第十四話 毛刈りと蜘蛛の織り手
「どうするかな~、これ」
リングラード邸の自室。
妖精の小箱から出したミスリルの剣と冒険者の仕事の時に使っている黒い外套、二つを床に広げて見ていると思わず溜息が出る。
ミスリルの剣は刀身が八十センチメートルほどのロングソード等と呼ばれる物だが、所々刃こぼれしてしまっている。
黒い外套はアチコチ破れ、見た目がボロボロになってしまっていた。
前者はザンザスの戦斧と激しく打ち合った為、後者はザンザスの戦斧を避ける際に何度も掠った為。
……どっちも原因ザンザスじゃないかっ!?
「簡単な手入れならともかく、ミスリルを研ぎ直すのは無理だな」
「じゃあ研ぎ直して貰えばいいんじゃないの?」
遊びに来ていたミリィが新しく買ったウーツ鋼の短刀を二本、手入れしながら気楽に言ってくれる。
ルートガーさんから貰った謝礼で新調したらしい。
軽鎧も霧蛙と言う巨大蛙の皮を使ったものに新調したそうだ。
厚いゴムの様に固い上に軽く、火の攻撃や魔法にも耐性があって高価な物だとか。
本人曰く「冒険者としての未来への投資」らしい……ま、命あっての物種なので、無駄遣いと責める気はないが。
俺への借金もいくらか帰って来たし。
「研ぎ直しか……やっぱりあの人の頼むしかないか」
この剣を打ち与えてくれた人物の顔が思い浮かぶ。
……変な使い方しやがって! とか怒られないだろうか?
「――これは?」
同じく遊びに来ていたフォンが、いつもの青ローブを脱いで代わりに黒い外套を被りながら言う。
外套のサイズが大きいせいで完全に姿が隠れている。
「そっちも素材が特殊だからな……よし、丁度良いから素材を集めるところ手伝ってくれ」
「「えっ……?」」
声を揃えて首を傾げる二人の傾いた猫耳とトンガリ耳が可愛かった。
□
「本日は毛刈り日和だー!」
「お~」
「ガウガウッ」
「…………」
一人だけノリが悪い人がいます。
ミリィさん、貴女です!
――冷たい目で見られた。
リングラード邸、昼下がりの庭。
ハサミを持って手を上げる俺とフォン、そして近所に聞こえない程度に鳴いてはしゃぐケルベロスを、ミリィがちょっと距離を置いて冷めた目で見てくる。
「まぁまぁ、この子がタツヤの召喚できるという子なのね? 可愛らしいわ~」
義母であるエリナ・リングラードが全く恐れずに、わんころにゃんの頭を順に撫でている。
普段はおっとりしているのになかなかの剛の人だ。
危険は無いと言い含めて置いたとはいえ、控えているメイド姿の使用人は完全に腰が引けているというのに。
「ええっと、タツヤ。毛刈りってその子の?」
「もちろん」
「どうして?」
「外套の材料だから」
ミリィの質問に間髪入れず答える。
俺の黒い外套、実はケルベロスの体毛で作ってもらった物だ。
業火を吐くケルベロスの体毛で出来ていたからこそ、以前に火炎蟻の吐く炎に耐えられたという訳である。
「そ、そのハサミってもしかして……?」
「見ての通りミスリル製だけど」
青味が掛かった銀色の金属で作られた大きなハサミは、ミリィが勘付いた通りミスリル製だ。
だって普通のハサミだと、ハサミの方がボロボロになっちゃうくらい体毛の方が丈夫だからしょうがない。
「ミスリル製のハサミでケルベロスの毛刈り……あり、なのかな?」
冒険者としての常識を揺さぶられているのか、頭を抱えるミリィ。
悩みのバロメーターの様に尻尾が大きく揺れているが、にゃんの目がそれを追っている。
飛びつく前に毛を集める事にしますか。
「フォン、麻袋に切った毛を集めてくれるか?」
「――りょ~かい」
お菓子で手伝いを了承したフォンは大変素直だ。
そういえばラヴィア姉さんも羊羹を引き合いに出すと、割と色々融通してくれたりする。
――エルフって甘い物に目が無い?
