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潜入する令嬢
新しい使用人が、館にやってきた。
名は、ローズリンド。
物腰は柔らかく、しかし、その瞳の奥には、鋼のような芯があった。
もちろん、偽りの姿である。
彼女の本当の任務は──公爵の罪を、暴くこと。
「よく来たね。人手が足りなくて困ってたんだよ」
出迎えたのは、恰幅のいい家政婦長、アグネスだった。
「ただし、ひとつだけ約束しな」
アグネスの目が、鋭く光る。
「閣下の悪口は、この館じゃ、許さない」
ローズリンドは、内心で冷笑した。
(洗脳されているのね。哀れな……)
その夜、彼女は行動を開始した。
音もなく廊下を歩き、書斎の鍵を、器用に開ける。
机の上には、大量の書類。
(これだわ。悪事の記録……!)
一枚を手に取り、ランプにかざす。
そこに書かれていたのは──
『東の村、井戸の修繕費。公爵家より支出。返済不要』
『孤児院、冬支度。毛布五十枚、追加手配』
『やけどの子へ、痛み止め。切らさぬこと』
ローズリンドの指が、止まった。
一枚、また一枚。
どれもこれも、誰かを助けた記録ばかり。
「……何かの、偽装ね」
彼女は、そう結論づけた。
そうでなければ──自分の任務が、根底から、崩れてしまうから。
窓の外で、フクロウが、ホゥ、と鳴いた。
まるで、彼女の強がりを、見透かすように。




