-1- 望まぬ出会い
「おやっさん・・・何の騒ぎだよこりゃ・・・」
シバラスの街の朝は早くはない。俺がここまで来る途中街はまだ目覚める気配がなかった。
とくにこの辺は酒場もある。朝は遅い。定食屋『黒ウサギ亭』、ここが俺の職場だ。料理人として絶賛修業中さ。
今朝は朝の仕込みに来たところだったんだが、なんだこりゃぁ。
調理スペースがカオス状態じゃねぇか。
まず串刺しの肉と思われるモノだ。それは原型をとどめていない。炭?もはやアレは炭だ。
炭を作った張本人と思われる、石膏像のような無駄に整った顔立ちにサラサラのストロベリーブロンドを爽やかになびかせる男は見るからに達成感全開だ。
・・・なぜだ?
そして大釜の中に入っている液体からは異臭が。
覗いてみるとドロリとした見たこともない嫌な感じのするものが入っている。
一心不乱にそれをかき混ぜる女。こりゃどうみてもあの有名な大鍋をかき混ぜる魔女にしか見えん。その魔女から鍋を奪い火から上げる。あれ以上煮詰めたら鍋が使い物にならなくなりそうな上、ここら辺一帯刺激臭ともいえる異臭で営業できなくなる恐れがあるしな。
手遅れかもしれないが。
クソッ目がしみるぞ。
焼き物コンロの平鍋には食いかすのような物が残っていた。
その横で満たされたのかパンパンになった腹をなでているうつむき加減の影の薄そうな男がいる。
まさかこの男が食ったのだろうか?口の周りに飯粒が。
……この陰キャが食ったに違いねぇ!
後ろの調理台には今まさに袖を捲りあげ野菜を千切ろうとしているすげーイケメンの金髪男がいる。すげぇ楽しそうだ。
「ストーップストップ、やめやめ!おやっさん何これ」
本来なら明け方時に出勤して、最近腰を悪くした店主――おやっさんの手伝いをするため速やかに仕込みに入っているところなんだがよ。
「昨夜ゴブレットで飲み明かしてな。気持ちのいい奴らなんだよ」
聞くところによると近所の酒場ゴブレットで知り合ったらしい。
それ自体は珍しいことでもない。ここら辺じゃ普通だ。
「注文の仕方、金の払い方どうもおぼつか無い連中だなと思ってみてたんだよ」
で、見ていられなくなっていろいろ教えているうちに意気投合したってわけだ。
それはわかった。わかったけどこの惨状はねぇよ。
「えー皆さん、とりあえず仕込み入りたいんで片付けしてくんねえかな」
奴らは頷き片付けに入った。
が、要領悪い!
鍋の前でどうしようか考え込んでいる陰キャ男と魔女のスープ女。
野菜をもてあそぶようにこね回し考えこむイケメン。
手!手!手ぇ動かす!洗うんだよ!
「な?見てらんねぇだろ?一応冒険者なんだって」
は!?冒険?!信じらんねぇ。
ここはギルドの街だから客の大半は冒険者だよな。
力量の違いはあれど、男女問わず皆屈強、猛者ぞろいと言っていい。場合によっちゃ命落とすことだってある仕事だぜ。
「でな、いろいろ聞くとどうも御育ちが良い坊ちゃん嬢ちゃん臭くてな。本人たちは
ハッキリ言わねぇが世間知らずさがダダ漏れでよ。生きてりゃ色々あるさね。心意気は立派なもんだ。でな飯の作り方教えようとしたらこのザマだ。ウケたね~」
ウケねぇよ。
懐の広さも大概だぜおやっさんよー。
「店主殿、皆洗いおわりましたわ」
ゲロみたいなスープを煮込んでいた魔女が、疲労の汗を浮かべおやっさんのそばへ来た。
「今日は皆初回だからな、こんなものだろ」
野菜を千切りかけたイケメンが爽やかに言った。
しょかい?
こいつ今初回って言ったのか?
「肉が炭になるとは。理論では理解できるが納得がいかぬよ」
食材を炭にしたストロベリー頭の男が言った事に俺は納得できねぇ。
「にしてもオルメタ、味見し過ぎだろー食材がなくなってしまっていたではないかーハハ」
イケメン金髪は爽やかにいうが、ふつう味見で全部食うか?
「面目無い。自分不器用なもので」
一見陰キャな満腹君は照れながら答えた。
不器用だと全部食っちゃうの?!ありえないな。
和やかな雰囲気の中、爽やかなイケメン金髪が信じられ無いことを言ってきた。
「ご店主殿、明日も同じ時間でよろしくたのむ」
はぁーー?
「おやっさん!」
「ジル、こいつら近々冒険に出るらしいぞ。わかるだろう?食事も作ったことない、買い付けもできない、らしい。ついて行ってやれよ、死ぬぞ」
行けったって、俺はここへ料理人になりにきたんだぞ。
俺は小さい頃から父ちゃんと同じ料理人にずっとなりたかった。
だから、7歳の儀式さえ済んだら勉強は二の次で働けるって思っていた。
父ちゃんの弟子になれるって。
儀式の天啓では俺は料理人で純度87だった。
故郷のブルーフォアを出てきて4年か…。
みんな元気でやっているだろうか。
父ちゃんのこと思い出すな。
父ちゃんはすげぇ料理人だ。
食材にこだわって野菜作りや養豚等を手掛け、いろいろな人の舌を唸らせてきた。父ちゃんの天啓は料理人には違いないが、農夫と同等かそれ以上に畑を知っていた。だから動物に何を食わせてどうやって育てたらいいか考えられた。
「みんないってるよ、父ちゃんの天啓は間違いじゃないかって」
小さい頃父ちゃんに聞いてみたっけ。
「調理人の天啓がなかったらそもそも上手に料理作れないだろ?父ちゃん料理作るの好きだからもっと美味しくするためにはどうしたらいいのか考えるのは当然じゃないか。父ちゃんの場合たまたま色々な事が考え付いちゃったんだ。成功もしてるけど失敗もしたなぁ。これは特別な事か?ジル、考えるんだ。自分の頭で考えてみるんだ」
自分の頭で考える。
ずっと考えてるよ。
故郷を出て、このギルドの街シバラスで料理人の修行して、父ちゃんの言った事、どうしたら一流の料理人になれるのか。
早く一流になって故郷へ戻って父ちゃんの片腕になって。
天啓純度87だぞ、料理人としての素養は十分だ。
なのにあいつらと行けって。
行けるわけねぇ。
行きたくねぇよ。