他のエルフと知り合いになる機会が有ったら、確認してみようっと。
ケルベロスを座らせて、ハサミで大雑把に毛を刈り落としていく。
サイズがサイズなので適当に刈るだけでも結構な大仕事になるし、フォンもちょこまか動いて毛を回収していく。
ちなみにケルベロスは意外と長毛で普段は体躯も足も太く見えるが、体毛を刈り尽くすとシャープな雰囲気になる。
毛でふわふわのマルチーズを坊主にすると、チワワになった! ……みたいな感じだ。
「その子、大人しいわね。毛を切られるのは嫌じゃないのかしら?」
「あー、毛を切られると涼しくなるって知ってますからね。こう見えて割と暑いのは嫌いですし」
「あ、暑いの苦手なんだ……ケルベロスなのに……」
エリナさんの質問に軽く答える俺の横で、ミリィが呆れたように呟いている。
確かに火を吐くケルベロスが暑さに弱いって、何の冗談だよって思うよな。
それから二時間ほどかけて、ようやく胴体周りに体毛だけ刈り終った。
頭部と足、お尻の方は手つかず、胴体だけ毛が短くスマートと言った風情なので、アンバランスな事この上ない。
ダンジョンで出てきたら、たぶん怖がるよりも笑いが出る。
ケルベロスは涼しくなって上機嫌だが。
そして、遊びたがるケルベロスだったが、住宅街で遊ばれるとご近所にあらぬ噂が立ちそうなので送還した。
「フォン、手伝いありがとう」
「――ん、お菓子忘れずに」
大きく膨らんだ麻袋を受け取り妖精の小箱に入れ、使用人に頼んでフォンに焼き菓子を出してもらう。
後で使用人の方々にも何かお詫びを考えておこう、無駄に怖がらせたようだし。
「それじゃ、これから作ってくれる人の所まで行ってきます」
周囲に告げながら鍵を出し、宙に差し込むと『幻獣の庭』への扉が出現する。
「あ、わたしも行ってみたい!」
「――留守番して……」
「はいはい、フォンも一緒に行くよ。どうせお菓子食べて待ってるだけでしょ?」
「むぅ~…」
踵を返そうとしたフォンの襟首を掴めるミリィ。
お菓子で釣れるとは言え基本的にフォンは面倒臭がりだが、ミリィが引っ張るパターンは多い。
「あーー、ま、いっか。分かった、一緒に行こう」
既にミリィとフォンには色々見られたので説明済みだから、見られたところで特に問題は無い。
「あら、じゃあ私も……」
「いや、流石にエリ――母さんは遠慮してください。ほとんど人の手の入ってない場所なんで」
名前で呼ぼうとしたら寂しそうな顔をされたので言い直し、思い留まってもらう。
母さんと呼んだのが良かったのか、笑顔で了承してくれた。
冒険者としての装備を整えさせてから、ミリィとフォンを伴って扉を潜る。
扉を閉めて消えるのを確認して空を見上げると、こちらはまだ昼間だった。
前に夜のグラリオースから来た時も昼だったが、今回も昼とは時差はどうなっているんだろうか?
「うわー、ここが別の世界か……凄いね」
「――空がキラキラしてる」
「キラキラ……ああ、オーロラか。いや、本当にオーロラかは知らないけど」
空を見上げたまま呆ける二人。
明るい空には年中無休でオーロラが輝いているのは、見たことない者には大層美しく見えるだろう。
出た場所は前回と同じ森の中なので、まずはラヴィア姉さんの家を目指し森の中を三人連れだって歩く。
「ここの森、凄く空気が澄んでるね……故郷を思い出すな~」
「ミリィの故郷? こういう森の中なのか?」
「うん、そうだよ。周りも森に囲まれていてね、ここみたいに凄く空気が澄んでたかな」
確かにここは王都の森と違い、魔力に満ちているせいか雰囲気が違う。
ミリィの故郷は元々エルファンと言うエルフの国らしいが、ここと似たような場所なのだろうか?
