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疑われるパン
貧しい者は、白いパンを、知らなかった。
彼らの口に入るのは、硬く、黒く、酸っぱいパンだけ。
ザリーンは、考えた。
安く、栄養があり、そして、美味しいパンを。
彼は、新しい小麦の配合と、窯を、開発した。
そして、そのパンを、貧民街に、無料で、配った。
ふっくらと、温かい、白いパン。
子どもたちは、夢中で、頬張った。
──だが、大人たちは、手を、止めた。
「待て……。なぜ、タダなんだ?」
「毒だ……! きっと、毒が、入っている!」
「貧しい俺たちを、まとめて、始末する気だ……!」
パンは、地面に、叩きつけられた。
温かいパンが、泥に、まみれる。
その様子を、ザリーンは、遠くから、見ていた。
何も、言わなかった。
ただ、泥に落ちたパンを、一つ、拾い上げ。
埃を払い、自らの口で、囓ってみせた。
「……美味い。毒など、入っていない」
静かな、証明だった。
一人の、老人が、おそるおそる、パンに、手を伸ばした。
一口、食べて──泣いた。
「温かい……パンが、こんなに、温かいなんて……」
その日、ほんの数人だけが。
生まれて初めて、公爵の、優しさを、口にした。




