第9話 真剣
「ルーが住む集落はあるのか?」
「いや、無いよ。私一人だけの住まいがあるだけ」
「今日はうちに来なよ。リンジョウを招待するぞ」
「いいのか?」
「うん!」
少女の満面に笑みには無邪気という言葉が似合い笑顔をしていた。こんな小さな少女を置いて鬼族の人たちは皆どこに行ったのだろうか。ルーが可哀想じゃないかと思うが事情があるのかも知れない。こういうデリケートなことは相手から言い出すまではこちらから聞くことはしないということが安全だろうと思う。ルーは多分、大丈夫だと思う。甘いのかも知れない。
ルーの案内に従って街外れの山奥へ向かった。そこには小さな家があった。家というよりは瓦礫や周辺の木でなんとか組み立てたという不格好な形をしたものがそこにはあった。周囲には罠が仕掛けてあるという。その罠で獲物を捕獲して食事をするとのこと。
「お兄ちゃん、ちょっと、待っててね」
家の中から解体した肉を持って来て、調理器具を出してきた。
「凄いな。これ全部ルーが解体したの?」
「ふふん、凄いでしょ」
胸を張って自信満々でルーは答える。
「凄いよ、小さな体でよく大きな獲物を仕留めたものだ」
ルーが嬉しそうな表情で笑った。直ぐに料理の支度を始めた。料理とは言っても焼くのと集めた香辛料を振りかけて食べるというシンプルなものだ。野菜もある。山菜というやつだ。ルーが手慣れた感じで火を起こしあっという間に焚き火が勢いよく燃え始めた。
「今日はね、お兄ちゃんのために飛びっ切りの獲物を用意したんだよ」
「この肉の主ということ?」
「そう、巨大なイノシシを仕留めたんだ。確か、グランドボアという種族の筈」
「グランドボア? そういうイノシシがいたのか」
「多分、この山一帯の主だと思う」
「一人で倒したの?」
「そう、強かったよ」
ルーはさらりと言ったが、グランドボアという知らない動物名にかつ、この辺りの一帯の山の主だという。俺が対峙して来た犬の顔をした獣よりも強いことは確実。もしかしたら、ルーは見た目以上に逞しいのかも知れないと思った。イノシシ肉なので、良く焼かなければいけないということなので、その間にルート世間話をした。俺にはこの世界の情報が少しでも手に入れば有り難いと思っているからだ。
ルーはこの街周辺の山の外へは出たことが無いとのこと。だから、この世界のことについては全く分からないらしい。あの街については聞くと、遺跡と教わっているらしく大昔に何かがあって街が現れたと伝承が残っているということだ。
あの街が元々なんの為にあるのかまでは知らないらしく、定期的に祈りを捧げることで自身の生活の幸せを願っていたというのが理由のようだ。今日はたまたま俺と鉢合わせになって驚いたが、伝承に聞く人間という存在を目にした時は嬉しかったらしい。
料理しながら雑談をしているとあっという間に夜になってしまった。ここは山の中腹にあり、街全体を一望出来る。夜だと言うのに街やビルには光が見える。誰かがいる訳でも無いのだが、住宅街もいくつか光が点灯している。ルーに住宅街には行かないのかと聞くと、住宅街は危険という返事だった。特に夜はかなり危険らしい。だから、住宅街を通らないとビル群には辿りつけないので、周囲の獣も本能からか近寄れないようだ。
「うげ、住宅街ってそんな危険なところだったのかよ。俺、何軒か入っちゃったよ……」
「え?! あの家に入ったの?」
「俺もこの世界のこと何にもわかんねーからさ、何か手がかりがあればなって思ったけど誰かが生活していた跡はあって中には埃やゴミすら無かったからさ」
「お兄ちゃん、よく無事だったね」
「流石にルーからの話を聞いたらもう行かないけどね」
そうこうしている内に肉が焼けたようだ。ルーが香辛料で味付けをして木製の器に肉をよそってくれた。とても良い香りがする。フォークとナイフらしきものをもらいそれで切り分けて食べた。少し筋っぽいがとても柔らかくて美味かった。
「ルー、これ滅茶苦茶美味いよ」
「でしょ。山の主の肉だからね。そうそうありつけないご馳走だよ」
「イノシシってこんな味なんだな」
「お兄ちゃんはここまでどんな旅をしてきたの?」
「うーん、わからん。とりあえずはその日を生きるために必死だったかな。途中で、犬の頭をした獣を倒したりして食べたりしてたな」
「犬の頭をした獣? どんな色をしてたの?」
ルーが真剣な目で俺を見つめてくる。少し圧倒されたが、直ぐに答えた。




