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第二十話 廃坑

 町へ着いた次の日、早朝から廃坑に向かって出発した。

 馬車で二時間程度と町から随分と近く、途中で探索帰りの冒険者が素材を積んでいるらしき馬車とすれ違う事があった。

 向こうはケルベロスに驚いていたようだが、特に騒ぎ立てる事なくすれ違って行った。

 既にケルベロスがが召喚獣であることは、冒険者の間にも広まっているのかも知れない。


 昼前には廃坑の入り口前に到着したのだが……


「何か、肌がゾワゾワするな」


 空は良く晴れているのに、どうも肌が粟立ち寒気を感じる様な気がする。


「アンデットが居る所は瘴気が濃いからしょうがないよ」

「瘴気?」

「うん、アンデットが放つ変質した魔力の事なんだけどね。すぐに慣れて平気になると思うけど、タツヤはアンデットの相手をするのは初めてなの?」

「ああ、まあね」


 ミリィの言葉に肩を竦める。

 『幻獣の庭』ではアンデットは見た事ないんだよな。


「心配ないのである。この身に任せるのである!」

「あ、ああ頼りにしてる」


 ジェーンが二の腕の筋肉を強調しながら言うが……普通、神官がアンデットに対して任せろと言う場面で、筋肉あんまり関係ないだろ。


「ごーごー」

「ガウガウッ!」

「いや、わんころにゃんは送還するから」

「ギャウ!?」


フォンを乗せたわんころにゃんがそのまま廃坑内に突入しようとするのを引き止める。

 ケルベロスが廃坑内に入ったら狭いんだって、そんなに広い訳でもないし。

 

「クゥ~ン……」


 しかし余りに三対のつぶらな瞳を向けてくるので、仕方なく一旦送還してから、簡易召喚サモン・アバターでミニサイズに召喚し直した。

 ケルベロスに乗って移動出来て楽ちん、そう目論んでいたフォンはちょっと不満げだが。


 廃坑の入り口の前の小屋の衛兵に身分証を見せ、何やら紙束に記帳させられる。

 ここで出入りを一括で管理してるわけか。


「中は……くっらいな~……」


 いよいよ廃坑に入った俺達だが、通路にはこれと言った照明も無く一寸先は闇状態だ。


「しょうがないよ。アンデットは光が嫌いだから、坑内に灯りを用意してもけされちゃうもんね」


 言いながらカンテラを出して灯りをつけるミリィ。

 もっともカンテラの灯りは火ではなく、ライトの魔法石を組み込んであるものだ。


 本来魔法石は使い捨てなのだが、極々低レベルな魔法なら何度か使えるらしい。


「先頭は……」

「ガウッ!」

「いやお前じゃないよ」


 最近、遊べる人間が増えた所為かケルベロスはテンションが高い。


「ふむ、この身に任せるのである!」


 ジェーンが申し出てくれたので灯りは任せて、その後ろを三人と一匹で付いていく。

 ケルベロスははしゃいぎまくり、尻尾をぶんぶん振りながら走ったり跳んだり……散歩か?


「えーと……これ、地図見辛いな」


 入り口で銅貨十枚で購入した羊皮紙の書かれた廃坑の地図を見るのだが、階段や梯子できっちり階層分けされている訳じゃないので、地図の方も何だが見辛い。


「――という訳で、任せた」

「はいはい、任せれました。えーとね、今は入ったばかりだけど、入り口の付近は他の冒険者も多いから、少しだけ奥に入った方が良いと思う」

「――むぅ、面倒くさい……」


 フォンだけが難色を示すが、誰も取り合わず暗い坑道を進む事となった。


 木枠で支えられた坑内はそれなりに幅も高さもあり、巨漢のジェーンを考慮に入れても三人で横に並んで立ち回りできるぐらいの空間はある。

 そんな坑内を時に分かれ道を、時に上り道下り道進むのだが、幸か不幸か他の冒険者には会わなかった。


 ……で、


「ふおぉぉぉぉ、きましたぞきましたぞ!」

「……何言ってるの、タツヤ?」


 鼻を突く腐臭、それを感じると同時にヒタヒタと足音が耳に飛び込んでくる。

 ジェーンの持つ灯りに照らされたそれは、体のアチコチが腐って落ちたゾンビだった。


 それが三人、と言うか三体。

 格好からして鉱山夫が二人に剣を持った冒険者が一人……ああ、ここで死んだら俺達も仲間入りな訳か。


 それにしても……


「ぐっ、アンデット系は初めてだけど、臭いし気持ち悪い……」

「だ、大丈夫?」

「ああ、なんとか……お肉って腐りかけが一番美味しいらしいし」

「完全に腐ってるよ!?」


 何て馬鹿なやり取りをしている間にゾンビどもが呻き声を上げながら襲い掛かって来るが、それを前に出たジェーンが迎撃する。


「むぅん、浄化ターンアンデット! 浄化の光で安らかに召されるのである!」


 ジェーンの手から淡い光が生まれ、その光は輝きを増していく。

 その光を宿した手をゾンビ達に向け……


「ふううぅぅぅんっ!!」


 拳を握りしめ思いっきりぶん殴った!

 殴られた一体の頭が勢いの余りもげ、頭を失った胴体にボディブローを打ち込んで壁まで吹っ飛ばす。

 やられたゾンビの体は光の粒子となって消えていった。


 ……殴る必要あるのか、その信仰魔法?


