十五話
規則正しいノックの音がアルメリアの部屋に響く。いつもの様に返事をすると、クッキーと紅茶を持ったルシエンが入ってきた。
「お疲れでしょうから、甘いものでもいかがですか?」
「……そうだね、せっかくだしもらおうかな」
「かしこまりました」
ルシエンは返事をするや否や、アルメリアの目の前の机に手早くクッキーと紅茶を配膳した。
「これはどちらも君が?」
「えぇ」
「それなら安心だね」
そう言うとアルメリアはクッキーをひとつ手に取り口へと運んだ。そして少しの笑みを浮かべて「相変わらず美味しいね」と告げた。いくつか食べてから紅茶を飲むと、アルメリアは再び口を開いた。
「そういえば、君のクッキーは久しぶりに食べるね」
「確かに、最近は作っていませんでしたね。ノア様が喜ぶような、甘くて可愛らしいものばかり作っていますから」
「見た目はともかく、ああいう甘いものもいい気分転換にはなるけどね」
「ですが、忙しい時は少し面倒さにされていますよね」
「……仕方がないでしょ」
クスクス笑うルシエンの声を聞きながら、アルメリアは少し困ったような表情を浮かべながら最後のクッキーを食べ終えた。そのまま紅茶をひと口飲み、照れを隠すかのように話を変えた。
「そういえば、大事な話はまだしないの?」
「……えぇ、カトリスが帰ってきてからした方がいいかと思いまして」
「なるほど、それだけ大事な話ってわけか……。恐らく今晩には帰って来るだろうから、その時に聞かせてもらうよ」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げるルシエンを見て、アルメリアは少し眉をひそめた。
「そんな頭を下げるようなことはないと思うけど……よっぽどよくない情報を掴んだのかな」
「……そう、ですね……」
先ほどまでとは打って変わって、どこか自信なさげでかと言ってどうすればいいかよくわからないといったルシエンの態度に、アルメリアは軽くため息をついた。
(よく、ノアの前では取り繕っていられたものだな)
なんて事を思いながら、しかしそれは自分以外の前では取り乱さないことの裏返しでもあり、多少の安堵感も覚えていた。これでノア相手にも取り乱すようなら、どちらにもいい影響はないだろうと思っているからだ。
アルメリアは紅茶を飲み終えるとふぅ……と息を吐いた。
「ごちそうさま。いい息抜きになったよ」
「それならよかったです」
「僕は少し休むけど、君もしっかり休みなよ。ただでさえ疲れてるだろうに、あの片付けも手伝ったりしたんでしょ?」
「それも私の仕事ですから。ですが、本日はお言葉に甘えて少し休息を取ろうと思います。……いつもと逆ですね」
「たまにはいいでしょ、昔みたいで」
「ふふ……確かにそうですね」
笑みを浮かべながら言うアルメリアに、ルシエンも笑って返す。昔みたいで、とは言うもののあの頃とは互いの雰囲気も違っているのだが、お互いにとってそれは些細なことなのであろう。懐かしさも相まって、いいものはいい、ということだ。
ルシエンはカップと皿を回収すると、「失礼します」と軽く一礼して部屋から出て行った。その様子を見送ったアルメリアは穏やかな笑みを浮かべた。
「あのヤンチャだったやつが、随分と丸くなったものだな」
そう呟いて昔のことを思い出していた。




