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第十六話 コボルト退治

「“白き癒しの担い手よ、その欠片を分け与え、彼の者に安らぎを与えん……”」


 朗々として声が響き渡り、その腕から白く優しい癒しの光が溢れだす。


治療ヒール……ふんぬああぁぁぁーーーッ!」

「ぐっふぉーーーっ!」


 光を纏った拳が野太い雄叫びと共に男を吹っ飛ばしていった。


「ふんぬ! ふんぬ! ふんぬ! ふんぬああぁぁーーー!」

「げへぽっ!」

「ヒィ! お助け……ぎゃふん!」

「メデュアの白い奴はバケモぐへっほ!」


 両手に光を纏った大男が次々と屍の山を築き上げていく。


「む、あぶなあああぁぁぁぁい!」


 御者を狙った矢を自分の身を挺して庇うジェーン。


「し、神官様っ!? 大丈夫ですか!」

「あ、危なかったのである……」


 貫頭衣を捲り矢が刺さった場所を見せる。


「この身の鍛え上げた腹筋が無ければ命を落としていたかも知れないのである」


 普通に化け物だ。


「ふぅ……今日も多くの者に、メデュアの教えを説けたのである」

「いやいやいやいや!」


 そこでようやく俺は突っ込むことが出来た。



 メデュアの神官、ジェーン・ブライド。

 ザンザスが霞む程の筋肉にスキンヘッド、チョビ髭でハイテンションの年齢不詳の大男。


 俺達の三ツ星への昇級試験官となったジェーンと一緒に、コボルト退治の為に王都の南西にある山にやって来ていた。


 しかし、乗合馬車で二日程かけ目的地に最寄りの村の近くまでやってきたのだが、もうすぐと言う所で十人ほどの盗賊の襲撃を受ける。


 ……が、結果は語る必要も無いだろう。

 ってか俺達は見てるだけだったし。


「あの、どうして殴る時に治癒の信仰魔法を?」

「ふむ。この身は手加減と言うものが苦手な故に、治癒を纏っていなければ大抵相手を死なせてしまうのである」


 ロープで簀巻きにした盗賊十人を一人で引き摺りながら、恐ろしい事を平然と言ってのけるジェーン。

 この人の怪力は俺の腕力強化パワーⅡと同等以上の力を秘めている気がする。


「わたし達の試験なのに手伝ってもらって良かったんですか?」

「問題ないのである。盗賊などのイレギュラーな事態では、試験官の裁量で加勢が認められているのである」


 加勢と言うか一人による一方的な蹂躙だったが。


 村に辿り着き役場に盗賊達を引き渡すと、幾つか有る宿屋からミリィが選んだ場所に部屋を取った。

 コボルトの居る場所はそう離れてないが、今から行くと夜になってしまう。

 敢えて危険を冒して夜の山に入る必要も無い。


 異世界きて初めての宿屋。

 山間の村の宿屋なので中身は推して知るべしだが、それでも多少はテンションが上がっていたのだが……


「さぁ、今夜は存分に語り合うのである!」

「か、勘弁して……」


 部屋は二つ。俺とジェーン、ミリィとフォンだ。

 

 俺とジェーンは別部屋で良いじゃないかと抗議したら、お金が持ったいないから駄目とミリィに怒られてしまった。


 食堂にて四人で食事を取って明日の行程を確認した後は、明日に備えて早寝しようと言ってミリィ達と別れたのだが、何故かジェーンは夜更かしする気満々だ。


「ジェーンはどうしてそんなに張り切ってるんだ?」


 呼び捨てにタメ口でも良いと言われたので、お言葉に甘えて気軽な調子で話しかける。


「この身が冒険者と共に行く事は随分と久しぶりなのであるが、ひょっとして迷惑だったであるか?」


 迷惑と言うより怖いと言うか、暑苦しいと言うか、視界の暴力と言うか。

 袖の無い貫頭衣で両腕剥き出し、パッと見、裸エプロンに見えてしまって変な想像が脳をかき乱すとか言えない。


「いや、回復できる人がいると助かるし、試験だし迷惑って訳じゃ……」

「この身はどうしてか、冒険者パーティへの派遣を断られ続け、試験官として選ばれても断られ続けるのである。この身の何がいけないのかさっぱりわからないのである」


 ……強いて言うなら筋肉?


