岐路にて
よく晴れた、昼下がりだった。
馬車は、のどかな街道を、ゆっくりと、進んでいた。
御者台には、ザリーン。
荷台には、買い物に、浮かれる、セオドア。
「なあ、ザリーン。町には、甘い菓子が、あるのだろう?」
「ウフフフ。ああ。好きなだけ、買うといい」
穏やかな、時間。
それを、断ち切ったのは──一人の、青年だった。
街道の真ん中に、聖なる剣を携え、彼は、立っていた。
勇者、ラインハルト。
異世界から転生し、魔王を討った、光の英雄。
その頭には、すでに、この国の「噂」が、刷り込まれていた。
――醜く、恐ろしい、悪徳公爵、ザリーン。
「貴様が、噂の公爵か」
ラインハルトの目が、鋭く、光る。
「悪の気配が、する。……やはり、噂通りの、悪党の顔だ」
ザリーンは、静かに、馬車を停めた。
「人違い、だろう。私は、ただ、買い物に……」
その時、ラインハルトの視線が、荷台に、注がれた。
そこに、寛いで座る、黒い角の、少女。
「――魔王!?貴様、生きて……!」
剣が、抜き放たれる。
「公爵! 貴様、魔王を、匿っていたのか! 下がれ! 今、そいつを、斬る!」
ザリーンは。
迷わず、セオドアの前に、立った。
大きな背中で、魔王を、庇って。
「……それは、できん」
「なに?」
「この娘は、もう、誰も、傷つけない。私が、保証する」
「狂ったか、公爵! 魔王だぞ! 世界の、敵だ!」
「それでも、だ」
ザリーンは、微笑んだ。
いつもの、優しい、笑みで。
「傷ついた者を、見捨てるのは……私の、流儀じゃ、ない。ウフフフ」
ラインハルトの顔が、怒りに、歪んだ。
「やはり、貴様は、悪だ! 魔王の、手先めッ!」
光る剣が、振り上げられる。
「待――」
セオドアの、叫びは。間に、合わなかった。
*ザシュッ*
鈍い、音。
温かい昼下がりに、似合わない、音だった。
ザリーンの胸を、銀の刃が、貫いて、いた。
「……あ」
セオドアの、世界から。音が、消えた。




