第十三話 召喚武装
「うらあぁぁぁーっ!」
「腕力強化Ⅰ!」
戦斧とか剣が激しく火花を散らし衝突、拮抗した……のは、ほんの一瞬だった。
「ぐっ!?」
次の瞬間には剣ごと弾き飛ばされてしまう。
「はぁ、はぁ……ったく、この筋肉達磨めっ!」
腕力強化Ⅰじゃ張り合う事も出来ない。
腕力強化Ⅱの方だったら押し勝てるのかも知れないが、腕力強化Ⅱは負担が大きく長続きしないし、腕力だけ上がっても足の踏ん張りが効かないので辛い。
文句の一つも言いたくなるってもんだ。
「がっはっは、速くなったり強くなったり面白いな。だけどよ、もっと頑張らねえと終わっちまうぞ!」
余裕のつもりか殊更ゆっくりと近付いてくるザンザス。
もうちょっと対人戦、エルシア姉さんにみっちりしごいて貰うべきだったか。
「召喚で助けを呼ぶか……」
現在進行形でこっそり召喚中に加え、立て続けの身体強化で魔力がかなり心許ないのだが、背に腹は代えられない。
「……ぬおっ!?」
と思っていたら、ザンザスは後方から飛びつこうとした何かを察し身を捩らせてかわす。
すぐに戦斧を振るうが、『それ』は戦斧の一撃を素早く避けて俺の前までやってきた。
犬? と思ったら、背中に小人を乗せた頭が三つある子犬だった。
「ラヴィア姉さん、ケルベロス」
「随分と手を焼いているようですね、達也」
「…………」
ラヴィア姉さんはともかく、ケルベロスは無反応。
いや、三対の目を逸らしつつ、チラチラと俺を見ている。
「――はいはい、わんころにゃん」
「「「ガウッ!」」」
幼き日の自分を〆てやりたい。
「ラヴィア姉さん、ミリィ達は?」
「敵は全て排除しました。森の方も大丈夫でしょう」
「じゃあ、あの筋肉達磨片付ければ終わったようなものか」
それがなかなか難しいから、こうして苦戦しているんだが。
「でもまぁ、丁度良かった。わんころにゃ、力を貸してくれ」
「「「ウォン!」」」
「あら、私が力を貸しても良いですよ?」
「流石にラヴィア姉さんを”使う”ほど余力は残ってないよ」
「そうですか、仕方ありませんね」
ラヴィア姉さんがケルベロスから降り、俺はミスリルの剣を妖精の小箱に仕舞う。
「そっちのちっこいのが何だか知らねえが、得物を仕舞ってどういうつもりだ?」
「降参、とかかな?」
「はん、馬鹿も休み休み言いやがれ。んなやる気満々の目をして勝負捨てる馬鹿が何処にいやがる!」
ザンザスの言う通り、諦めるつもりは微塵も無い。
小箱から新たに出した黒い耐熱グローブを両手に嵌め、更に一本の槍を追加で取り出しザンザスに向ける。
赤い金属で作られた無骨な槍は、先端部分だけが白い三つの牙を加工して作られた三又になっている。
槍の種類としては三叉槍やトライデント呼ばれる物だ。
「ほう、槍か。それが坊主の本当の得物……って訳でもねえな。構え方が素人同然だぜ」
酷いいわれ様だが、残念ながら事実だ。
あまり槍という武器は使った事が無く、今の構えにしても左前半身の状態で槍を両手に持ってザンザスに穂先を向けているだけ。
槍と言うよりビリヤードの格好に近いが、正しい構えなど知らないのでしょうがない。
しかし、破れかぶれでこの槍を出した訳でもない。
「筋肉達磨、いや、ザンザスって名前だっけ?」
「あん?」
「一言言っておく。久しぶりだし、アンタ強いし、加減が分からないから……死んだら許してくれよな」
