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19話 - ミラ、迷走する

「マーオ!」


 ミラが、笑みを弾けさせ、マオに駆け寄る。

 この子迷子になってた子リスちゃん! と言いながら、ミラはマオの肩に子リスを乗せていた。


 前日の悲しそうな表情から一変、きゃわきゃわと楽しそうな様子に、ダニーは無意識に笑みを漏らす。

 いつリス拾ったの……! と笑いながら、ガーデンテーブルに座るエリオットの元へ近づいた。


「……ミラに何言ったの? おまえ」

「別に」


 ふ、と意味深に笑うエリオットに、むっと目を細める。

 ダニーも椅子に腰を落とした。


「……おまえ、今回普通だったな。アーヴィンの話、すげー嫌がってるかと思ったけど」

「え? まあ、目の前にいたら秒で殴りに行くくらいには腹は立ったけど」

「だろうな」

「ミラの恋愛スイッチを押してくれたという意味では、許してやらなくもないというか」

「……え」

「まあ、もう過去の男だし。ミラは僕の奥さんになるから」


 この子の名前はコリスちゃんね! と楽しそうなミラを、甘い瞳で見つめるエリオット。

 エリオットの発言に引いていたダニーは、わずかに顔を顰めたのだった。




「ダニー! はいこれ、食べて!」


 フリフリのエプロンを揺らしながらミラは、スコーンの入ったバスケットと小瓶をテーブルに置いた。

 これ朝の? とエリオットが告げると、そうなの……とミラが恥ずかしそうに、いじいじとエプロンをいじる。


 ダニーは小瓶の中身を覗き込んだ。


「この茶色の瓶、何?」

「ほろ苦リンゴジャムです」


 え? と固まるダニー。


「リンゴカラメルソースじゃなかったっけ?」

「あっ、そうだった、リンゴカラメルソース! ジャム作ってたら焦げたんじゃないよ?」

「何その謎の言い訳……!」

「スコーンはちゃんと買ってきたやつだから、美味しい……あっ! 『スコーンは』って言っちゃった」

「カラメルソース、美味しかったよ。紅茶にもスコーンにもすごく合うし」

「あ、ありがとうエリオット……!」


 てれてれと恥じらうミラを見て、ダニーは可笑しそうに笑う。


「ミラ、1年間向こうで、料理どうしてたの?」

「えっ、料理? 騎士団のみんなで食べたり、貰ったり……騎士団の食事は基本的に補佐組のみんなが作ってくれてたから、それを貰ってて……――」



 

 ――それは、数か月前。

 クロウ王国騎士団。


 皆の食事を(まかな)える大鍋の前に、皿を持って、ちょん、と立っているミラ。

 大きなレードルで混ぜながら、シェリルが、じ、とミラを見つめる。

 何かな? とミラは目を瞬く。


「ミラって……」

「えっ? 何? シェリル」

「回復以外の時、何かマスコットみたいよね……」

「え!?」


 マスコット! と笑う騎士団の声が一斉に上がった。

 アーヴィンが、かわい……! と悶えている。

 ぴし、と固まっているミラを見て笑いを堪えながら、シェリルは皿に食べ物をよそった。


「ご、ごめんミラ……つい……! かわいいってこと……ね?」

「……マスコット……」


 役に立ってない……? とぷるぷる震えるミラに、再び皆の吹き出す声が響いたのだった。




 ――騎士団での一幕を思い出し、すん……と真顔になるミラ。

 マスコット聖女……と呟いているミラの横で、エリオットとダニーはふるふる震えながら悶えていた。


(マスコット……何それかわいい……)

(マスコット……シェリルさん上手いこと言うな……)


 ミラはかわいいな、とミラの頭を撫でているマオ。

 すると、はっ!? とミラは気がついた。


(このままだと……光るだけポンコツマスコット奥さんになる……!?!?)


 シェリルのような、自立したしっかりした奥さんが遠退いて……!? とわなわな震える。


(大変!!!!)




 昼間。

 ミラは、ひょこ、とエリオットの仕事小屋へ顔を出した。

 接客を終えたエリオットが気づき、嬉しそうに表情を緩める。


「どうしたの? ミラ。珍しいね」

「…………」


 きょろきょろ、と小屋の内部を見回すミラ。


(……とっっても、整理整頓されている……)


 おずおずと足を踏み入れるミラ。


「ま、丸描くお手伝いはありませんか」

「今はないよ。ありがとう」

「そ、そう」

「?」


 歯切れの悪いミラに、不思議そうに首をかしげるエリオット。

 ミラは、腕に抱えていた瓶を、そっ……と机に置いた。


「さっぱりフレッシュジュースです」

「? ありがとう。美味しそう」

「戦いの……あっ、間違えた、お仕事の後に飲むと、さっぱりするんだよ」

「……?」


 すると、机の上で山になっている本を見つけ、ミラは瞳を輝かせた。


「あっこれ! 片づけるね!」

「えっ、ミラ――」


 ずしっと重い本を抱えると、壁際にぎっしりと埋まった本の隙間を探し、駆け寄る。


(お、重……)