「しかし、タツヤ殿一行は快く受け入れてくれたので、大変嬉しいのである」


 人を殺せそうな笑顔(恐怖度的に)でそう言われると、「ああ、うん」としか言えない小心者の俺。


 結局、夜が更けるまで自分の事を話したり、ジェーンの事を聞いたりする羽目となった。


 ――ジェーンは寝る時服を着ない派のようで、色々怖かった。



「もうすぐ廃棄された木こり小屋が見えてくるが、そこにコボルト数匹住み着いているはずなのである!」


 翌朝、ジェーンの先導を元に山の中を進む。

 木々は多いが村から獣道も伸びているし、ジェーンが道を阻む枝などを意に介さず突き進みので、後ろの俺達は大変進みやすい。


「そろそろ警戒しとかないとな。ミリィ、何か聞こえたりするか?」

「うーん、近くには多分なにも居ないと思うよ」

「フォンは?」

「――大丈夫、何も居ない」


 耳の良いミリィと、風の流れで周囲を探る探知サーチという魔法を使っていたフォンが太鼓判を押す。


「そっか。それじゃ俺も準備しておくかな。簡易召喚サモンアバター:ドライアド」


 手の平の魔方陣から花の蕾が現れ、開いた中にデフォルメされた緑の髪の少女がいた。

 簡易召喚版のドリューだ。


「若様、呼んだ?」

「ああ、ちょっと力貸してくれ」

「おお、それがタツヤ殿の召喚術であるか! ふむ、この身が知っている召喚術とは異なるもののようであるな」


 ジェーンが首だけこちらに向けながら、興味深げにドリューを見る。

 ドリューは俺の肩に乗ってジェーンを見ているが、「食べ甲斐がありそう……」とポツリと怖い事を言ったのが聞こえた。


「ちっちゃいドリューちゃん呼んでどうするの、タツヤ? ドリューちゃんがいたら心強いけど、その大きさでも戦えるの?」

「まぁ、それは見てのお楽しみと言う事で」


 首を傾げるミリィに笑いかけると、ジェーンから制止の声が掛かる。


「到着したので声を潜めて欲しいのである」


 ジェーンの視線の先には森が開けた場所に、粗末な小屋が建っていた。


「ここからはこの身は審査に入るので、タツヤ殿達だけで頑張って欲しいのである。武運を祈るのである」


 そう言って脇に避けるジェーン。

 後ろの二人と視線を交わし、小屋の様子を伺う。

 小屋の周囲にはコボルトの姿は見当たらないが……


嗅覚強化センス・スメル……ぐぬ、い、犬臭いな……」


 どうやらコボルトの住処で間違いはないみたいだ。


「さて、どうしようか?」

「わたしとタツヤで相手するから、フォンは探知で周囲を警戒してて。他の魔物が来るかも知れないし、出払っているコボルトも居るかもしれないしね」

「――ん、了解」

「それじゃ、ちょっとノックしてみますか。ノーム、お願いできるか?」


 地面を軽く叩きながらそう言うと、地面の一部が盛り上がりそこからデフォルメされたモグラ――土精霊ノームがひょっこり姿を見せる。


「なんと、精霊まで使役できるであるか!?」

「え、分かるんですか?」

「この身ほど心が純粋で清らかであれば、精霊を感じる事は容易いのである!」


 自分で心が純粋とか清らかと言うのってどうなんだろう?。

 そして、それが精霊を感じる事と関係あるのかも不明だ。


 もうこの人は何でも有りだと思う事にして、小屋の扉をノックしてくれるようノームに頼む。

 ノームがテクテクと歩いていき、小屋の扉を持っていたスコップで数度叩てすぐに地面に潜った。

 少し間を置いて扉が内側から開かれた。


 ぞろぞろ出てくるのは、前情報の通り折れた剣や錆だらけの斧を持つコボルト、計五匹。

 キョロキョロ周りを見回しているが、まだこちらには気がついていないようだ。


「それじゃ、いっちょやってみますかね」


 妖精の小箱から一メートル程の木の棒を取り出すと、ミリィが不思議そうに訪ねてきた。


「棒……? 剣は使わないの?」

「今回はこっちで行こうかとね。まぁ心配ないから見てなって。フォン、先制よろしく」