不可解と言うように眉を顰めるザンザス。
「わんころにゃん!」
「「「ウオオォォォォーーーン!」」」
俺の呼び掛けに応えたケルベロスが雄叫びを上げ、平らにした槍の穂先に器用に飛び乗。
「久々にいきますか……召喚武装ッ!」
ケルベロスの仮初の器となっていた魔力の体、それが淡い光を放ちながら姿形を失くし、魔力の塊である光球に姿を変える。
その光球は槍に溶け込むようにして消えていく。
そして赤かった槍が漆黒に染まり、白い牙で作られた先端部分はそのサイズが一回り大きくなり、生き物のように禍々しいフォルムへと変貌を遂げる。
「な……なんじゃそりゃあ?」
ザンザスの驚きの声に、何となく満足感を覚える。
召喚武装。
契約相手を直接召喚するのではなく、簡易召喚で呼び出した相手を、器となっている魔力ごと相性の良い道具に同化させる技。
こうする事で召喚相手の持つ能力を限定的に使える様になる。
俺が出した槍はヒヒイロカネという伝説上の赤い金属と、ケルベロスの定期的に生え変わる牙を貰って加工して作って貰った物。
業火を放つケルベロスを同化させるには、高い熱伝導と太陽の如き輝きを持つヒヒイロケネと自身の牙で作られた槍は大変相性が良い。
この同化させた状態の事を、俺はこう呼んでいる。
「番犬三叉槍……っと、悪いけどアチコチ体痛いし魔力も少ないからな。一気に決めるぞ、わんころにゃん」
『ガウッ!』
同化させた番犬三叉槍を通して、ケルベロスの意思が流れ込んでくる。
「……ははは、がーっはっはっは! なんだ、良く分からねえがそんな凄そうな切り札持ってたのかよ! 人が悪いぜ坊主、もし倒しちまってたら見れなかったところじゃねえかよ。それじゃ……決めようぜ、どっちがおっ死ぬかをよぉ!」
興奮に目を血走らせたザンザスが、戦斧を大上段に構えながら突進してくる。
あれ、マジモンの戦闘中毒者だわ。
「壱火、弐火、参火……」
迫りくるザンザスに向けて番犬三叉槍を構えながら呟く。
一言毎に三つの槍の先端に、一つずつ火が灯っていく。
三つの火が灯ったのを確認してから、大きく足を踏み出す。
間合いの外からの踏み込みに警戒したのかザンザスの足が止まったが……手遅れだ!
「三重螺旋槍ーッ!」
まだ距離が有るにも関わらず、渾身の力と魔力を込めて番犬三叉槍を突き出す。
先端の三つの灯から炎が吹き出しザンザスに向かう。
三つの炎の奔流は軌道上で絡み合い一つの炎の槍となって襲い掛かった。
「ぬぐおぉっ!?」
回避が間に合わない事を悟り戦斧の腹で防ぐザンザス。
戦斧自体も業物なのか、ケルベロスの業火と遜色が無い筈の炎を、数メートル後方に押されつつも受け止めてしまった。
だが、
「終わり……だあぁぁーーッ!」
更に大きく踏み込み、駄目押しとばかりに番犬三叉槍を突き出す。
加えられた力も魔力も微々たるものだったが、それだけで均衡を崩すのに十分だった。
「……ぐ、ぐおおおぉぉぉーーーッ!!」
戦斧を構えたまま、弾かれたように後方に吹き飛ばされるザンザス。
見る見る間にその姿が小さくなっていき、途中で形勢が不利と見て逃げようとしていたギリアムール准男爵と(元)使用人のブラムスを跳ね飛ばし、最終的に地面から突き出た岩にぶつかり粉砕したところであらぬ方向に吹っ飛ばされていった。
……死んだ?