 何とか片腕に抱え、1冊を頭上高くに空いた隙間へ仕舞おうと背伸びをした。

 その瞬間――


 背後にぴたっと身体を寄せ、ミラが本を抱える手に手を添えるエリオット。


「――!?」


 伸ばしていた手にも重ね、すっと本棚へ本を押し込んだ。

 そのまま自然に背後からミラを抱き寄せると、後頭部へキスを落とす。


「どうしたの、ミラ、急に。かわいいんだけど」


(かわいいんだけど)


 きゃ――!!! と内心パニックなミラは、本を抱えていたことも忘れ、両手で顔を覆った。

 落ちた本でつま先を強打したのだった。

 

 


(……痛かった……)


 結局本をぶちまけただけだったような……? おかしいな……と呟くと、もや……と表情を曇らせる。

 逃げるように小屋を出たミラは、あてもなく街をぶらついていた。


(失敗しちゃった……でも、次こそ……!)


 その時、ふと広場で街の人と会話を交わす数名の守備隊員が目に入った。


(……ダニー!)


 ミラは目を輝かせる。


(お仕事中? ……ダニーは……夢をかなえて……しっかりした騎士になって……いいな)


 私と違って立派になって……お姉さん嬉しい……と遠い目になる。


 街の人がダニーに頭を下げ、立ち去ていった。

 そのタイミングを見計らって、ミラはそっと背後から声をかけた。


「ダニー」

「わっ! びっくりした……! ミラ?」

「お仕事中?」

「そう。どしたの?」


 彼女? 彼女?? と、別の隊員2人がにやにやと背後で口を挟む。

 違うから!!! と真っ赤な顔で追い払うダニー。


「ごっ、ごめんミラ……! ……ミラ?」


 困った顔で振り返ったダニーを、ミラはもじもじと見上げた。


「あの……守備隊は、何かお手伝いすることはない? お茶淹れたりとか、お掃除くらいなら……できるんだけど……」


 きょとん、とダニーはわずかに固まる。

 すると、ははっ! と可笑しそうに声を上げた。


 爽やかに笑うダニーに、ミラは無意識に惹きつけられた。


「大丈夫……! いやほんとミラ……! 最高にミラ……!」

「な、何が!?」

「ほんと……そういうとこだよなあ……!」


 幾分か甘く目を細めるダニーに、どき、とミラの胸が小さく鳴る。


「ていうか、ミラはだめ」

「えっ!? 何で――」

「男ばっかりだから。俺が嫌」

「……?」


 やべーかっけー!!! と遠目で茶化している隊員たちに、うるさいなまじで……! とふるふる震えるダニー。

 嬉しそうに微笑むと、むに、と頬をつまんだ。


「いてくれると、俺のやる気は出るんだけど」


(おれのやるきはでる)


 なぜだかわからないが、立ち去るダニーを見送りながら、かあ、と頬を染めるミラであった。




 ミラは、錬金術と聖女の力を失い、恋の自覚を経て――……見事に迷走していた。




「むっずかしい!!! 私がやれることって、なにかな!?」


 ミラは、マオ家の庭のテーブルに、がばっ! と突っ伏した。

 マオが、不思議そうな顔を向ける。


「ミラは、何でもできるだろう」

「…………」


 おずおずとミラは顔を上げる。

 摘んできた花で花冠を編んでいたミラは、再び編み編みと編みだした。(←迷走中)

 むすっとマオを見上げる。


「……そうやって、マオがすぐ甘やかすから……私がどんどんポンコツに……」

「? ミラは今のままでいい」


 きゅん……! とミラの胸が鳴った。


「ありがとう、マオ……! でも、今のままじゃだめなの! 私は、しっかりした奥さんになりたいの!! マオには言ってなかったんだけど……私実はポンコツで……! マオといたら、あんまり気にならないんだけど」

「……? そうか。なら、ずっと私の傍にいればいい」


 ぽ、と頬を染めるミラ。

 

「マオ――」



 ばん!!