「そう言えば、どうしてミリィは故郷を出て冒険者になったんだ?」
思えばこれまでミリィに関して突っ込んだことは聞いた事がなかった。
会って日が浅いからだが、俺も色々バラしたしこれぐらい踏む込んでも良いだろう。
「あはは、別に大した理由がある訳じゃないよ。ずっと森の中で暮らしてたから、変わり映えのしない毎日に飽きちゃって。つい外の世界が見たいからって、フォンに付いて家を飛び出しちゃった」
「い、家出だったのか……」
随分と思い切った事をする猫耳少女だ。
「ええっと、それじゃフォンも同じ理由で国を出てきたのか」
「――む、違う」
何故か眉を顰めて不機嫌そうに答えるフォン。
「――国を出るつもりは無かった。旅とか面倒」
面倒って言い切ったよ。
「う~ん、そうだね。フォン、タツヤになら教えちゃっても良いんじゃないかな?」
「――ん、まかせる」
「タツヤはエルファンに伝わる成人の儀って知ってるかな?」
「巡礼の儀?」
勿論、知ってるはずがない。
「エルファンでは大体百五十歳くらいが成人扱いされるんだけど、成人前に国を出て国外を回る風習があるの。色んな国を回って経験を積んで、百五十歳になってエルファンに戻って初めて成人だって認められるの」
「それが成人の儀か。大変そうだな」
確かフォンは百三十歳と言っていたから、あと二十年は旅しないといけない訳か。
随分と気の長い儀式、流石は長命種のエルフだ。
「でもフォンったら、成人の儀に出るのが面倒くさがっちゃって。フォン一人だと色々怠けて野垂れ死んじゃいそうだから、わたしが一緒に付いて旅に出る事にしたんだ。フォンの両親には感謝されちゃった」
ミリィが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
好奇心が行動原理の俺として、初めてミリィに親近感を抱いた。
そんな話をしている内にラヴァア姉さんの樹の家に到着。
「若様いらっしゃい。その子達、お土産?」
「こんちわ、ドリュー。二人は養分じゃないから手を出すなよ」
相変わらず養分好きのドリューを軽く流し、ラヴィア姉さんの在宅を尋ねると留守だと言われてしまった。
珍しく外出中か。
「取り敢えず転移門借りるよ」
「あいあい」
軽く断ってからラヴィア姉さんの家に入り、地下への階段を下る。
地下には円形の広間が有り、壁にはいくつもの扉が等間隔に備え付けられていた。
「タツヤ、これは?」
「転移門、それぞれの扉がこの『幻獣の庭』のアチコチに設置してる場所へ繋がってるんだ」
劣化版どこ○もドアみたいな物だ。
「へー、凄いね。同じような装置は向こうにもあるけど、もっと大掛かりな物だよ」
どうやらヒューム大陸にも同じような装置が各国にあるそうだが、建物一つが装置になっている割に人しか転移できなかったりするらしい。
お金がかなり掛かるので使った事は無いそうだが。
扉の一つを潜ると、またもや森の中に出た。
ただし、来た時の森と違って日の光があまり入って来ず全体的に暗い印象を受ける。
「――ここ、何処?」
「ここは“傀儡の森”……って、俺が勝手に呼んでいるだけだけどな。んま、ここには危険な生き物は居ないから気楽に行こう」
首を傾げるフォンの頭を一撫でしてから歩き出す。
暗い森の中では風の音や葉擦れの音、虫の声なども一切なく自分達の足音だけが鈍く響く。
「……なんだか、不気味なところだね、タツヤ」
「そうだな、夜に来るのはなるべく遠慮したいよな」
「――静かで暗い、眠くなりそう」
言いながら大きく欠伸をするフォン。
本当に眠ってしまいそうだな。
「寝るなよな、フォン。寝てもおぶってやらないぞ」
「――サービス出来るよ?」
胸を張るフォンだが……それは何か? 背中に胸を当てて良い思いさせてやると言いたいのか?
