十三話
乗り場まで辿り着いたアルメリアとルシエンのふたりは、そのまま停まっていた馬車へと乗り込んだ。出発して少ししてから、アルメリアは行きと同じように防音魔法をかけようと指を軽く振った。だが何かに弾かれるような感覚があり顔を顰めた。
「アルメリア様?」
「……随分と、錬金術師は警戒されてるみたいだね。馬車に魔法封じがかけられてる」
「なるほど……。ですが、何の問題もありませんよね。聞かれて困ることを話すわけでもないですから」
「それもそうだね」
にこやかに告げるルシエンに、アルメリアは微笑んで返した。何でもないようにふたりは言葉を交わし続ける。聞かれるのを防げないと言うのなら、初めから聞かれても問題ないという体でいればいいということだろう。
「それにしても、屋敷にいるノア様は大丈夫でしょうか」
「さすがに大丈夫だと思いたいけどね」
「ですが、そうも限らないでしょう? 確か以前薬草庫で転んで大惨事になっていましたし」
「……思い出したくなかったな。あれでいくつダメになったことか」
「それに片づけも大変でしたよね。あぁ、ですがあの時のノア様の慌てっぷりはよかったですね」
「なにもよくないんだけど。はぁ、帰るのが怖くなってきた……」
微笑ましげに言うルシエンに対し、アルメリアは頭を抱えていた。ノアのドジっぷりを思えば、今回もなにかやらかしていると考えているのかも知れないし、過去のことを思い出して頭が痛くなっているのかも知れない。
「おや、なおさら早く帰った方がいい気もしますけどね。そうしたら未然に防げるかも知れませんから」
「……それもそうだね。ちょうど、街も見えてきたよ」
話しているうちに馬車が止まり御者が扉を開けると、行きと同じようにルシエンが先に降りて手を差し出し、アルメリアはその手を取って降りてくる。御者に金を渡して見送った後、ふたりは歩き出した。少し進んだところでルシエンは後ろを見やり、まだ尾けられているか否かを確認していた。
「アルメリア様、もう大丈夫ですよ」
その言葉を聞いたアルメリアは目を閉じて指を軽く鳴らすと使い魔を出現させて息を吐いた。肩に乗った使い魔を指で軽く撫でながらアルメリアは口を開く。
「一体なにをそんなに警戒しているんだろうね」
「色々理由があるみたいですが……アルメリア様が非協力的なのも一因でしょうね」
「……今更協力しろだなんて、ムシがよすぎるでしょ」
「それもそうですね」
怒りを滲ませながら告げたアルメリアにルシエンは同意の言葉を返した。きっと、どれくらい時が経とうとも、この怒りはおさまらないだろうなと言うことをルシエンは察していた。魔導教会は錬金術師を警戒しているが、警戒されるような事態を引き起こしたのはそもそも魔導教会側だろうと言うことをアルメリアも、そしてルシエンもよく覚えている。
屋敷に辿り着いたふたりは何事もなければいいと願いながら扉を開けた。特に異変はなさそうだが、ルシエンは何か気になることがあるのか緩く辺りを見渡している。
「……キッチンから物音と焦げた匂いがします。様子を見に行ってきます」
「僕も行くよ。ふたりの方がなにかあっても危なくないでしょ」
「わかりました。では急いで向かいましょう」
短く言葉を交わしたふたりはそのままキッチンへと向かって駆け出して行った。




