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オカマ悪女、魔法使いをしていましたがギルドを追放されたので魔王と手を組みます。  作者: 黒沼司


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17/19

17 勝つ条件を揃える悪女

「その箱、逆さにしたら追加料金よ!」


 国境の監視塔の前で、ヴィオラは荷車に声をかけた。


 マルクが、手綱を持ったまま顔をしかめる。


「……道が悪いんだ。文句は道を作った奴に言え」

「金具が曲がってたら、あんたと一緒に言いに行くから!」


 箱を開けたローザが、中身を確かめた。


 エーミルの商会で買った接続金具。

 布で包んだ部品には、目立った傷はない。


「使える。数も合ってるよ」


 ニコが納品の記録を取り、マルクに受領の控えを渡した。

 マルクは紙をしまい、国境の向こうに目を向ける。


「……王国の軍が動いてる。街道から見えたぞ」

「こちらでも見張ってるわ。あんたの荷は、この後、城下に運んで。ローザの工房で受け取る人が待ってる」


 金具の一部は、水場の切替に使う。


 残りは、準備の進んだ場所から順に回す。

 ローザは監視塔で使う分だけを取り、箱を閉じた。


「帰りに修繕の荷を積む約束は、忘れてないからね」

「ああ。こっちも、空で戻るつもりはない」


 マルクの荷車が、城下へ向けて動き出した。


 ヴィオラは見送り、髪を高く結んだ。


 ーーーー


 塔の内側では、グレタが兵の配置を確かめていた。


 国境に近い家々からは、昨夜のうちに領民を移してある。

 運べる荷と水は、集落から借りた荷車で運んだ。


 ヴィオラは、防護の壁の後ろに測定紙を置く。

 ローザが作った金属の覆いを被せ、留め金で固定した。


「紙を替える時は、ここの留め具を外す。熱を持ってたら、素手で触るなよ」

「分かったわ。見てよ。あたしの爪、やっと揃ったんだから」


 ローザが鼻で笑った。


 ニコは、塔の奥に記録を保管する箱を用意している。

 前へ出る仕事はさせない。

 兵が回収した紙を受け取り、時刻と番号を合わせて控えを残す。


「測れなかった所は、空けたままでいいからね」

「はい。先に答えを埋めたりしません」


 ニコの返事を聞き、ヴィオラは測定の条件を読み直した。


 同じ条件を書いた写しは、ベルカの商談所にも預けてある。

 攻撃が届いた場所と時刻、魔力の量と特徴。

 防護に使う魔力は、記録から分ける。


 塔の外で、馬の足音が止まった。


 ベルカを経由した使いが、グレタに封書を渡す。


 差出人はセドリックだった。


 軍の保管帳簿は、依然として見せられないと言われている。

 だが、部隊が受け取った魔石には、別の受領控えがあった。


 補給を受けた部隊の担当者が、自分の受領分を確認するため、セドリックに見せたという。


 セドリックは、実物の魔石と番号を照合していた。

 補充に使った供給口、日付、魔石の管理番号。

 控えを出した担当者の署名もある。


 ヴィオラは、原本から写した設備図を開いた。


 示された供給口は、共同設備からつながる経路にある。


「これで、相手が何を持ってきたかは確かめられるわね」


 手紙の末尾には、短く書き足してあった。


 拘束された二人には、面会できた。

 怪我はなく、家族にも所在を知らせた。

 釈放を求める申し立ては、取り下げない。


 ヴィオラは、その行を読み、手紙をニコに渡した。


「無事だって。返事を出す時、仕事は残してあると伝えて」


 ニコが頷いた。


 グレタは軍の記録の写しを取り、部隊の印を兵にも覚えさせる。


「実物を押さえられれば、番号を照合する。だが、記録のために敵の中へ入るな」


 ヴィオラも、その指示に頷いた。


 証拠が欲しいからといって、兵を売るつもりは毛頭なかった。


 ーーーー


 昼前、王国の旗が街道に現れた。


 盾を持つ兵の後ろに、車輪の付いた大きな魔法弩がある。

 荷台に据えた魔石から、弩の腕へ金属の線が伸びていた。


 国境を示す石の手前で、隊列が止まる。


 王国の指揮官が、魔王領側に向かって声を張った。


「魔力設備への干渉をやめ、管理を王国に委ねよ。拒むならば、討伐の障害として排除する!」


