十二話
魔導教会の入り口へと向かうルシエンは、道すがら複数の神官を伴いながら金の長い髪をなびかせて歩く少女と出会った。初めて出会った少女ではあるが、これだけの数の神官と共にいるのだから要人なのだろうと思い、ルシエンは廊下の端に寄り礼をした。それを見た少女はにこやかにルシエンへと話しかけに来た。
「あら、はじめまして。お兄さん亜人よね? お名前聞いてもいいかしら?」
「ルシエン、と申します。以後お見知りおきを」
「まあ、姓がないのね。平民の出なのかしら? あ、だけど亜人だものね。平民でも当然よね」
「えぇ、おっしゃる通り平民出身でございます」
ルシエンは内心失礼だなと思いながら、態度に出すことなく応対した。ただ少女の言うとおり亜人の多くは平民出身であることは事実なので、特に反発するつもりもなかったのだが。
「あ、そういえば名乗っていなかったわね。わたくしはセリナ。ルイマン男爵家の長女で、この国の聖女よ」
「聖女、でございますか……?」
「ふふ! さすがに聖女に出会ったのは初めてかしら?」
「え、えぇ……長年出ていない、とは聞いておりますが」
「ってことは、亜人にしてはまだそんなに生きていないのかしら? おおよそ百年ぶりらしいわよ」
「そうなのですね……」
どこか誇らしげに聖女だと名乗った目の前の少女にルシエンは驚きを隠せなかった。初めて聖女を見たからという訳ではなく、むしろ前聖女の時代からそんなに時が経っていたことに衝撃を覚えていた。そして、新たな聖女が現れていたことについても、その聖女がまだ幼さを感じさせる小さき少女であることにも。
話が区切りついたのだと判断したであろう神官がセリナに耳打ちした。セリナは子どもらしく少し拗ねた表情を浮かべてから、微笑みをたたえてルシエンに向きなおった。
「そろそろ時間のようですので失礼しますわ。またお会いしましょう」
そう言うとセリナは綺麗なカーテシーをしてふわりと笑顔を浮かべた後、神官とともにその場から離れていった。ルシエンは礼をして見送っていたが、内心はとても動揺していた。
(笑った時の雰囲気がノア様に似ている。……いや、似すぎている)
そう思うとルシエンは早くアルメリアに伝えねばならないと、足早に廊下を抜けて行った。
だが入り口にはアルメリアの姿はなく、案の定自分が先に終わったのだと思い、息を整えながらアルメリアのことを待っていた。それから程なくしてアルメリアがやって来た。
「お待たせ。……だいぶ待たせてしまったみたいだね」
「いえ、そんなことは……」
「表情に出てる。君がそんなに余裕をなくしているなんて、なにかあったんでしょ。早く帰るよ」
「かしこまりました」
先を歩きはじめたアルメリアの後を、ルシエンは少し追いかけるように着いて行く。待っている間に気持ちを整え、平然と待っていたつもりではあったのだが、アルメリアにはお見通しであったらしい。この人には敵わないなと思いながら追いついたところで歩幅をゆるめ隣を歩く。そして視線だけを後ろに向けるとアルメリアの耳元に顔を近づけ、小声で話しかけた。
「尾けられています」
「……そう。そのまま警戒しながら、気付いてないフリをして」
「かしこまりました。……そうそう、本日も受け取り役がティスタ様だったのですが――」
そしてふたりは他愛のないことを話しながら馬車乗り場へと歩いて行った。




