魔王の礼
幾日か、過ぎた。
少女──セオドアの傷は、驚くほどの早さで、癒えていった。
魔王の回復力に、ザリーンの治療が、加わったのだ。
やがて、旅立ちの、朝が来た。
「世話に、なった」
セオドアは、窓辺に立ち、背を向けたまま、言った。
その声は、少女のものから、どこか、威厳のある、響きに変わっていた。
「礼を、言おう。……人間」
「礼など、いらん。ウフフフ」
ザリーンは、いつものように、笑った。
「傷が、治ったなら、それでいい。……達者で、な」
セオドアは、振り返った。
その額には──禍々しい、漆黒の角が、生えていた。
瞳は、血のように赤く、輝いている。
「私は、魔王。セオドア・ルーズベルト」
「人間に討たれ、死にかけていたところを……よりにもよって、人間に、救われるとはな」
普通の人間なら、腰を抜かす場面だった。
だが、ザリーンは。
「……ほう。魔王か」
茶でも勧めるように、平然と、頷いた。
「道理で、治りが、早いわけだ。ウフフフ」
セオドアは、目を、見開いた。
恐れも、媚びも、ない。
ただ、傷ついた一人の娘として、自分を、扱った男。
「……変な人間」
彼女の頬が、ほんの少し、赤く染まった。
「この恩は、必ず返す。覚えて、おけ」
そう言い残し、魔王は、闇に溶けるように、消えた。
残されたザリーンは、頭を、掻いた。
「恩、か。……変わった娘だ」
彼は、知らない。
その何気ない優しさが、やがて、世界を揺るがす愛に、変わることを。
そして、その愛が──悲劇を、呼ぶことを。