 ヴィオラは、防護の内側から顔を上げた。


「あら。麦も薬も止めた次は、うちの水場まで欲しいの?ずいぶん持ち帰る荷物が多いわね」


 指揮官の顔が険しくなる。


「ヴィオラ・ヴェイン。お前の取引も調査の対象だ!」

「ええ。だから、調べた記録を出してちょうだい。あたしの話を聞かずに捕まえた人たちの分もね!」


 グレタが、一歩前に出た。


「ここは魔王領だ。武装したまま越境することは認めない」


 返事の代わりに、王国の兵が盾を揃えた。


 弩の台座が、ゆっくりとこちらを向く。


 ヴィオラは壁の陰に戻った。

 レオンハルトが、兵の列の後ろから歩いてくる。


「記録は取れるか」

「準備した分はね。でも、全部を受け止める約束はしないわよ」

「危なくなれば下がれ……俺が止める」


 ヴィオラは、レオンハルトの顔を見た。


 今朝、決めた量を補充してから、予定通りに来た。

 ここへ着くまでの馬車では、ヴィオラが言う通りに、目を閉じて休んでいた。


「あたしが下がる時は、あんたにも言うわ」

「分かった」


 レオンハルトの手が、ヴィオラの肩に一度触れた。


 昨夜より短い接触だった。


 それでも、ヴィオラは安心して手元の札に目を戻せた。


 ーーーー


 最初に飛んできたのは、普通の矢だった。


 グレタの合図で、兵が盾を上げる。


 石壁に矢が当たり、乾いた音が続いた。

 ヴィオラは、測定紙を見た。

 攻撃の魔力を示す文字は、まだ現れない。


 王国の前列が、国境の石を越えた。


 グレタが剣を抜く。


「中央に寄せるな。東の斜面は、打ち合わせ通りに!」


 ヴィオラは、兵と確認しておいた四枚の金属札に力を通した。


 坂の横に、低い防護が立ち上がる。


 こちらの兵が退いた後で、横から踏み込もうとする王国の兵を遮った。


 逃げ道は、塞いでいない。

 領内に進む幅だけを絞る。


 グレタが、その狭くなった場所で先頭の剣を受けた。

 刃を押し上げ、横から来た槍を石壁へ弾く。

 魔王領の兵が、盾を揃えて押し返した。


「右の札、蓄えが減ってるよ!」


 覆いの内側を確かめたローザが叫んだ。

 ヴィオラは、そちらに送る力を絞った。


「次に退く時、範囲を狭める!その線より外に残らないで!」


 兵が合図を返す。


 札の位置も、守る範囲も、朝に確認してある。

 ヴィオラの魔力だけで広く支えるより、今ある力を長く使えた。


 王国の魔法弩が光った。


 白い矢が、盾の上へ放たれる。

 狙いは、背後の監視塔だった。


「上!」


 ヴィオラは札を切り替えた。


 斜面の防護を縮め、塔の前へ壁を重ねる。

 白い光がぶつかり、足元まで石が震えた。


 測定紙に、文字が走った。


 レオンハルトの魔力と同じ特徴。

 防護に届いた時刻と、受けた量。


「一枚目を替えて!」


 ヴィオラの指示で、ローザが布を当てて留め具を外し、新しい測定紙に替えた。

 外した紙は、兵が塔の奥へ運ぶ。


 だが、まだ魔石の管理番号は分からない。


 ヴィオラは奥歯を噛んだ。


 壁に力を足すだけでは、次の一射で蓄えを使い切る。


「レオンハルト!次は、左に流すわ!」


 レオンハルトが、ヴィオラの指した空き地を見た。


 兵も、避難する領民もいない場所だ。


「通せ」


 二射目が放たれる。


 ヴィオラは壁を斜めに立て、白い光の先を逸らした。


 その先に、レオンハルトが手を伸ばす。


 金の光が、白い矢を包んだ。


 レオンハルト自身から出た力だった。

 共同設備の蓄えを、ここへ引いているわけではない。


 光の矢が地面に叩き落とされ、土が噴き上がった。


「今よ、紙を!」


 ローザが覆いを開ける。


 兵が記録紙を受け取り、塔の奥に運んだ。

 ニコは受け取った時刻を書き、最初の紙と番号を合わせる。


 ヴィオラは、塔の前に防護を戻した。

 今度は、外側の範囲を少し狭める。


 守りきれない場所を作るなら、先にそこから人を退かせる。

 グレタは、その動きに合わせて兵を下げた。


 魔法弩が、三度目の光を蓄え始めた。

 王国の兵が台座を押し、坂を上がろうとする。


「車輪が乗るまで、待って!」


 ヴィオラは、朝に札を伏せた場所を見た。


 坂道の端。細くなった石畳。

 そこに弩の前輪が乗る。


「今よ!」