 とその時、突然現れたエリオットが強めに机に手を付いた。

 ミラの胸がどき! と大きく跳ねる。


 にこ! と微笑むエリオット。

 

「いいわけないからね?」

「エリオット!? な、なんでここ……」

「ミラ……? なんで最近マオの家に入り浸ってるの……!?」

「え!? い、いりびたってない……!」


 慌てて視線を反らすと、マ、マオ……! とマオへ手を伸ばすミラ。

 その手をエリオットが、ぱし! と取った。


「!?」


 そのエリオットの表情には、わずかに焦りの色が浮かぶ。

 困った顔のミラと見合った。


「……?」

「…………ミラ」

「は、はい……」

「…………」


 みるみる顔が染まっていくミラに、つられて赤くなるエリオット。

 その口から、はぁぁぁあ……! と深いため息が漏れた。


「……ミラ……それ無自覚……?」

「どれ……?」

「ミラ、来て」

「えっ!?」


 掴んだ手を、エリオットはそのまま引く。

 困惑したミラを、ぐいぐいと引っ張っていったのだった。




 家に連れ戻されたミラは、ソファの端っこにちょんと座っていた。

 ちら、と横目でエリオットを覗き見る。


 すると甘い笑みをこちらに向けていて、慌てて、ぼふっ!!! とハートのクッションに顔を埋めた。


 ははっ……! と、楽しそうな笑いが上がる。

 ミラは、えっ!? と赤い顔を上げた。


「な、何?」

「いや……いやいや、ほんと……ミラが頑張って向き合った甲斐があったなあと思って」

「?」


 そう言って頬を染め、大層嬉しそうに目を細めるエリオットに、今の笑顔素敵とか思ってませんから、と再びクッションに顔半分が沈んでいく。


「ミラ、最近どうしたの?」

「えっ!?」

「なんか……頑張ってるみたいだけど」


 ミラの瞳がわずかに輝く。


「がんばってる……? がんばってるように見える?」

「うん。前に言ってた、色々やってみるってやつ?」


 ゆっくり顔を上げると、小さく頷いた。

 

「そう……あの、ポンコツ奥さんにならないように、練習」


 くすっとエリオットは笑みを漏らした。


「しっかりした奥さん目指してるの?」

「そう……しっかりした……奥さんの、練習……」


 無言で、じっ、とミラを見つめるエリオット。

 その、物言いたげな甘い視線に、いたたまれなくなる。


「な、何? エリオット」

「いや……ぽやってしたまま、僕がいないと生きていけないみたいな、僕に依存してくれるミラも捨てがたいなと――」

「怖いから発想が」


 ぜっったい脱ポンコツしてみせますから、と静かに闘志を燃やすミラ。


 へえ、と呟くと、エリオットは口に手を当てた。


「手伝おうか?」

「えっ?」

「そんなにしっかりした奥さんになりたいんなら」

「えっ、いいの?」

「もちろん」


 もちろん……! と呟くと、ミラは嬉し紛れにクッションをぎゅっと抱き締める。


「じゃあ、そうだなぁ。例えば……」


 楽しそうなエリオットを無意識に見つめるミラ。


「仕事行く前に、頑張ってねってキスするとか」

「…………」


 ぱちぱち、と目を瞬くミラ。

 かあ、と、耳まで真っ赤に染まった。


「……そそ、そそそそ……」

「そ?」

「ど、どこ……」


 エリオットは、爽やかな笑みを浮かべながら、自分の唇に指で触れた。

 きゃ……、と、ミラは顔を覆う。


「……いるかな? それ……」

「旦那さんのやる気を出させてくれるのが、かわいい奥さんでしょ? 稼ぎに関わってくる――」

「稼ぎに!!!」


 なんと! と顔を上げた。


「してみる? 練習」


(……ど、どうやって!?!?)


 がんばってねってキキキス!? と困ったように眉を下げる。

 どきどきどきどき……と、エリオットを見た。


 エリオットは甘く微笑み返すと、ミラのクッションをどかした。

 軽くミラの腕を取り、腰に腕を回す。


(稼ぎに……稼ぎに……――!!!)

 

 ミラも、ぎこちなくエリオットの胸に手を添え、ゆっくり顔を近づける。


 すると――エリオットが突如、ミラを引き寄せた。


 ばっ!!!


 と咄嗟にエリオットの口を覆うミラ。

 じと……と目を細めた。


「これは何か違うと思う」

「残念」


 さすがにおかしいと気づいたミラであった。




 一方、守備隊本部。


「へーえ? あれがモーガンさんの言ってた、例のダニーの彼女――」

「じゃないから……!」


 あーもうモーガンさん……! と、ダニーは頭を抱えていた。


「想い人ね」

「あーダニー片想い中?」

「ダニー、いい人で終わりそう」

「地味に刺してくるのやめてもらっていい?」

 

 ぐっ……! とうずくまるダニー。

 すると、一緒に見回りに出ていた1人の隊員が、あれ? と声を上げた。


「そういえばあの子、最近噂の、森の天才錬金術師の奥さんじゃない?」



 はた、とダニーは動きを止めた。



「……噂? 奥さん??」


 はぁぁあ!? とダニーは声を上げたのだった。

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