「なんて、ぼうっとして場合じゃないな。召喚武装サモン・ウェポン番犬三叉槍ケルベロス・トライデント!」

「ガウガウッ!」


 妖精の小箱から出した三叉槍にケルベロスを同化させる。


「壱火、火炎槍フレアランス!」


 真ん中の穂先に火を宿した三叉槍を突き出すと、尾を引いた火炎がそのままゾンビの一体に突き刺さる。

 何とも言えない肉の焼ける匂いを残して、ゾンビはその場に崩れ落ちた。


 ……浄化の信仰魔法使わないと、からだはそのまま残る訳か。


 臭いに顔をしかめている間に、最後の一体を相手にしていたミリィのに加勢したジェーンが、横から浄化の光を宿した拳で粉砕した。


「浄化使わなくとも素手で行けるんじゃないか……?」


 まぁ、悪臭を放つゾンビの屍が消えるだけでも大きいか。


「――むぅ、臭い」

「すんません」


 フォンが焼けるゾンビに顔を顰めながらこちらを見てくるので、素直に謝った。

 あれは臭い、今後ゾンビの相手をするときはトドメはジェーンに任せよう。


 それは置いといて、倒したゾンビ達が居たところから白い石を拾い上げる。


「やっぱり、アンデットでも下位のゾンビじゃ霊石も小さいね」

「あ、これが霊石ね。こっちのは……骨?」


 ジェーンが浄化した後には霊石だけかと思いきや、何処かの骨が一本残っている。

 手に持つと槍と同化を解いたケルベロスが何かを期待する目で見上げながら、尻尾を振ってクルクルその場を回る。


「とってこーーい!」

「ガウッ!」

「なんて、投げないけど……って、おーーい!」


 投げる振りだけすると、凄い勢いで通路の奥へ走っていくケルベロス。

 ……うーん、知性はかなり高いはずなんだけど、こういうところは犬と変わらないな。


「あ、それはギルドに持って行くか錬金術師のお店なんかに持って行くと買い取ってくれるよ」

「アンデットの残す霊骨は解呪薬や死霊系の召喚に利用できるのである!」


 良く分からないが利用価値はあると。

 それならひとまとめに袋に入れて妖精の小箱に放り込んでおこう。


 あ、酷く落ち込んだ雰囲気を纏ってケルベロスがトボトボ戻って来た。

 ちょっと罪悪感を感じるから、妖精の小箱から日本のペットショップで買って入れていた骨の形をしたおやつをあげた。


「服とかは残ってるけど、こういうのはどうなるんだ?」


 衣類や武器防具などは浄化とは別枠の様でそのまま残っている。


「特別な場合じゃない限り拾得者の物になるよ。だからタツヤのアイテムボックスの中に入れて置いたら?」

「そうだな、そうしようか」


 ミリィに言われるまま装備を妖精の小箱に入れようとして、ふと思いついて装備に手を合わせしばし黙祷。


「――何してるの?」

「ん? ああ、俺の故郷のやり方で、故人に向けての哀悼の意を示すって言えば良いのかな?」

「――キリが無いよ?」

「分かってる、出来る範囲の自己満足だ」


 フォンの言葉はドライだが、これはフォンの方がこの世界的には正しいのだろう。

 この世界はそれだけ、死が身近にあると言う事だ。

 

 フォンの質問に答えながら武器や防具と言った、お金になりそうなものだけ入れていく。

 あ、冒険者証があった。これは後でギルドに届けるか。



 その後も引き続き坑内の探索を行う。

 ある程度奥に入ったからか、ゾンビ、スケルトンなどの代表的なアンデットと遭遇するも、ほとんどがジェーンの浄化の光を纏った拳で粉砕されていく。


 時折大きな蝙蝠やゾンビ化した野犬も襲い掛かって来たが、それも前者と同様の末路を辿った。

 中には煙の塊に顔が浮いているような幽霊霧ゴーストミストと呼ばれる魔物も出たが、そういった相手にも浄化の拳は有効だった。


 アンデットに関しては浄化万歳だ、俺とかミリィの前衛要らないような気がする。


「むふぅ、やはり皆での冒険は楽しいであるな!」

「……ジェーンが良いんなら、こっちも良いんだけどな」

「やっぱり神官が居るとアンデット対策は楽だよね」

「――楽ちん楽ちん」


 何だかんだ言いつつ霊石も十個ほどになり、ある程度探索を進めると他の冒険者にも出くわす。


 前衛が三人、中衛が二人、後衛が一人と言ったところか。

 どうやら神官は居ないようで、スケルトンとゾンビの混成相手に中々苦戦を強いられているようだ。


「待て、それ以上近寄るな!」

「えっ?」


 後衛の魔法使いらしきローブの男からこちらに声が飛ぶ。


「タツヤ、これ以上近づくのはルール違反だよ」

「ルール?」

「慣例みたいなものだけどね」

「中には冒険者を装って後ろから襲い掛かる盗賊も居るのである!」


 あ、なるほど、盗賊の疑いがあるからこっちにくるなってことね。

 

 その場で立ち止まり手を上げて了解の旨を伝えて、別のルートへ行くためのに地図を確認する。


 ん~、ここからだと行き止まりや元の場所へ戻る様な通路ばかりだな。

 あ、奥に進む通路もあるが……


「ちょっと奥に入ることになるけど、この道はどうだ?」

「んー、大丈夫かな? 奥に入るとそれだけ強力なアンデットも出てくるけど……」

「良いのである! むしろ少々物足りないのである!」

「――お腹すいた」

「はいはい、お菓子でもどうぞ」


 フォンにクッキーを与えながら、上機嫌で先を行くジェーンの背を見、そしてミリィと視線を合わせて肩を竦めてその後を追うのだった。


次回の更新は5月7日(水)の予定です

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