「……肋骨痛そうだから遠慮するわ。弾力足りなさそうだし」
「――残念無念」
あら、怒るかと思ったのに。
自分の胸をポンポン叩くと首を振るとあっさり引いた。
「ちょっと、二人とも! こんなところで変な会話しないでよ!」
と思ったらミリィが顔真っ赤にして怒った。
それほど怒るほどの内容ではないと思うが、ミリィはこの手の話題に関して免疫が無っぽい。
「ごめんごめん、ほら、もうすぐ家が見えてくるはず……あれ?」
睨みつけてくるミリィの視線から逃れるように前を向くと、そこにはいつの間にやら道を塞ぐようにカラフルな集団が。
赤、青、黄色、緑、桃の色をした百五十センチほど背丈の……
「ぬ、ぬいぐるみ?」
ミリィが戸惑いの声を上げる。
その言葉の通り、五色の色をした毛糸で作られた五体の人形がそこにいた。
「あみぐるみってやつだな、こりゃ」
「――クマ? でも可愛い」
フォンの言う通り、五体のクマのあみぐるみは大変可愛らしい。
ただちょっとサイズが大きいし、フォンに至っては明らかにあみぐるみより小さい。
「また新しいの作ったのか」
「作ったって?」
「俺の外套作ってくれた人、この森の主みたいなもんなんだよ。自分で作った作品を森に放って、侵入者を撃退させてるんだ」
前に来た時は、デフォルメしたドラゴンのぬいぐるみだった。
リアリティに拘り火を吐けるようにした結果、自分の吐いた火に引火して燃え尽きたと言う悲しいのかアホなのか良く分からない前例もある。
「遺跡のガーディアンみたいなものなんだね」
ガーディアンと言うには威圧感は全くない。
「ま、俺が一緒なら大丈夫だ。こうして近寄っても攻撃されぶっーーっ!」
「た、タツヤ!?」
安心させるよう二人に笑いながら進もうとした顔に衝撃が。
モフッとした感触のおかげで余り痛くなかったが、かなりスピードがあったからなかなかの衝撃だった。
「くっ、何を……」
見ると赤クマがその寸胴な見た目に反して軽快にステップを踏みながら、シュシュと空にジャブを突き出す。
こいつ……ボクサーかっ!?
「新作だから俺の事が判ってないのか……?」
ニヤリ、と赤クマが笑ったような気がした。
「おーけー、喧嘩を売って来たのはそっちだからな? ミリィ、フォン、悪いけど少し待ってて……って、何やってんの!」
振り向くといつの間に移動していた残りの四色のクマが、レジャーシートを敷いてお皿とカップを準備し、お菓子並べポットでお茶を入れて二人を歓待していた。
「えっと、頑張って……?」
「何故疑問形なんだ」
「――お菓子、美味しい」
「お前さんはブレないな、オイ!」
頭がついていってない様子のミリィと、お菓子にご満悦なフォン。
この待遇の違いは何だ? 男か、俺が男だからか!?
赤クマを再度見ると、挑発するように丸っこい手をクイクイと曲げた。
「……良いだろう、後悔するんじゃないぞ?」
□
「ぜぇ~、ぜぇ~……や、やるじゃないかクマ公」
「……(ニヤリ)」
あれから、えっと、一時間くらい経っただろうか?
未だ決着はつかず赤クマと激闘を繰り広げていた。
赤クマの攻撃は柔らかい毛糸で作れられた打撃だけだからダメージはあまりない。
しかし、フットワークが軽く、主に顔を狙って幾度も攻撃を仕掛けてくるのがイライラする。
こっちの攻撃はなかなか当たらないし、身体強化を使用して当ててもあみぐるみなのでほとんど堪えていないと来てる。
「タツヤー、足が止まってるよ!」
「…………んん」
完全にリラックスしているミリィと青クマを抱き枕にして寝ているフォン。
この待遇の違いは一体何なんだ。
「だがあみぐるみ如きに負けるわけには行くか! 必ずお前に勝って帰る!」
……あれ? 何しにここに来たんだっけ?
