気力は無い。
ただ、ぼんやりと部屋を眺めてると机の上に置かれた卒業証書の筒と、一冊の漫画が目に入る。
「あれは……誠くんから、借りた」
震える体を起こして、ベッドから降りるとゆっくり机に向かって行った。
そして、机に置かれていた本を手に取って、指先で表紙に触れた。
触れると、あの日の誠くんの言葉を思い出して、自然と口元には笑みが浮かんでいた……
◇◇◇
「そっか。冬美はきっと、現実に近い話が好きなんだね。じゃあ、これなら冬美でも読めるかな」
異世界転生の漫画を返すときに、私はお世辞でも「面白い」なんて言えなくて、言葉に迷っていたら誠くんは優しく笑ってこう言った。
「正直な感想聞かせてよ。大丈夫、人には好き嫌いがあるから、今回貸した本が冬美に合わなくても不思議じゃないよ」
「えっ?そ、そうなの?……ごめん、私、このお話、おもしろいって思えなかった」
「どうしてか、理由聞いてもいい?」
「えっ……だって、やっぱり、げ、ゲームの中とか、そんな、存在しない世界の人に転生って意味わかんないし。死んだら、デジタルの世界に行くの?元の世界は確かに辛いこと沢山あるかもしれない。でも、死んだ先で容姿も変わって、無条件に愛されるなんて、幻想だよ」
「そっか……」
怒られるのを覚悟で言ったのに、誠くんは不機嫌になるどころか、真剣な表情で考え込んだ。
そして、スマホで何か調べ始めた。
「あ!あった、これだ。これなら冬美も楽しめるんじゃないかな?」
誠くんはそう言ってスマホ画面を私に見せた。私は誠くんからスマホを受け取って、画像に表示された文字を読み上げる。
「弁護士が、異世界転生?え?なにこれ、おもしろそう!」
「この原作者さんが現役の弁護士なんだ。でも、難しい言葉とかは使ってなくて、漫画の方は説明もすごくわかりやすくイラストで描いてるから法律の勉強になるし、現実的ですごく面白いよ」
「え!?ほ、本当の弁護士さんが書いたラノベなの!?」
「少し興味湧いた?」
「うん!これなら読んでみたい!」
私の言葉に誠くんは嬉しそうに笑うとスマホを受け取って、ポケットにしまった。
「よかった。今は手元にないだけで、家にあるんだ。明日持ってくるよ。最近、書籍化された作品だから漫画もそこまで巻数出てないし、読みやすいと思うよ」
「え?いいの?」
「うん。冬美が少しでも好きなモノが増えると、僕が嬉しいんだ」
「誠くん……」
「一緒に好きなモノ、沢山見つけて行こう」
「っうん!」
次の日、誠くんは約束通り漫画を持ってきて私に貸してくれた。
そして、この漫画は、私の好きなモノの一つになった――。
◇◇◇
「最新刊……まだ、買ってないや……」
今、私が手に持っている一巻は誠くんがくれたものだ。それ以降は全部自分で買って揃えた。
新刊が出るのが楽しみだった。でも、これから先、買えるかどうかもわからない。
「ムタは、なんで、転生したんだっけ?」
ムタ。この漫画の主人公だ。
彼の上司は悪徳弁護士で、悪に味方する弁護士だった。
逆にムタは心優しい青年だった。彼は、優秀なのに所属する事務所を間違えたんだ。
「そうだ、ムタは……過労死したんだ」
ムタは、元々の優しい性格のまま、沢山の人や強い魔獣に愛されるようになった。
知識を使って弱者を助け、無法地帯だった国に法律を作った。
ムタの手首には、沢山の傷があった。
でも、転生したあとの体には、その傷は一つも残っていなかった。
「死んで、異世界に行けば、この体もリセットされるのかな?」
パラパラと漫画を読んでいると、そんな言葉が無意識に出てきた。
「……」
私は、漫画をゆっくり元の場所に仕舞うと――
勉強机の椅子を持ち上げて、施錠された扉に思いきり叩きつけた。
