親友という名の宿敵
その馬車が門をくぐった瞬間、使用人たちの顔が凍りついた。
派手な赤い紋章。
王国の東を治める、辺境伯クルアズ。
世間では、こう言われている。
──「公爵と辺境伯は、犬猿の仲」。
馬車から降りたクルアズは、ザリーンを見るなり、吐き捨てた。
「相変わらず、辛気臭い面だな、ザリーン」
「貴様こそ、相変わらず無駄に派手だ、クルアズ。孔雀か」
火花が、散る。
見ていたトビアスは、生きた心地がしなかった。
(は、始まる……! 戦争が……!)
二人は、睨み合ったまま、書斎へと消えていった。
──重い扉が、閉まる。
そして。
「……で? 今日は何の用だ、悪友め。ウフフフ」
「決まっているだろう。貴様の作る酒が飲みたくて来た」
ザリーンは、棚から上等な葡萄酒を取り出す。
クルアズは、遠慮なく長椅子に寝転がった。
「東の飢饉、お前が送った麦で助かった。……礼を言う」
「よせ。貸しにしておく」
「相変わらず、素直じゃないな」
「お互い様だろう」
二人は、静かに笑い合った。
扉の外では、使用人たちが真っ青な顔で耳を澄ませていた。
「静かすぎる……。きっと、決闘の準備を……」
「どちらかが、死ぬんだ……」
書斎の中。
酒を酌み交わしながら、クルアズが、ふと言った。
「なあ、ザリーン。お前の噂、王都でも酷いぞ。……悔しくないのか」
ザリーンは、杯を見つめたまま、静かに答えた。
「人は、見たいものしか、見ない」
「私が何をしようと、噂は変わらん。……ならば、好きにさせておけばいい」
「ウフフフ。それに──一人くらいは、真実を知る悪友がいる」
クルアズは、杯を止めた。
そして、少しだけ、眉を寄せた。
「……馬鹿が。そういうところだぞ、お前が損をするのは」
その言葉の意味を、二人は、まだ知らない。
やがて来る悲劇の、小さな影だったことを。




