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氷が溶けるとき
その夜、ローズリンドは、高い熱を出した。
慣れない下働きと、雨に濡れたのが、祟ったのだ。
意識が、朦朧とする。
(こんな、ところで……任務も、果たせず……)
朦朧とする視界に、巨大な影が、映った。
──公爵だ。
(ああ……いっそ、殺されるなら……楽に……)
彼女は、覚悟した。
だが。
額に触れたのは、冷たい、濡れた布だった。
「……ひどい熱だ」
ザリーンは、不器用な手つきで、彼女の汗を拭った。
そして、一晩中、そばに、付き添った。
薬を煎じ、水を替え、うなされる彼女の手を、静かに握った。
「大丈夫だ。……ここにいる」
低い声が、子守唄のように、響く。
朝、熱が引いたとき。
ローズリンドの枕元には、温かい粥と、一輪の、野の花が、置かれていた。
そして、一枚のメモ。
『無理を、するな。命より、大事な仕事は、ない』
ローズリンドは、布団の中で、膝を抱えた。
「……ずるい」
涙が、止まらなかった。
「こんなの……もう、敵だなんて、思えないじゃない……」
その瞬間、彼女の任務は──終わっていた。
残ったのは、一人の女性の、正直な、心だけだった。




