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井戸と権力
その年、旱魃が、大地を焼いた。
川は涸れ、井戸は底をつき、村人は水を求めて彷徨った。
ザリーンは、私財を投げ打ち、技師を集めた。
そして、村々に、新しい井戸を掘り始めた。
昼も夜も。
自らも泥にまみれ、滑車を回し、水路を引いた。
やがて、乾いた大地に、清らかな水が湧き出した。
村人は、歓喜した──はずだった。
だが、その夜。
広場に集まった村人の顔は、青ざめていた。
「井戸を、全部、公爵が掘った……」
「つまり、水は、公爵のものだ……」
「逆らえば、水を止められる……! 俺たちは、首根っこを掴まれたんだ!」
水を得た喜びは、支配の恐怖に、すり替わっていた。
その噂を、トビアスが伝えると、ザリーンは、井戸の縁に腰を下ろした。
「ウフフフ……」
「水は、誰のものでもない。天からの授かりものだ」
「……使いたい者が、使えばいい」
彼は、水を一杯汲み、喉を潤した。
「うまい」
たった、それだけ。
見返りも、感謝も、求めなかった。
トビアスは、その横顔を見て──静かに、拳を握った。
(誰か……一人でいい)
(この人の本当を、知ってくれ)