「おや、森の姐さんのところの坊やじゃないか。久しぶりだね」
何か忘れてると自問した時、明るい声が上から降ってきた。
「きゃああぁぁーーーッ!」
「――ん? 大丈夫。寝てない、よ?」
悲鳴を上げるミリィ。
その声で起きたフォンが寝ぼけて言い訳している。
「ミリィ、大丈夫。この人は友人で、このあみぐるみ達の制作者だ。この人に会うのが目的だった訳だしな」
「おやおや、珍しいねぇ、坊やが友達連れとは。アタシはアラクネのアルケ。よろしくね、お嬢ちゃんたち」
頭上から俺の横に降りてきた影が、ミリィ達に向かって茶目っ気たっぷりの笑顔で挨拶する。
下半身は蜘蛛で上半身は見目麗しい若い女性、そして優れた織り手であるのがアラクネという種族である。
「ええっと、あの、ミリィです。驚いてごめんなさい……」
「――フォン。よろしく」
アルケさんの様子から害意が無いのか理解出来たのか、バツが悪そうに謝るミリィ。
フォンは常にマイペースか。
アルケさんは笑顔でミリィを許し、自分の住む家まで案内してくれた。
硬化性のある粘糸で作られた、巨大な繭の様な家だ。
扉や家具だけは木製の物なのだが、いたるところにアルケさん作のぬいぐるみやあみぐるみが置いてある。
「悪いね~、散らかってて。それで今日は何の用だい、坊や?」
「急に来てすいません。実は……」
黒い外套と刈り取ったケルベロスの毛を見せ、元に戻せないかと頼んでみる。
元々ケルベロスの毛で作った外套は、このアルケさんが暇つぶしに作ってくれたものだった。
「なんだい、また派手にやらかしたみたいだね。まぁ良いさ、材料も有ることだし作ってあげるよ。ただし、お代はタダって訳にはいかないけどね」
意味あり気に笑うアルケさんに、俺も同じ様な笑みを返す。
「分かってますよ、まだ多少は持っていますから」
答えつつ妖精の小箱から、あるものを取り出してテーブルの上に載せる。
白い箱、その中身をそっと伺ったアルケさんの口から笑い声が漏れた。
「……くっくっく、なかなかに良さそうな物じゃないのさ。やるねえ、坊や」
「……ふっふっふ、手に入れるの苦労したんですよ、アルケさん」
二人の笑い声が唱和して家の中に響き渡る。
「それで、それは何なの、タツヤ?」
若干距離が離れた様な気がするミリィさんから質問。
「コスメセット」
「こす……?」
「ああ、一言で言えば化粧品ね」
化粧水とかクリームとか入っているアレだ。
俺が買える範囲の物だから安物だけど、この世界に化粧品とかないのでいたく気に入られている。
「化粧品を手に入れるのを苦労したの?」
「だって男で女性用の化粧品買うのって、結構恥ずかしいぞ?」
いやま、購入は通販だけど。
でもアルケさん用に頼んだ物を母親に見つかり、どう曲解したのか俺が女装趣味に目覚めたと勘違いされる騒動はあって、誤解を解くのに結構苦労した。
何故か母親がノリノリで化粧教えようとするし。
「いいねいいね、これがあればお肌艶々、いつまでも若いままでいられるよ~」
「アルケさん、会った時からちっとも変わってないし、化粧してても違いがわからないんだけど」
「――はぁ、まったく、それは坊やが見る目がないだけじゃないのかい?」
「そうだね、今のはタツヤが悪いよね」
「――だめだめ」
正直な感想を言っただけだが、見事に女性陣からの集中砲火を浴びてしまった。
「さてさて、早速取りかかるとするかね。森の姐さんから事情は聞いてるけど、色々大変なんだって? 早く仕上げて上げるから、三日ぐらいしたら取りに来なよ」
森の姐さん――ラヴィア姉さん――から俺の事情は聞いてるわけか。
話が早くて助かります
「ありがとう、アルケさん」
「材料が余りそうだし、そっちのお嬢ちゃん達にも何か作ってあげようかね」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「――ありがとう」
さっきまでアルケさんに対して腰が引けてたのに、いろいろ話し始めるミリィ。
現金な物だ。
フォンは礼を言ったら青クマが持ってきたお菓子を食べ始めた。
まだ食べる気か。
「ああ、そうだ。坊や」
「どうかした?」
「狐の姐さんにもそのうち会いに行ってあげなよ。どうして自分のところには頼って来ないんだって、一晩中酒につき合わされて参っちゃったからね~」
狐の姐さん、か……やっべ、忘れてた。
「あ、ああ、近いうちに会いに行くよ。アルケさんの方からも言っておいて」
それだけ言ってごまかすように緑クマが注いでくれたお茶を飲む。
頭の中はもう一人の”俺の姉”を自称する人物の事で一杯になってしまっていた。
次回の更新は4月17日(木)の予定です。
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