生死はともかく、遠目に見る限りは立ち上がって来ないようだ。
「終わったぁぁ~~……」
召喚武装を解いてミニケルベロスに戻し、トライデントを妖精の小箱に仕舞うとその場に座り込んだ。
もう身体強化の使い過ぎで手足痛いわ、魔力ギリギリで頭クラクラするわ、しんどいったらありゃしない。
そんな俺の耳にパカパカと蹄の音が近づいてくる。
「エルシア姉さん、おっそい……」
振り向くと馬に騎乗したエルシア姉さんが、同じく馬に乗り鎧を着た数名の男女を伴っていた。
前もって聞いていた通りなら、このグラス王国の騎士団員の筈だ。
いずれもエルシア姉さんの知己で信用できる人物らしく、今回のギリアムール准男爵一味の捕縛に協力を仰いだのだ。
本当ならやや離れた場所で待機し、合図とともにギリアムール准男爵一味を包囲するはずだったのが……
「すまないな、タツヤ。君の戦いを邪魔するまいと、本当に危ないと思えるまで手出しは控えていたのだ」
「いや、思いっきり邪魔してくれても良かったのに」
むしろエルシア姉さんが見たかっただけじゃないかと思う。
騎士団員の方々は誰も彼も強そうだしね、ザンザスだって煮るなり焼くなり好きに出来ただろう。
「ルートガーさん達は?」
「既に保護している、ドリュー殿のおかげだな。もっとも、森に隠れていた手下共は半死半生だったがな、ふふふふ……」
不気味に笑い声を漏らすエルシア姉さん。
後ろにいる騎士団員達も苦笑いを浮かべている。
ギリアムール准男爵の伏兵が隠れていた森には、実は俺が召喚した樹妖精のドリューを差し向けていた。
今や、あの森一体はドリューのテリトリー。
エルシア姉さんや騎士団員の反応を見るに、元々いた手下も後から入った手下も大方ドリューに生命力を吸われて骨と皮状態の筈だ。
ま、命は取るなって言っておいたから、死ぬよりはマシな筈だ。
「後は任せても?」
「ああ、任されよう。ゆっくり休んでいてくれ」
その言葉に甘える事にして、その場に大の字に横になる俺だった。
□
アイリ・フォンデン誘拐事件。
あえて名前を付けるとすれば、そんな名の事件から三日経った。
首謀者のギリアムール准男爵は爵位を取り上げられ、財産も国に没収され危険な鉱山労働に送られるだろうとの事。
生き残った手下達も同様に鉱山送り、裏切ったルートガーさんの(元)使用人も同じ処罰を下されるそうだ。
ただ、ザンザスに関しては扱いがちょっと違うらしい。
最後の一撃で骨を何本もやられ、結構な火傷を負ったにも関わらず生きていた。
その頑丈さと実力を買われ、王国内の魔物の巣やダンジョンの魔物を掃討する為、囚人によって組織された危険な前線部隊に送られるという。
まぁ、俺にとってはギリアムールもザンザスも会いたいと思わないので、正直どうでもいいと言えばどうでもいい。
フォンデン一家には大変に感謝され、謝礼云々の話も出たらしい。
だが盗賊ギルドのベルベラさんとの取り決めもあるので、エルシア姉さんが丁重に辞退してくれたようだ。
ミリィとフォンは取り決めの枠外の事なので、遠慮なくもらう事だろう。
――さて、ここまでの話がなぜ「そうだ」とか「らしい」という伝聞ばかりなのかと言うと、だ。
「ぐぬぬぬぬ、まだアチコチ痛い……!」
朝日で目が覚めるも、筋肉が軋む様な痛みについつい苦悶の声が。
どうも最後に大の字に地面に寝そべった後、そのまま気絶してしまったらしい。
気が付いたらリングラード邸の自室だった。
目を覚まして身体強化の使い過ぎの反動で悲鳴を上げた。
広い屋敷が初めて憎いと思った瞬間だった。
そういう訳なので、事の顛末はほとんどエルシア姉さんに聞いた形だ。
「イタタタ、痛いけどそろそろ寝てばかりは駄目だな」
起きて外着に着替えていると、コンコンと部屋の扉がノックされる。
「タツヤ様、起きていらっしゃいますでしょうか?」
「ああ、起きてるよ」