ガンッ!バキッ!という鈍い音が廊下に響いた。
ドアを蹴破ると素足のまま家を飛び出した。
「はっ……っ、はぁ……っ」
外は土砂降りだった。
傘を差してる通行人が私を驚いたような表情で見ている。
後ろの方で男たちの声がする、今は、逃げることを一番に考えた。
走りながら考えたのは「異世界に転生しても、どんな手を使ってでもこの世界に戻ってくる」ことだった。
私だけに優しい魔王も勇者もいらない。異世界は私にとって一時的な避難場所だ。
辛くても、地獄でも……
私が帰りたい場所は三人のところだから――
「本当にこっちに逃げたのか!?」
「わかんねぇよ!!」
「っくそが、誰だよ!部屋に鍵かけ忘れた奴!!あのガキがサツに行ったら面倒なことになる」
「鍵かけましたよ!っでも、まさか椅子で扉ぶっ壊して逃げ出すとか誰も予想できるわけないでしょう!?」
「で、でも俺たちは金田さんの女の指示でやっただけで、だ、大丈夫ですよね?」
「は?あの女は俺たちをすぐに売る。期待するだけ無駄だ!」
「いいから探せ!!金田さんが惚れてる女だ。見つからねぇと、あの餓鬼が自殺しようものなら――俺たちが殺される」
男たちの身勝手な会話を雑居ビルに不法投棄されている悪臭の漂うゴミ溜めの中で震えながら聞いていた。
臭くて吐きそうになるのを両手で鼻と口を押えて耐えた。
私の足元でドブネズミが鳴きながらゴミ袋から溢れ出した生ごみを食べている。
男のたちの声が遠くなって、雨音にかき消されていく――
「早く、異世界に行かなきゃ……」
血だらけの足で生ごみの上を登って出ると、近くの廃墟ビルに入った。
立入禁止の張り紙が剥がれかけた非常階段を迷わず駆け上がると、屋上に続く扉が見えた。
「早く、早くっ、異世界に行かなきゃ……」
錆びついた扉は、鍵もかかっていなかったから簡単に開けられた。
屋上を出ると下にいるときよりも強い風を感じる。
「っさむい……」
雨に当たりすぎて、手も足も感覚がなくなっていた。
強風と冷たい雨に後ろに下がりそうになる。
それでも私は、前に倒れ込むようにして、ゆっくり足を進めた。
「っ、もし、神様が……本当に、いるならっ」
冬でもないのに、声と同時に白い息が出る。強風と大雨で前がほとんど見えない。
ただ、曇り空だけがゆっくり近くなっていく。
一歩、進むたびに大切な人たちの言葉が頭を過ぎった。
『2人は、きっと嫌がるかもしれないけど、ぼくは、優しい人が好きなんだっ!優しい人が、理不尽にいじめられて、お腹が減って、泣いておにぎりを食べる世界なんてっ、そんなの間違ってる』
『コレでよかったんだって、言い訳する人生歩むくらいなら。勝手に助けて、文句言われて、後悔する方が絶対いい』
『ふふっ、ま、暗示みたいなものだけどね……でもさ、こんな世界でも、少しだけでも綺麗だって思えるものがあってもいいじゃない』
『だから、冬美。もし、お前がこれから先辛くて、死にたいと思っても……自分の選択を後悔しなくていい』
「私をっ……、異世界でも、どこでも連れてってよぉっ!!!」
ガッと、足に衝撃と痛みが走った。たぶん、段差に躓いたんだ。
足の爪もきっと折れてる。
そして、次に来たのは浮遊感。
あ、私、落ちてるんだ――
周りがスローモーションのように見えた。
顔に当たる雨粒の一つ一つが、鮮明に見えて……
「きれい……」
地面がどんどん近づいていく。死ぬかもしれないのに、恐怖なんて一つも感じなかった。
アスファルトが目と鼻の先に見えて、私はゆっくり目を閉じた。
これで、きっと、異世界に行ける。
そう思ったときだった――
『死んだらアカンよ』
私の耳に、あの声が……
放課後の悪魔の声が聞こえたんだ――。
◇◇◇
