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腕の印
村に、疫病の兆しが、あった。
ザリーンは、それが広がる前に、手を打つことにした。
弱らせた病の種を、わずかに、人々の腕へ。
そうすれば、体が、病を覚え、本物の疫病を、防げる。
現代の言葉で言えば、予防接種。
だが、この世界に、そんな知識を持つ者は、彼しか、いなかった。
処置を終えた者の腕には、小さな印を、残した。
二度打たぬための、ただの、目印。
だが──村人は、震え上がった。
「腕に、印を、押された……!」
「家畜と、同じだ……! 公爵は、俺たちに、所有の、烙印を……!」
「印のある者は、逆らえなくなる、という……!」
善意は、また、裏返った。
ザリーンは、報告を聞いても、ただ、微笑んだ。
「ウフフフ。……命が、助かるなら、それでいい」
「恨まれるのには、慣れている」
その言葉を、隣で聞いていたローズリンドは、唇を、噛んだ。
疫病は、その年、一人の死者も、出さなかった。
誰も、その理由を、知らないまま。
感謝される、こともないまま。
ただ、静かに──多くの命が、救われていた。




