第十九話 到着、そして帰宅
ガッタッゴット、ガッタッゴット……
「タツヤ、もうすぐ町が見えてくるのである!」
「了解。御者台に出ておくか」
グラリオースを出て次の日。
本来なら馬車で三日かかる距離がたったの一日で済んだ。
僅か一時間とは言えドラゴンに乗って移動するのは随分と便利だ、どうにかして魔力切れ対策を考えてくのもいいな。
「それにしても……」
馬車の外。馬車を引いて貰っているケルベロスと、その背に腕を組んで座っているジェーン。
この組み合わせが見た目凶悪すぎる。
ケルベロス単体でも怖いのにスキンヘッドの悪漢がライドオン、世紀末覇者もビックリだ。
現に擦れ違った旅人は漏れなく悲鳴を上げて逃げ出すか、腰を抜かして命乞いをし出した。
一応ジェーンはメデュアの神官が着る貫頭衣を常用しているのだが、物の見事に誰も信じない。
その都度俺が出て説明する羽目になっていた。
なので、町に入るときも俺がいる方が良いだろう。
「それに対して中は平和だな」
御者台に座って馬車の中を振り返って見る。
そう広くない馬車の中では、幼女姿のシルヴィを餌付けして抱え込んだミリィとフォン、それからいつの間にか荷物に紛れ込んでいたシルフ達四精霊が、俺が教えたトランプゲームに興じている。
ミリィは精霊が見えないので遊んでいるのは膝のシルヴィなのだが、ミリィはいままで見た事が無いくらいにニコニコ上機嫌だ。
あ、シルヴィは勿論本体じゃなく簡易召喚で器を作った、仮の姿だ。
ただ元になるサイズが大きい為か、簡易召喚で呼んでも馬ぐらいの大きさになった。
そこからシルヴィが人化の術を使うと、本体が使った時と変わらない幼女姿になったのだ。
理屈はわからないが、ドラゴン姿と違って騒ぎにならないしこれぐらい良いだろう。
「お、見えてきた」
街道の先に塀で囲われた町が見えてくる。
道に沿って入り口の方に近づいていくと、経っていた衛兵らしき人物が慌てて中に引っ込む。
すると十人以上の兵を引き攣れて戻って来た。
「あれって……」
「ふむ、ひょっとすると近くに賊がでたのかもしれないのである」
いや、むしろ俺達が賊と思われてるんじゃ?
「そこ馬車! と、とまれーーー!」
もう少し近づいたところで、遠くから声を張り上げた衛兵にストップを掛けられる。
ケルベロスは何を言うでもなく止まってくれたが、やっぱり警戒されてるな。
「ケルベロスとジェ……ケルベロスが警戒されてるっぽいから、ちょっと行って説明してくる」
自分も行くのである! とか言い出さないうちにさっさと馬車を降りて歩いていく。
「お前達何者だ!」
「いやいや、タダの冒険者の一団ですから」
後方のケルベロスが怖いのか、あるいはジェーンが怖いのか。
まず両方だろうが、思いっきり腰が引けている。
構わず近づいて三ツ星の銀の冒険者証と貴族として発行された身分証の二つを渡す。
「……こ、これは、貴族様でしたか。……ん? リングラード家の……と言う事は、ひょっとして噂の”召喚剣士”と言うのは貴方様で?」
「ええ、そうですけど……って噂になってるんですか?」
「勿論ですよ! 何でも流星の如く現れてあっとう間に三ツ星に昇格。契約するのも難しい精霊や魔物を使役し、あの”竜殺し”のエルシア・リングラードの弟なんですからね!」
思いの外有名になってるっぽいのは予想外だが、”召喚剣士”と言うのが認知されれば気軽に街中で召喚出来るようになるかもしれないな。
中二病なので、連呼されると踵を返して逃げ出したくなるが。
「なるほど、あのケルベロスは貴方様の召喚獣だったのですか、失礼いたしました。あ、町へ入って頂いて構いません、こちらもお返しします」
「どうも。あ、町中へはケルベロスは入れても?」
身分証を受け取りながら聞くと、衛兵はちょっと考える様に間を置いてから言った。
「召喚士の召喚獣については基本的に禁止されていませんが、明らかに治安を乱す様な場合には対処する事もあります」
問題を起こさない限りはオッケーだと。
「ありがとうございます。お仕事ご苦労様です」
馬車へ戻りケルベロスを促して入口へと行く。
馬車内の検査などもあったが、軽く外から伺うだだけで終わってしまったのは、貴族だからだろうか。
一転して友好的な衛兵達と別れて町の中へと入る。
馬車を引くケルベロスの存在に町民は驚き恐怖していた様だが、暴れるでもなく大人しく馬車を引いているのを見ると遠巻きにするぐらいで落ち着いた。
むしろ、
「ねーね、触ってみてもいい?」
「すげえ、めちゃくちゃ口でっけぇ!」
「ふわぁ、すごくふさふさして気持ちいいよ」
年端もいかない子供たちに大人気のケルベロス。
