地下室の秘密
その扉は、館のいちばん奥にあった。
重い、鉄の扉。
冷たい空気が、隙間から漏れている。
リナは、生唾を飲んだ。
(ここだ……。きっと、ここに“証拠”がある)
体はもう、ほとんど回復していた。
だからこそ、逃げる前に──この公爵の正体を、暴いてやると決めていた。
*ギィ……*
扉が、軋みながら開く。
薄暗い階段。
その先に広がっていたのは──
「……ひっ」
無数の、ガラス瓶。
赤や緑の、あやしい液体。
壁には、拘束具のついた、冷たい寝台。
そして、机の上には──びっしりと名前が書かれた、一枚の紙。
リナの手が、震えた。
(犠牲者の……リスト……!)
そのとき、背後から声がした。
「何をしている」
「ひぃっ!?」
振り返ると、トビアスが燭台を手に立っていた。
「ト、トビアスさん……! こ、ここ、拷問部屋……!」
トビアスは、きょとんとして──それから、力なく笑った。
「……工房だよ」
「え?」
「あの瓶は、薬。あの寝台は……骨折した人の、骨を固定するためのもの」
トビアスは、机の紙を指さした。
「そして、その“犠牲者のリスト”は──」
「閣下が、これまで治した患者の、名簿だ」
リナは、紙を、もう一度見た。
名前の横に、小さな文字。
『完治』『経過良好』『薬、追加で届けること』
……ひとつ残らず、誰かを、救った記録だった。
「毎晩ここで、遅くまで……調合してる」
トビアスの声が、静かに響く。
「誰にも、感謝されないのに」
リナは、リストを握りしめたまま、動けなかった。
拷問部屋だと思った場所は。
この王国で、いちばん多くの命が、救われた場所だった。
*ホゥ……*
いつの間にか、あのフクロウが、階段の上から、二人を見下ろしていた。
まるで──秘密を、知っているかのように。