「全部、思い出した……」
ザーザーと激しい雨が窓を叩いてバチバチと音を立てる。
「っ、あの時には、もう……五十嵐くんは、決めてたんだっ……」
今日と同じような雨の日だった。
あの日に五十嵐くんは覚悟を決めたんだ。
私が弱かったからだ。ちゃんと思い出せば、五十嵐くんの言葉の違和感に気づくことができたのに、私は気づくことができなかった。
「っ悪魔さんは、いつから五十嵐くんの側にいたんですか?」
溢れ出る涙をそのままに、向かい側に座る悪魔に顔を向ける。
今考えたらわかる。
もう、あの時にはきっと五十嵐くんのすぐ側に、コイツがいたんだ。
悪魔は私のことを楽しそうな瞳で眺めると、紅茶を一口飲んだ。
「いつやったかなぁ?まぁ、儀式した日にはいたと思うで?」
「っ五十嵐くんに、何を見せていたの?」
「なにって、そりゃあ。ご主人様の知りたいもん、全部かなぁ?」
「っ!み、見たいものって、まさかっ」
悪魔の言葉を聞いて、疑問が確信に変わる。
わかった瞬間に感じたのは恐怖だった。
この悪魔の言葉を素直に受け取るなら、五十嵐くんは――
店の中で起こってること全部、見てたんだ。
見られていた?あれを……
あ の 行 為 を 全 部 ?
「うあぁっ……!!やだっ、こわいっ!私、五十嵐くんに、嫌われたくないっっ!!」
髪を激しくかきむしった。そして、震える体を守るように両腕で抱きしめる。
店の光景が頭の中に鮮明に浮かんで、その場で吐いた。
絨毯に飲んだばかりの紅茶が飛び散る。
「ゲホッ!……っあぁ、ああ゛!!」
全部、全部、見られていた。
吐きながらトイレで泣いていた日も、客の要望に応えて別人を演じていた時も――
「あーあー。冬美ちゃん大丈夫か?ははっ!あ~可哀想になぁ」
悪魔の笑い声がすぐ近くで聞こえた。
私の視界にピカピカに光る革靴が見えて、見るからに高そうな靴は迷いなく私の吐瀉物を踏んだ。
「イッコだけ。本当のこと教えたるわ。あんな、このシェアハウスのトリガーは……」
――キミの『自殺』やねん。
「っえ?」
「おじさんなぁ、ずーっと冬美ちゃんにお礼言いたかったんや。自殺してくれて、ありがとうなぁ。おかけで、今、おじさんめちゃくちゃ楽しいわ!!」
悪魔は私の顎に手をかけて無理やり顔を上げさせる。
そして、頬を赤らめて楽しそうに笑った。
「っなに、を……言ってるの?」
言ってる意味が理解できなかった。こいつは、何を言ってる?
あ、そうか……忘れてた、見た目が人だからいつも忘れてしまう。
コイツは――悪魔だ。
「うぅっ……」
私はただ、唇を噛み締めて目の前の悪魔を睨みつけることしかできなかった。
「あぁ、でもこんなに早く思い出すのは予想外やったわ。じゃあ、ちょっと失礼して――」
「へ?」
悪魔は私と目線を合わせるように絨毯の上に膝をつくと、両手で強く私の頭を掴んだ。
痛い、頭が割れるように痛い――!
「これもご主人様との約束やねん。思い出したとこ悪いけど……」
封印させてもらうわ。
――え?
『ガチャン』という何かが、閉じたような音が頭の中に響いた。
「あ……ぁ……」
視界が真っ暗になって、私は、その日、思い出した全てを……
忘れてしまった。
「おじさんもこれ以上、ご主人様怒らせて契約追加されたくないねん。ごめんなぁ、冬美ちゃん」
最後まで読んで頂きありがとうございました。
Xでは【悪魔のシェアハウス】の自作の表紙を公開してます。
作画から色塗りまで全部ひとりでやってます。
こちらでお見せできればよかったのですが、なろうは表紙設定出来なので(^_^;)
もしご興味のある方は覗いて頂けると嬉しいです!
めっちゃ気合い入れて描いてるので!どの表紙も自信作です!