こういう時の子供はまさしく好奇心の塊、恐れるどころか積極的に触ってくる。
そしてケルベロスも気を良くして、触らせたり舐めたりと子供たちに優しいので問題らしい問題は起こらなかった。
そんな子供たちの一人からお勧めの宿屋と教えてもらうと、御駄賃に銅貨五枚ほどで案内してもらった。
赤い煉瓦作りの中々高級感のある宿だ、きちんと場所を止めるスペースに馬房もある。
ケルベロスは送還するし、馬車は妖精の小箱にしまうので使わないけど。
シルヴィも送還し、四人で宿に入ると恰幅の良い宿屋の主人が出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました、リングラード御一行様」
「え、もう知ってるのか?」
「あはは、娯楽に乏しい町ですので噂が回るのは早いのですよ」
そんなものかと思いながら、宿帳の記入を促してきたので文字の書けない俺はそれとなくミリィに回す。
このパーティのおっかさんみたいなものだし。
「タツヤ、宿泊は七日間ぐらいで良いかな?」
「え、それは長くないか?」
「この町の近くにはアンデッドの巣窟になっている廃坑があるの。そこなら魔物の素材で路銀を稼ぎやすいから、少し留まっても良いんじゃないかと思って。旅用の道具なんかを買ったせいで、懐もちょっと寂しいもん」
加えて、ここからクロスロードまでは特にそう言った場所はないから、ここで稼いでおかないと冒険者的に稼ぎ辛い日々になりそうだとの事。
この町に来るのは初めてなのに詳しいな……と言うか、俺が下調べしなさすぎなのか。
「そうだな、財布には常に余裕があるぐらいが良いよな」
俺個人なら財布に余裕があるけど、ミリィ的には三ツ星の冒険者になれたし、一人におんぶに抱っこは嫌いだそうだ。
そういう拘りやプライドは嫌いじゃないから尊重しよう。
「それじゃ主人。二部屋で七日間お願いするけど、幾らになる?」
「ご利用ありがとうございます。四名様で二部屋ですと、七日で銀貨七枚になります」
一日銀貨一枚分、高いのか安いのかイマイチ良く分からない。
ただ他と比べて建物が立派だったし、ミリィの渋面を見るに料金は高めだとすれば高級宿の部類に入るのだろう。
渋るミリィを説得してお金を支払い、小間使いの少女に案内されて向かい合わせの部屋へ案内される。
チップに銅貨を一枚渡し、男女でそれぞれの部屋に分かれた。
「はぁ~、疲れた!」
やはり高級宿らしい柔らかなベッドに身を投げ出すと、そんな言葉が自然と口をついてでる。
真似して四精霊達がベッドにポンポン乗っかってくるのだが、揃いも揃ってどうして人のお腹に乗ろうとするのか。
「む? そんなに疲れる様な行程では無かったのである」
「いやま、そうなんだけどさ。ただ、馬車がどうしても慣れなくてな……」
ケルベロスに引いて貰った馬車なのだが、襲い掛かってくる野生動物も不届き者も居ない、御者も必要ないと安全快適な旅路ではあった。
しかし、問題が一つ…………尻が、痛い。
街道は地面を固めただけで凸凹はあるし、馬車も衝撃を吸収するサスペンションなんて気の利いたものは無い。
ミリィ達は旅に慣れてるからか全く不満はなさそうだったが、俺はガタガタ揺れる馬車のおかげで尻が痛くて敵わなかった。
これから先の長旅も不安だ……
コンコンッ
「タツヤ、ちょっと良い?」
ノックとミリィの声に良いよと答えると、扉が開いてミリィが入って来た。
ベッドから降り、精霊達には妖精の小箱から出した木皿の上にクッキーを出して置いてやると、大人しく囲んでおやつタイムに入ってくれる。
「タツヤ、これから冒険者ギルドに行かない?」
「別に構わないけど、どうしてだ?」
「廃坑関係で素材の依頼や情報がないか確認しておこうと思って」
「あ、なるほど。それなら俺も行っておこうかな。ジェーンはどうする?」
「うむ、ならばこの身はこの町のメデュア教の支部に顔を出すのである!」
何故か腕の筋肉を強調しながら答えるジェーン。
「あ、そ……フォンは?」
「寝てるよ」
ホントにやる気ないな、あのエルフ娘。
□
宿の主人に聞いた冒険者ギルドの行くと、そこは王都に比べて幾分規模こそ小さかったが、中は活気で溢れていた。
王都に比べて人も多いし完全武装の者もいる。
「王都のギルドより活気があるような?」
「向こうと違って廃坑みたいなスポットがあるし、王都から少し離れてるから野生の魔物やならず者もいるから。王都しか知らないタツヤじゃ、わからないのもしょうがないよね」
ちょっと先輩ぶって言うミリィの尻尾が、得意げにピンと立っている。
その尻尾をサワサワしたら、この場で冒険者ギルドの留置所に叩き込まれるだろうか?
