恩返しの魔王
その娘は、突然、館の庭に、現れた。
黒い角。赤い瞳。そして、なぜか、エプロン姿で。
「来てやったぞ、人間!」
魔王、セオドア・ルーズベルト。
「恩を、返しに来た。しばらく、ここで、働く」
ザリーンは、きょとんと、した。
「魔王が……庭仕事を?」
「文句、あるか!」
こうして、魔王の、奇妙な恩返しが、始まった。
花に、水をやる──はずが、魔力が強すぎて、庭が、水浸しに。
薪を割る──はずが、城の壁ごと、真っ二つに。
「セオドア。……加減、というものを、覚えろ」
「うるさい! これでも、手加減、しているのだ!」
二人のやりとりを、ローズリンドは、複雑な表情で、見ていた。
なぜなら、魔王の視線は、いつも、ザリーンを、追っていたから。
夕暮れ。セオドアは、縁側で、ザリーンに、茶を淹れた。
「なあ、人間」
「ザリーンだ」
「ザリーン。……もし、私が、ずっと、ここに、いたら」
頬を、赤く染めて。魔王は、俯いた。
「その……つ、妻、とか。……どう、だ」
ザリーンは、茶を啜りながら、のんびりと、答えた。
「ウフフフ。魔王の花嫁、か。……それも、悪くない」
セオドアの顔が、一気に、沸騰した。
「ほ、本当か!?」
穏やかな、午後だった。
誰も、知らなかった。
この優しい時間が──もう、終わりに、近づいて、いることを。
明日、彼らは、町へ出かける。
ただ、買い物に。ただ、それだけの、はずだった。




