十四話
アルメリアとルシエンのふたりは、キッチンへと辿り着くと勢いよく扉を開けた。そこにいたのはノアだけであったが、その姿はうっすらと粉を被っているようであった。
「あっ、ふ、ふたりともおかえりなさいぃ〜……」
「はい、ただいま帰りました。……それで、ノア様。なにをしていたんですか?」
「そ、その〜……帰ってきたら疲れてるかなって、クッキー作っていようと思ったんですけど……」
その言葉を聞いたルシエンは別方向へと視線を向ける。その目線の先ではオーブンが煙を吹いており、焦げ臭さの原因はこれかと納得していた。アルメリアは頭を抱えて大きくため息をついてから言葉を発した。
「ノア、危ないことはしないでくれないかな」
「す、すみません……」
わかりやすくしゅんと落ち込んでしまったノアを見て、ルシエンは「まぁまぁ」と口を挟んだ。
「ノア様もわざとだったわけではないですし、むしろ優しさの結果ですから。あまりキツく言わなくてもいいんじゃないですか?」
「君はノアに甘すぎる」
アルメリアは再びため息をついて言葉を続けた。
「とりあえず僕は部屋に戻るから。ちゃんと掃除しておいてよ」
「えぇ、もちろんです」
ルシエンの返事を聞くや否やアルメリアはキッチンから出て行った。そしてルシエンはノアへを向き直ると、優しく言葉をかけた。
「ではノア様、一緒に片付けましょうか」
「は、はいっ、がんばりますっ」
グッと拳を握ってやる気を出しているノアの仕草にルシエンは微笑みを浮かべた。ルシエンの指示のもと片付け、もとい掃除を進めていき、それなりに順調に進んでいた。途中でノアが転けそうになっていたり、それをルシエンが支えたりしながらではあったが何とか終わらせることが出来た。
「お疲れ様です、ノア様」
「ルシエンさんもお疲れさまですっ。それと、ありがとうございます」
「どういたしまして。さて、何かおやつでも作りましょうか」
「え、でも……」
「私が食べたいだけですから気にしないでください。ね?」
「……えへへ、わかりました。ありがとうございます!」
気にして落ち込んでしまいそうなノアに対して、ルシエンはフォローを入れる。その優しさにノアは自然を笑顔を浮かべてお礼を告げ、ルシエンも微笑みで返した。そして手早くクッキーを作りふたり分の紅茶を淹れると口を開いた。
「アルメリア様には後ほどお届けするとして、ひとまずふたりで楽しみましょうか」
「わーいっ! それじゃあいただきますっ」
「召し上がれ。熱いので気をつけてくださいね」
威勢よく返事をしてからノアはクッキーを食べては幸せそうな表情を浮かべた。そしてそのまま紅茶をひと口飲むと、ほうっと息を吐いてから話しはじめた。
「ルシエンさんってお料理上手ですよね。コツとかあったりするんですか?」
「コツですか? そうですね……慣れないうちは焦らず丁寧にやること、でしょうか」
「焦らず丁寧に……」
「ええ、錬金薬作りと同じように」
「むむむ……確かにそっちも焦ると、良いことになりませんもんね……」
まるで考え込むように顎に手を当てるノアに、ルシエンはそういえばと続けた。
「ノア様の錬金薬、好評みたいですよ」
「えっ?! 本当ですかっ?!」
「はい。努力の成果、しっかり出ているみたいですね」
「えへへ……」
嬉しそうに笑ったノアはクッキーの最後の一枚を食べると、残りの紅茶を一気に飲み干してはカップをシンクに置いた。
「それじゃあもっと頑張って、おししょーにも褒めてもらわないとですねっ! ルシエンさんごちそうさまでした!」
そうお礼を言ってパタパタと走り去るノアにルシエンは「危ないですよ」と声をかけるも、聞こえていないんだろうなと苦笑いを浮かべた。あのまま転けて怪我でもしないといいなと思いながら、アルメリアに出すお茶の準備をするのだった。




