- 2 - とりあえず買い物
あれから目まぐるしく日々が過ぎていった。
すぐにでも冒険の旅へ出発したいという奴らを説き伏せ、なんとか準備期間を設けることができた。話のわからないトンチンカン集団ではなかったのが意外だ。
俺が加入することを敬遠するどころか歓迎ムードですらある。
「ジル殿、これから装備品を買いに行くというが、具体的に何が必要なのだろうか。剣なら持っているぞ」
嬉しそうに新品キラッキラの剣を振りかざして見せる爽やかな金髪イケメン、その名はヴィルト。
「ヴィルト・・・様。本気ですか、その軽装で冒険はちょっと」
いい加減慣れてきたのか、爽やかな眼差しで頷くヴィルトを見ても淡々と受け答え、装備品取り扱い店へ淀みなく歩み続ける。
「ジル殿のいう装備とはどのような?」
「ジル殿はそれを所持していますの?」
「ジル殿、あそこ!あそこで売ってるあれ!美味そうではないか。食して行かぬか?」
あああああ~やかましい。
「オルメタ様、装備は見ればわかります!ファルファラ様、俺は戦士じゃないんで持つ必要ないんで。ロッソテソセロ様、昼はあそこで食べましょう。今は我慢してください」
テーブルに突っ伏す。もうすでに疲労困憊。俺の足元には、買い物の品々が山となって積まれている。
なんとなく嫌な予感はしていた。
ヴィルトが剣を高々と振りかざした時、残りの三人の内、二人の腰にあるピカピカの剣があり、一人はでかい鎌状の物を持っていた。それらがなんとなく気にはなっていたんだ。
そして装備屋で発覚した。
4人全員戦士であると!
戦士、魔法使い、錬金術師、テイマー、他にも色々なスキルを持った者がバランスよくパーティを組むなんて事は素人の俺だって知っている。
死ぬ、絶対死ぬ。
こんなのに付いていったら一つしかない命はサクっとなくなる。
「ジル殿、存外美味しゅうございますわ、コレ。でも食べにくいのなんのって。ジル殿も食されてみては」
「ファルファラ様、忌憚ない意見を申しあげます」
ファルファラから手渡された薄いパンに野菜、肉、香辛料にハーブをきかせたソースがたっぷりかかり、その上にパンを重ねたボリュームたっぷりなそれを一口ガブっとほおばった。ちょっと食い難い。が、美味い! 俺は食いながら続けた。
「貴女様の口元にソースがベッタリとついています。他にも肉やら野菜やらも」
ファルファラ様はさして慌てた様子もなくササっと口元を拭いた。
「皆さん、ひとまず座ってください。あ、食べながらでいいですから」
ヴィルト様、オルメタ様、ロッソテセロ様も注文がひとまず落ちついたようで席に戻ってきてもらった。
「単刀直入にいいます。このパーティバランスが悪いです。戦士しかいない。こなせるクエストはたかが知れているでしょう」
これじゃぁ難易度の高い冒険はできねぇんじゃないかな。
加護やヒーリングその他諸々のフォローが望めねぇのは決定的に激マズ。
場合によっては命に関わっちまわ。
「ああ。それは心配しなくても大丈夫」
「うん。なんとかするので」
ねぇ?うん。そうだそうだ。と目くばせしてさも当然のようにしている。
頭が悪いわけじゃないのは分かっている。
しかし頭がお花畑だったのは俺の落ち度か。
「そんなことよりジル殿、我々に様を付けるのはいかがなものかと」
ねぇ。うん。そうだそうだ。とまた当然のような目くばせし合っている。
そんな事?!