「ん、分かった。……風斬ウインドスラッシュ


 フォンが緑色の魔法陣が展開し、そこから放たれる風の刃が一体のコボルトを切り裂いた。


「それじゃお先!」

「あ、ちょっと!」


 森を飛び出しミリィの声を背に浴びながら、木の棒にドリューを乗っける。

 この木の棒は、ラヴィア姉さんの家となっている大樹を剪定した時の枝を加工した時の物だ。


「頼む、ドリュー!」

「あいあいさー」


 つまり、ドリューを同調させるにはこれ以上ない素材だ。


召還武装サモン・ウェポン虚脱之枝ドレイン・ブランチ


 ドリューの姿が光の粒子となり木の棒に吸い込まれるように消えると、木の棒に植物の蔓が幾重も巻き付いていく。


「グルルゥゥゥ!?」

速力強化スピードⅡッ!」


 こちらに気づいたコボルト達が体勢が整う前に、一番近いコボルトに急接近。

 そのコボルトが錆だらけの剣を咄嗟に振るってくるが、アッサリ避けて

脇腹に虚脱之枝を叩き込む。

 すると虚脱之枝に巻き付いていた蔓がコボルトへと伸び、その体に何重にも絡みついて動きを奪っていく。


 別のコボルトが横合いから襲いかかってきたので、蔓を切れるように念じながら飛び退いて回避する。

 虚脱之枝からコボルトに延びていた蔓は切れたが、巻き付いた蔓そのものは健在だ。

 コボルトは暴れて引きちぎろうとするが叶わず、むしろその動きがどんどん鈍くなっていく。


 コボルトの動きと反比例して蔓に赤い蕾が幾つも現れ、段々と大きくなっていくに従ってコボルトどんどんやせ細っていく。

  その蕾が満開の花を咲かせる頃には、コボルトの体は骨と皮だけのミイラになっていた。

 

 蔓が絡みつき、その命を吸い尽くして艶美な花をつけるまで僅か、十数秒。


『養分、養分~』


 嬉しそうに流れ込んでくるドリューの思考がちょっと怖い。


 その死に様に警戒心を抱いた様で、残り三匹のコボルトが踏み込んでこない。


 っと、


「背中借りるね!」

「おわっ!?」


 背中に衝撃を感じ前のめりにたたらを踏むと、頭上高くをミリィが跳躍するのが視界に飛び込んできた。

 ガンダ……じゃなくてミリィ、俺を踏み台にしやがったな!


 コボルト達の頭上すらも飛び越えるその跳躍力だが、その両手が空中で素早く動き、二本の白刃がコボルトに向かって放たれた。


 投げナイフか!


「ギュアアァァ!」

「シュグアアァ!」


 一つがコボルトの目に、一つが別のコボルトの方に突き刺さる。

 そのまま地面に危なげなく着地すると、腰からウーツ鋼の短刀を引き抜いて無傷の一匹と切り結ぶ。


 これは怪我した二匹は任せると言う事だろうか?


「だったら遠慮なく、緑之絨毯グリーンカーペットッ!」


 虚脱之枝を地面に突き立てると、そこから蔓が地面を覆い隠しながら絨毯の様にコボルト達まで延びた。

 瞬く間に蔓がコボルト達の足元を飲み込み、そのまま足から這い上がって全身を拘束していく。


「え、や、きゃあっ!」


 何故かミリィにまで絡み付き、蔓がミリィの服の中にまで侵入していく。


「んぅ、ちょっと、変なところ……やぁ……っ!」

「…………」

「タツヤッ!」


 ――はっ!


「ドリューッ! 止まれ、ストップ!」


 いかんいかん、ミリィの緊縛風景にちょっと意識飛んでた。

 慌ててドリューを注意すると、蔓が名残惜しそうにするする引っ込んでいく。

 既に他のコボルト三体は干からびているので、ちょっと味見したかっただけみたいだ。


 ……グッジョブ!


「何がグッジョブなのよ!」

「んごぃ!? ……し、しまった、声に出て……た、か……」


 短刀の柄で思いっきり後頭部をド突かれたみたいで、急速に意識が遠のいていった。



 あ、試験は無事に合格もらえた。

次回の更新は4月21日(月)予定です。

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