「フォンデン様が王都を離れる前にご挨拶したいと、お嬢様とご一緒に参られていますが」
「ルートガーさんが? 分かった、すぐに行くからそう伝えてくれ。ありがとう」
フォンデン親子の来訪を伝えてくれた使用人に礼を言い、手早く着替えを終わらせ応接間に行く。
フォンデン親子がテーブルに着いて待っていた。
「おお、タツヤ殿! 本当に怪我も無い様で何よりです」
「あははは、すいませんね気を失ってご心配かけたようで。ルートガーさんとアイリちゃんこそ、怪我一つ無い様で安心しました」
「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」
「どういたしまして、お嬢様」
挨拶を交わしながら俺もテーブルに着く。
「ルートガーさんはもう王都を離れるので?」
「ええ。今回の事が妻にも伝わり、随分と心配している様なので。それにこちらで予定されていた取引も、実はギリアムールが私を誘き出す為の罠のようでしたので、予定があいてしまったのですよ」
「そうですか。それなら早く帰って奥さんを安心させてあげなければいけませんね」
「ははは、仰る通りですね……ああ、そうだ。タツヤさん、これを受け取って貰えませんか」
ルートガーさんが拳大の箱を差し出してくるので、断ってから箱を開けると透明度の高い硝子の様な石が入ってた。
「これは?」
「高純度に精製された魔晶石です」
ああ、魔核に似てると思ったがこれが魔晶石なのか。
魔核は向こう側が霞んで見える感じだが、こちらは本当に透明度の高い硝子そのものだ。
――そう言えば俺、帰るのに巨大な魔晶石が必要なのに、魔晶石初めて見な。
「その純度でその大きさですと、金貨二千枚は固いでしょう」
「……はっ? え、いやいや、そんなもの頂けませんよ!?」
「いえいえ、これはあくまで街道で盗賊から助けて頂いたお礼ですし、リングラード子爵のご子息への礼を疎かには出来ませんゆえ」
盗賊ギルドとの取り決めも承知だから、約束前の街道のお礼だと強調しているのか。
それに子爵家への恩に報いないのは、商人として評判に差し障りがあるのかも知れない。
「だからと言って、ちょっと高価過ぎじゃ……」
「いえいえ、命の礼ならむしろ安いぐらいですよ。タツヤ殿が冒険者として身を立てるつもりなら、様々な使い方が出来ますから」
あまり断り過ぎるのも礼儀に反するのかも知れないので、大人しく受け取っておくことにした。
「ではタツヤ殿。このように急ぎ足で申し訳ありませんが、そろそろお暇させて頂きます」
「そうですか、お元気で。そちらに行くことになったら立ち寄らせて頂きます」
南部の未開の森には未発見の遺跡が多いらしいから、そのうち行かねばならないのは間違いない。
「いつでも遊びに来てね、お兄ちゃん! お姉ちゃん達も一緒にね!」
「ああ、分かった。約束するよ」
門の前まで見送ると、二人は停めてあった馬車に乗って南門の方へと去って行った。
見えなくなるまで手を振っていたアイリちゃんの姿が心に残り、どうにも寂しい雰囲気になる。
「――さぁーて。気を取り直して冒険者稼業、再開しますか!」
そんな雰囲気は振り払い、自分に気合を入れながら気持ちを新たにする。
今回の一件で自分がまだまだ実力不足と言う事が実感できた。
自身の知識も、力も、技術も、魔法も、磨いていかなければいけない事が山ほどある。
日本に戻れるか分からないが、その為の努力を怠る訳にはいかない。
貴族としても、冒険者としても、努力を重ねていかなければ。
――――取りあえず、この筋肉痛が治ったら。
次回の更新は4/15(火)の予定です
月内に十万文字に行きそうだったので、折角だからと小説家になろう大賞MFブックス部門に投稿してみました。
期待はしていませんが、投稿を切っ掛けに多くの方に読んでもらえると嬉しいと思っています。