そんな事ですまされない!なぜバランスよくメンバーを集めるのか。それはそれぞれの役割はそれぞれの足りない部分を補うためだということがわかっていない。どんなに高いスキルがあっても、全てのスキルを持っているわけじゃない、だからバランスよくメンバーを集めるんだ。
それにあんた達お貴族様だろうが。こっちにも一応体裁ってもんがあるんだよ。
まったく頭花畑がよ。
「えーお気づきかどうか分かりませんが問題がすり替わってます。元にもどしますよ、このパーティは」
その時ヴィルト様が俺の額に手をかざした。
柔らかい光が、瞬く。
それはヒンヤリとした温かさでさっきまでの買い物疲れがスーっと引いていく不思議な感覚だ。
そしてヴィルト様がニコっと微笑むと、光と不思議な感覚は消えた。
なんだこれ…これが魔法か…!
「ジル殿見ていてくださいまし」
そう言うと同時にファルファラ様は立ち上がりスっと片手を頭上に伸ばした。
すると鳥たちが一斉にファルファラ様の手の動きに合わせて優雅に羽ばたく。
ファルファラの手は踊っているように優雅に動く。指先まで繊細な動きで鳥たちを操る。やがて鳥たちは皆そろってファルファラ様の足元へ着地した。
「ジル殿ご覧あれ」
そう言った時すでにロッソテセロの体や腕が筋肉隆々と変化した。
赤い髪が燃えているように逆立ち、服ははちきれんばかりになった。
そしてテーブルを事も無げに叩き割って見せた。
「な、なにやっとんじゃい!!木っ端みじんじゃねぇかっ!」
こともあろうに店のテーブルを一撃で破壊してしまった。
世間知らずにもほどがある。
よそ様の商売道具だぞ。
自分の誇れるスキルをもっと違う方法で表現するとかできなかったのか。
「なんじゃこりゃあっ!」
店主がすっ飛んできて喚きたてた。
当然だ。
「店主殿か。すまぬ。財布からコインが転がり出てだな、そのコインを捕まえようと少々勢いがついてしまった。にしてもこんな簡単に破損してしまうとは。皆にケガがなくてよかった」
店主は開いた口がふさがらないようだ。
一言も発することができずにいる。
俺も開いた口が開きっぱなしだ。
そこにいるのはパツパツの筋肉ヤローではなく、ほっそりした赤いくせ毛の育ちの良さがはみ出んばかりのロッソテセロだった。
き、筋肉はどこいったんだよ。さっきまでのムキムキの体は?!
「に、兄さん方、困るよ」
ツッコミ所に迷い動揺から抜けきれない店主だがなんとか言葉を紡ぎだした。
そうだ良いぞ、言ってやれ。
「店主の心情は尤もだ。察するぞ」
チャリッと音のする革袋を店主に差し出した。
ロッソテセロの懐から出したそれは財布だ。
財布の中をのぞく店主はぶるぶる震えだし卒倒寸前かもしんねぇ。
正直なおっさんなんだな、きっと。
「兄さ・・イヤお客様、金貨ばかり入っていますが・・・」
蚊の鳴くような声と涙目で訴える店主。
そうだった。
こいつら、この方々の資金は潤沢なのだった。
身なりを目立たないようにマントで隠れるように羽織っているがチラチラ見える服が上等なんだよ。
「ロッソテセロ様、店と客の間には相応の金を挟んで対等な取引を成立させています。相応ではない金は、侮っていると思われてしまいます。たいへんな侮辱と取られます。」
「そうか。それはすまなかった。店主、侮っていたわけではないのだ。許してほしい」
俺がその財布から相応の金を出して取引成立、終了とした。少々強引だが相手が怯んでるうちに解決させる。それがテクニックだ。
「ジルはすごいな。色々な事を知っている」
と、こいつらが褒めちぎり囃し立てる。こんくれぇ普通なんだがな。
だが、なぜかただ褒めたおしているようにも感じない。
空々しさのない温度で言われるから気持ち悪さがない。
本心なのかもしれない。
――そう思いかける自分が、少し嫌だ。
お花畑であり、真摯であり、誠実なのか。
戦士と言いつつ、なんか魔法もちょびっと使えるし。
筋肉も魔法なのか?
わからない。今日一日で知ったことと、わからないことと、整理ができない。
とにかく、
つ・か・れ・たー