 低い壁が、車輪の前に立った。


 前進が止まり、後ろから押した力で荷台が傾く。

 魔石をつなぐ金具が、台座から引かれた。


 グレタが兵とともに踏み込む。


 弩を守る剣を弾き、台座を押さえる。

 レオンハルトが、蓄えかけた光を上から封じた。


「触るな。まだ力が残っている」


 弩から手を離した王国の兵が、後ろに退く。

 グレタは追わず、盾を前に向けた。


 ローザが防護の内側から金具を確かめ、接続を外す手順を叫んだ。

 レオンハルトが出力を押さえている間に、魔石が切り離される。


 王国の指揮官が、撤退の合図を出した。

 兵が盾を並べ、国境の石の向こうへ下がっていく。


 グレタは、こちらの兵を止めた。


「追うな!負傷者を先に運べ!」


 ヴィオラは、その場に膝をついた。


 指を開くと、爪の跡が掌に残っている。

 手持ちの魔石は、ほとんど空だった。


 それでも、塔の奥からニコの声がした。


「記録、残っています!」


 ヴィオラは顔を上げた。


「……ええ。こっちにも、照合する物があるわ」


 ーーーー


 押さえた魔石には、王国軍の管理番号が刻まれていた。


 グレタが兵の前で読み上げ、ニコが受領控えの写しと並べる。


 番号が一致する。


 取り付けられていた部隊の印も、セドリックの記録と同じだった。


 共同設備につながる供給口。

 そこから補充された魔石。

 その魔石を積んだ弩が、魔王領に放った攻撃。


 ヴィオラは、二枚の測定紙を並べた。


 記録を取った場所と時刻を、グレタが戦闘の経過と照合する。


「これを使って、こちらを攻撃した」


 グレタが言った。


 ヴィオラは、和平契約の写しを開く。


 契約相手への攻撃に使用した場合、被害側は供給契約を解除できる。


 もう、宣言だけではなかった。


「ニコ。写しを三つ。城と、ベルカと、王国側に渡す分よ。魔石は、そのまま封じる」


 ヴィオラは、解除条件の成立を知らせる文面を書いた。

 レオンハルトとグレタが読み、確認した記録に名を記す。


 停止の時刻は、まだ決めない。


 安全に切り替えるための協議と、拘束された協力者の解放を求める。

 受領を確かめられる形で、国境の王国軍へ届けさせた。


「停止の時刻は、まだ指定しないのだな」


 レオンハルトが聞いた。


「ええ。向こうの準備は、まだ途中よ。切れる条件が揃ったからって、今ここで全部外したら、助けを頼んだ人たちまで困るでしょう」


 ヴィオラは、空になった魔石を鞄へ戻した。


「でも、もう同じ条件で出し続ける話には戻さない。向こうが何を言っても、今日の記録は残るわ」


 レオンハルトが、ヴィオラに手を差し出した。

 ヴィオラは迷わずその手を取り、立ち上がる。


「帰ったら、今日使った分も数えるわよ」

「お前が休んでからだ」

「……分かってるわ」


 ヴィオラは、握った手に一度だけ力を込めてから離した。


 次に取りかかるのは、供給を終わらせる仕事だ。


 ーーーー


 その夜、西部供給所に、前線からの報告が届いた。


 オルドリックは、押さえられた弩の番号と、通告の写しを読んだ。


「……解除条項を使うつもりか」


 脇に控えた役人が、供給先の一覧を差し出す。


「供給が止まれば、西部の水場と街道の結界に影響が出ます。治療施設にも――」

「分かっている。そのために、供給を維持させてきた」


 オルドリックは、協議を求める文面を伏せた。


「魔族の都合で、王国の暮らしを止めさせるわけにはいかない。……戦が終わるまでの必要量は、こちらで確保する」

「追加分は、既に引き上げています」

「徴収の設定を、設備が許す最大まで上げろ。先に王国側の蓄えを満たす」


 役人が、記録板へ目を向けた。


「古い経路です。現在の流れから、そこまで一度に上げれば、接続部に負担が――」

「……魔王は今日も、軍を押し返す力を出していた。供給する余力はある」


 オルドリックは、新しい指示書に署名した。


「実行しろ」


 王国側の管理者が、徴収の量を書き換える。

 古い付則に従い、供給口の文字が光った。


 記録板の数字が、大きく動いた。

 床の下で、金具の軋む音がする。


 魔王領に続く古い線に、赤い光が走り始めた。



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