「おい邪魔だ、どけ」
「おっと、失礼」
入り口を塞いでいたのは拙かった。
出ていこうとしたパーティの一団に言われて、邪魔にならないように横にスライドする。
「ふんっ!」
鼻を鳴らして出ていこうとする先頭の男だが、その態度に不快感を覚えるより前に男の顔への興味の方が勝った。
男はどうやら獅子の獣人らしく、顔がまんまライオンさんだった。
まさに二足歩行するライオン、横にいる人間に猫耳と尻尾が付いただけのコスプレっぽい獣人とは訳が違う。
他にも蜥蜴(リザードマンか?)、狼の獣人もその後に続くが、二人とも顔に人間ぽさがほとんどない。
そして、最後の一人らしき目深にローブを被った性別不明の人物が前を通り過ぎ……
「……あら?」
通り過ぎなかった。何故か俺の前で足を止め、少しだけローブを捲って見てくる。
二十歳過ぎくらいの非常に端正な顔立ちをしたイケメンなのだが、視線は俺の目じゃなく少し上を向いている。
死ねばいいの……じゃなくて、視線は位置的に俺の頭の上くらい……?
「あ……ひょっとして、こいつ見えてる?」
一人だけ頭に乗ってに付いてきた風精霊を下ろし、両手で持ってその人の前に差し出してみる。
当のシルフは脚をプラプラさせて何故か楽しそう。
「はい……と言う事は、貴方にも見えておいでなのですね?」
「ええ、勿論」
出ないと頭から掴んで下ろすなんて出来ない。
「人の身で精霊を見て、そこまで自然に接する事が出来る者は初めてお会いしました」
「そういうそちらさんは、もしかしてエルフですかね?」
「おや、わかりますか?」
「うちのパーティにもエルフがいるので」
フォンと初対面の時も似たようなことを言われたし、顔を隠すローブも一緒だ。
「おい、レンド。何やってるんだ、いくぞ」
「ああ、すいません。すぐに行きます」
前を行く狼獣人に促されたエルフが少し進んで、振り返りながら言った。
「よろしければお名前をお伺いしても?」
「タツヤ・リングラードですけど」
「ほう、あの噂の……失礼、僕はレンドと言うしがないエルフの冒険者です。縁あればまた何処かでお会いしましょう」
微笑みを残して爽やかに去っていくエルフことレンド。
「そう言えばエルフの同性って初めて見たが、どうしようもなくイケメンだな」
「イケメン? 料理?」
「いや、美形の男だって事」
首を傾げるミリィに麺類の事では無いと説明してやる。
「ふーん、よく分からないや。故郷のエルフの人達ってみんなあんな顔だったし」
つまりどいつもこいつもイケメンだと。
もてない男どもを敵に回す種族だと言う事は分かった。
気を取り直してギルド内に入り、依頼の張り紙や廃坑についての情報などを確認していく。
「廃坑って割に結構鉱石系の依頼が多いな」
「ギルドの職員に聞いたけど、一度落盤の事故があってその所為で閉鎖されたんだって。何年か後に別の入り口を作って採掘を再開しようとしたけど、落盤の事故で坑内で亡くなっていた人達が……」
「アンデット化したわけか」
この世界だと弔われない遺体や強い恨みや執着を持つ者は、死してアンデット化する事があると聞く。
落盤で死んだか取り残されたかはわからないが、取り残された鉱山夫達はそれは無念だっただろう。
「ところで買い取り価格の高い、この“霊石”って何?」
依頼に多くやギルドの買い取り表の高価格帯に書かれている“霊石”とは何だろうか。
大きさや質で買い取り価格が上下するようだが、一番安い物でも銀貨一枚となかなかの買い取り価格だ。
「あ、知らないんだ? 霊石ってアンデット系の魔物を倒すと偶に残す、こう、白っぽい石でね? 上位のアンデット程残しやすいし、大きさや質も良いの物を持っているんだよ」
ほうほう、なるほど。差し詰め魔核の代わりみたいなものか?
