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舞踏会の惨劇

年に一度の、貴族の舞踏会。


ザリーンは、意を決して、出席することにした。


「今夜こそ……紳士的に、振る舞ってみせる」


その決意が、悲劇の始まりだった。


まず、彼は、老貴婦人に挨拶をした。


「お会いできて、光栄です」


深く、頭を下げる。


その巨躯が影を落とし、老婦人は失神しかけた。


次に、握手を求められ、そっと手を握った。


「……っ、い、痛い痛い痛い!」


力加減が、わからなかった。


給仕が運んできたワインを、気を利かせて受け取ろうとして──


グシャッ。


グラスが、彼の手の中で、砕けた。


広間が、静まり返る。


数百の視線が、血の滴る彼の手に、突き刺さる。


「……ウフフフ」


場を和ませようと、彼は微笑んだ。


それが、とどめだった。


「きゃああああ!」


貴婦人たちが、いっせいに逃げ出す。


たった一人、壁際に残ったのは──潜入中の、ローズリンドだった。


彼女は、見ていた。


砕けたグラスの破片を、そっと拾い集める、公爵の姿を。


「……誰かが、踏むと、危ない」


小さな、呟き。


誰にも、聞かれるはずのなかった、言葉。


ローズリンドの胸が、ちくりと痛んだ。


その痛みの名を、彼女は、まだ知らなかった。


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