「それに魔霊薬の原料になるよ」
「魔霊薬?」
オウム返しに尋ねると、どうやら魔力を回復する薬だと言われた。
……そうか、そうだよな。回復薬みたいに怪我を治す薬があるんだ、魔力を回復する薬が有っても全然不思議じゃない。
だとすると、ひょっとして懸念が解決するかも知れない。
クックック、うまく行けばケツの痛みから解放されるやも……
「それは良いけどね、最近の廃坑で行方不明の冒険者が増えてるらしいんだけど、その調査に四ツ星のパーティが……タツヤ、聞いてる? タツヤ!」
ミリィが何か言っている気がするが、俺は自分の思いつきに夢中でまったく聞いていなかった……
□
ギルドでの情報収集も一段落着き、ミリィと別れて宿の部屋に戻ってきた。
「ただい、まっ!?」
出迎えたのは、暑苦しく汗をかきながら腕立て伏せするジェーン。
「タツヤ、戻ったであるか。して、首尾はどうだったであるか?」
「……あ、ああ、ええと……」
ちょっと目の前の光景に一瞬意識が飛んだが、何とか再起動。
目を向けない様に情報を伝えながら、妖精の小箱から丸まった絨毯を取り出して床に敷く。
「ちょっと屋敷に戻ってるから、ミリィ達にそう言っておいてくれ。就寝までには戻ると思うから」
「おお! それがタツヤの言っていた魔道具であるか。承ったのである、ゆっくりとしてくると良いのである!」
「ありがとう。しかしだな……」
あんまり言いたくないが、ここで指摘しておかねば大災害になりかねない……!
「せめて下は隠せ!」
全裸で腕立て伏せは止めろ、心臓止まるかと思ったわ。
気を取り直して絨毯の上に乗り、足元から魔力を流し込むと絨毯に魔方陣が浮かび上がる。
視界が暗転。光を取り戻した時にはジェーンの姿は無く、場所もまた宿屋では王都にあるリングラード邸の自室だった。
転送陣と呼ばれる魔道具で、ラヴィア姉さんから借り受けたものである。
二枚一組の魔道具で広げて置いておく事で、上に立って僅かに魔力を流すだけでもう片方に転移出来と言う優れものだ。
この世界のも転移魔法も装置もあるのでそう珍しいものじゃないと思っていたが、義父のクルド曰く転移魔法とはそう長距離を移動できるものではないそうだ。
ちょくちょくこの魔道具で顔を見せるつもりだった俺は、旅に出るとと言った時の義父との会話に食い違いが生じた理由はこういう事だと悟った。
まぁ転送陣は転送陣で、それなりに色々と制限もあるんだけど。
部屋を出ると通りすがりの使用人がビックリした顔で立ち止まるが、義父から何かしら言い含めてあったのかすぐにお辞儀して歩いて行った。
良いね、無駄な説明しなくていいてのは!
「タツヤか。話通り本当に戻れるのだな」
振り向くとエルシア姉さんが歩いてきたので、一緒に歩きながら話す事に。
取りあえず廃坑近くの町に一日で着いた事を伝えると驚かれたが、詳しいところはちょっと濁して置いた。
なんか、昨日王都付近でドラゴンの目撃証言があったとかで、確認作業の為に兵士や冒険者が多数駆り出されているらしい。
もしドラゴンの目撃証言が本当なら、このグラリオースに襲撃に来る可能性もあるからだ。
グラリオースは城壁覆われているが、空を飛べるドラゴンには何の役にも立たない。
――すいません! 単に楽に移動したかったから俺が呼んだんです!
……とは流石に言えなかった。ドラゴンを呼ぶのはやはりやり過ぎか、ちょっと自重しよう。
「タツヤが旅に出ていると言うのに、こうしてすぐに会えると言うのも不思議なものだな」
「これぐらいないとエルナもエリナさんも納得してくれなかったし」
義父クルドは割と理解を示してくれたが、女性陣はかなり引き止められた。
エルナなんか目に涙を溜めて上目遣いするもんだから罪悪感が半端じゃないし、義母エリナは娘の隣で同じ事やって何やってんのと思ったし。
そして転送陣がある事を説明し、かつ最低でも週に一度は家に帰る事、王都で用事がある時はそちらを優先する事などを条件に渋々納得してもらえたぐらいだ。
「ああ、そうだ。その転送陣とやらの事だが、宮廷魔導士のグラムス殿が是非お借りしたと言っていたぞ」
「……ああ、あの人か」
この世界に来た初日に王様の隣にいた人ね。
やはり俺に関する情報はリングラード家からきちんと報告されているらしい。
「あの方は研究畑の出だからな、そのような魔道具には知的好奇心が刺激されてしょうがないらしい。頭を使うのが好きとは、私には良く分からない感覚だがな」
「向こうも同じような事を思っているよ、きっと。転送陣に関しては予備はあるけど借り物には違いないから、持ち主に先に了承を取るからちょっと待って」
あの宮廷魔導士という人は国王に、俺を元の世界に戻す為の手掛かりを探すよう仰せつかっていた。
俺の方からも何かしらご機嫌取りの一つでもしておいた方が良いかな。
後進が遅れてしまい申し訳ありません。
次回の更新予定は5月1日(木)となります。




